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一級建築士設計製図試験|エスキース等のやり方・考え方の違いとAIの学習方法

チャットGPTの勢いにあやかるわけではありませんが、一級建築士設計製図試験対策における学習のあり方を、AIの学習方法に照らして考察してみようと思います。AI用語の用法の的確性については、多少ご容赦下さい。

1.AIの教師あり学習と教師なし学習

エスキース等の「やり方」(問題と解答方法)を覚えていくことはAIの「教師あり学習」に、エスキース等における「考え方」を確立していくことは「教師なし学習」に、それぞれ当てはめてみることができるのではないかと考えました。
まずは「教師あり学習」「教師なし学習」の概要を把握するため、下記を引用させて頂きます。

【教師あり学習/教師なし学習】
AIが自分の力で物事を学ぶための技術の一つ、それを[機械学習(Machine Learning)]と呼びます。その機械学習の中でも、AIに求める答えの違いで、[教師あり学習]と[教師なし学習]という学習方法があります。
(中略)
[教師あり学習]はいわば「区別させるための学習」です。
あらかじめ問題と正解を大量に読み込ませ、判別の精度を学習していく機械学習で、たとえば犬と猫の画像を大量に読み込ませたあとで、「この画像は70%の確率で犬である」といったような回答ができるような学習を指します。
(中略)
ただ、[教師あり学習]には弱点もあります。正解のデータの質がよくないと、学習そのものの精度に影響が出てしまったり、明確に正解がない分野には利用できなかったりすることです。
(中略)
[教師なし学習]とは、正解を用意せず大量のデータを読み込ませ、AI自身が特徴や一定のルールを導き出す「機械学習」のこと。
(中略)
[教師なし学習]では、とにかくいろいろな動物の画像を読み込ませます。そうして、その中から「色」で分けたり、「似ている形」で分けたり、特徴をAIが判断し、グループに分けていきます。人間では予測のできないグループを導き出したりするため、一見相関関係がなさそうで、実はパターンが似通っているものを見つけるような、はっきりした正解がないパターンの特定が得意なんですね。

出典:三菱電機 いまさら聞けないAI用語集

2.やり方学習

AIの「教師あり学習」と同じように、問題(設計課題)とその解答方法を通してエスキース等の「やり方」を覚えていくことが、設計製図試験の初期対策の一般的な学習方法になるだろうと思います。
そして、異なる条件の新たな問題に取り組む際、意識的であれ無意識であれ覚えている「やり方」のどれかを当てはめようとしながら、問題にアタックしていくことになると思われます。

単に覚えているだけの「やり方」をただ真似ることが目的化してしまうと、学習そのものの精度に影響し、現実にそぐわない空間構成を繰り返す結果を招いたりするものです。
また、異なる条件の新たな問題に対し、適応しにくい「やり方」を選択し、適応の見極めをすることなく不用意に問題にアタックしてしまえば、蓄積のない展開に出くわし行き詰まることにもなり得るでしょう。
こうした諸々の弱点も、AIの「教師あり学習」に通じるところがあるように思います。

「こういう場合にはこうすればいい(潜在的に刷り込まれるルール化)」という具合に、教え込まれた「やり方」を覚えていくことを「やり方学習」とするなら、上にあげたような弱点があることを認識しておく必要があります。
弱点を認識することなく、ひたすら「やり方」を覚える努力をしていったところで、その弱点が克服できるとも限りません。
過去にはこう対処したという事例が、そのまま適応できる問題ばかりならいいのですが、その事例に縛られ過ぎるあまり、うまくいかない場合も出てきてしまい、ここが設計製図試験の難しいところです。

3.考え方学習

AIの「教師なし学習」に見られる「一見相関関係がなさそうで、実はパターンが似通っているものを見つける」訓練を、設計製図試験対策において積むことが重要だと思います。これを「考え方学習」とするなら、こうした訓練により、「やり方学習」にある弱点克服に繋がっていくものと考えます。

設計製図試験は「人の性格(大胆過ぎたり、慎重過ぎたり、一途であったりと、極端なところ)がもろ出てしまう試験である」と、言えなくもないと思っています。
同じような学習を通して「やり方」を覚えていっても、各自の出す答案には必ず違いが生じます。この違いを生む要因の一つが、人の性格によるところの判断にあると考えます。
ここで言う判断とは、異なる条件の新たな問題を解答していく際の「やり方」の選択や応用ということになります。一途な選択をしてしまう人もいれば、パターンが似通っているものを見つけて応用や組合せをしていく柔軟な選択をする人もいて、人の性格が出やすいところだと見ています。

教えられた「やり方」のどれかを、そのまま一途に当てはめることにだけ邁進せず、一見相関関係がなさそうなことでも、応用の可能性や組合せの可能性を考え、これを習慣づけていくことが、「考え方学習」になるのだと思います。

4.借りものの言葉でしか話せないのが「やり方」

問題を解答していく過程で計画に行き詰まったとき、もともとある自分の性格がもろ出てしまう判断に傾く可能性は高いと思っています。何度やっても同じような判断ミスを繰り返してしまうのは、こういったことが原因になっているのだろうと考えます。

自分の考えを言語表現したものを「自分の言葉」単に覚えていることを言語表現しただけのものを「借りものの言葉」と呼ぶことにします。
「やり方」が単に覚えているだけのものだとするなら、自分のエスキース等の「やり方」は、「借りものの言葉」でしか説明できないことになります。
一例として、「ゾーニング・動線計画」という言葉を含む説明が綺麗事に感じる場合、たいてい「考え方」まで説明するものになっていないことがあげられます。「借りものの言葉」は、教科書的な綺麗事になりがちだと言えるかもしれません。

研修や勉強会において、グループ講評でのやり取りを聴いていると、質問されていることに対し、噛み合わない受け答えをしていると気になることがあります。
噛み合わない受け答えになってしまう原因は何なのか……?
質問に答えようと頭の中を検索して、取り出せるものが「借りものの言葉」でしかない場合、質問の論点に噛み合わない受け答えになってしまうのだと想像します。
「借りものの言葉」「自分の言葉」になっていませんので、臨機応変な微調整がきかない弱点があり、ここに噛み合わない原因があるのではないかと考えています。

「やり方学習」に一途に傾倒してしまう人ほど、説明が「借りものの言葉」になりがちだと感じるところがあります。
こうしたことから、エスキース時においても、「借りものの言葉」による組立てになっている可能性があり、結果、出題者から問われていることと噛み合わない空間構成等になってしまうと想像できます。

5.自分の言葉で語れることが「考え方」

「自分の言葉」で語ることと、「借りものの言葉」で話すこととは違い、聴いていて説得力にも差が生じていると感じます。
設計製図試験は、出題者が定める論点からズレることなく、図面と文章で答えていくものでもあると言えます。
試験で問われているのは、図面と文章としての正しさ、知識としての正しさになり、明らかに正しくないところがあれば減点されることになります。
図面と文章の正しさとは、間違ったものでなければよく、「上手・下手」よりも「伝わりやすい・伝わりにくい」の方が重要だと考えます。

「借りものの言葉」による表現が書いている本人にもよくわかっていない内容であれば、当然、読み取ろうとする採点者には、伝わりにくいものになっているはずです。
ゾーニング・動線計画とは何かを、「借りものの言葉」でしか説明できない状態では、教え込まれた「やり方」の枠内でしか計画することができないだろうと思います。これを「自分の言葉」で説明できるようになれたとき、固定観念に柔軟性が入り込み、ゾーニング・動線計画や空間構成に幅をもたせる「考え方」の確立に向かっていけると思っています。

6.「考え方」を確立させる訓練

真似ることからはじめた「借りものの言葉」を、「自分の言葉」に変換させる努力をしていくことが、自分の「考え方」を確立させることに繋がっていくのだと思います。
「自分の言葉」で語れるようになるための訓練は、単に覚えているだけの「借りものの言葉」を意識的に使わずに説明することを心がけ、その機会をつくることだと思います。

研修や勉強会でのグループ講評などで、自分の計画の説明をしたり、他の人の計画について意見を述べることが、有効な機会になるでしょう。
また、他の人たちのやり取りを聴いていて、綺麗事になっていると感じるものは「借りものの言葉」で話している場合だと、察する癖をつけていくことも必要です。
説得力を感じるものは「自分の言葉」で自分の考えを語っている場合であり、多少言葉がたどたどしくても、説得力がなくなるものでもありません。
こういった聴き分けを意識的にしてみることも、「考え方」を確立させる訓練になっていくはずです。

最後の最後となる本試験で、「自分の性格がもろ出てしまう」可能性を危惧するのであれば、もろ出てしまっても困らないような自分の「考え方」を、試験対策の中で、確立させておくことが重要だと思っています。


*以下にある「webサポート資料室|設計製図分室」内に、本記事を含む複数の記事をまとめて掲載しています。


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