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不妊症#12 じゃない方夫婦になった日

FT術後に授かる夫婦の大半は、4回目までに上手くいくという。期待は、ひときわ強くなった。とはいえ、仕事も今日いきなりバンバン休めない。
んもー空気読んでよ、卵巣ぉ。今回も陽性となった翌日に病院へ。処置は少し痛くて、しばらく出血が続いた。それ以外は、前の繰り返し。



判定は平日だったので、一人で病院へ行った。
気合いを入れて臨んだが、
やはり全くの真っ白の空間が広がっていた。


いつもLHサージ陽性の翌日にしか通院できなかったのが良くなかったのか?卵管はもう閉じてるのか?
ポツポツと思いつく限りの質問をした。失敗の理由を知りたいのもあったが、それ以上に、この瞬間、口と頭を動かさないと崩れてしまいそうで。
医師は丁寧に気を遣って回答してくれつつも、やれるだけやったんだから仕方ないよね…の空気を滲ませていた。

あぁ、医療者からしたら、これは何度とこなした慣れた場面なんだろうなぁ。
わたしはどんな結果でも、整然と飲み込めるつもりだったのにな。当事者になってみれば、こんなにも感情に囚われるのか。


マスクで病院に行く時代で良かった。我慢した涙は鼻にくる。

改めて、「じゃない方」夫婦となった

保険診療で認められた人工授精は6回。できる人の大概が、その範囲内で成功するから。
実績のグラフを見ても、4回目までの累積妊娠率の上がり幅に比べ、5回目以降の上がり幅は、取るに足らないものだった。

スラムダンクばりに両手を掲げて「まだあわてるような時間じゃない」と言っていた先生も、4回目が失敗に終わるやいなや、くるりと手を裏返し、
体外受精のパンフレットを取り出した。
次は5回目をしながら、体外受精を考えてみてくださいと。


体外受精か。

自己タイミングで授からない。
一般不妊治療でも授からない。
2回も「じゃない方」と証明されたわたしたち。治療の甲斐無く、できにくい夫婦にカテゴリされてしまった。「FT後に自然妊娠できなかった夫婦」の実績を残してしまったのだ。

これから、いくら妊娠率の高い、高度不妊治療に進んだとて。もう、できる側にいけるという根拠のない自信は、どこかに消え失せてしまった。

健康な臓器を痛め、未知の将来のリスクを背負ってまで治療して、この先幸せになれるのだろうか…。

人工授精 AIH 4回目、Reset。


気持ちを振り切って、午後から仕事に向かった。

この日の当番には、生まれたての赤ちゃんがたくさん来るのだった。両親の元で、みんなすくすくと元気に大きくなっている。
あぁ、今日来ている子たちは、一年前くらいに宿った子たちか。わたしたちもうまく行っていれば今頃は…。

いつも、見ないように考えないように感情を沈めて過ごす、この数時間。今日だけは無視しきれなかった。

幸せな家庭でも、不穏な環境でも、妊娠中にタバコを吸っていても、どんな二人の間でも、望むかに関わらず、子は産まれるのだ。
子を迎え、家庭は成長するのだ。

恨めしいとかじゃなく、純粋に羨ましい。

わたしたちは、何がいけないんだろうな。

頑張っちゃいけないって、みんな言うじゃん。でもじゃあ神に頼んでも、神は努力しろって言うじゃん。
昔、芸事で生きようとして明治神宮で運だけ願ったら、おみくじで「磨かねば成らじ」と返答されたよ。全くその通り。神は正論を言うだけだ。
肉体も精神も、自分が頑張らないとどうにも成らんのやで。でも、頑張ってもどうにも成らんのやで。

悲しい。どうすればいいのかわからない。

夫は今日も仕事の飲み会で遅くなる。

わたしは、解決方法を持ち合わせないとき、困ったときは、気持ちを書きだして整理して、必要な情報を入れる余地を作る。
泣くしかしようとしない心を、客観的視点に、人に伝わる文章を書かなきゃという使命感に、強引に置き換えていく。


こうして、不妊治療記録の更新が始まった。
少しずつ反応をいただけたりして、こんな体験談でも、少しは誰かの役に立てていることが嬉しい。
「不妊治療」の言葉のイメージ通り、授からない以上得られる喜びはほとんどないが、その分、誰かに優しい自分になりたい。

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