論文まとめ390回目 SCIENCE 層間滑り現象を利用した疲労耐性の高い強誘電体メモリの開発!?など
科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。
さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。
一口コメント
Developing fatigue-resistant ferroelectrics using interlayer sliding switching
層間滑り現象を用いた疲労耐性強誘電体の開発
「スマートフォンなどの記憶装置に使われる強誘電体メモリは、電気的に何度も書き換えられるうちに性能が劣化する「疲労」という問題がありました。この研究では、二層の二硫化モリブデン結晶を用いて、層と層の間で原子がずれる「層間滑り」という現象を利用することで、100万回以上の書き換えを行っても性能が劣化しない強誘電体メモリの開発に成功しました。従来の強誘電体では避けられなかった疲労の問題を克服し、長寿命で高性能な次世代メモリへの道を開いた画期的な成果です。」
Ultrafast high-endurance memory based on sliding ferroelectrics
スライディング強誘電体を用いた超高速・高耐久メモリ
「スマートフォンやパソコンの記憶装置として使われるフラッシュメモリは、書き換え回数に限界があるという課題がありました。この研究では、2枚の窒化ホウ素シートを重ねた新しい強誘電体材料を用いることで、1000億回以上の書き換えが可能な超高耐久メモリの開発に成功しました。さらに、ナノ秒オーダーの超高速動作も実現。従来の強誘電体では、繰り返し使用によって結晶構造に欠陥が生じてしまいますが、この新材料では原子層がスライドするだけで分極が反転するため、高い耐久性を実現できたのです。」
An intron endonuclease facilitates interference competition between coinfecting viruses
イントロンエンドヌクレアーゼが共感染ウイルス間の干渉競争を促進する
「ウイルスの遺伝子にある「イントロン」と呼ばれる配列が、実は他のウイルスとの競争に役立っていることが分かりました。イントロンの中にある「エンドヌクレアーゼ」という酵素が、ライバルウイルスのDNAを切断して増殖を妨げるのです。これは、同じ細胞に複数のウイルスが感染したときに、自分の子孫を増やすための戦略なのです。今まで「利己的な遺伝子」と思われていたイントロンが、実は宿主ウイルスに利益をもたらす重要な役割を果たしていたことが明らかになりました。」
A molecular glue degrader of the WIZ transcription factor for fetal hemoglobin induction
胎児型ヘモグロビン誘導のためのWIZ転写因子分子グルー分解剤
「赤ちゃんの時に作られる特殊なヘモグロビン(胎児型ヘモグロビン)を大人になっても作り続けられれば、鎌状赤血球症という重篤な血液の病気を治療できる可能性があります。この研究では、WIZというタンパク質が胎児型ヘモグロビンの生成を抑えていることを発見し、WIZを分解する薬を開発しました。この薬をマウスやサルに投与すると、胎児型ヘモグロビンが増加しました。飲み薬で鎌状赤血球症を治療できる可能性が出てきたのです。これは、特に資源の限られた地域での治療に革命をもたらす可能性があります。」
A photoluminescent hydrogen-bonded biomass aerogel for sustainable radiative cooling
持続可能な放射冷却のための光る水素結合バイオマスエアロゲル
「ゼラチンとDNAを使って作られたエアロゲルは、太陽光を反射するだけでなく、蛍光や燐光によって可視光領域で104%もの反射率を実現しました。これにより、強い日差しの下でも周囲の温度を16℃も下げることができます。さらに、水を使って簡単に大量生産でき、修復や再利用も可能で生分解性もあるという、環境にやさしい素材です。この新しい冷却材料は、持続可能な未来のための画期的な技術となる可能性を秘めています。」
要約
層間滑り現象を利用した疲労耐性の高い強誘電体メモリの開発
https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado1744
従来の強誘電体デバイスでは、繰り返し極性を反転させると性能が劣化する疲労という問題があった。この研究では、二層の3R-MoS2結晶を用いて層間滑りによる強誘電性を利用することで、疲労耐性の高い強誘電体デバイスの開発に成功した。
事前情報
強誘電体材料は高密度不揮発性メモリに有望だが、疲労により実用化が制限されていた
層状材料の層間滑りによる強誘電性が近年発見された
3R-MoS2は層間滑り強誘電性を示す材料の一つである
行ったこと
二層3R-MoS2デバイスを作製し、その強誘電性と疲労特性を評価した
デバイスの電気特性や分極特性を詳細に分析した
理論計算により層間滑り強誘電性の疲労耐性メカニズムを解明した
検証方法
二層3R-MoS2デバイスの電気特性測定
分極-電界ヒステリシス測定による強誘電性評価
繰り返し分極反転による疲労特性評価
第一原理計算と分子動力学シミュレーションによる理論解析
分かったこと
二層3R-MoS2デバイスは106回以上の分極反転でも顕著な疲労を示さなかった
層間滑り強誘電性では、従来の強誘電体で見られる欠陥生成が抑制されている
層間滑りによる分極反転では電荷欠陥が移動せず、疲労が抑制される
研究の面白く独創的なところ
層間滑りという新しい強誘電性メカニズムを利用して疲労問題を解決した点
理論と実験の両面から層間滑り強誘電性の疲労耐性メカニズムを解明した点
従来の強誘電体では困難だった高い疲労耐性を実現した点
この研究のアプリケーション
長寿命・高性能な不揮発性メモリデバイスの開発
ニューロモーフィックコンピューティング向けの高耐久性デバイス
極めて高い書き換え回数が要求される用途向けの強誘電体デバイス
著者と所属
Renji Bian - 電子科技大学光電科学工学部
Ri He - 中国科学院寧波材料技術工学研究所
Er Pan - 電子科技大学光電科学工学部
詳しい解説
この研究は、強誘電体デバイスの長年の課題であった疲労問題に対して、新しいアプローチで解決策を提示しています。従来の強誘電体材料では、電場による分極反転を繰り返すと結晶構造に欠陥が蓄積し、性能が劣化していくという問題がありました。これに対し、研究チームは二層の3R-MoS2結晶を用いて、層間滑りによる強誘電性を利用することで、この問題を克服しました。
層間滑り強誘電性は、二層の結晶が互いにずれることで分極が生じる現象です。この研究では、二層3R-MoS2デバイスを作製し、その電気特性や分極特性を詳細に評価しました。その結果、このデバイスは100万回以上の分極反転を行っても顕著な疲労を示さないことが明らかになりました。
さらに、理論計算により、層間滑り強誘電性では従来の強誘電体で見られる欠陥生成が抑制されていることが示されました。層間滑りによる分極反転では電荷欠陥が移動せず、これが高い疲労耐性につながっていると考えられます。
この研究成果は、長寿命で高性能な不揮発性メモリデバイスの開発につながる可能性があります。特に、ニューロモーフィックコンピューティングなど、極めて高い書き換え回数が要求される用途に適しています。層間滑り強誘電性を利用した新しいデバイス設計により、従来の強誘電体デバイスの限界を超える性能が実現できる可能性が示されました。
超高速・高耐久な次世代メモリを2次元強誘電体で実現
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adp3575
本研究では、二層のホウ素窒化物(BN)を用いたスライディング強誘電体に基づく電界効果トランジスタ(FeFET)の性能を室温で調査しました。このデバイスは、ナノ秒スケールの超高速スイッチング速度と1011回以上の高い耐久性を示しました。これは最先端のFeFETデバイスに匹敵する性能です。
事前情報
強誘電体材料は電場に応じて分極が変化し、メモリに有用だが、繰り返し使用で疲労する問題がある
二次元材料の強誘電性が注目されている
スライディング強誘電性は新しいタイプの強誘電性で、層間のスライド運動により分極が切り替わる
行ったこと
二層ホウ素窒化物(BN)を用いたスライディング強誘電体FeFETを作製
チャネル層にグラフェンを使用
デバイスの性能を室温で評価
検証方法
スイッチング速度の測定
耐久性試験(スイッチング回数の評価)
従来のFeFETデバイスとの性能比較
分かったこと
ナノ秒スケールの超高速スイッチングを実現
1011回以上の高い耐久性を示した
従来の最先端FeFETデバイスに匹敵する性能を達成
この研究の面白く独創的なところ
スライディング強誘電性という新しいメカニズムを利用
原子レベルで薄い二次元材料を用いて高性能メモリを実現
従来の強誘電体で問題となっていた疲労耐性を大幅に向上
この研究のアプリケーション
次世代の不揮発性メモリデバイス
低消費電力・高速な電子デバイス
ウェアラブルデバイスや柔軟な電子機器への応用
著者と所属
Kenji Yasuda - マサチューセッツ工科大学物理学科、コーネル大学応用工学物理学科
Evan Zalys-Geller - マサチューセッツ工科大学物理学科
Pablo Jarillo-Herrero - マサチューセッツ工科大学物理学科
詳しい解説
本研究では、二層のホウ素窒化物(BN)を用いたスライディング強誘電体に基づく電界効果トランジスタ(FeFET)の性能を室温で調査しました。スライディング強誘電性は、従来の強誘電体とは異なり、層間のスライド運動によって面外分極が切り替わる新しいタイプの強誘電性です。
研究チームは、チャネル層に単層グラフェンを使用したFeFETデバイスを作製し、その性能を評価しました。その結果、このデバイスはナノ秒スケールの超高速スイッチング速度を示し、さらに1011回以上の高い耐久性を実現しました。これは最先端のFeFETデバイスに匹敵する性能です。
従来の強誘電体材料では、繰り返し使用によって結晶構造に欠陥が生じ、性能が劣化するという問題がありました。しかし、このスライディング強誘電体では、原子層がスライドするだけで分極が反転するため、結晶構造の大きな変化が不要で、高い耐久性を実現できました。
この研究成果は、二次元スライディング強誘電体が次世代の不揮発性メモリ技術に大きな可能性を持つことを示しています。原子レベルで薄い二次元材料を用いることで、省面積・省エネルギーな電子デバイスの実現が期待されます。さらに、高速動作と高い耐久性を兼ね備えているため、将来的にはウェアラブルデバイスや柔軟な電子機器への応用も考えられます。
この研究は、材料科学と電子工学の融合により、従来の限界を超える新しいデバイス技術の可能性を示した点で、非常に重要な意義を持っています。
ウイルス同士の競争を可能にする分子メカニズムの発見
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl1356
この研究では、バクテリオファージΦPA3に存在するイントロン内エンドヌクレアーゼgp210が、共感染するファージΦKZの複製を阻害することで、ウイルス間の競争に寄与することが明らかになりました。
事前情報
イントロンは長らく「利己的な遺伝子要素」と考えられ、宿主に利益をもたらさないと思われていた
ウイルスにおけるイントロンの選択的優位性は不明だった
バクテリオファージ間の競争や排除現象は以前から知られていた
行ったこと
バクテリオファージΦPA3のgp210エンドヌクレアーゼの機能解析
ΦPA3とΦKZの共感染実験
gp210によるΦKZゲノムの切断部位の同定
gp210欠損ΦPA3株の作製と競争実験
クライオ電子顕微鏡によるΦKZ粒子形成過程の観察
検証方法
ΦPA3野生株とgp210欠損株を用いた競争実験
ΦKZゲノムにおけるgp210の切断部位のマッピング
クライオ電子顕微鏡によるΦKZ粒子形成過程の可視化
組換えgp210タンパク質を用いたin vitro DNA切断アッセイ
分かったこと
gp210はΦKZのRNA polymerase遺伝子を特異的に切断する
gp210による切断はΦKZの粒子形成を阻害する
gp210を持つΦPA3は競争において優位性を示す
イントロンエンドヌクレアーゼはウイルス間干渉競争の重要な因子である
研究の面白く独創的なところ
従来「利己的」と考えられていたイントロンが宿主ウイルスに利益をもたらすことを示した
ウイルス間競争の分子メカニズムを初めて明らかにした
クライオ電子顕微鏡を用いてウイルス粒子形成の阻害過程を可視化した
この研究のアプリケーション
ファージ療法における効果的なファージの選択
新たな抗ウイルス戦略の開発
ウイルスの進化や多様性の理解の深化
遺伝子工学ツールとしてのエンドヌクレアーゼの応用
著者と所属
Erica A. Birkholz - カリフォルニア大学サンディエゴ校分子生物学部
Chase J. Morgan - カリフォルニア大学サンディエゴ校分子生物学部
Joe Pogliano - カリフォルニア大学サンディエゴ校分子生物学部
詳しい解説
この研究は、ウイルスの遺伝子に存在するイントロンが、これまで考えられていたような「利己的な遺伝子要素」ではなく、宿主ウイルスに重要な利益をもたらす機能を持つことを明らかにしました。
研究チームは、バクテリオファージΦPA3のイントロンに存在するエンドヌクレアーゼgp210に着目しました。実験の結果、gp210が別のバクテリオファージであるΦKZのRNA polymerase遺伝子を特異的に切断し、ΦKZの増殖を阻害することが分かりました。
クライオ電子顕微鏡を用いた観察により、gp210による切断がΦKZの粒子形成を妨げることが視覚的に示されました。さらに、gp210を持つΦPA3は競争実験においてΦKZに対して優位性を示しました。
これらの結果は、イントロンエンドヌクレアーゼがウイルス間の干渉競争において重要な役割を果たしていることを示しています。この発見は、ウイルスの進化や多様性の理解を深めるだけでなく、ファージ療法や新たな抗ウイルス戦略の開発にも応用できる可能性があります。
また、この研究は遺伝子工学ツールとしてのエンドヌクレアーゼの新たな可能性も示唆しています。イントロンエンドヌクレアーゼの特異的なDNA切断能力は、ゲノム編集技術の発展にも貢献する可能性があります。
WIZタンパク質の分解により胎児型ヘモグロビンを増加させ、鎌状赤血球症の治療薬候補を発見
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk6129
鎌状赤血球症の治療法として、WIZ転写因子を標的とした分子グルー分解剤を開発し、胎児型ヘモグロビンの発現を誘導することに成功した研究。
事前情報
鎌状赤血球症は遺伝性の重篤な血液疾患で、世界中で何百万人もの人々に影響を与えている
胎児型ヘモグロビン(HbF)の発現を誘導することで症状を改善できる可能性がある
これまで安全で効果的なHbF誘導剤の開発は困難だった
行ったこと
セレブロン(CRBN)を標的とした化合物ライブラリーを用いて、HbF誘導を探索するフェノタイプスクリーニングを実施
WIZ転写因子を分解する分子グルー分解剤(dWIZ-1、dWIZ-2)を開発
開発した化合物の効果を細胞、マウス、サルを用いて検証
検証方法
赤芽球細胞でのHbF発現量の測定
ヒト化マウスモデルでのHbF発現誘導の確認
カニクイザルを用いた薬効と安全性の評価
X線結晶構造解析によるdWIZ-1とWIZ、CRBNの複合体構造の解明
分かったこと
WIZがHbFの新規抑制因子であることを発見
dWIZ-1、dWIZ-2がWIZを効果的に分解し、HbF発現を誘導することを確認
ヒト化マウスとカニクイザルでHbF発現の増加を確認
WIZ分解は良好な忍容性を示した
研究の面白く独創的なところ
標的タンパク質分解技術を用いて、これまで「創薬困難」とされていた転写因子を標的にした
フェノタイプスクリーニングにより、HbF発現制御の新規因子WIZを同定した
分子グルー分解剤という新しいモダリティを用いてWIZを分解する化合物の開発に成功した
この研究のアプリケーション
鎌状赤血球症の新規経口治療薬の開発
β-サラセミアなど他のヘモグロビン異常症への応用の可能性
分子グルー分解剤技術の他の疾患への応用
著者と所属
Pamela Y. Ting - Novartis Biomedical Research, Cambridge, MA, USA
Sneha Borikar - Novartis Biomedical Research, Cambridge, MA, USA
James E. Bradner - Novartis Biomedical Research, Cambridge, MA, USA (現 Amgen, Thousand Oaks, CA, USA)
詳しい解説
本研究は、鎌状赤血球症の新たな治療法の開発を目指して行われました。鎌状赤血球症は、ヘモグロビンの異常により赤血球が鎌状に変形し、様々な合併症を引き起こす遺伝性疾患です。胎児期に作られる胎児型ヘモグロビン(HbF)を成人でも発現させることで、症状を改善できる可能性があることが知られていましたが、安全で効果的なHbF誘導剤の開発は困難でした。
研究チームは、標的タンパク質分解技術を応用し、セレブロン(CRBN)を標的とした化合物ライブラリーを用いてフェノタイプスクリーニングを行いました。その結果、WIZ転写因子がHbFの新規抑制因子であることを発見しました。さらに、WIZを分解する分子グルー分解剤dWIZ-1とdWIZ-2を開発しました。
これらの化合物の効果を検証するため、まず赤芽球細胞でのHbF発現量を測定しました。次に、ヒト化マウスモデルを用いてin vivoでのHbF発現誘導を確認しました。さらに、カニクイザルを用いて薬効と安全性を評価しました。また、X線結晶構造解析により、dWIZ-1がどのようにWIZとCRBNを結びつけるかを明らかにしました。
研究の結果、dWIZ-1とdWIZ-2がWIZを効果的に分解し、HbF発現を誘導することが確認されました。また、ヒト化マウスとカニクイザルでもHbF発現の増加が観察され、WIZ分解は良好な忍容性を示しました。
この研究の独創的な点は、これまで「創薬困難」とされていた転写因子を標的にしたこと、フェノタイプスクリーニングにより新規因子を同定したこと、そして分子グルー分解剤という新しいモダリティを用いて化合物開発に成功したことです。
本研究の成果は、鎌状赤血球症の新規経口治療薬の開発につながる可能性があります。また、β-サラセミアなど他のヘモグロビン異常症への応用も期待されます。さらに、分子グルー分解剤技術は他の疾患への応用も考えられ、創薬研究に新たな可能性を開きました。
バイオマス由来の光る断熱材で環境に優しい放射冷却を実現
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn5694
バイオマス由来の光るエアロゲルを用いて、高効率で環境にやさしい放射冷却材料を開発しました。このエアロゲルは、ゼラチンとDNAを原料とし、可視光領域で104%という高い反射率を実現しています。強い日差しの下でも周囲の温度を16℃も下げることができ、さらに生産性、修復性、リサイクル性、生分解性に優れています。
事前情報
放射冷却は気候変動対策として注目されているが、石油由来の冷却材料は効率や環境面で課題がある
バイオマス由来の材料が注目されているが、高性能な冷却材料の開発は難しい
光を利用した冷却技術の可能性が探られている
行ったこと
ゼラチンとDNAを原料とした新しいエアロゲル材料を開発
エアロゲルの光学特性や冷却性能を評価
材料の生産性、修復性、リサイクル性、生分解性を検証
検証方法
反射率や放射率の測定による光学特性の評価
実環境下での冷却性能試験
材料の生産プロセスや環境適合性の分析
分かったこと
開発したエアロゲルは可視光領域で104%の反射率を実現
強い日差しの下で周囲温度より16℃の冷却効果を示す
水を用いた簡便な大量生産が可能
高い修復性、リサイクル性、生分解性を有する
研究の面白く独創的なところ
バイオマス由来材料で高性能な放射冷却を実現した点
蛍光や燐光を利用して100%を超える反射率を達成した点
環境にやさしい生産プロセスと材料特性を両立させた点
この研究のアプリケーション
建築物の省エネルギー化
車両や電子機器の熱管理
農業用ハウスの温度管理
屋外空間の暑熱対策
著者と所属
Jian-Wen Ma - 四川大学 化学部
Fu-Rong Zeng - 四川大学 化学部
Hai-Bo Zhao - 四川大学 化学部
詳しい解説
この研究は、持続可能な冷却技術の開発において画期的な成果をもたらしました。研究チームは、ゼラチンとDNAという生体由来の材料を用いて新しいエアロゲルを作製しました。このエアロゲルは、独自の分子構造により、可視光領域で104%という驚異的な反射率を示します。これは、入射した光を反射するだけでなく、材料自体が蛍光や燐光を発することで、入射光以上のエネルギーを放出しているためです。
この高い反射率により、エアロゲルは強い日差しの下でも周囲の温度を16℃も低下させる冷却効果を発揮します。これは、既存の冷却材料を大きく上回る性能です。さらに、この材料は水を用いた簡便なプロセスで大量生産が可能で、環境負荷の低い製造が実現できます。
また、このエアロゲルは高い修復性を持ち、損傷を受けても簡単に修復できます。使用後はリサイクルも可能で、最終的には生分解性があるため、環境への負荷が極めて低い材料と言えます。
この研究成果は、建築物の省エネルギー化や、車両・電子機器の熱管理、農業用ハウスの温度制御など、幅広い分野での応用が期待されます。気候変動対策が急務となる中、環境にやさしく高性能な冷却技術として、大きな注目を集めることでしょう。
最後に
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