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論文まとめ326回目 Nature 原子スケールの空間分解能と超高速の時間分解能を兼ね備えた全く新しい光学顕微鏡法!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

All-optical subcycle microscopy on atomic length scales
原子スケールの全光学的サブサイクル顕微鏡法
「この研究では、原子スケールの空間分解能と超高速の時間分解能を兼ね備えた全く新しい光学顕微鏡法を開発しました。この手法により、ピコメートル(1兆分の1メートル)の空間スケールとフェムト秒(1000兆分の1秒)の時間スケールで、光と物質の相互作用を直接観測することが可能になりました。これまでにない高い分解能で量子力学的な現象を可視化できる画期的な成果であり、様々な量子材料の超高速ダイナミクスの解明に役立つと期待されます。」

An atomic boson sampler
原子ボソンサンプラー
「原子を使った「ボソンサンプリング」という特殊な量子計算を実現。原子を光の格子状の箱に閉じ込め、量子の効果で同じ場所に集まりやすくなる性質を利用。従来の光子を使う方法より多数の粒子を制御でき、超高速計算への道を開く。今回、原子を自在に並べ替え、量子もつれを作る技術を開発。古典コンピュータでは計算が追いつかない規模の量子計算に成功した。」

A secondary atmosphere on the rocky Exoplanet 55 Cancri e
岩石系外惑星55 Cnc eにおける二次大気の発見
「55 Cnc eは地球の約2倍の大きさと8倍の質量を持つ岩石惑星。表面温度は2000度にも達し、溶岩に覆われていると考えられてきた。今回、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡で熱放射スペクトルを観測したところ、二酸化炭素やCOを含む大気の存在が明らかに。岩石が蒸発した薄い大気ではなく、本物の揮発性物質からなる大気で、惑星内部のマグマオーシャンから放出されたと考えられる。宇宙望遠鏡の力で、極限環境の岩石惑星の大気組成に迫る発見だ。」

Accurate structure prediction of biomolecular interactions with AlphaFold 3
AlphaFold 3によるバイオ分子間相互作用の高精度構造予測
「AlphaFold 3は、タンパク質だけでなく核酸や低分子化合物も含めた生体分子複合体の立体構造を、単一の深層学習モデルで高精度に予測できます。タンパク質-低分子化合物の相互作用予測では既存のドッキング手法を大きく上回り、タンパク質-核酸の予測でも特化モデルより高精度。抗体-抗原の予測精度も格段に向上。生体分子の構造予測を統合的に扱えるAlphaFold 3は、創薬などへの幅広い応用が期待されます。」

Full-colour 3D holographic augmented-reality displays with metasurface waveguides
メタサーフェスウェーブガイドによるフルカラー3Dホログラフィック拡張現実ディスプレイ
「メタサーフェスというナノ構造体を導波路に組み込み、AIを用いた光学モデル最適化を行うことで、従来より格段に薄くて高品質なカラー3Dホログラフィック拡張現実ディスプレイの作製に成功。物理モデルとAIを組み合わせることで導波路内の光の振る舞いを正確に予測し、鮮明なホログラムを生成。物理世界とデジタル情報をシームレスに融合する新しい拡張現実メガネの実現に大きく前進。」

Complete biosynthesis of QS-21 in engineered yeast

酵母を利用したQS-21サポニンアジュバントの完全生合成
「強力なワクチン効果増強剤QS-21は、これまでチリの石鹸の木から抽出するしかなく供給が限られていました。今回、酵母を使ってQS-21を人工合成することに初めて成功。38もの異種酵素を酵母に導入し、細胞内の代謝を最適化。酵母内で植物の細胞内小器官を模倣することで、6種類の生物由来の酵素群を協調させ、QS-21の全合成に至りました。酵母によるQS-21の発酵生産により、ワクチン開発が加速すると期待されます。」

Elastic films of single-crystal two-dimensional covalent organic frameworks
単結晶二次元共有結合性有機構造体の弾性フィルム
「二次元共有結合性有機構造体(2DCOF)は、軽量で機能性に富む新材料ですが、結晶粒界のためこれまでフィルム化が困難でした。今回、水面上で脂肪族ジアミンを犠牲分子として用いることで、単結晶ドメインが織り交ざった粒界で連結された2DCOFフィルムの作製に成功。ヤング率73.4 GPa、破断強度82.2 N/mという高強度・高靭性に加え、高い弾性も示しました。この手法は様々な多結晶材料の粒界制御に応用可能で、新たな特性の付与や用途拡大が期待されます。」


要約

原子レベルの空間分解能と超高速時間分解能を持つ全光学的顕微鏡法の開発により、ピコメートルとフェムト秒スケールでの光と物質の相互作用の解明に道を開く。

本研究では、走査型トンネル顕微鏡のプローブ先端に局在した強い電場増強効果と原子スケールの非線形性を利用することで、ピコメートルの空間分解能とフェムト秒の時間分解能を持つ全光学的な顕微鏡法(NOTE顕微鏡法)を開発した。このNOTE顕微鏡法を用いて、金属表面や半導体ファンデルワールス材料における超高速電子ダイナミクスを原子スケールで直接観測することに成功した。さらに、トンネル電流に起因する超高速の近接場応答が、光の電場ではなくベクトルポテンシャルと同相であることを見出した。本手法は量子物性や超高速現象の理解に新たな道を開くものである。

事前情報

  • 近接場顕微鏡は探針先端の増強電場を利用して回折限界を超える空間分解能を達成できる

  • 原子スケールの空間分解能と超高速の時間分解能を両立することは技術的に極めて困難

  • 原子スケールの非線形光学応答は未解明な部分が多い

行ったこと

  • 走査型トンネル顕微鏡のプローブ先端に局在した強い電場増強効果と原子スケールの非線形性を利用した全光学的な顕微鏡法(NOTE顕微鏡法)を開発

  • Au(111)表面やWSe2などの半導体ファンデルワールス材料における超高速電子ダイナミクスをピコメートルとフェムト秒の分解能で計測

  • 第一原理量子シミュレーションによりNOTE顕微鏡法の物理的起源を解明

検証方法

  • テラヘルツ電場の位相を検出するエレクトロオプティックサンプリング法により超高速近接場応答を計測

  • 探針―試料間距離を原子スケールで制御しながら近接場応答の距離依存性を評価

  • 密度汎関数理論に基づく第一原理量子シミュレーションにより実験結果を再現

分かったこと

  • NOTE顕微鏡法はピコメートルの空間分解能とフェムト秒の時間分解能を有する

  • トンネル電流に起因する超高速の近接場応答は、光の電場ではなくベクトルポテンシャルと同相である

  • NOTE信号は原子スケールで指数関数的に減衰し、トンネル電流と同様の距離依存性を示す

  • WSe2におけるNOTE信号からバンド内遷移に由来する超高速電流成分が観測された

この研究の面白く独創的なところ

  • 原子スケールの空間分解能と超高速の時間分解能を両立した全光学的顕微鏡法を開発した点

  • 従来の概念を覆す、ベクトルポテンシャルと同相な近接場応答を発見した点

  • 原子・分子レベルの量子力学的な光―物質相互作用の直接観測を可能にした点

  • 絶縁体を含む様々な量子材料に適用可能な汎用性の高い手法である点

この研究のアプリケーション

  • 原子・分子レベルの量子光学現象の解明

  • 量子材料における超高速電子ダイナミクスの可視化

  • 光―電子相互作用に基づく新たなデバイス原理の探索

  • 時間分解近接場分光法への応用

著者と所属
T. Siday, J. Hayes, F. Schiegl, F. Sandner, P. Menden, V. Bergbauer, M. Zizlsperger, S. Nerreter, S. Lingl, J. Repp, J. Wilhelm, M. A. Huber, Y. A. Gerasimenko & R. Huber
(Department of Physics and Regensburg Center for Ultrafast Nanoscopy (RUN), University of Regensburg, Regensburg, Germany)

詳しい解説
本研究では、従来の光学顕微鏡の限界を打ち破る新たな全光学的顕微鏡法であるNOTE(Near-field Optical Tunnelling Emission)顕微鏡法を開発しました。NOTE顕微鏡法は、走査型トンネル顕微鏡のプローブ先端に局在した強い電場増強効果と原子スケールの非線形性を巧みに利用することで、ピコメートル(pm)の空間分解能とフェムト秒(fs)の時間分解能を達成します。
従来の近接場顕微鏡でも回折限界を超える空間分解能は実現されていましたが、原子スケールの分解能と超高速の時間分解能を同時に達成することは技術的に極めて困難でした。一方、NOTE顕微鏡法では、テラヘルツ電場によって誘起されたトンネル電流が探針先端で発生する超高速の双極子輻射を、エレクトロオプティックサンプリング法によって位相敏感に検出します。これにより、原子スケールの空間分解能とフェムト秒の時間分解能を両立することに成功したのです。
研究チームはNOTE顕微鏡法をAu(111)表面に適用し、探針―試料間距離を原子スケールで制御しながら超高速近接場応答の距離依存性を評価しました。その結果、NOTE信号が原子スケールで指数関数的に減衰し、トンネル電流と同様の距離依存性を示すことを見出しました。さらに驚くべきことに、このNOTE信号が光の電場ではなく、ベクトルポテンシャルと同相であることも明らかになりました。これは、アト秒科学で確立された概念を覆す新たな発見です。
また、WSe2などの半導体ファンデルワールス材料にNOTE顕微鏡法を適用することで、バンド内遷移に由来する超高速電流成分の直接観測にも成功しました。NOTE顕微鏡法は金属だけでなく絶縁体を含む様々な量子材料に適用可能な汎用性の高い手法であり、原子・分子レベルの量子光学現象の解明や新たなデバイス原理の探索に役立つと期待されます。
本研究の成果は、密度汎関数理論に基づく第一原理量子シミュレーションによっても裏付けられました。シミュレーションにより、NOTE顕微鏡法で観測された超高速近接場応答が、探針先端での局所的な電荷密度の変調に起因することが明らかになりました。
以上のように、本研究で開発されたNOTE顕微鏡法は、原子スケールの空間分解能と超高速の時間分解能を両立した全く新しい光学顕微鏡法です。本手法により、これまで実空間で直接観測することが困難だった原子・分子レベルの量子力学的な光―物質相互作用を可視化できるようになりました。NOTE顕微鏡法は、量子物性や超高速現象の理解に新たな道を開くとともに、時間分解近接場分光法など様々な分野への応用が期待されます。物理学の新たな地平を切り拓く画期的な成果と言えるでしょう。


ボソンサンプリング問題を光格子中の冷却原子を用いて実現し、古典コンピュータでは困難な量子優位性を実証

本研究では、光格子中の冷却原子を用いて、ボソンサンプリングと呼ばれる特殊な量子計算モデルを実現した。ボソンサンプリングは、同一粒子が量子干渉により同じ場所に集まりやすくなるボソンの性質を利用し、古典コンピュータでは効率的なシミュレーションが困難とされている。これまでは主に光子を用いた実験が行われてきたが、原子を用いることで多数の粒子を制御でき、より大規模なボソンサンプリングが可能になる。研究チームは、原子を自在に並べ替える技術や、量子もつれ状態を生成する技術を新たに開発。最大192個の原子を用いたボソンサンプリングに成功し、古典シミュレーションが追いつかない量子優位性を実証した。本手法は、量子コンピュータの基本素子となる量子ビットの制御技術としても応用が期待される。

事前情報

  • ボソンサンプリングは、古典コンピュータでの効率的なシミュレーションが困難な量子計算モデル

  • 同一粒子が量子干渉により同じ場所に集まるボソンの性質を利用

  • これまでは主に光子を用いた実験が行われてきたが、制御可能な粒子数に限界

行ったこと

  • 中性原子を2次元の光格子中に閉じ込め、量子もつれ状態を生成

  • 原子を光ピンセットで自在に並べ替える技術を開発

  • 最大192個の原子を用いたボソンサンプリングを実現

  • 粒子数に対する出力分布を古典シミュレーションと比較

検証方法

  • 1次元・2次元の原子アレイにおける2〜4体の量子ウォークの出力分布を測定

  • 192個の原子の2次元アレイを用いたボソンサンプリングの出力分布を測定

  • 実験結果を理論予測および古典シミュレーションと比較

分かったこと

  • 開発した原子操作技術により、高い忠実度で任意の原子配置を実現できる

  • 2次元アレイでは、192個の原子を用いたボソンサンプリングが可能

  • 出力分布は理論予測とよく一致し、古典シミュレーションよりも高速

  • 原子数の増加に対し、古典アルゴリズムの計算時間は指数関数的に増大

この研究の面白く独創的なところ

  • 光格子中の原子を用いて、従来の光子よりも多数の粒子が制御可能なボソンサンプラーを実現

  • 原子を自在に並べ替える新技術により、任意の初期状態から出発できる柔軟性

  • 量子もつれ状態の生成により、原子間の量子干渉を利用した量子ウォークが可能に

  • 192個の原子を用いた大規模なボソンサンプリングにより、古典コンピュータに対する「量子優位性」を実証

この研究のアプリケーション

  • 量子コンピュータの基本素子である量子ビットの制御技術への応用

  • 量子シミュレーションや量子化学計算など、様々な量子アルゴリズムへの展開

  • ハバードモデルなど強相関電子系の量子シミュレーションへの利用

  • 量子誤り訂正符号の実装など、実用的な量子コンピュータ開発への足がかり

著者と所属
Aaron W. Young, Shawn Geller, William J. Eckner, Nathan Schine, Scott Glancy, Emanuel Knill & Adam M. Kaufman
(JILA, University of Colorado and National Institute of Standards and Technology and Department of Physics, University of Colorado, Boulder, CO, USA; National Institute of Standards and Technology, Boulder, CO, USA; Department of Physics, University of Colorado, Boulder, CO, USA)

詳しい解説
本研究は、量子コンピュータの実現に向けた重要なマイルストーンとなる成果です。研究チームは、中性原子を光格子中に閉じ込めることで、「ボソンサンプリング」と呼ばれる特殊な量子計算モデルを実装しました。
ボソンサンプリングとは、光子などのボソン粒子を干渉させ、その出力分布をサンプリングする問題です。古典コンピュータでこれを効率的にシミュレーションすることは極めて困難だと考えられており、量子コンピュータの優位性を示す有力な候補とされてきました。これまでボソンサンプリングは主に光子を用いて行われてきましたが、光子の生成や制御には技術的な限界があり、大規模化が難しいという課題がありました。
そこで本研究では、レーザー冷却した中性原子を2次元の光格子に閉じ込め、原子版のボソンサンプラーを実現しました。原子は光子よりも制御しやすく、より多数の粒子を用いた大規模なボソンサンプリングが可能になります。
研究チームはまず、原子を1つずつ光ピンセットで捕捉し、自在に並べ替える技術を開発。これにより、任意の初期配置から出発できる柔軟性が実現しました。さらに、原子を量子もつれ状態に移行させる手法を確立。もつれ合った原子は量子干渉効果により同じ場所に集まりやすくなるため、ボソンサンプリングに不可欠な量子ウォークを起こします。
実験では、まず1次元と2次元の原子アレイを用いて、2〜4個の原子による量子ウォークの出力分布を測定。理論予測とのよい一致を確認しました。次に、2次元アレイ上で最大192個の原子を用いたボソンサンプリングを行いました。やはり出力分布は理論計算と合致し、しかも古典シミュレーションに比べて圧倒的に高速であることが示されました。粒子数の増加に対し、古典アルゴリズムの計算時間は指数関数的に増大するのに対し、原子ボソンサンプラーでは多項式時間で処理できるのです。
この結果は、原子を用いた量子計算が、一部の問題で古典コンピュータを上回る「量子優位性」を発揮し得ることを実証した点で画期的だと言えます。そして開発された原子制御技術は、量子ビットの基本操作として量子コンピュータ実現に直結するほか、量子シミュレーションなど他の量子アルゴリズムにも応用できます。
今回の原子ボソンサンプラーは、NISQ(ノイズの多い中規模量子)デバイスとしては最大規模のものの1つです。この成果は、量子誤り訂正を施した本格的な量子コンピュータへの途を大きく前進させたと言えるでしょう。今後は、より多数の原子を制御し、量子ビット数を増やしていくことで、実用的な量子優位性の実現が期待されます。
量子コンピュータ開発競争が加速する中、本研究は物理学と工学の見事な融合により新たなアプローチを切り拓いた点で特筆に値します。原子の量子性を巧みに利用したこの手法は、量子コンピュータの新しい設計指針を示したと言えるでしょう。今後のさらなる進展が大いに期待されます。


岩石惑星55 Cnc eで二酸化炭素やCOを含む揮発性大気が検出され、溶岩の海から放出された可能性が示唆された。

本研究では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡のNIRCamとMIRI装置を用いて、岩石系外惑星55 Cnc eの4~12 μmの熱放射スペクトルを観測した。その結果、この惑星が蒸発した岩石でできた希薄な大気に覆われているというシナリオは否定され、二酸化炭素やCOを多く含む本物の揮発性大気が存在することが示唆された。この大気は、惑星内部のマグマオーシャンから放出され維持されている可能性がある。

事前情報

  • 55 Cnc eは地球の1.95倍の半径と8.8倍の質量を持つ岩石惑星

  • 平衡温度は約2000 Kと高温

  • 半径の数%までを揮発性物質のエンベロープが占めている可能性

  • 多数の観測が行われてきたが、二次大気の有無は確定していなかった

行ったこと

  • JWSTのNIRCamとMIRI装置を用いて4~12 μmの熱放射スペクトルを観測

  • 観測データと理論モデルを比較し、大気組成を推定

検証方法

  • JWSTによる4~12 μmの熱放射スペクトルの高精度観測

  • 観測スペクトルと、様々な大気組成を仮定した理論モデルの比較

分かったこと

  • 55 Cnc eが、蒸発した岩石からなる希薄な大気に覆われているというシナリオは否定された

  • 二酸化炭素やCOを多く含む、本物の揮発性物質からなる大気が存在する

  • この大気は、惑星内部のマグマオーシャンから放出され維持されている可能性がある

この研究の面白く独創的なところ

  • 岩石惑星の二次大気の存在を、熱放射スペクトルから初めて明確に示した

  • 極限環境下にある岩石惑星でも、意外と豊かな大気が存在し得ることを実証

  • マグマオーシャンと大気の相互作用という新しい視点を提示

この研究のアプリケーション

  • 太陽系外の岩石惑星の大気組成や形成過程の理解に役立つ

  • 将来の系外惑星大気観測の指針となる

  • 地球や金星を含む岩石惑星の形成と進化の解明にも示唆を与える

著者と所属
Renyu Hu (Jet Propulsion Laboratory, California Institute of Technology)
Aaron Bello-Arufe (Jet Propulsion Laboratory, California Institute of Technology)
Michael Zhang (Department of Astronomy and Astrophysics, The University of Chicago)

詳しい解説
本研究は、太陽系外の岩石惑星55 Cnc eにおいて、二酸化炭素やCOを多く含む本物の揮発性大気が存在することを、熱放射スペクトルの観測から初めて明確に示した画期的な成果です。
55 Cnc eは太陽から約40光年の距離にある惑星で、地球の約2倍の大きさと8倍の質量を持つスーパーアースです。表面温度は約2000度とされ、岩石が溶融した過酷な環境が予想されています。これまでの観測から、半径の数%までを揮発性物質が占めている可能性が指摘されてきましたが、その組成や実態は不明でした。
研究チームは今回、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の近赤外カメラ(NIRCam)と中間赤外装置(MIRI)を用いて、55 Cnc eの4~12ミクロンの波長域における熱放射スペクトルを高精度で観測しました。そして、得られたスペクトルデータを様々な大気組成を仮定した理論モデルと詳細に比較しました。
その結果、55 Cnc eが単に蒸発した岩石でできた希薄な大気に覆われているというシナリオは否定されました。代わりに、二酸化炭素やCOを多く含む、本物の揮発性物質からなる大気が存在することが強く示唆されたのです。さらに研究チームは、この大気が惑星内部のマグマオーシャンから放出され、維持されている可能性を指摘しています。
本研究は、極限環境下にある岩石惑星でも、意外と豊かな大気組成を持ち得ることを実証した点で非常に意義深いと言えます。また、マグマオーシャンと大気の相互作用という新しい視点は、地球や金星など太陽系の岩石惑星の形成と進化を考える上でも示唆に富んでいます。
今後、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡などを用いたさらなる観測により、55 Cnc eをはじめとする太陽系外の岩石惑星の大気組成や形成過程の理解が大きく進むことが期待されます。本研究はその先駆けとなる重要な一歩だと言えるでしょう。


AlphaFold 3は、タンパク質や核酸、低分子化合物などの複合体構造を高精度に予測できる深層学習モデルである。

AlphaFold 3は、タンパク質、核酸、低分子化合物、イオン、修飾残基を含む複合体の構造を、単一の深層学習モデルで高精度に予測できる。タンパク質-リガンド相互作用の予測では最先端のドッキングツールを凌駕し、タンパク質-核酸相互作用の予測では核酸特化モデルより高精度。抗体-抗原予測精度もAlphaFold-Multimer v2.3より大幅に向上。生体分子空間全体にわたる高精度モデリングが、統一的な深層学習フレームワークで可能であることを示した。

事前情報

  • AlphaFold 2はタンパク質構造予測に革命をもたらし、タンパク質のモデリングやデザインに幅広く応用されている。

  • 従来、タンパク質-リガンド、タンパク質-核酸、抗体-抗原などの相互作用予測には、それぞれ特化したツールが用いられてきた。

行ったこと

  • 拡散ベースのアーキテクチャに大幅に更新したAlphaFold 3モデルを開発。

  • タンパク質、核酸、低分子化合物、イオン、修飾残基を含む複合体の構造を同時に予測。

  • タンパク質-リガンド、タンパク質-核酸、抗体-抗原相互作用の予測精度を評価。

検証方法

  • タンパク質-リガンド相互作用予測を最先端のドッキング手法と比較。

  • タンパク質-核酸相互作用予測を核酸特化モデルと比較。

  • 抗体-抗原予測精度をAlphaFold-Multimer v2.3と比較。

分かったこと

  • AlphaFold 3は、タンパク質-リガンド相互作用予測でドッキングツールを大きく上回る精度を達成。

  • タンパク質-核酸相互作用予測では、核酸特化モデルよりもはるかに高精度。

  • 抗体-抗原予測精度は、AlphaFold-Multimer v2.3を大幅に上回る。

  • 生体分子空間全体で高精度モデリングが単一の深層学習フレームワークで可能。

この研究の面白く独創的なところ

  • タンパク質、核酸、低分子化合物など、異なる種類の生体分子を統合的に扱える点。

  • 専用ツールを上回る予測精度を、単一のモデルで達成した点。

  • 拡散モデルをベースとした新しいアーキテクチャを採用した点。

  • 生体分子間相互作用予測における深層学習の可能性を大きく押し広げた点。

この研究のアプリケーション

  • 創薬における標的タンパク質と薬剤候補の相互作用予測。

  • 転写因子とDNAの相互作用予測による遺伝子発現制御機構の解明。

  • 抗体医薬品開発における抗原との結合予測。

  • 酵素と基質、受容体とリガンドなど、様々な生体分子間相互作用の理解に応用可能。

著者と所属
Josh Abramson, Jonas Adler, Jack Dunger, Richard Evans, Tim Green, Alexander Pritzel, Olaf Ronneberger, Lindsay Willmore (Google DeepMind, London, UK)
Pushmeet Kohli, Max Jaderberg, Demis Hassabis, John M. Jumper (Google DeepMind, London, UK; Isomorphic Labs, London, UK)

詳しい解説
AlphaFold 3は、DeepMind社が開発した革新的な深層学習モデルで、タンパク質、核酸、低分子化合物、イオン、修飾残基などを含む生体分子複合体の立体構造を高精度に予測することができます。
従来、タンパク質構造予測にはAlphaFold 2が大きな成果を上げてきましたが、AlphaFold 3ではアーキテクチャを拡散モデルベースに刷新し、適用範囲を大幅に拡張しました。その結果、タンパク質だけでなく、核酸や低分子化合物なども含めた複合体の同時予測が可能になったのです。
特筆すべきは、様々な生体分子間相互作用の予測で、AlphaFold 3が専用ツールを凌駕する性能を発揮したことです。タンパク質-リガンド相互作用では最先端のドッキング手法を、タンパク質-核酸相互作用では核酸特化モデルを大きく上回る精度を達成。抗体-抗原の予測精度も、以前のAlphaFold-Multimer v2.3から飛躍的に向上しました。
これまで、分子の種類ごとに特化したツールを使い分ける必要がありましたが、AlphaFold 3では単一のモデルで生体分子空間全体を高精度にカバーできます。この統合的なアプローチにより、創薬ターゲットの同定、遺伝子発現制御の解明、抗体医薬品の開発など、幅広い分野への応用が期待されます。
AlphaFold 3は、生体分子間相互作用の理解を深めるための強力なツールであり、その登場は構造生物学や創薬の世界に大きなインパクトを与えるでしょう。深層学習の可能性を押し広げる画期的な研究として、大いに注目されます。


メタサーフェスウェーブガイドとAIを組み合わせた設計で、薄型で高品質なカラー3D拡張現実ディスプレイを実現

メタサーフェスと呼ばれるナノ構造体を導波路に組み込み、AIを用いた光学モデル最適化を行うことで、従来より格段に薄くて高品質なカラー3Dホログラフィック拡張現実ディスプレイの開発に成功した。逆設計されたメタサーフェスグレーティングと分散補償された導波路の組み合わせにより、空間光変調器と導波路の間に厚みのある光学系を必要とせず、コンパクトな形状でありながら鮮やかなフルカラー3D映像を提示できる。物理モデルと学習可能なパラメータを組み合わせた光伝搬モデルを新たに開発し、カメラフィードバックを用いて自動校正することで、導波路内の光波の振る舞いを高精度に予測可能となった。これにより従来の物理モデルやAIのみの手法と比べて、ホログラム画質が大幅に向上した。本研究のナノフォトニクスとAIの共同設計アプローチは、没入感の高い拡張現実体験を薄型のウェアラブルデバイスで実現する道を拓くものである。
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事前情報

  • 拡張現実ディスプレイはウェアラブル化に向けて薄型化・高画質化が求められている

  • 導波路結合器は拡張現実眼鏡に適した薄型光学系だが、従来は2D表示に限られていた

  • ホログラフィはデジタル3D映像を薄型フィルムで実現可能だが、拡張現実への適用は難しかった

行ったこと

  • 逆設計メタサーフェスグレーティングと分散補償導波路を用いたフルカラー3Dホログラフィック拡張現実ディスプレイを開発

  • 物理モデルとAIを組み合わせた光伝搬モデルを構築し、カメラフィードバックによる自動校正手法を確立

  • 試作システムを用いて従来手法を大幅に上回るフルカラー2D・3D拡張現実ホログラムを実験的に実証

検証方法

  • 電子ビームリソグラフィによるメタサーフェスの高精度fabrication

  • 構造化照明とカメラ撮影による、ホログラム表示の定量的画質評価

  • 物理シーンと融合したカラー3Dデジタルコンテンツのデモによる定性的評価

分かったこと

  • メタサーフェスと導波路の共同設計により、薄型でフルカラー3D表示が可能

  • 物理モデルとAIの組み合わせが、導波路ホログラフィの高精度モデリングに有効

  • カメラフィードバックによる校正が、シミュレーション誤差の補正に不可欠

  • 試作システムが従来手法を凌駕する高品質なホログラムを生成可能なことを実証

この研究の面白く独創的なところ

  • メタサーフェスと導波路の融合による新規な拡張現実ディスプレイ設計

  • 物理モデルとAIを組み合わせた光伝搬モデリング手法の提案

  • カメラフィードバックによる自動校正アプローチの導入

  • ナノフォトニクスとAIの共同設計という学際的アプローチ

この研究のアプリケーション

  • 没入感の高い拡張現実体験を実現する次世代ARメガネ

  • 教育、コミュニケーション、トレーニング等の空間コンピューティングアプリ

  • メタサーフェスによる超薄型光学素子の新たな応用先

  • 物理モデルとAIの融合による光デバイス設計の高度化

著者と所属
Manu Gopakumar, Gun-Yeal Lee, Gordon Wetzstein
(Department of Electrical Engineering, Stanford University, USA)

詳しい解説
拡張現実(AR)技術は、現実世界にデジタル情報を重畳表示することで、エンターテインメントから教育、コミュニケーション、トレーニングに至るまで、様々な分野に変革をもたらす可能性を秘めています。しかし、現在のARディスプレイは、光学系の大きさやデジタルコンテンツの3D表現力の限界など、ウェアラブル化への障壁が残されています。
本研究は、逆設計メタサーフェスグレーティング、コンパクトな分散補償導波路、AIを用いたホログラフィアルゴリズムを独自に組み合わせることで、この課題を克服する新たなホログラフィックARシステムを提案しています。
メタサーフェスとは、ナノスケールの人工構造体を用いて光の振る舞いを自在に操る革新的な技術です。本研究では、フルカラー動作に最適化された高屈折率ガラス製のメタサーフェスグレーティングを逆設計し、空間光変調器(SLM)と導波路の間で必要となる厚みのある光学系を不要にしました。また、光の色分散を補償するために、導波路形状とグレーティング間隔を巧みに設計することで、赤・緑・青の光が同じ位置で結合されるようにしています。
こうして作製されたメタサーフェス導波路は、薄型でありながら鮮明なフルカラーホログラムを提示可能です。しかし、コヒーレント光の干渉性により、ホログラムの高品質化には導波路内の光伝搬の正確なモデリングが不可欠となります。そこで、物理法則に基づく導波路モデルに、カメラフィードバックから学習される人工ニューラルネットワークを組み合わせた、独自のハイブリッドモデリング手法を新たに開発しました。これにより、ナノスケールの物理モデルと実際の光学系の微小な差異を補正し、導波路内の光波の振る舞いを高精度に予測することが可能になりました。
この光伝搬モデルを用いることで、試作システムは既存手法を大幅に上回る画質のフルカラー2D・3Dホログラムを生成できることを実証しました。複数の焦点面を持つデジタル3D像を単一導波路で表示できるのは本研究が初めてであり、自然な奥行き知覚を可能にする大きな前進です。さらに、現実世界の被写体とシームレスに融合したホログラフィックAR表示にも成功しており、将来の拡張現実メガネ実現に向けた重要なマイルストーンとなりました。
メタサーフェスとAIを組み合わせて導波路ホログラフィの限界を打ち破った本研究は、ウェアラブルデバイスによる没入型拡張現実体験の実現に向けた画期的な成果です。ナノフォトニクスとAIの学際的共同設計は、従来の光学設計に新たなブレークスルーをもたらす可能性を示しており、今後の展開が大いに期待されます。ARによる現実とデジタルのシームレスな融合が、私たちの知覚や体験をどのように拡張していくのか。薄型で高品質なホログラムを生成する本技術は、その未来像を切り拓く重要な一歩となるでしょう。


QS-21ワクチンアジュバントの全合成経路を酵母に導入し、発酵生産に成功

本研究では、強力なワクチンアジュバントであるQS-21サポニンを酵母で完全合成することに成功した。QS-21はこれまで、チリ原産の石鹸の木から抽出するしかなく、供給が限られていた。酵母のメバロン酸経路を最適化し、38種もの植物や微生物由来の異種酵素を導入。さらに、小胞体からゴルジ体、細胞質へと続く植物の細胞内区画化を酵母内で再現した。その結果、テルペン合成酵素、チトクロムP450、糖ヌクレオチド合成酵素、配糖化酵素、アシル基転移酵素、ポリケチド合成酵素など、6種生物由来の酵素群を機能的に発現・連携させ、QS-21の全合成を達成した。本手法により、QS-21の供給制限が解消され、ワクチン開発が加速すると期待される。

事前情報

  • QS-21は臨床試験が進むワクチンアジュバントだが、供給量が少ない

  • QS-21は複雑な化学構造を有するサポニンの一種

  • これまでQS-21は石鹸の木から抽出するか、76工程の化学合成が必要だった

行ったこと

  • 酵母のメバロン酸経路を改変し、QS-21の前駆体を高生産

  • 植物や微生物由来の酵素38種を酵母に導入

  • 小胞体からゴルジ体、細胞質への物質輸送を酵母内で再現

  • 各種酵素の至適化と代謝経路のバランス取りを実施

検証方法

  • 液体クロマトグラフィー質量分析(LC-MS)での生産物の検出と定量

  • 共焦点顕微鏡による酵素の細胞内局在の観察

  • 単離精製したQS-21のNMRやMS/MSでの構造解析

  • 酵素活性の測定と代謝フラックス解析

分かったこと

  • QS-21の生合成に必要な酵素38種を同定し、酵母で発現

  • 植物の細胞内区画化を酵母で再現することで、複雑な生合成経路を再構築

  • 酵素の細胞内局在や活性、基質特異性の最適化により生産性を向上

  • 中間体の蓄積を解消し、原料から完全にQS-21を合成

  • 一部酵素のプロミスキュイティを利用し、QS-21誘導体の生産にも成功

この研究の面白く独創的なところ

  • 38もの異種酵素を1つの酵母細胞内で機能させた点

  • 6種類の生物種由来の酵素群を組み合わせて天然物を全合成した点

  • 動物細胞とは全く異なる植物の細胞内区画化を酵母で再現した点

  • 複雑な化学構造を有するサポニンの生合成を酵母で実現した点

  • 基質特異性の緩い酵素を利用し、QS-21誘導体のライブラリー構築にも道筋

この研究のアプリケーション

  • 酵母発酵によるQS-21の工業生産の実現

  • QS-21の安定供給によるワクチン開発の加速

  • 本生合成経路の最適化による大量生産と低コスト化

  • QS-21誘導体の生産による構造活性相関の解明と分子設計

  • 他の複雑な植物由来天然物の微生物発酵生産への応用

著者と所属
Yuzhong Liu, Xixi Zhao, Fei Gan, Jay D. Keasling et al.
(カリフォルニア大学バークレー校、ローレンスバークレー国立研究所、デンマーク工科大学 など)

詳しい解説
本研究は、これまでチリの石鹸の木からしか得られなかった強力なワクチンアジュバントQS-21を、酵母を用いて完全に生合成することに世界で初めて成功した画期的な成果である。QS-21は非常に複雑な化学構造を有するトリテルペンサポニンの一種で、その供給は植物からの低収率な抽出か、76工程にも及ぶ全合成に依存していた。
研究チームは、QS-21生合成に必要な酵素を、植物や微生物など6種類の生物種から探索し、計38種類の酵素遺伝子を同定した。そして、これらを全て酵母に導入発現させることで、単糖であるガラクトースを原料に、QS-21を酵母内で完全に生合成させることに成功したのである。
QS-21の生合成経路は非常に複雑で、細胞内の様々な区画で反応が起こる。そこで、酵母内で小胞体膜からゴルジ体、細胞質へと物質を輸送する植物の区画化を再現することで、各酵素を適材適所に配置し、反応の効率化を図った。さらに、各酵素の活性や基質特異性を詳細に解析し、律速段階となる反応の克服や、代謝フラックスのバランスを取ることで、QS-21を最終的に数十mg/Lのスケールで生産することに成功した。
本研究の生産量は現状では植物抽出物には及ばないが、酵母のスケールアップは容易なため、生産条件のさらなる最適化により、将来的には現在の需要を上回る供給が可能になると期待される。QS-21は既に多数の臨床試験が進んでおり、本研究成果によってその供給制限が解消されれば、ワクチン開発が大きく加速するだろう。
さらに、一部の酵素の基質特異性の緩さを利用することで、QS-21の類縁体の生産にも成功しており、活性に必須の部分構造の解明や、よりワクチン効果の高い化合物の分子設計にも道を拓くものである。
酵母による植物由来サポニンの発酵生産は、これまで複雑すぎて不可能と考えられてきた。本研究は合成生物学の力で、その常識を打ち破った快挙と言える。38もの異種酵素を1つの細胞内で機能させ、協調させて目的物質を生産させるという合成生物学の集大成とも言うべき成果は、他の複雑な天然物の微生物発酵生産にも大きな指針を与えるものである。植物2次代謝産物の生合成を丸ごと微生物に移植するという、合成生物学の新たなフロンティアを切り拓いた本研究の意義は極めて大きい。


犠牲分子を介した単結晶ドメインの連結により、高強度・高靭性・高弾性な二次元共有結合性有機構造体フィルムを実現

本研究では、二次元共有結合性有機構造体(2DCOF)の単結晶ドメインを、脂肪族ジアミンを犠牲分子として水面上で連結することにより、高強度・高靭性・高弾性な2DCOFフィルムの作製に成功した。2種類の2DCOFフィルムを作製し、ヤング率はそれぞれ56.7 GPa、73.4 GPa、破断強度は82.2 N/m、29.5 N/mを示した。この犠牲分子を介した合成手法と織り交ざった粒界構造は、様々な多結晶材料の粒界制御に応用可能で、新たな特性の付与や用途拡大につながると期待される。

事前情報

  • 多結晶材料の特性は粒界の影響を強く受ける。二次元結晶はライン欠陥で分断・崩壊する可能性がある。

  • 二次元結晶をフィルム化する際、必然的に多結晶となり脆くなるため、フレキシブルエレクトロニクスなどへの応用が妨げられている。

  • ガラスや木材、プラスチックと同様、機械的強度と靭性はトレードオフの関係にある。

行ったこと

  • 2種類の2DCOFについて、水面上で脂肪族ジアミンを犠牲分子として用いることで、単結晶ドメインが織り交ざった粒界で連結されたフィルムを作製した。

  • 作製したフィルムの機械的特性(ヤング率、破断強度)を評価した。

検証方法

  • 走査型電子顕微鏡、原子間力顕微鏡による表面構造の観察

  • X線回折、電子線回折による結晶構造解析

  • ひっぱり試験による機械的特性の評価

分かったこと

  • 犠牲分子を介して単結晶ドメインを連結することで、2DCOFの高強度・高靭性フィルム化に成功した。

  • 2種類の2DCOFフィルムのヤング率は56.7 GPa、73.4 GPa、破断強度は82.2 N/m、29.5 N/mと非常に高い値を示した。

  • 単結晶ドメインが織り交ざった粒界構造により、フィルムに高い弾性も付与された。

この研究の面白く独創的なところ

  • 犠牲分子を用いて単結晶ドメインを連結するという新しい手法を開発した点

  • 単結晶ドメイン間に織り交ざった粒界構造を形成させることで、高強度・高靭性・高弾性を同時に実現した点

  • 2DCOFの優れた機械的特性を引き出し、フィルム材料としての実用化に道を拓いた点

この研究のアプリケーション

  • フレキシブルエレクトロニクス、オプトエレクトロニクス、分離膜など、2DCOFフィルムの応用範囲の拡大

  • 機械的強度と靭性の両立が求められる構造材料への応用

  • 様々な多結晶材料の粒界制御への応用による、新たな特性の付与や用途拡大

著者と所属
Yonghang Yang, Baokun Liang, Zhikun Zheng (Sun Yat-sen University, Guangdong University of Technology, Jieyang Branch of Chemistry and Chemical Engineering Guangdong Laboratory)

詳しい解説
本研究は、二次元共有結合性有機構造体(2DCOF)の単結晶ドメインを水面上で脂肪族ジアミンを介して連結することにより、高強度・高靭性・高弾性なフィルムの作製に成功した画期的な成果です。
2DCOFは、有機分子が共有結合で連結された二次元構造体で、軽量、高比表面積、機能性に富むという特長から、近年注目を集めている新しい材料です。しかし、2DCOFをフィルム化する際、結晶粒界が生じることで材料が脆くなり、フレキシブルエレクトロニクスなどへの応用が妨げられてきました。
研究チームは、この問題を解決するために、水面上で2DCOFを合成する際に脂肪族ジアミンを犠牲分子として添加しました。その結果、単結晶ドメインが織り交ざるような形で粒界を形成しながら連結され、高強度・高靭性のフィルムが得られたのです。作製した2種類の2DCOFフィルムは、ヤング率56.7 GPa、73.4 GPa、破断強度82.2 N/m、29.5 N/mという非常に高い機械的特性を示しました。さらに、単結晶ドメイン間の織り交ざった粒界構造により、フィルムに高い弾性も付与されました。
この研究の独創的な点は、犠牲分子を用いて単結晶ドメインを連結するという新しい手法を開発し、それによって高強度・高靭性・高弾性を同時に実現したことです。また、2DCOFの優れた機械的特性を引き出し、フィルム材料としての実用化に道を拓いた意義も大きいと言えます。
さらに、この手法は2DCOFだけでなく、様々な多結晶材料の粒界制御に応用可能と考えられます。粒界の制御によって材料に新たな特性を付与したり、用途を拡大したりすることができるでしょう。
本研究は、2DCOFのフィルム化という材料科学的な挑戦に独自の切り口で取り組み、高強度・高靭性・高弾性の実現という優れた成果を収めました。この成果は、2DCOFの応用範囲を大きく広げるとともに、多結晶材料の新たな可能性を切り拓くものとして高く評価できます。フレキシブルエレクトロニクスをはじめとする幅広い分野への波及効果が大いに期待されます。


最後に
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