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師匠と設計/先生と言葉 ~建築家福井典子インタビュー第4編~

図面は手紙。

――伊礼設計室では伊礼さん、先輩後輩、工務店や職人さんに”育ててもらった”といっていましたが、それはどんな時間だったんでしょうか。

福井「もちろん一番最初は下っ端だったんですけど、11年もいたので、ある時自分が先輩というか、番頭になってしまったんです。気づいたら、という感じでした(笑)」

――設計のことを教わったり教えたりするのでしょうか。

福井「伊礼設計室では伊礼先生+担当1名で仕事をするので、所員が一緒の仕事をすることはないんです。なので誰が何で困っているのかというのを全部知っているわけではありませんが、頼れるときは頼って、自分で頑張る時は頑張る。程よい距離感で試行錯誤していく感じでした。」

――以前、福井さんが先輩の図面に助けられた、図面は手紙だと言っていましたよね。

福井「はい。新人の頃、一番私を助けてくれたのは先輩方が書き溜めた図面でした。はじめは見よう見まねで必死に書きました。自分よりずっと年配の職人さんと話すときには辞書のようにもなるというか。職人さんの言うことを図面を通して翻訳して会話する感じです。」

――コミュニケーションツールですね。

福井「そうなんです。図面を読んで、書いて、それを使ってコミュニケーションをして、繰り返していくうちに少しずつディテールの意味や知見が詰まっていることに気づき始めて。今ではやりたいことを伝える手紙です。」

――図面は過去の先輩方からの手紙であり、お施主さんや職人さんと意思疎通する手紙であり、そして未来の後輩たちへの手紙になるんですね。

師匠からの学び

――伊礼さんから学んだことはどんなことでしょうか。

福井「11年あったので、本当にいろんなことを勉強させてもらったんですけど。うーん。」

――11年ですもんね。

福井「そうですね(笑) ブラッシュアップしていく姿勢をそばで学んだのは大きいと思います。責任をもっていい家にしていくために、常に挑戦し続けるというか。伊礼先生の活動には”標準化”が大きなテーマになっていますけど、伊礼設計室での設計活動は常にスタンダードと挑戦を織り交ぜるというか。標準化したら終わりじゃなくて常により良い設計を突き詰めて、それをまた標準化して、それを繰り返しているんです。」

――挑戦し続ける。活躍している人に共通していることかもしれませんね。

福井「そうですね。あとは、見えないものまでデザインすることを学びました。」

――見えないものというと、くらしとか、そういうことですか?

福井「そうですね。見えない空気とか時間までバランスよく考えるというのはもう一つのテーマだったと思います。標準化の活動もしてますし、建築で突き詰めるというとディテールのこととか想像されがちなんですけど、そういう見た目とかハードの部分だけじゃなくて、空気感、みたいなものもとても大切にしているんです。」

――なるほど。

福井「大前提として、ほとんどの人にとっては、家づくりは初めの経験だし、人生で1回の大きな買い物になります。もちろんそうでない生き方、在り方を実践したり提唱している方もいますが、今はまだそれは少数だと思います。だからこそ、30年後40年後に、あの時アーキロイドで建てて本当に良かった!と思い出していただけるような家づくりを目指しています。

――たしかに、基本的には長期のローンを払っていくことになりますし、家は日々の暮らしの基盤なので、非常に重要ですね。5年10年ではなくて30年40年と言うのには理由がありますか?

福井「飽きがこない建築っていう事なのかもしれないんですが…使い込む楽しさみたいな感じでしょうか。育てる、ともに成長し、次に繋いでいくイメージで、時間の手触りを味わいたいと言いますか。」

私も絶賛やんふー中。お茶は趣味の一つ。

――なるほど。具体的な数字としての30,40というより、想像できるほど近い未来でもないし、一生でもないけど、人生まるっと、みたいな感じですか。

福井「あ、そんな感じです。中国茶に養壷(やんふー)っていう考え方があるんですが、言葉のまま茶壺(急須)を育てるっていうことです。使っていくほどに味わい深くなるんです。私も絶賛養壷中です。っということで、5~10年ではなく…という感じなのです。」

――お茶メタファーが出てきましたね。福井さんは趣味がお茶で、お茶の写真を多く投稿しているインスタグラムでは3000人以上のフォロワーがいますね。お茶活(ヲタ活)から建築にフィードバックを受けることってありますか?

福井「あります!空間に光をどう取り入れるかで、湯気の綺麗さが変わるし、お茶も無理のない所作のために最適な道具や配置があるので、そういうのはとても建築的だと思います。」

――建築家って、なんでも気づいたら建築に結び付けますよね。

福井「ふふふ(笑) そうなんですよ。中村先生も映画が大好きだけど、観ながら空間やキッチンと部屋のバランスとか、そういったことを気にしちゃうと聞いて、建築を生業としてるとそういうことなんだと、自分にも言い聞かせています。」

――なんだか、福井さんと話していると、伊礼さんと中村(好文)さんの話が交互に出てきて、2人が福井さんの人生に大きく影響を与えているんだと感じますね。

福井「そうですね。中村先生には学生時代から言葉を通していろんなことを教わりました。それは先生と教え子の関係です。伊礼先生とも学生時代からなんですけど、やっぱり仕事を通しての関係がメインなので、師匠と弟子という感じです。言葉ももちろんですけど生の設計を通して教わったことが沢山あります。先生と師匠、2人ともも恩師です。」

福井典子の家ウェブサイトオープン!

――かねてより運用していたインスタグラムに加えて、福井典子の家のWEBサイトもできましたね。(2024年1月)

福井「そうなんです。ようやくオープンまでこぎつけました!」

(つづく)


本インタビューの語りでである福井典子の設計する
『福井典子の家』ーあたりまえを磨く滋味深い家ー
のWEBサイトを公開しております。ぜひご覧ください。設計のご相談・ご依頼お待ちしております。
https://fukuinoriko.archiroid.com/

福井典子の家 より

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