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【小説】推しグル解散するってよ⑥

 ―――――― 帰りの電車は座れなかった。
結局、二時間ほど飲んで修とはサクッと別れた。
10年ぶりに会った同級生は、たった二日間で自分の思っていなかった顔を見せた。
修くんのことで傷ついていた私の青春時代って何だったんだろう、と苦虫を噛まなくもなかったが、本人は思っていたよりもずっと純粋な人だったんだなあと少し申し訳なさも感じた。
 私に詰め寄ってきたあの女子たちや、私の姿を見るや否やどす子だオタクだと聞こえる声で囃し立てた男子たちと修を勝手に同じカテゴリーに入れていた私こそ、人をひとくくりにして差別をしてきたのかと極端に自分を責めてみたりもした。
 でも傷ついてきた自分を蔑ろにもできなくて、感情の持っていき場のわからないまま、千晶は大好きなリョウタを待ち受けにしたスマホ画面を開いた。
揺れる電車内、右手で吊革を掴み、左手でスマホを操作しているとファンクラブメールが届いた。
『GAPフォトブック発売のお知らせ
二十年の活動の軌跡に加え、新たに撮り下ろしたGAPの“いま”を詰め込みました。
GAPフォトブック “明日へ~NEXT STAGE~”ご期待ください』
「タイトル、ダサいなあ。」
口から漏れ出る最上級の愛の言葉。
CDのジャケットがダサい、新曲の衣装がダサい、真紀と好き勝手に貶していた。
そのダサさすらも結局のところ愛しかった。
 流れる車窓のネオンを目で追いながら、修の言葉を思い出す。
「家族でも恋人でも無い人の為に全力で泣けるんだよ。それってすごいじゃん」
すごいことを言われたな、と思った。
そんなこと、千晶にとっては当たり前だった。大好きな存在だから、泣けるし、大笑いできるし、怒るし、悲しむことができる。
(そんなことに憧れるなんて変な人だな)
 千晶は指を惑わすことなく、フォトブックの予約ボタンを押した。
 
隣で若い女性がノースリーブの襟付きシャツ一枚で立っている。
露出した肌とは逆にパリッとした襟元のギャップがセクシーだなと千晶は窓越し、ぼーっと見つめた。
始まりかけの夏は人々の肌をざわめかせていた。
 
GAP解散まであと六ヶ月。
 
へ続く

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