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産まれる前に殺されるところでした。
僕に母親がいません。
父親もいません。
母親は僕が産まれてすぐさま施設に入れた。
父親は僕が産まれる前に病で他界している、らしい。
僕がお腹にいることを気付いた母は、おろすことにした。ところが、もう6ヶ月目だったため、おろすことはできずすぐに出産。
身長約30cm、体重約600g
母の意思が強かったから、病院はみんな複雑な気持ちでいたそう。
施設の人達は僕を育てるのにたいそう苦労したとのこと。他の赤ちゃんよりも圧倒的に体は小さく、免疫力は少なかったので、施設の子ども達から遠ざけていたらしい。
それもすぐに心配はいらなくなった。
僕はすくすくと育っていき、人並みの体つきで人並みに食事もできる。施設の先生はとても泣いて喜んだ。
僕は18歳を過ぎ、進学せずに高時給で雇ってくれる電機メーカーの工場で働くことにした。昔から手先は器用だったので、溶接をしていると工場長はよく褒めてくれるし、先輩方は良くしてくれた。
僕のように施設育ちの人もたくさんいるので、何となく兄弟のような感覚で話したりした。
ある日、1人の女性が僕宛てに工場を訪ねてきた。
「ヒロシはいますか?ヒロシの母です。」
僕の母親だという。
僕は工場長に呼ばれ、母が待つ応接室へと案内された。
「大きくなったなぁ、、。」
僕の顔を見るやいなや涙ぐむ女性。
正直、ピンと来ていない。そういえば似ているなぁと思うだけ。
工場長は僕たちに気を遣い、応接室を後にした。
すると、母親と名乗る女性は顔色を変え、涙が一滴も流れなくなった。
1分ほどシーンとしていたので、「何か御用ですか?」と伺った。
「ちょっと顔見に来たんや。施設に聞いたらここで働いてるって言うから。」
おそらく、本当に母親なんだろう。施設の先生が簡単に個人情報を流すわけがない。
「今って何歳やっけ?20歳過ぎてるんかな?」
あれ?息子のこと、本当に憶えてるのかな?まだ18歳なんだけど、、。
この人に本当の年齢を伝えても無意味だと分かったので、そうですと流した。
それから、カバンを見たり、暑くもないのにハンカチで汗を拭うフリをしたり、お茶を飲み干したり落ち着きのない様子だった。
「あの、仕事があるんでもういいですか?」
僕はしびれを切らして言った。
「玄関へ案内するので。」
と、言いながら立ち上がると、母は勢いよく立ち上がって僕の傍に来て頭を下げた。
「お金を貸してください!」
少し時間が止まった。
「は?お金?何で?」
「今の旦那がガンで、治療費が足らんくて、どないしたらいいか分からんくて、、」
母の顔をじっと見るが、目が泳いでいるのが分かった。嘘をついている。こっちを全く見ようとしない。
僕の父親が死んだ時はどうだったのか、僕を殺そうとしたことについては反省しているのか、多分そんなのはない。
「父さんは病気で亡くなったって聞いたけど、実際はどうなんですか?僕を殺そうとしたくらいだから、何もしてないですよね?」
「、、、あんたの父親は、病で死んでない。私の不倫で出ていった。その後で妊娠発覚した。」
やっぱり。
「お金は貸せません。僕らを捨てたくせに都合の良いように来ないでください。」
母の荷物を持って渡し、玄関〜門へと誘導した。
「二度と来ないでくださいね。施設にも、僕の前にも。次来たら警察呼びます。」
それから数年ほど経ったある日、ニュースで母親と同姓同名の女性が詐欺で逮捕と報道。
顔は映らなかったので、本人かどうかは分からない。
でも、二度と会うことはなかった。
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