イギリス王室の収入とコロナウイルスによる影響をまとめてみた
ロイヤルファミリーとして、常に世界から注目されるイギリス王室。特に2020年は、ヘンリー王子とメーガン妃夫妻が「シニアロイヤル」と呼ばれる主要王族の立場から引退、つまり王室を離脱することを表明したことで、より一層注目が集まりました。
そんな大事件から始まったイギリス王室の2020年ですが、今度は世界的に流行している新型コロナウイルスによって、収入面で大きな打撃を受けています。
そもそもイギリス王室の収入源って?
きらびやかな生活をしているイメージのある王族。その仕事と言えば、公務が浮かびますが、公務をこなしたからと言って、収入が発生するわけではありません。では、王室の生活などは、どのようにして賄われているのでしょうか?
①王室助成金
イギリス王室最大の収入源は、イギリス政府から支払われる王室助成金です。ここまでだと、国民の税金で公務や外遊したり生活しているの!?と思うかもしれませんが、そうではありません。
王室助成金は、国王の公の資産や権利から得られた利益を、一度政府の国庫に納めてから、王室に支払われるのです。これは、「クラウン・エステート」と呼ばれ、国王は資産や権利の所有権を持ちますが、その管理は独立した法人格を持つ公法人である、クラウン・エステート委員会によって行われ、収入利益を一度政府の国庫に納めることで、利益は王室助成金にも活用されますが、利益の一部は国民にもたらされます。そのため、政府の財産でも国王の私有地でもない、国王の「公」の資産なのです。クラウン・エステートは、農用地及び森林のほか、住宅や不動産、海洋権益、ショッピングセンターへの投資など多岐にわたり、その規模は、143億ポンド(約1.8兆円)もの大規模なもので、イギリス最大の産業である自動車産業の輸出額が342億ポンド(約4.5兆円)ですから、その3分の1の規模と考えると、その大規模さが伝わったでしょうか?国王1人で、これだけの額の資産を持っているのです。
王室助成金となるのは、クラウン・エステートの収益の15%ほどで、ほとんどは政府のお金になります。そして支払われた王室助成金は、ロイヤルファミリーの公務、基本的な維持費、警備費、旅費として活用されます。
②王族公領
国王である、エリザベス女王の個人的な収入のほとんどは、ランカスター公領からのもので、土地、不動産などの資産からもたらされます。この女王の個人的な資産は、ダッチー・オブ・ランカスターと呼ばれ、ランカスター公領大臣によって運営されています。そして、その利益の一部は、王室助成金ではまかなわれない王室の必要経費に充てられています。
また、チャールズ皇太子の収入のほとんどは、コーンウォール公領からもたらされるもので、ウィリアム王子とキャサリン妃は、公務活動にはコーンウォール公領からの収入を使用し、公務旅行や財産管理の補助には、女王の王室助成金の資金援助を受けています。チャールズ皇太子の収入の90%は、このコーンウォール公領からのもので、その額は約2,300万ポンド(約30億円)にものぼります。
ちなみに、イギリス王室を構成する王族のほとんどには公爵位が冠されていますが、実際に公爵領を持つのはコーンウォール公爵(エリザベス女王)とランカスター公爵(チャールズ皇太子)のみで、現在のイギリスの王族が保有する公爵位は儀礼称号となっています。
③投資や遺産など個人的な収入
女王は、父親のジョージ6世国王から受け継いだ、サンドリンガム・ハウスやスコットランドのバルモラル城、車やジュエリーのコレクションや競走馬などを所有しており、個人的な支出には、個人的な収入を使用します。これは、他のロイヤルメンバーにも言えることで、個人的な投資や個人の不動産から得る収入は個人のものであり、個人的な支出には、個人的な収入を使用します。例えばウィリアム王子は、義母のダイアナ妃やエリザベス王妃(クイーン・マザー)から受け継いだ資産を所有しています。
ちなみに、エリザベス女王の個人資産は推定3億7000万ポンド(約480億円)とされています。びっくり。
イギリス王室の収入にどんな影響が?
イギリス王室の収入には様々なものがあると述べてきましたが、王室助成金を除くと不動産収入が、イギリス王室の主な収入源となっています。つまり、所有するお城や博物館、ギャラリーへの入場料などです。
エリザベス女王の所有する宝石類は「ザ・ロイヤル・コレクション」と呼ばれ、コレクションの維持管理費は、すべてギャラリーへの入館料によってまかなわれています。各宮殿にあるコレクションのギャラリーへの入館者数は、1年間で750万人にものぼります。
バッキンガム宮殿は年間で1,200万ポンド(約16億円)、ウィンザー城は年間で2,500万ポンド(約33億円)、ホリールードハウスは560万ポンド(約7.3億円)、ロイヤルミューズやクイーンズギャラリーだけでも、それぞれ160万ポンド(約2.1億円)の収益をもたらし、昨年の様々なお城や博物館、ギャラリーへの入場料やお土産などの観光収入は、合計すると年間で7,000万(約92億円)ポンド以上の収益をもたらしました。今年の夏、バッキンガム宮殿は、1993年に一般公開が始まって以来初めて、閉鎖されることが決定しており、すでに販売された入場チケットは、払い戻しが行われています。(※注1)
チェンバレン卿であるアールピール伯爵は(※注2)、今年の年間王室収入は例年の3分の1程度、約1800万ポンド(約23億円)になると予想されており、現在、王室職員の給与凍結と人員削減に直面していると述べました。王室職員は、500人ほどいますが、現在は必要最低限の人数で仕事を行っています。アールピール伯爵は、支出を減らすべきだと述べており、至急に必要ではない支出、城や宮殿の改築や修繕が一時中止される可能性があります。バッキンガム宮殿の関係者も、「現時点で王室ができることは、すべてのガイドラインに従って、コロナウイルスと闘うための全国的な取り組みをサポートすることだ」と述べました。
また、クラウン・エステートについても、イギリス経済の激しい落ち込みにより、収入の減少が予想されています。
まとめ
新型コロナウイルスにより、経済がダメージを負っている今、規模は違えど収入面で影響を受けるのは、王族も庶民も同じなんですね。イギリス王室内でも、回復はしましたが、チャールズ皇太子が新型コロナウイルスに感染してしまいましたし、レセプションやパーティも中止になるなど、イギリス王室もかなりこのコロナ禍の影響を受けています。
天皇皇后両陛下も、エリザベス女王から国賓として招かれ、5月に即位後初となる海外訪問として、ご訪英される予定だったのですが、新型コロナウイルスの影響で、非常に残念ながら延期となってしまいました。雅子さまにとっては、留学していた1990年以来、30年ぶりのイギリスとなるはずだったので、延期が発表された時は、なおさら残念に思いました。
現在、エリザベス女王は、予防措置のため、バッキンガム宮殿を離れ、ロンドン郊外にあるウィンザー城に滞在しています。エリザベス女王は、3月中旬に発表した、新型コロナウイルスに関する初めての声明で「私の家族と私はいつでも、私たちの役割を果たす準備を整えています」と述べました。女王は家族の中心にいる柱である一方で、家族にとても支えられていて、家族の結束を非常に感じる言葉でした。外出自粛期間中あなたも、女王陛下と同じように家族を想ったのではないでしょうか。4月5日には、毎年恒例のクリスマスのあいさつ以外では、4度目となるテレビ演説も行いました。私はその演説を聞いたとき、凛として、まっすぐカメラを見つめ、落ち着きながらも力強い女王陛下の言葉に、鳥肌が立ちました。外出自粛期間も、もう少しだと思うので、そのテレビ演説の際の、最後の言葉で記事を締めくくりたいと思います。
We will be with our friends again(友達にまた会えます)
We will be with our families again(家族にもまた会えます)
We will meet again(みなさんまた会いましょう)
では、今回はこの辺で。
また次の記事で、お会いできることを楽しみにしています。
(※注1)エリザベス女王は、スコットランドのバルモラル城で、夫のエディンバラ公とともに夏を過ごすのが恒例。そのため、夏の7月26日~9月24日の間に限って一般入場が可能。
(※注2)チェンバレン卿(Lord Chamberlain)とは、いわゆる宮内長官のことで、王室の最高責任者。アールピール伯爵は2006年から現職。ウェストミンスター宮殿を担当するチェンバレン卿(Lord Great Chamberlain)とは異なるので注意。
(「We will meet again」は第2次世界大戦中にイギリスで、兵士を送る歌、国民的な応援歌として大ヒットした、ヴェラ・リンの「We will meet again」の歌詞にちなんで...)
参考:Coronavirus: Royal budget hit by closures and fall in tourism during pandemic