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論文まとめ310回目 SCIENCE 薬物乱用は生存に必要な報酬系を乗っ取り、薬物追求行動を促進する!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Phage predation, disease severity, and pathogen genetic diversity in cholera patients
コレラ患者におけるファージ捕食、病気の重症度、および病原体の遺伝的多様性
「コレラ菌とそれに感染するファージ(ウイルス)は、長い進化の過程で互いに影響を与え合ってきました。この研究では、バングラデシュのコレラ患者から採取したサンプルを分析し、ファージの量が多いほどコレラ菌の量が抑えられ、症状が軽くなることを発見しました。一方、コレラ菌がファージ耐性因子を持つ場合、ファージの量が多くてもコレラ菌が抑制されませんでした。また、ファージとコレラ菌の遺伝的多様性は、互いの量に応じて変化することが分かりました。この知見は、ファージを利用した治療法の開発に役立つと期待されます。」

Drugs of abuse hijack a mesolimbic pathway that processes homeostatic need
薬物乱用は、生体の恒常性を維持する中脳辺縁経路を乗っ取る
「食欲や渇きなどの生理的欲求を満たすための脳の報酬系は、本来は生存に必要な行動を促進します。しかし、薬物はこの報酬系を乗っ取ってしまいます。薬物は報酬系の神経細胞を過剰に活性化させ、RHEBというタンパク質を介して食欲などの生理的欲求を阻害します。つまり、薬物依存は、生存に必要な欲求を薬物欲求に置き換えてしまう脳の異常なのです。この研究成果は、薬物依存の治療法開発に役立つと期待されます。」

Generalized biomolecular modeling and design with RoseTTAFold All-Atom
RoseTTAFold All-Atomによる汎用的な生体分子モデリングとデザイン
「タンパク質の構造予測と設計は、近年の機械学習の進歩により大きく前進しましたが、従来はタンパク質のみに限定されていました。しかし、小分子や金属イオン、核酸などの非タンパク質成分は、多くのタンパク質の構造と生物学的機能に不可欠です。RoseTTAFold All-Atom(RFAA)は、配列と化学構造から、これらの成分を含む幅広い生体分子の複合体をモデリングできる次世代ツールです。RFAAは、小分子との相互作用の予測で優れた性能を示し、さらに、補因子や小分子に結合するタンパク質を新規にデザインすることにも成功しました。」

A naturally isolated symbiotic bacterium suppresses flavivirus transmission by Aedes mosquitoes
自然界から分離された共生細菌が、ヤブカ属蚊によるフラビウイルス伝播を抑制する
「デング熱やジカウイルス感染症は、ヤブカによって媒介され、世界的な公衆衛生上の脅威となっています。この研究では、中国雲南省のヒトスジシマカの腸内から、Rosenbergiella_YN46と名付けられた細菌を発見しました。この細菌をヤブカに感染させると、デングウイルスやジカウイルスに感染しにくくなり、マウスへのウイルス伝播も阻止されました。Rosenbergiella_YN46は、ヤブカの腸内環境を酸性化することでウイルスを不活性化するのです。この細菌を利用することで、フラビウイルス感染症の新たな生物学的防除策が期待されます。」

Neuroendocrine cells initiate protective upper airway reflexes
神経内分泌細胞が気道の防御反射を開始する
「気道には、神経内分泌細胞という特殊な上皮細胞が存在します。この研究では、マウスの気管と喉頭の神経内分泌細胞が、水や酸などの有害な刺激に反応して、ATP(アデノシン三リン酸)を放出することを発見しました。放出されたATPは、近くの感覚神経を活性化し、嚥下や咳のような防御反射を引き起こします。つまり、神経内分泌細胞は、気道に入ってきた危険な物質を感知し、素早く防御反応を起こすための番人のような役割を果たしているのです。この発見は、誤嚥性肺炎などの予防策の開発につながる可能性があります。」



要約

コレラ患者におけるファージと病原菌の共進化と病気の重症度の関係を解明

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj3166

本研究では、バングラデシュの下痢症患者を対象に1年間にわたる全国調査を実施しました。コレラ患者において、メタゲノム解析と定量的PCRを用いて、Vibrio cholerae(被食者)とそれに感染するファージ(捕食者)を定量化し、定量的質量分析によって抗生物質暴露を考慮しました。ファージ(ICP1)と抗生物質は、耐性機構に応じてV. choleraeを様々な程度で抑制し、重度の脱水症状と逆相関していました。抗ファージ防御機構がない場合、捕食は「効果的」で、高い捕食者・被食者比は被食者の遺伝的多様性の増加と相関していました。抗ファージ防御機構が存在する場合、捕食は「非効果的」で、低い捕食者・被食者比は捕食者の遺伝的多様性の増加と相関していました。したがって、患者内でのファージ-細菌の共進化は、ファージ療法や診断法の展開において考慮されるべきです。

事前情報

  • ファージと細菌の相互作用の分子メカニズムについては詳細な知見が蓄積されている

  • 自然感染における抗生物質の有無でのファージ-細菌相互作用の実態は不明

行ったこと

  • バングラデシュの下痢症患者を対象に、1年間の全国調査を実施

  • コレラ患者のサンプルから、V. choleraeとそのファージをメタゲノム解析と定量PCRで定量化

  • 定量的質量分析で抗生物質暴露を評価

  • ファージ耐性因子の有無によるV. cholerae集団を比較

検証方法

  • メタゲノム解析と定量PCRによるV. choleraeとファージの定量

  • 定量的質量分析による抗生物質濃度の測定

  • V. choleraeとファージのゲノム解析による遺伝的多様性の評価

分かったこと

  • ファージ(ICP1)と抗生物質はV. choleraeを抑制し、重度の脱水症状と逆相関

  • ファージ耐性因子(ICE)がない場合、高いファージ・V. cholerae比(効果的捕食)はV. choleraeの遺伝的多様性増加と相関

  • ファージ耐性因子(ICE)がある場合、低いファージ・V. cholerae比(非効果的捕食)はファージの遺伝的多様性増加と相関

  • V. choleraeの高頻度変異株は、ファージ耐性変異と有害変異を蓄積

この研究の面白く独創的なところ

  • 患者サンプルを用いて、自然感染でのファージ-細菌相互作用を解析した点

  • ファージ・細菌比と病気の重症度の関連を見出した点

  • ファージと細菌の遺伝的多様性が互いの量に応じて変化することを示した点

この研究のアプリケーション

  • ファージ・細菌比を病気の重症度のバイオマーカーとして利用

  • ファージ療法や予防法の開発への応用

  • 抗生物質耐性菌に対する新たな対策法の開発

著者と所属
Naïma Madi, Emilee T. Cato, Barbara Verhalen, Karuna A. Sakthi, Maria D. Sosa, Zhaleh Iranpour, Fatema-Tuz Johura, Marzia Sultana, Ashraf I. Khan, Shamima Akhter, Mahmuda Khatun, Seongwon Kim, Kyeong Keun Kim, Richard B. Pyles, Shirajum Monira, Regina C. LaRocque, Jason B. Harris, Edward T. Ryan, Stephen B. Calderwood, Eric J. Nelson
所属: ダートマス大学ガイゼル医学部、ベイラー医科大学、国際下痢症研究所、テキサス大学医学部、マサチューセッツ総合病院、ハーバード大学医学大学院

詳しい解説
この研究は、バングラデシュのコレラ患者において、コレラ菌(Vibrio cholerae)とそのファージ(ウイルス)の相互作用が、病気の重症度や両者の遺伝的多様性にどのように影響するかを調べたものです。コレラは、V. choleraeによって引き起こされる急性下痢症であり、バングラデシュでは流行が続いています。
研究グループは、1年間にわたって全国の下痢症患者を対象に調査を実施し、コレラ患者のサンプルから、V. choleraeとそのファージを定量化しました。その際、メタゲノム解析と定量的PCRを用いて両者の量を測定し、定量的質量分析で抗生物質の暴露量を評価しました。
その結果、ファージ(特にICP1)と抗生物質はV. choleraeを抑制し、その効果は重度の脱水症状と逆相関していることが分かりました。つまり、ファージや抗生物質によってV. choleraeが効果的に抑えられると、コレラの症状が軽くなるということです。ただし、抗生物質の効果はV. choleraeの耐性機構によって影響を受けました。
また、V. choleraeがファージ耐性因子(ICE)を持つかどうかで、ファージとの相互作用が異なることが明らかになりました。ICEがない場合、ファージ・V. cholerae比が高い「効果的捕食」の状態では、V. choleraeの遺伝的多様性が増加しました。これは、ファージの強い選択圧によって、V. choleraeにファージ耐性変異や有害変異が蓄積したためと考えられます。一方、ICEがある場合、ファージ・V. cholerae比が低い「非効果的捕食」の状態では、ファージの遺伝的多様性が増加しました。これは、V. choleraeのファージ耐性機構を乗り越えるための変異がファージに蓄積したためと解釈できます。
以上の結果は、ファージと細菌の間には、患者体内で絶え間ない進化の競争が起きていることを示しています。V. choleraeは高頻度変異によってファージから逃れようとするものの、有害変異も蓄積してしまいます。一方、ファージはV. choleraeの耐性機構に対抗するために変異を重ねています。このような共進化のダイナミクスは、ファージを利用した治療法や診断法を開発する上で考慮すべき重要な要素だと言えるでしょう。
本研究は、自然感染におけるファージと細菌の相互作用を、患者サンプルを用いて詳細に解析した点で画期的です。ファージ・細菌比と病気の重症度の関連や、両者の遺伝的多様性の変化を捉えた知見は、ファージ療法の発展に大きく貢献すると期待されます。今後は、より大規模な調査や実験モデルによる検証を通じて、因果関係を確認していく必要があるでしょう。


薬物乱用は生存に必要な報酬系を乗っ取り、薬物追求行動を促進する

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk6742


薬物乱用は、本来は生存に必要な食欲や渇きなどの欲求を処理する脳の報酬系に作用し、薬物依存を引き起こすと考えられています。この研究では、全脳のニューロン活動マッピングや個々のニューロン活動の追跡により、側坐核が薬物と自然報酬の両方に反応する中枢であることを突き止めました。そして、薬物が側坐核のニューロンを過剰に活性化させ、RHEBというタンパク質を介して細胞内シグナル伝達を調節し、自然報酬の消費を抑制することを明らかにしました。これらの結果は、薬物が生理的欲求の充足を妨げる共通の報酬経路の動的・分子・回路基盤を示しています。

事前情報

  • 薬物乱用は、自然報酬を処理する脳の報酬系を「乗っ取る」ことで依存を引き起こすと考えられている

  • しかし、そのような共通の報酬経路の具体的な神経基盤は不明である

行ったこと

  • 全脳FOSマッピングと化学遺伝学的阻害により、側坐核が薬物と自然報酬の両方に必要な中枢であることを同定

  • 覚醒・行動中のマウスの側坐核でドパミン受容性ニューロンの活動を縦断的に追跡

  • FOS-Seqにより脳全体のFOSパターンと遺伝子発現データを統合し、Rhebを同定

  • 側坐核でのin vivo CRISPR perturbationとsingle-nucleus RNA-seqを統合し、Rhebの機能を解明

  • 薬物で活性化される側坐核投射領域をマッピングし、眼窩前頭皮質の役割を同定

検証方法

  • 全脳FOSマッピングと化学遺伝学的阻害

  • 覚醒・行動中のマウスでの2光子顕微鏡を用いた縦断的カルシウムイメージング

  • FOS-Seqによる脳全体のFOSパターンと遺伝子発現データの統合

  • in vivo CRISPR perturbationとsingle-nucleus RNA-seqの統合

  • 機能的マッピングと化学遺伝学的活性化

分かったこと

  • 側坐核は、薬物と自然報酬の両方に反応し、薬物が自然報酬の消費を阻害するのに必要な中枢である

  • 薬物は、側坐核のドパミン受容性ニューロンの活性を増強し、自然報酬処理を撹乱する

  • Rhebは、薬物による細胞内シグナル伝達を調節し、自然報酬消費の抑制を可能にする分子基盤である

  • 眼窩前頭皮質から側坐核への投射は、薬物による自然報酬消費の阻害に関与する

この研究の面白く独創的なところ

  • 同じ個体の中で、薬物と自然報酬に対する反応を比較・解析した点

  • 全脳FOSマッピングとin situデータを統合する「FOS-Seq」アプローチを開発した点

  • in vivo CRISPR perturbationとsingle-cell transcriptomicsを統合した点

この研究のアプリケーション

  • 物質使用障害における薬物追求行動の亢進のメカニズム解明

  • 薬物依存の新たな治療ターゲットの同定

  • 薬物依存と自然報酬処理の相互作用の理解に基づく予防・治療法の開発

著者と所属
Bowen Tan, Caleb J. Browne, [...], and Eric J. Nestler +3 authors
所属: マウントサイナイ医科大学、スクリプス研究所、エモリー大学

詳しい解説
この研究は、薬物乱用が生存に必要な欲求を処理する脳の報酬系を乗っ取り、薬物追求行動を促進するメカニズムを明らかにした画期的な成果です。薬物依存は、本来は生存に必要な食欲や渇きなどの欲求を満たす行動を、薬物追求行動に置き換えてしまう病態であると考えられてきました。しかし、そのような共通の報酬経路の具体的な神経基盤や分子メカニズムは不明でした。
本研究では、まず全脳のニューロン活動マッピングと化学遺伝学的阻害により、側坐核が薬物(コカインとモルヒネ)と自然報酬(食物と水)の両方に反応し、薬物が自然報酬の消費を阻害するのに必要な中枢であることを突き止めました。そして、覚醒・行動中のマウスの側坐核で個々のドパミン受容性ニューロンの活動を縦断的に追跡することで、薬物は自然報酬よりも強い活性化を引き起こし、繰り返し曝露によって特定の細胞集団の反応が増強され、自然報酬処理が撹乱されることを明らかにしました。
次に、脳全体のニューロン活動パターンとin situ遺伝子発現データを統合する「FOS-Seq」アプローチを開発し、RhebというmTOR経路を活性化する遺伝子が慢性薬物曝露で誘導されることを見出しました。さらに、in vivo CRISPR perturbationとsingle-nucleus RNA-seqを統合することで、Rhebがドパミン受容性細胞の薬物関連シグナル伝達を調節し、自然報酬消費の抑制を可能にする分子基盤であることを実証しました。
最後に、薬物で活性化される側坐核投射領域をマッピングし、眼窩前頭皮質からの入力が自然報酬消費を阻害する可能性を示唆しました。
本研究は、薬物依存における薬物追求行動の亢進メカニズムの理解を大きく前進させるとともに、新たな治療ターゲットの同定にもつながる重要な知見を提供しました。薬物依存は、本来生存に必要な欲求を薬物欲求に置き換えてしまう脳の異常であり、その予防と治療には、薬物依存と自然報酬処理の相互作用の理解が不可欠です。本研究で明らかになった共通の報酬経路の動的・分子・回路基盤は、そのための重要な手がかりになるものと期待されます。


RoseTTAFold All-Atomは、タンパク質、核酸、小分子、金属、共有結合修飾を含む生体分子の複合体構造を予測・デザインできる汎用ツール

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl2528

RoseTTAFold All-Atom(RFAA)は、アミノ酸とDNA塩基の残基ベースの表現と、それ以外のグループの原子表現を組み合わせることで、タンパク質、核酸、小分子、金属、共有結合修飾を含む幅広い生体分子の複合体構造を、配列と化学構造からモデリングできる。デノイジングタスクでファインチューニングすることで、小分子の周りにタンパク質構造を構築するRFdiffusion All-Atom(RFdiffusionAA)を開発した。心臓病治療薬ジゴキシゲニン、酵素補因子ヘム、光捕集分子ビリンに結合するタンパク質を、ランダムなアミノ酸残基の分布から設計し、結晶構造解析や結合測定により実験的に検証した。

事前情報

  • タンパク質の構造予測と設計は、近年の深層学習手法により大きく進歩したが、タンパク質のみのシステムに限定されていた。

  • リガンド(小分子、金属イオン、核酸など)は、多くのタンパク質の構造と生物学的機能に不可欠な成分である。

行ったこと

  • RFAAでは、アミノ酸とDNA塩基を残基ベースで、その他の分子を原子グラフで表現し、1次元、2次元、3次元の情報を組み合わせて、生体分子の複合体構造を予測する。

  • デノイジングタスクでRFAAをファインチューニングし、小分子に結合するタンパク質を設計するRFdiffusionAAを開発した。

  • ジゴキシゲニン、ヘム、ビリンに結合するタンパク質を設計し、実験的に検証した。

検証方法

  • CAMEOの自動リガンドドッキング評価でRFAAの性能を検証した。

  • 最近のPDBエントリーでRFAAの予測精度を検証し、既知の構造との類似性が低い場合でも高精度な予測が可能なことを示した。

  • 設計したジゴキシゲニン、ヘム、ビリン結合タンパク質を発現・精製し、結合活性や結晶構造を実験的に検証した。

分かったこと

  • RFAAは、タンパク質と非タンパク質成分を含む幅広い生体分子複合体の構造を、単一のニューラルネットワークで高精度にモデリングできる。

  • RFAAは、CAMEOの評価でオートドッキング手法を上回る性能を示した。

  • RFdiffusionAAにより、ジゴキシゲニン、ヘム、ビリンに結合する新規タンパク質を設計することに成功した。

この研究の面白く独創的なところ

  • タンパク質と非タンパク質成分の両方を統一的に扱える汎用性の高いアプローチを開発した点。

  • 生体分子の複合体予測だけでなく、新規設計にも応用できることを示した点。

  • 設計したタンパク質が、既知の結合タンパク質とは大きく異なる構造を持つことを明らかにした点。

この研究のアプリケーション

  • 生体分子の複合体構造の予測による構造生物学や創薬への応用。

  • 小分子に結合する新規タンパク質のデザインによる、酵素や分子センサーの開発。

  • 生体分子の相互作用の理解に基づく、生物学的機能の解明や制御。

著者と所属
Rohith Krishna, Jue Wang, [...], David Baker 所属: ワシントン大学、ソウル国立大学、シェフィールド大学、Medical Research Council Laboratory of Molecular Biologyなど

詳しい解説
RFAAは、タンパク質と核酸の配列ベースの表現と、小分子や共有結合修飾の原子グラフ表現を組み合わせることで、幅広い生体分子の複合体構造を予測できる汎用ツールです。1次元の情報として非ポリマー原子の元素種、2次元で原子間の化学結合、3次元ではキラリティを入力し、アミノ酸残基、核酸塩基、自由に動く原子の非結合の集合体から、ネットワークの多層構造を通じて物理的に妥当な複合体構造へと変換します。
PDBのタンパク質-生体分子複合体データセットで学習したRFAAは、CAMEOの自動リガンドドッキング評価で、オートドッキング手法を上回る性能を示しました。学習セットとの配列類似性が低いタンパク質や、類似性の低いリガンドに対しても高精度な予測が可能で、汎化性能の高さが示されました。また、分子力場で計算した相互作用エネルギーが低い複合体ほど予測精度が高いことから、RFAAがタンパク質-小分子間相互作用の物理化学的特性を学習していることが示唆されました。
さらに、RFAAをデノイジングタスクでファインチューニングすることで、小分子に結合するタンパク質を新規に設計するRFdiffusionAAを開発しました。ランダムな残基分布から出発し、小分子を取り囲むようにタンパク質構造を生成します。これまでの手法とは異なり、リガンドに特化したポケットを生成できるのが特長です。心臓病治療薬ジゴキシゲニン、酵素補因子ヘム、光捕集分子ビリンに対し設計を行い、実験的にそれぞれ結合活性を確認しました。ヘム結合タンパク質の結晶構造は設計モデルと非常に近い一致を示しました。
RFAAは、タンパク質以外の多様な成分を含む生体分子複合体を、単一のニューラルネットワークで高精度にモデリングできることを実証しました。予測精度には改善の余地がありますが、生物学的複合体の全体像のモデリングや、小分子結合タンパク質やセンサーの設計に広く役立つと期待されます。


自然界から分離された共生細菌が、ヤブカによるフラビウイルス伝播を抑制する

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn9524

蚊の腸内共生細菌叢は、ウイルスに対する媒介能力を決定する上で複雑な役割を果たしています。本研究では、中国雲南省の野外ヒトスジシマカの腸から、デングウイルスとジカウイルスの感染に対して蚊を抵抗性にするRosenbergiella sp. YN46(Rosenbergiella_YN46)という細菌を同定しました。Rosenbergiella_YN46を1.6×10^3 CFUヒトスジシマカに接種すると、ウイルス感染を効果的に防ぐことができました。メカニズム的には、この細菌はグルコースデヒドロゲナーゼ(RyGDH)を分泌し、吸血したヤブカの腸内を酸性化し、フラビウイルスのエンベロープタンパク質に不可逆的な構造変化を引き起こし、ウイルスの細胞内侵入を阻害します。準野外条件下では、Rosenbergiella_YN46は野外の蚊で効果的な経発育伝播を示し、新たに羽化した成虫蚊によるデングウイルスの伝播を阻止します。Rosenbergiella_YN46の有病率は、デング熱の発生が少ない地域の蚊(52.9〜91.7%)の方が、デング熱流行地域の蚊(0〜6.7%)よりも高くなっています。Rosenbergiella_YN46は、フラビウイルスの効果的で安全な生物学的防除につながる可能性があります。

事前情報

  • 蚊の腸内共生細菌叢は、ウイルスに対する媒介能力の重要な決定因子と考えられている

  • 蚊の腸内細菌は、雌蚊から子孫への垂直伝播や、幼虫期・成虫期の摂食を通じた水平獲得によって獲得される

  • 異なる生息地から出現した蚊は、異なる腸内細菌叢を有し、媒介能力などの形質が異なる可能性がある

行ったこと

  • 中国雲南省の野外ヒトスジシマカの腸から55種の培養可能な細菌を分離

  • Rosenbergiella属の細菌(Rosenbergiella_YN46)が、ヒトスジシマカとネッタイシマカのDENVとZIKV感染に対する抵抗性を付与することを発見

  • Rosenbergiella_YN46がヤブカの腸内に持続的に定着し、グルコースデヒドロゲナーゼ(RyGDH)を分泌してウイルス感染を阻害するメカニズムを解明

  • 雲南省の異なる地域のヒトスジシマカ個体群におけるRosenbergiella_YN46の有病率を調査

  • 準野外条件下でのRosenbergiella_YN46の経発育伝播とDENV2伝播阻止効果を評価

検証方法

  • 野外ヒトスジシマカからの腸内細菌の分離と同定

  • Rosenbergiella_YN46接種によるヤブカのDENVとZIKV感染に対する抵抗性の評価

  • RyGDHによる腸内pHの酸性化とウイルス不活化のメカニズムの解明

  • 異なる地域のヒトスジシマカ個体群におけるRosenbergiella_YN46の有病率調査

  • 準野外条件下でのRosenbergiella_YN46の経発育伝播と成虫蚊のDENV2伝播阻止効果の評価

分かったこと

  • Rosenbergiella_YN46は、ヤブカ腸内に定着し、RyGDHを分泌して腸内を酸性化することでフラビウイルス感染を阻害する

  • Rosenbergiella_YN46の有病率は、デング熱発生が少ない地域の蚊で高く、流行地域の蚊で低い

  • 準野外条件下で、Rosenbergiella_YN46は野外蚊で効果的な経発育伝播を示し、新たに羽化した成虫蚊のDENV2伝播を阻止する

  • 昆虫媒介植物の花蜜中に広くRosenbergiella属細菌が分布し、DENV制御の低影響戦略となる可能性がある

この研究の面白く独創的なところ

  • 野外ヤブカの腸内細菌叢から、フラビウイルス感染を阻害する新規細菌を発見した点

  • 細菌が分泌する酵素によって腸内環境を操作し、ウイルス感染を阻害するメカニズムを解明した点

  • 細菌の有病率と地域のデング熱発生率との関連を見出した点

  • 準野外条件下での細菌の経発育伝播とウイルス伝播阻止効果を実証した点

この研究のアプリケーション

  • Rosenbergiella_YN46を用いたデング熱やジカウイルス感染症の生物学的防除への応用

  • 蚊の腸内細菌叢を操作することによる新たな媒介節足動物制御戦略の開発

  • 昆虫媒介植物の花蜜に生息する細菌を利用した低影響のウイルス制御方法の探索

著者と所属
Liming Zhang, Daxi Wang, Peibo Shi, Juzhen Li, Jichen Niu, Jielong Chen, Gang Wang, Linjuan Wu, Lu Chen, [...], and Gong Cheng +16 authors
所属: 清華大学、雲南省疾病予防管理センター

詳しい解説
この研究は、ヤブカが媒介するフラビウイルス感染症の新たな生物学的防除策の開発につながる重要な発見をもたらしました。デング熱やジカウイルス感染症は、ヒトスジシマカやネッタイシマカなどのヤブカ属蚊によって媒介され、世界的な公衆衛生上の脅威となっています。しかし、安全で効果的なワクチンや治療法はまだ十分に確立されていません。
研究チームは、デングウイルスの主要媒介蚊であるヒトスジシマカの腸内から、Rosenbergiella_YN46と名付けられた細菌を分離しました。この細菌をヒトスジシマカやネッタイシマカに感染させると、デングウイルスやジカウイルスに感染しにくくなることを発見しました。わずか1.6×10^3 CFUのRosenbergiella_YN46を接種するだけで、ヤブカのウイルス感染を効果的に防ぐことができたのです。
そのメカニズムを探ったところ、Rosenbergiella_YN46はグルコースデヒドロゲナーゼ(RyGDH)という酵素を分泌し、吸血したヤブカの腸内を急速に酸性化(pH≒6.0)することがわかりました。この酸性環境がフラビウイルスの粒子を不活化し、腸上皮細胞への侵入を阻害していたのです。
さらに、雲南省の異なる地域から採取したヒトスジシマカ個体群におけるRosenbergiella_YN46の有病率を調査したところ、デング熱の発生が少ない文山州や普洱市の蚊では52.9〜91.7%と高く、流行地域の西双版納州や臨滄市の蚊では0〜6.7%と低いことが明らかになりました。
また、準野外条件下では、Rosenbergiella_YN46が野外蚊で効果的な経発育伝播を示し、新たに羽化した成虫蚊によるデングウイルス2型の伝播を阻止することを確認しました。Rosenbergiella属細菌は昆虫媒介植物の花蜜中に広く分布しており、デングウイルス制御の低影響戦略となる可能性が示唆されました。
本研究の成果は、ヤブカの腸内細菌叢を操作することによる新たな媒介節足動物制御戦略の開発につながると期待されます。特にRosenbergiella_YN46を用いたデング熱やジカウイルス感染症の生物学的防除は、安全で効果的な対策となる可能性があります。また、昆虫媒介植物の花蜜に生息する細菌を利用した低影響のウイルス制御方法の探索も、今後の重要な研究課題の一つと言えるでしょう。



気道の神経内分泌細胞が、有害な刺激に応答して防御反射を引き起こす

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh5483

この研究では、マウスの気管、喉頭、肺の神経内分泌細胞の機能的特性を詳細に調べました。その結果、これらの細胞は水や酸などの有害な刺激に反応し、ATPを放出することがわかりました。放出されたATPは、近くのP2受容体を持つ感覚神経を活性化し、嚥下や咳のような防御反射を引き起こします。つまり、神経内分泌細胞は、気道に入ってきた危険な物質を感知し、素早く防御反応を起こすための番人のような役割を果たしているのです。この研究は、神経内分泌細胞の多様性と生理的役割を明らかにした重要な成果です。

事前情報

  • 気道の神経内分泌細胞は、感覚上皮細胞として機能し、周囲の神経終末と相互作用することが示唆されていた。

  • しかし、健康な肺、気管、喉頭における神経内分泌細胞の機能的特性と生理的役割は、ほとんど分かっていなかった。

行ったこと

  • マウスの肺、気管、喉頭の神経内分泌細胞の分子的、生物物理学的、形態学的特性を詳細に解析した。

  • 気道の神経内分泌細胞が水や酸などの有害な刺激に反応することを、ex vivo(生体外)とin vivo(生体内)の記録によって確認した。

  • 光遺伝学的手法と行動解析により、神経内分泌細胞が防御反射を引き起こすメカニズムを調べた。

検証方法

  • 神経内分泌細胞の活動をex vivoとin vivoで記録し、水や酸への反応性を確認した。

  • 光遺伝学的手法により神経内分泌細胞を選択的に活性化し、防御反射が起きるかを調べた。

  • 神経内分泌細胞から放出されるATPが、P2受容体を介して感覚神経を活性化することを確認した。

分かったこと

  • 気管と喉頭の神経内分泌細胞は、水や酸などの有害な刺激に反応してATPを放出する。

  • 放出されたATPは、P2受容体を持つ感覚神経を活性化し、嚥下や咳のような防御反射を引き起こす。

  • つまり、神経内分泌細胞は、気道に入ってきた危険な物質を感知し、素早く防御反応を起こすための番人のような役割を果たしている。

この研究の面白く独創的なところ

  • 気道の神経内分泌細胞の機能的多様性と生理的役割を明らかにした点が独創的である。

  • 神経内分泌細胞が防御反射を引き起こすメカニズムを解明した点が面白い。

この研究のアプリケーション

  • 誤嚥性肺炎などの予防策の開発につながる可能性がある。

  • 神経内分泌細胞の機能異常が関与する呼吸器疾患の治療法開発に役立つ可能性がある。

著者と所属
Laura F. Seeholzer (University of California, San Francisco, USA) David Julius (University of California, San Francisco, USA)

詳しい解説
気道には、神経内分泌細胞という特殊な上皮細胞が存在します。これらの細胞は、感覚上皮細胞として機能し、周囲の神経終末と相互作用することが示唆されていました。しかし、健康な肺、気管、喉頭における神経内分泌細胞の機能的特性と生理的役割は、ほとんど分かっていませんでした。
この研究では、マウスの肺、気管、喉頭の神経内分泌細胞の分子的、生物物理学的、形態学的特性を詳細に解析しました。その結果、これらの細胞は部位によって異なる特性を持つものの、水や酸などの有害な刺激に反応するという共通の性質を持つことがわかりました。
さらに、ex vivo(生体外)とin vivo(生体内)の記録により、気管と喉頭の神経内分泌細胞が、水や酸に反応してATP(アデノシン三リン酸)を放出することを発見しました。放出されたATPは、近くのP2受容体を持つ感覚神経を活性化し、嚥下や咳のような防御反射を引き起こすことがわかりました。
つまり、神経内分泌細胞は、気道に入ってきた危険な物質を感知し、素早く防御反応を起こすための番人のような役割を果たしているのです。この発見は、神経内分泌細胞の多様性と生理的役割を明らかにした重要な成果であり、誤嚥性肺炎などの予防策の開発につながる可能性があります。
また、この研究は、神経内分泌細胞の機能異常が関与する可能性のある呼吸器疾患の治療法開発にも役立つと期待されます。例えば、神経内分泌細胞の感受性が低下している場合、有害な物質が気道に入ってきても適切な防御反射が起こらず、肺炎などの感染症を引き起こす可能性があります。逆に、神経内分泌細胞の感受性が亢進している場合、過剰な防御反射が起こり、慢性的な咳や喉の痛みなどの症状を引き起こすかもしれません。
今後、ヒトの気道における神経内分泌細胞の機能的特性と生理的役割を解明することが重要な課題となるでしょう。また、神経内分泌細胞の感受性を適切にコントロールする方法を開発することで、誤嚥性肺炎などの予防策や、呼吸器疾患の新しい治療法の開発につながることが期待されます。


最後に
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