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論文まとめ376回目 SCIENCE 植物の葉の構造を模倣し、液体の流れ方向を自在に制御できる技術を開発!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Spin torque–driven electron paramagnetic resonance of a single spin in a pentacene molecule
ペンタセン分子中の単一スピンにおけるスピントルク駆動電子常磁性共鳴
「従来、量子系の制御には電場や磁場が使われてきましたが、この研究では走査型トンネル顕微鏡の探針から注入するスピン偏極電流を使って、有機分子中の単一スピンを制御することに成功しました。これにより、電子スピン共鳴を引き起こし、単一スピンをスピントルクで動的に制御できることが示されました。さらに、スピン注入による非散逸性の制御も可能になり、個々のスピンを精密に操作する新しい手法を提案しています。」

Temperature-dependent emissions dominate aerosol and ozone formation in Los Angeles
ロサンゼルスにおけるエアロゾルとオゾン生成は温度依存の排出が支配的
「ロサンゼルスの大気汚染の主な原因は、従来考えられていた自動車排ガスではなく、実は植物から出る有機化合物だったことが判明しました。しかも、気温が上がるとその排出量が急増します。つまり、地球温暖化が進むと植物由来の大気汚染物質が増え、都市の空気がさらに悪化する可能性があるのです。この研究結果は、今後の大気汚染対策に大きな影響を与えそうです。」

Top-down brain circuits for operant bradycardia
オペラント条件づけによる徐脈を引き起こすトップダウン型脳回路
「ラットに心拍数をコントロールする方法を教えると、わずか30分で心拍数を下げられるようになり、5日後には通常の半分まで減少させられるようになりました。この能力は訓練後10日間は持続し、ラットはリラックスした状態になりました。研究チームは、前帯状皮質から視床腹内側核、さらに視床下部背内側核を経て、心臓の副交感神経を制御する延髄の疑核に至る神経回路を特定しました。この発見は、瞑想やフリーダイビングなどの心拍制御技術の仕組みを解明し、不整脈や痛みの新しい治療法開発につながる可能性があります。」

Topological Hong-Ou-Mandel interference
トポロジカルな香港-欧-マンデル干渉
「光子は量子力学的な粒子で、2つの光子が出会うと干渉して特殊な振る舞いをします。この研究では、トポロジーという数学的な概念を使って、この光子の干渉をより安定で精密に制御する方法を開発しました。具体的には、光を導く特殊な構造を作り、そこに人工的な磁場のようなものを加えることで、光子の干渉の仕方を自在に変えられるようにしたのです。この技術は将来、量子コンピューターの演算素子などに応用できる可能性があります。」

Selective directional liquid transport on shoot surfaces of Crassula muscosa
クラッスラ・ムスコサの茎表面における選択的な方向性液体輸送
「植物の葉っぱをよく観察すると、水滴が一定の方向に流れる仕組みがあります。研究者たちは、その仕組みを応用して液体の流れを自在に操る技術を開発しました。葉っぱの表面にある微細な構造を人工的に再現し、さらに磁性粒子を組み込むことで、外部から磁場をかけるだけで液体の流れる方向を変えられるようになりました。この技術は、医療や工業分野での液体制御に革新をもたらす可能性があります。」


要約

単一分子の電子スピン共鳴をスピントルクで駆動・制御

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh4753

走査型トンネル顕微鏡(STM)の探針から注入されるスピン偏極電流を用いて、有機分子中の単一スピンの電子常磁性共鳴(EPR)を引き起こすことに成功した研究。スピントルクによる単一スピンの動的制御を実証し、量子制御の新しい方法を提案している。

事前情報

  • 量子系の制御には通常、時間依存の電場や磁場が用いられる

  • 電子スピンはスピン偏極電流によっても制御可能

  • STM-EPRは単一スピンの研究に有効な手法

行ったこと

  • STMの探針からペンタセン分子へスピン偏極電流を注入

  • 高周波電流を用いてEPRを誘起

  • スピントルクによる単一スピンの動的制御を実証

検証方法

  • STM-EPRを用いて単一ペンタセン分子のスピン状態を観測

  • 理論モデルを用いてスピントルクの効果を解析

  • 磁場とスピン注入の効果を比較

分かったこと

  • スピン偏極電流によってEPRを誘起・制御できる

  • スピントルクは散逸性の作用を持ち、磁場とは異なる効果がある

  • 電流制御によって個々のスピンを精密に操作できる

研究の面白く独創的なところ

  • STMを用いて単一分子レベルでスピントルク効果を観測した初めての研究

  • 電流による量子制御という新しいアプローチを実証

  • スピントルクと磁場の異なる作用を明らかにした

この研究のアプリケーション

  • 単一スピンを用いた量子情報処理

  • スピントロニクスデバイスの開発

  • 表面化学や有機エレクトロニクスへの応用

著者と所属

  • Stepan Kovarik - ETH Zurich

  • Richard Schlitz - ETH Zurich

  • Pietro Gambardella - ETH Zurich

詳しい解説
この研究は、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて単一分子レベルでスピントルク効果を観測し制御することに成功した画期的な成果です。
従来、量子系の制御には時間依存の電場や磁場が用いられてきました。一方で、電子スピンはスピン偏極電流によっても制御できることが知られていました。しかし、これまでの研究は主にマクロスコピックな系に限られていました。
本研究では、STMの探針からペンタセン分子にスピン偏極電流を注入し、高周波電流を用いて電子常磁性共鳴(EPR)を誘起することに成功しました。これにより、スピントルクによる単一スピンの動的制御が可能であることを実証しました。
さらに、スピントルクが散逸性の作用を持つことを明らかにしました。これは非散逸性の磁場とは異なる効果であり、個々のスピンをより精密に制御できる可能性を示しています。
この成果は、単一スピンを用いた量子情報処理やスピントロニクスデバイスの開発に新たな道を開くものです。また、表面化学や有機エレクトロニクスなど、幅広い分野への応用も期待されます。
STMを用いた単一分子レベルでの観測・制御は、量子系の理解と操作に新たな可能性をもたらす重要な技術的進歩であり、今後のナノサイエンスの発展に大きく貢献すると考えられます。


温度上昇により植物由来の有機化合物排出が増加し、大気汚染が悪化する可能性

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg8204

夏のロサンゼルスにおいて、オゾンと二次有機エアロゾル生成能の約60%が生物起源テルペン類の排出に起因し、その寄与は気温上昇とともに大幅に増加することが示された。これは、ロサンゼルスでのオゾン生成抑制には窒素酸化物の制御が重要であることを意味する。また、一部の人為起源VOC排出も気温とともに増加することが明らかとなった。これは現在のインベントリには反映されていない効果である。気候温暖化により排出量と組成が大きく変化することを考慮した大気汚染対策が必要である。

事前情報

  • ロサンゼルスは長年大気汚染に悩まされてきた

  • 近年、交通機関からの排出は減少傾向にある

  • しかし、依然として健康に有害な大気汚染レベルが観測されている

  • 揮発性有機化合物(VOC)の発生源に関する従来の理解に疑問が呈されていた

行ったこと

  • 航空機を用いた広範なVOCのフラックス測定

  • VOC排出量の空間分布マッピング

  • 気温とVOC排出量の関係性分析

  • オゾンと二次有機エアロゾル生成能の評価

検証方法

  • プロトン移動反応質量分析計(PTR-MS)を用いたVOC測定

  • ウェーブレット解析によるフラックス計算

  • フットプリント解析による排出源の特定

  • 大気化学モデルによるオゾン・エアロゾル生成能の評価

分かったこと

  • 夏季のロサンゼルスでは、オゾンと二次有機エアロゾル生成能の約60%が生物起源テルペン類に起因

  • 生物起源テルペン類の排出量は気温に強く依存し、30℃上昇で10倍以上に増加

  • 一部の人為起源VOC(例:D5-シロキサン)も気温とともに排出量が増加

  • 現行の排出インベントリは気温依存性を適切に反映していない

研究の面白く独創的なところ

  • 航空機を用いた大規模なVOCフラックス測定により、都市スケールでの排出実態を明らかにした

  • 生物起源と人為起源の両方のVOC排出量が気温に依存することを定量的に示した

  • 気候変動が都市の大気質に与える影響を具体的に評価した

この研究のアプリケーション

  • より正確な大気質予測モデルの開発

  • 気候変動を考慮した効果的な大気汚染対策の立案

  • 都市緑化計画における大気質への影響評価

  • 温暖化に伴う健康リスク評価の高度化

著者と所属
Eva Y. Pfannerstill - カリフォルニア大学バークレー校
Caleb Arata - カリフォルニア大学バークレー校
Allen H. Goldstein - カリフォルニア大学バークレー校

詳しい解説
本研究は、ロサンゼルスの大気汚染の主要因が従来考えられていた交通機関ではなく、実は植物から排出される揮発性有機化合物(VOC)、特にテルペン類であることを明らかにしました。さらに重要なのは、これらの生物起源VOCの排出量が気温に強く依存し、温度上昇とともに急激に増加することです。
研究チームは航空機を用いて都市全体のVOC排出量を詳細に測定しました。その結果、夏季のロサンゼルスでは、オゾンと二次有機エアロゾル(大気中の微粒子の一種)生成能の約60%が生物起源テルペン類に起因していることが判明しました。さらに、気温が30℃上昇すると、これらのVOC排出量が10倍以上に増加することも分かりました。
また、一部の人為起源VOC(例えば化粧品などに含まれるシロキサン)も気温とともに排出量が増加することが示されました。これらの温度依存性は、現在の排出インベントリ(排出量目録)には適切に反映されていません。
これらの知見は、気候変動が都市の大気質に与える影響を理解する上で極めて重要です。地球温暖化が進行すると、植物からのVOC排出が増加し、それに伴ってオゾンや微粒子汚染が悪化する可能性があります。したがって、今後の大気汚染対策では、気温上昇による排出量変化を考慮に入れる必要があります。
本研究はまた、ロサンゼルスでのオゾン生成抑制には窒素酸化物の制御が重要であることも示唆しています。これは、VOCと窒素酸化物のバランスがオゾン生成に大きく影響するためです。
この研究結果は、都市計画や緑化政策にも影響を与える可能性があります。都市の緑化は多くの利点がありますが、同時にVOC排出源にもなり得ます。したがって、樹種の選択や配置を慎重に検討する必要があるでしょう。
総じて、この研究は気候変動と大気汚染の複雑な相互作用を理解する上で重要な一歩となりました。今後は、この知見を活かしたより精緻な大気質予測モデルの開発や、気候変動を考慮した効果的な大気汚染対策の立案が期待されます。


心臓の自主制御を可能にする脳内回路の解明

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adl3353

心拍数のバイオフィードバックを用いたラットモデルを開発し、前帯状皮質から心臓に至る神経回路を同定した研究です。ラットは30分以内に心拍数を低下させることを学習し、5日間の訓練後には約50%の心拍数減少を達成しました。この徐脈は訓練後少なくとも10日間持続し、ラットは不安軽減行動と赤血球数の増加を示しました。電気生理学、カルシウムイメージング、シナプス追跡技術を用いて、前帯状皮質から心臓に至る完全な神経経路が明らかにされました。

事前情報

  • 心拍数は、リアルタイムのフィードバックを受けると意識的に調節できる

  • 瞑想やフリーダイビングなどで心拍制御技術が実践されている

  • 心拍制御の神経回路メカニズムはあまり解明されていなかった

行ったこと

  • ラットに心拍数制御を学習させるバイオフィードバックモデルを開発

  • 大脳皮質と内側前脳束を刺激して、フィードバックと報酬を与えた

  • 電気生理学、カルシウムイメージング、シナプス追跡技術を用いて神経回路を解析

検証方法

  • ラットの心拍数変化を測定

  • 前帯状皮質ニューロンの不活性化実験

  • 特定の神経経路の刺激実験

  • ウイルスを用いたシナプス追跡

分かったこと

  • ラットは30分以内に心拍数低下を学習し、5日間で約50%減少を達成

  • 徐脈は訓練後10日間持続し、不安軽減行動と赤血球数増加を伴った

  • 前帯状皮質から視床腹内側核、視床下部背内側核、延髄疑核を経て心臓に至る神経回路を同定

研究の面白く独創的なところ

  • 心拍制御の完全な神経回路を初めて解明した点

  • ラットが短期間で効果的に心拍数制御を学習できることを示した点

  • 心拍数制御が不安軽減など他の生理的変化も引き起こすことを明らかにした点

この研究のアプリケーション

  • 不整脈、痛み、うつ病などの新しい治療法開発につながる可能性

  • 瞑想やフリーダイビングなどの心拍制御技術の科学的理解の深化

  • ストレス管理や精神的ウェルビーイング向上のための新しいアプローチの開発

著者と所属

  • 吉本愛理 - 東京大学大学院薬学系研究科

  • 森川翔太 - 東京大学大学院理学系研究科

  • 池谷裕二 - 東京大学大学院薬学系研究科、東京大学AIと人間社会研究所、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センター

詳しい解説
この研究は、心拍数の意識的制御に関わる脳内メカニズムを解明した画期的な成果です。研究チームは、ラットに心拍数制御を学習させるバイオフィードバックモデルを開発しました。このモデルでは、大脳皮質と内側前脳束を刺激することで、心拍数変化のフィードバックと報酬を与えました。
驚くべきことに、ラットはわずか30分で心拍数を低下させることを学習し、5日間の訓練後には約50%もの心拍数減少を達成しました。さらに興味深いのは、この徐脈効果が訓練後少なくとも10日間持続したことです。同時に、ラットは不安軽減行動を示し、血液中の赤血球数が増加するなど、他の生理的変化も観察されました。
研究チームは、電気生理学、カルシウムイメージング、シナプス追跡技術などの最新の神経科学手法を駆使して、心拍制御に関わる完全な神経回路を同定しました。この回路は、前帯状皮質から始まり、視床腹内側核、視床下部背内側核を経て、最終的に心臓の副交感神経を制御する延髄の疑核に至ることが明らかになりました。
この発見は、心拍数制御のメカニズムに関する我々の理解を大きく前進させました。特に、前帯状皮質が重要な役割を果たしていることが示されたことは注目に値します。前帯状皮質は、感情や注意、意思決定などにも関わる脳領域として知られており、心拍制御と他の認知機能との関連を示唆しています。
本研究の成果は、瞑想やフリーダイビングなどで実践されている心拍制御技術の科学的基盤を提供するとともに、不整脈、慢性痛、うつ病などの治療に新たなアプローチをもたらす可能性があります。心拍数を意識的にコントロールする能力を高めることで、ストレス管理や全体的な健康増進にも応用できるかもしれません。
今後の研究では、この神経回路がヒトでも同様に機能するかどうかを確認することが重要です。また、心拍制御能力の個人差や、長期的な訓練効果についてもさらなる探究が必要でしょう。この研究は、身体と心の相互作用に関する我々の理解を深め、新たな治療法や健康増進法の開発につながる重要な一歩となりました。


光子の量子干渉を利用したトポロジカルな量子演算の実現

https://www.science.org/doi/10.1126/science.ado8192

光子の量子干渉現象を利用して、トポロジカルに保護された量子演算を実現する新しい方法を実験的に示した研究です。従来の香港-欧-マンデル干渉を拡張し、人工的な磁場を導入することで、干渉のパターンを精密に制御できることを実証しました。

事前情報

  • 光子の量子干渉は量子情報処理に重要だが、環境の影響を受けやすい

  • トポロジカルな系は外乱に強いという特性がある

  • 人工磁場を用いてフォトニック系の性質を制御する手法が知られている

行ったこと

  • 特殊な光導波路構造を設計・作製

  • 人工磁場を導入して光子の干渉パターンを制御

  • 2光子の干渉実験を行い、トポロジカルな性質を確認

検証方法

  • フェムト秒レーザー加工で精密な光導波路構造を作製

  • 2光子源と単一光子検出器を用いた干渉実験

  • 理論モデルとの比較解析

分かったこと

  • 人工磁場の強さに応じて干渉パターンが変化する

  • トポロジカルに保護された干渉状態が実現できる

  • 従来のHOM干渉よりも安定で制御性が高い

この研究の面白く独創的なところ

  • 量子光学とトポロジカル物理学を融合した新しいアプローチ

  • 人工磁場を用いて光子の量子干渉を精密制御する手法の開発

  • トポロジカルに保護された量子ゲート操作の可能性を示した

この研究のアプリケーション

  • 高精度な量子センシングデバイス

  • 外乱に強い量子通信システム

  • スケーラブルな光量子コンピューターの基本素子

著者と所属

  • Max Ehrhardt - ロストック大学 物理学研究所

  • Christoph Dittel - アルバート・ルートヴィヒス大学フライブルク 物理学研究所

  • Alexander Szameit - ロストック大学 物理学研究所

詳しい解説
この研究は、量子光学の基本的な現象である香港-欧-マンデル(HOM)干渉にトポロジカルな性質を付与することで、より安定で制御性の高い量子干渉を実現しようというものです。
従来のHOM干渉では、2つの同一の光子がビームスプリッターで出会うと、量子力学的な干渉効果により、常に同じ出力ポートから出てくるという現象が起こります。これは量子情報処理の基本的な操作の一つですが、環境からの擾乱に弱いという欠点がありました。
そこで研究チームは、トポロジカルな性質を持つ光学系を設計することで、この問題を解決しようと考えました。具体的には、複数の光導波路を特殊な形状に配置し、そこに人工的な磁場に相当する位相シフトを導入しました。これにより、光子の伝播経路に幾何学的位相(ベリー位相)が付与され、トポロジカルに保護された状態が実現されます。
実験では、フェムト秒レーザー加工技術を用いて、ガラス基板上に精密な光導波路構造を作製しました。そこに2光子状態を入射し、出力される光子の相関を測定することで、干渉パターンを観測しました。
その結果、人工磁場の強さを変化させることで、干渉パターンを連続的に制御できることが示されました。特に、ある特定の磁場強度では、完全な破壊的干渉が起こり、2光子が同時に検出されることがなくなるという興味深い現象が観測されました。
この現象は、トポロジカルに保護された量子状態の実現を意味しており、外乱に強い量子操作が可能になることを示唆しています。これは、将来的な量子コンピューターや量子通信システムの実現に向けた重要な一歩と言えるでしょう。
さらに、この手法は2光子に限らず、多光子系にも拡張可能であることが理論的に示されており、より複雑な量子状態の生成や操作への応用が期待されています。


植物の葉の構造を模倣し、液体の流れ方向を自在に制御できる技術を開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk4180

クラッスラ・ムスコサという植物の茎表面における液体の方向性輸送について研究した論文です。この植物の茎表面には特殊な構造があり、特定の液体を一方向に輸送する能力があることが示されました。さらに、この構造を模倣した人工的な材料を開発し、液体の流れ方向を制御できることも実証されています。

事前情報

  • 方向性のある液体輸送は、サボテン、クモ、トカゲ、ウツボカズラ、アラウカリアの葉など、さまざまな生物種で観察されている

  • これまでの例では、特定の液体の輸送方向は固定されていた

行ったこと

  • クラッスラ・ムスコサの茎表面構造を詳細に観察・分析

  • 茎表面の液体輸送メカニズムを理論的にモデル化

  • 観察結果に基づいて人工的な構造を設計・作製

  • 人工構造の液体輸送特性を実験的に検証

検証方法

  • 走査型電子顕微鏡(SEM)による茎表面の観察

  • X線光電子分光法(XPS)による表面組成分析

  • 理論モデルの数値シミュレーション

  • 人工構造の液体輸送特性の実験的測定

分かったこと

  • クラッスラ・ムスコサの茎表面には、非対称な凹型の葉が存在

  • 葉の凹み角度が変化することで、液体メニスカスの不均一性が生じる

  • この構造により、特定の液体を双方向に選択的に輸送可能

  • 人工的に模倣した構造でも同様の選択的液体輸送が実現できる

研究の面白く独創的なところ

  • 自然界の植物構造から着想を得て、新しい液体制御技術を開発した点

  • 単一の構造で液体の流れ方向を双方向に制御できる点

  • 磁性粒子を組み込むことで、外部からの制御を可能にした点

この研究のアプリケーション

  • インテリジェントな流れ方向の切り替え

  • 液体の分配・混合システム

  • マイクロ流体デバイスの設計

  • 自己洗浄表面の開発

  • 熱管理システムの効率化

著者と所属

  • Ling Yang - 香港大学機械工学部

  • Wei Li - 香港大学機械工学部

  • Jiaqian Li - 香港大学機械工学部、山東大学エネルギー・動力工学部

  • Liqiu Wang - 香港理工大学機械工学部、生体医工学部

詳しい解説
この研究は、自然界に存在する独特な液体輸送メカニズムを詳細に解明し、それを人工的に再現することに成功した画期的な成果です。
クラッスラ・ムスコサという植物の茎表面には、非対称な形状の凹型の葉が存在します。研究者たちは、この葉の構造が液体の輸送に重要な役割を果たしていることを発見しました。葉の凹み角度が変化することで、液体のメニスカス(液体表面の曲がり)に不均一性が生じ、これが液体の方向性のある流れを生み出すのです。
さらに興味深いのは、この構造が特定の液体を双方向に選択的に輸送できる点です。つまり、同じ構造で液体を一方向に流したり、逆方向に流したりすることが可能なのです。これは、これまでの自然界の例や人工的な液体輸送システムにはない特徴です。
研究チームは、この原理を応用して人工的な構造を設計・作製しました。さらに、磁性粒子を組み込むことで、外部から磁場をかけるだけで液体の流れる方向を変えられるようにしました。これにより、非常に柔軟で制御性の高い液体輸送システムが実現しました。
この技術は、マイクロ流体デバイスや熱管理システム、自己洗浄表面など、さまざまな分野での応用が期待されます。例えば、複雑な液体の混合や分離が必要な化学分析や医療診断デバイスの性能向上に貢献する可能性があります。また、効率的な熱輸送システムの開発にも応用できるかもしれません。
自然界の巧みな仕組みを解明し、それを工学的に応用するという本研究のアプローチは、バイオミメティクス(生物模倣工学)の優れた例といえるでしょう。今後、この研究をさらに発展させることで、より高度な液体制御技術が生まれることが期待されます。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。