【欧州ひとり旅】途中下車

　どこか知らない駅で誤って途中下車してしまったのは、朝6時すぎだったと思います。昨晩ウィーン中央駅を出発した寝台列車は、いつの間にかイタリアへ入国していました。硬めのマットレスに、年季の入った列車の金属音。2等寝台は、お世辞にも快適に寝ることができるとは言えませんが、それでもぐっすり眠っていたのは、昨日たくさん歩いたからでしょう。
　列車がどこかの駅で停車した時、寝ぼけていたわたしは、その駅が目的の駅であると勘違いして、ぐしゃぐしゃな髪の毛を上下左右に揺らして急いで降ります。

「あんた、ここはまだベネチアじゃないよ」

　そう言ってくれたのは、隣の車両のドアから顔を覗かせる、車掌さんでした。彼とは昨晩少し会話をしただけですが、わたしがベネチア・サンタルチア駅で降りることを覚えてくれていたようです。
　慌てて車内へ戻ろうとするわたしに、「まだ発車しないから安心して」と腕時計を指差す車掌さん。あの駅は一体どこだったのだろう。2番線ホームだったことだけを、覚えています。

ありあのひとり旅日記より抜粋

in Italy Dec.2022
CONTAX Aria × CineStill 400D