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中国を熱狂させる新時代のティーカフェ(ユニコーン企業となったHEYTEA、奈雪の茶)

はじめまして!ToremoroでPdM / 新規事業開発をしている有川(@aribasso)です。
前職はmetapsにてタイムバンク(現レット)の新規事業開発を行っておりました。
現在、Toremoroにて飲食企業のDXを推進するSaaSを開発中です。その課題検証のテスト店舗として、ITやソーシャルの力を活かしたティーカフェ「ATE/ATE」を立ち上げました。

すでに先進国となった中国では、ティーカフェがデジタルな戦い方をしながら急成長するという動きを見せています。それでは中国を熱狂に包む新時代のティーカフェとはどういったものなのか解説したいと思います。


1.中国のティーカフェのトレンド変遷

いま、中国でお茶をメインとしたティーカフェが大人気なのをご存知でしょうか?現在、中国ではそのティーカフェ市場がうなぎのぼりで増加し続けております(グラフ青色)。ご存知の通り、世界中でタピオカミルクティーが流行っている影響もあって、本場である中国国内でもその流行は数字として現れているのが見て取れます。

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とはいえ、お茶文化の先進国である中国では、ただ単純にタピオカミルクティー屋さんが溢れかえっているだけではありません。一般的に、タピオカミルクティー屋さんは小規模のチェーン店で、安価な飲み物として道端のスタントで販売しているイメージが強いと思われます。

一方で、中国のティーカフェトレンドを牽引しているのは、ベンチャーキャピタル等から数十億円規模の出資を受けながら、大規模ショッピングモールのド真ん中に、豪華で広々とした店舗を構えながら運営しているブランドです。これらのブランドは中国語で「新中式茶飲(New Chinese Tea Drink)」もしくは「3rd Wave Tea」と呼ばれております。

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ここで、中国のティーカフェトレンドの変遷を追ってみましょう。定義にもよりますが、大きく分けると中国のティーカフェのトレンドは3つに分かれます。それぞれ説明しています。

【1st Wave Tea時代】

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この頃は、まだインスタントやペットボトルが普及しておらず。お茶を飲むといえば、格式張った作法に乗っ取り、渋く、苦いお茶を飲むことでした。日本で言えば抹茶のイメージに近いと思います。店舗も伝統的なデザインが多かったようで、ほとんどの顧客はシニア層でした。若者にとってはあまり積極的に飲みに行くというトレンドではありませんでした。


【2nd Wave Tea時代】

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インスタントの茶葉やインスタントの粉末ミルク等が普及してきたことで、安価で低品質なミルクティー屋さんが大量発生してきました。ほとんどは台湾に由来し、これは日本にも伝わってきて、タピオカミルクティーブームを巻き起こしましたね。路面に店舗を構え、店舗のデザインもありふれたものがほとんでした。

後半になると、原材料は進化し、パウダーの代わりに本物のお茶が使われたりしますが、ミルクは未だ粉末の場合が多かったようです。有名なブランドとして、Coco都可Happylemon等があり、これらは日本にも上陸しいくつか店舗を構えております。ここ最近のタピオカミルクティーブームはこの延長線上にあります。


【3rd wave Tea時代】

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現在中国で最も熱狂させているティーカフェのスタイルです。中国の消費水準の発展に伴い、低品質で甘みを強調した安価なミルクティーに消費者が注意を払うようになりました。また、経済発展により、富裕層が増加し、街中には大きなショッピングモールが乱立し始めます。

そんな背景から、高品質な原料を使い、甘さを抑えたヘルシーなドリンクを提供し、豪華でトレンド感のある内装や、大きな店舗を持つティーカフェが人気を集めていきます。代表的なブランドは「喜茶(HEYTEA)」と「奈雪の茶(NAYUKI)」です。


彼らは、いままでのティーカフェとは異なり、中国の巨大SNSであるweiboやWeChat等を通して積極的にユーザーとコミュニケーションを図り、商品開発のサポートを得たり、WeChatのミニプログラムでモバイルオーダー/デリバリ用のいアプリを提供するなど、オンラインでの活動を積極的に行っております。

さらにはadidas等の大手ファッションブランドや国内の有名コスメブランドと積極的にコラボ商品を開発するだけではなく、アリババ等のECプラットフォームにて、オリジナルグッズを頻繁に更新して販売しています。

このように、いままではお茶といえばシニアの飲み物だったのが、若者向けのティートレンドになり、さらにはオンラインや有名ブランドとのコラボを活用して中国でも有数のブランドとして認知されています。次に、代表的なティーカフェブランドを見ていきます。


2.喜茶(HEYTEA)

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■ファイナンス
シリーズA:2017年、IDGCapitalをリードに約15億円程度の資金調達。
シリーズB:2018年、美団グループから6000万ドル(約66億円)の資金調達。
シリーズC:2019年、テンセントと紅杉から資金調達を行い、約90億元(1,440億円)の時価総額へ。ユニコーン企業入り。

■年商
年商:約165億円(2018年時点)
店舗数:中国本土、香港、シンガポールにて合計約400店舗(2020年時点)

「喜茶(HEYTEA)」はいま日本でも流行り始めているチーズティーの発祥と言われています。厳選されたチーズを使ったフォームを、有名産地で取れたお茶にトッピングして若者でも飲みやすいトレンド感のあるドリンクです。その他にも、毎月のように新しいドリンクを出すだけではなく、ベーカリー、アイス、スイーツ、カクテル、ペットボトル飲料にお菓子、グッズ...などなど、ライフスタイルブランドといっても差し支えないくらいのラインナップを展開し始めています。

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さて、そんな「喜茶(HEYTEA)」ですが、そのブランド理念がめちゃくちゃカッコいいので引用します。

私たちが事業を始めたとき、私たちはミルクティーをアップグレードするのではなく、お茶を若返らせることだと確信していました。HEYTEAのブランドポジショニングは「クール」です。「クール」は非常に概念的なもので、「クール」を「インスピレーション」および「禅」と呼びかえます。インスピレーションは古くからお茶の「機能性」に由来し、お茶やワインは多くの詩人、詩人、その他のクリエーターによってインスピレーションを刺激するために使用されてきました。よって、私たちは常にインスピレーションに基づいて物事を行うことを主張してきました。
したがって、私たちは、HEYTEAは「最高のお茶で最高の材料だ」と言っているのではなく、「Inspiration of Tea」だと言っています。https://mp.weixin.qq.com/s/8c9P2WHUg9NU8JujyJxRMg

昨年、上海と深セン、香港に飛び、HEYTEAの店舗をいくつか訪れましたが、店舗やグッズ、SNSやアプリ内のクリエイティブのいたるところにこの「Inspiration」が見受けられます。かなり資金を投じて設計をしているのが写真からもわかりますよね。お茶の味を売っているのではなく、世界観やブランド理念を売っているのだと実感できる作りになっています。

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(↑Weiboのオフィシャルアカウントの投稿より抜粋)

また、Wechatミニプログラムのモバイルオーダー/デリバリー/サブスク/EC機能が備わったアプリにかなり力を入れております。

HEYTEA GOの登録ユーザー数は現在、全世界で1,000万人を超えており、注文総数の半分はアプリ経由で、月間の平均再注文数は3回です。
https://markets.businessinsider.com/news/stocks/wirecard-and-heytea-china-s-most-popular-tea-brand-launch-mobile-app-driving-digitalization-and-improving-the-customer-experience-1028862274

中国のWechatによるモバイル決済のミニプログラムの普及率の高さを最大限に使っているのが見てとれます。注文の半分以上がアプリ経由、ほとんどが電子決済で行われ、アプリでユーザーとつながっておりリテンションもしやすくなっています。

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モバイルオーダーとデリバリー以外にも、EC機能や会員リワードを受け取るためのゲーミフィケーションを取り入れた機能などもあり、カフェアプリとは思えないほどかなり多彩なつくりで、OMOをすで業態として取りいれている状況です。

OMO : Online Merges with Offline ;「オンラインとオフラインを併合する」という意味で、ネット上とネット以外の店舗などの垣根を超えたマーケティング概念

このようないままでのティーカフェとは一線を画すような積極的なオンラインへの注力と、クリエイティブや他ブランドとのコラボ商品などのブランドとしての取り組みから、先進的なティーカフェとして注目されています。


3.奈雪の茶(NAYUKI)

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■ファイナンス
シリーズA:2016年、15億円の資金調達
シリーズA+:2018年、天图投资(Tiantu Capital)から数億人民元(十数億円)の資金調達に成功し、時価総額60億人民元(1000億円)へ。ユニコーン入り。

■店舗数
中国本土、香港、日本にて合計約400店舗

「奈雪の茶(NAYUKI)」は、新鮮なフルーツを使ったティードリンクと、「低脂肪」「低糖」にこだわったヘルシーなパンを主力商品に掲げ、フォトジェニックやウェルネス志向という中国のミレニアル世代のニーズを満たしました。実は「奈雪」というのは女性創業者のニックネームなのですが、彼女の女性ならではのアイデアは、ヘルシーさ、店舗やカップのデザイン、他のコスメブランドとのコラボなど、多くの女性の心を掴んでいます。2020年7月には、日本にも上陸し、一号店が大阪にできたことも話題を読んでいます。

彼女らの店舗の特徴は、「お茶+パン」「大きくて明るい店舗」です。

女性消費者は「貪欲」であり、同じシーンのさまざまなニーズを解決することを好むと考えています。たとえば、美容院に行ってヘアスタイルやまつげと爪を同時に整える一方で、彼女らはティーカフェでお茶を飲むだけでした。
https://www.canyincha.com/news/story/438.html

創業当時、街中にはたくさんのティーカフェが溢れかえっていて、ティーカフェをやるにはすでにレッドオーシャンでした。しかし、お茶と一緒になにかを提供している店舗は驚くほど少なく、提供していたとしておそれはオマケ程度でした。また、たとえお茶だけで人気を得ることができても、お茶だけでは一過性にとどまる可能性が高い。そこで、「お茶+〇〇」であれば勝負することができると踏み、その答えがヨーロッパ風のソフトパンでした。

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店舗内装については「奈雪の茶」はCartierの店舗デザインに触発され、明るく温かみのあるデザインにし、女性の消費者にとって最も魅力的であると述べました。デザイナーを最初に探したとき、彼らは皆、starbucksやパシフィックコーヒーに似たデザインを提案しましたが、それらは暗くてクールな色に基づいており、「あまりにもビジネスチック」として彼女は否定しました。

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starbucksはまるでホテルのラウンジのような設計を意識して作っているので、落ち着きやすく、少し照明も暗い作りとなっています。一方で、「奈雪の茶」はなるべく明るい色を取り入れて、「Neixue Tea」の店舗エリアは200平方メートル以上に位置し、その後、500平方メートルを突破するような店舗もあり、これは業界では非常にまれです。「奈雪の茶」は明るくリラックスしたスタイリッシュな空間となっています。

「奈雪の茶」は「ここは私の場所ではない」という距離感を顧客に与えないつくりを目指しています。製品や空間の雰囲気など、友人や家族と共有するのに適している内装を設計し、装飾材料、室内装飾、家具の選択では、コストに関係なく高価な素材とプロのデザインを選択し追求しています。
https://www.canyincha.com/news/story/438.html

一方で、通常店舗と併設したり、独立した店舗としてお酒を提供するバー「Bla Bla bar」もスタートしました。カフェが「夜にちょこっとバーをはじめました」という感じではなく、ビールサーバーやリキュールが何十個も並んでいて、本格的なバーになってます。「奈雪の茶」で無料でまるで香水のボトルのようなカクテルの小瓶をもらえたり、それをみんながSNSにあげて、ふだんはお酒を飲まないような人でも訪れたりしています。「昼はカフェ、夜はバー」という流れを設計して、ライフスタイル全般を囲いに行こうという意図が見えてきます。

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「喜茶(HEYTEA)」ち同様に、「奈雪の茶」もWeChatやWeiboなどのSNSを駆使して、ユーザーとのコミュニケーションを積極的に図っています(アプリの雰囲気はほとんど似ているので割愛します)。特に、新型コロナウイルスで外出自粛が続く中で、オンライン施策を矢継ぎ早に打ち出し、その存在感を高めました。

大手ECサイトTmallにて、50を超えるファッショナブルな中国のブランドからの新製品を宣伝 する春のキャンペーンに取り上げられ、オリジナル商品を大体的に売り出しました。SNSキャンペーンを通じて、ユーザーに自宅でお茶を楽しむためにグラスを使用することをおすすめし、アリババグループのフードデリバリーと提携し、デリバリー比率を高めました。

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別のパートナーシップでは、eコマースライブストリーマーが持つ美容ブランドと協力し、ミレニアル世代 とZ世代のファンに向けて、限定版のクレンザー、フェイシャルスクラブ、ボディウォッシュ、ドリンクギフトボックスを販売。ライブ配信を開始後、最初の1秒間で約3,000セットが販売され、放送の終わりまでに10,000セット以上が販売され大成功に終わったとのことです。
https://contentcommerceinsider.com/blog/branding-a-comeback-with-a-little-help-from-a-beauty-influencer-and-tmall

インフルエンサーブランドや、コスメブランド、航空会社、美術館などコラボ対象は幅広く、そのたびにユニークでおしゃれなクリエイティブと、それに沿ったアイテムが販売されるので、若いユーザーは何度も何度も購入するという熱狂を生んでいます。

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まとめ

ここまで、中国のティーカフェ文化がどのように変遷し、なぜいま中国の若者を熱狂させているのかをお伝えしました。ミレニアル世代やZ世代に刺さるようなクリエイティブや店舗/商品設計、そして、今までに類を見ないデジタルへの投資、さらには有名ブランドとのコラボによるオリジナルアイテムの販売。すでに海外展開は始まっており、時価総額10兆円を超えるstarbucksを上回るプレイヤーとなるかもしれません。

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