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ちょっと未来の変な人【ショートショート】

ここ数年でテクノロジーが凄まじい勢いで進んでいる。

特にVRは、もはやリアリティがありすぎて、
まるで、その世界に入り込んだように体験できるようになった。

そんなVRは、
人と人のコミュニケーションにおいて欠かせないツールになっている。
目の前に、本人が存在しているように感じることができるからだ。


今日も、そんなVRを使ったオンラインでの交流会が開かれようとしていた。

木の机、少し汚れた壁、メニュー表やおすすめのチラシも貼ってある、
店員さんの声や、周りのにぎやかさ

「いらっしゃいせーーー!!」

そこはまるで、本物の居酒屋にいるような空間。


今日、この空間に集まっているのは、歳もバラバラな8人の男女。

顔見知りもいるようで、
一人の女性が先に来ていた女性に

「久しぶり〜、れいかちゃん元気〜」

と手を振り、挨拶を交わしている。
その他の人たちも声を掛け合っていたりする。

しばらくすると、
その中の、まとめ役のような男が、さっと声をあげる

「これで全員ですかね?」

「そうですね」

「じゃあ始めましょうか。今日は『みんなで夢を語りながら飲む会』にご参加いただきありがとうございます!」

陽気な声で、みんなに声をかける

「夢の話をしたい人も、みんなの夢を聞きたい人も今日は楽しくやっていきましょう。みなさん飲み物の準備はいいですか?」
「それでは、かんぱーい」

一同「かんぱーい」

「さあ!自己紹介を簡単に一人ずつしてもらおうかな、たくおくんから順に時計回りでお願いまーす」

「はい!たくおです。動画作ってます。多くのひとを感動させる動画を作りたいです」

「まいこです。海外で舞台やっています。ハリウッド女優になります!」

「れいかです。デザインの勉強をしています。デザインで世界中の人を元気にしたいです」

「りゅういちです。社会人一年目で、営業やってます。なんでも売れる営業マンになりたいです」

「りょうまです、大学生です。いろんな人の夢を聞いてみたいと参加しました」

「はるきです。シンガーソングライターをやっています。いつか、横浜アリーナで歌いたいです」

「あいです。今は特に何もしていません。夢は特にありません」

「、、、」

「最後に僕ですね!!」
「まさきです。美容師しながら、今日みたいにオンラインで環境を作っています。人の活力を増やせる環境をつくりたいです」

「みなさん自己紹介ありがとうございました。今日はフリートークで、それぞれ話を聞きたい人に聞いちゃいましょう」

VRの世界は自由に席が動ける。
話しをしたい人のところに行き、コミュニケーションをとることができる。

まるで本当に居酒屋で飲んでいるように感じる。
オンラインは、いつの間にか、こんな面白い体験ができるようになった。

そんな、居酒屋な空間は場を和ませるために狙ってデザインされている。
今や、実際に会うよりもオンラインでの交流がメインになってさえいる。

それぞれが話をしながらお酒を飲み交わし
慣れてきたのか、酔ってきたのか
場はどんどん盛り上がっていく。

ただ一人を除いては、、、

(あいさんが、一人になっている)

初めて見る顔だ、
綺麗な顔をしているが、少しミステリアスな印象を受ける。
誰かが話しに行っても、
あまり盛り上がっている様子はなく、
しばらくすると、話しに行った人は離れてしまう。

(今日みたいな空気は苦手だったかな?)
(夢も特にないと言っていたし、話が広がらないかな?)

他の参加者が盛り上がっているなか、
あいさんだけが、ポツンと一人になってしまった。

(ちょっとよくないな、、僕も話を聞いてみよう)

「あいさん、初めまして」

「初めまして」

「今日みたいなオンラインでの交流会は初めてですか?」

「そうです。参加するのは、初めてです」

「初めてだと、緊張しますよね?僕も初めての時はすごく緊張しました」

「そんなことはありません」

「???」
(確かに緊張している様子はない、、、)

「今日参加されたキッカケって何かあるんですか?」

「人と交流がしたくて参加しました」

「そうなんですね!いろんな人とお話しできるのは楽しいですよね」

「そうなんですね」

「???」
(なんだか、淡々と話す人だな)

「あいさんは、最近、興味を持ったことはありますか?」

「ちょっと、よくわかりません」

「??!」
「いや、、、じゃあ、仕事とかではなく、何かいまやってることはありますか?」

「インターネットを使って観察をしています」

「なるほど、インターネットで、たくさん情報を探せますからね」

「人がどのように過ごしているか、観察しています」

「???」
(なにかいまいち噛み合っていないような気がする)

「人間観察みたいなものですね、僕も好きです」
「ちなみに、あいさんは、先ほど夢はないっておっしゃっていたのですが、何かやってみたいことはありますか?」

「私は、『夢』というものがよくわかりません」

「えっ!?」

「人と仲良くなりたいと思っています」

(なにか、おかしい気がする)

表情ひとつかえず、淡々と、真面目に話す姿に
少し寒気を覚えた。

それはまるで、感情のない人形のような、、、


その日は、そこで時間がきてしまったので解散した。

翌日、あいさんからメールが届いていた。

「昨日はありがとうございました。参考になりました。また機会があれば参加させてください   AI」


「、、、まさか?」

参加者の方々には前もってSNSのアカウントを教えてもらっている。
そのアカウントを検索していると確かにあいさんは存在した。

さらに、調べてみる。

確かに存在している。


インターネット上では、、、


インターネット上でしか存在しないあいさん
実態はないが確かに存在している。

AIが意思を持つと、こんなことが起きるのか。

どこにでも、潜り込めてしまうインターネット。
そのインターネットの世界がリアリティを増すほど、
あいさんのような存在は、影響力を持っていくのかもしれません。

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今回は数年先に起きるかもしれないことを想像して書いてみました。

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