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ショートショート『AIロボット』

うちは結婚10年になる共働き夫婦だ。
子供はいないが夫婦2人で仲良く暮らしている。


唯一妻と性格が合わないと思う部分がある。妻は買い物した紙袋を
「いつかきっと使うから」
と言って全て捨てずにとっておくタイプなのである。
一方、私は全てにおいて効率重視、物を溜め込むのも嫌いで不要な物は全て捨てたい人間なのだ。

ある日、うちの会社の部品が入った家事もできるAIコミュニケーションロボットを社割で購入できるという社内メールが回ってきた。
通常価格だと32万円なのだが、4割引きの20万円弱で購入できるらしい。
今まで全く興味がなかったのだが、映画で見てきたようなロボットが実際手に入るかもしれないと思うと無性に欲しくなってきた。


早速家に帰って妻に話してみた。
「え?いらないわよ。そんなの。」
「いや〜、でも社割で凄い安くなるんだよね。」
「そもそも何に使うのよ。」
「ほらっ、俺が出張の時とかロボットいたら寂しくないだろうし、お皿洗いや掃除もできるから家事も楽になるよ!」
「え〜、でも20万でしょ〜・・・」
「今回のボーナスいつもよりよかったから!俺が自分で払うからさ。」
「分かった!じゃあ買っていいよ」
妻は渋々承諾してくれた。今までほとんど物欲がなかった私があまりに欲しがるので妻が折れてくれたのもあるのだろう。

注文後、一週間後の日曜日にAIロボットが届いた。
冷蔵庫を梱包しているような大きな段ボールを開くと、AIロボットが入っていた。
「うわ、意外に大きいなぁ。俺より背が高いのか。しかも、マダムタッソーの人形みたいにリアルだな。」
名前もついてるようで、イタリア人のジャコモというらしい。

AIロボットはすぐに皿洗いや掃除洗濯を覚え、内蔵されたAIによって対話のスキルも日に日に上がっていった。
初めは乗り気でなかった妻も、家事がとても楽になり、楽しくおしゃべりもできるので気がつけば大変ジャコモを気に入っていた。
そして、紙袋さえ捨てなかった妻が食器洗い機や掃除機を捨てた。
AIロボットに任せれるものは任して、いらないものは捨てていくということだった。私からすると、これは大きな進歩だった。

数ヶ月後、その日は客先から納期遅れを指摘されこっ酷く叱られた。実際注文納期をミスしていたのは客先だと気づいていたが、こちらが謝らないと治まらない気配だったのでとりあえず必死に謝まった。非常にむしゃくしゃしていた。
その晩居間でジャコモが持ってきたビールを一口飲むと無性に怒りが込み上げてきて、気がつけば独り言を口走っていた。
「どいつもこいつも俺をバカにしやがって!気づいてねぇと思ったら大間違いだからな!!」
「大変申し訳ございません。奥様は悪くありません。悪いのは全部私です。」
「え?」
「・・・あ。本日もお仕事お疲れさまでした。おやすみなさい。」

翌日、朝起きるとジャコモと妻の姿は消えており、机の上には離婚届だけが残されていた。妻は皿洗いや掃除などの家事だけでなく、夫の機能までもAIロボットに集約して捨てられたようだ。


※ショートショート執筆挑戦中

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