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論文まとめ366回目 Nature アミノ酸ペプチドが自己組織化して、透明で強靭な自己修復性のガラスを形成!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

The respiratory system influences flight mechanics in soaring birds
呼吸器系が滑空する鳥の飛行メカニズムに影響を与えている
「鳥の翼の動きを担う筋肉の間に、呼吸器系から伸びた袋状の構造(SPD)があることを発見しました。SPDは滑空する鳥にだけ見られ、筋肉のてこの長さを変えて滑空に適した収縮をサポートしていました。呼吸器が運動に直接関わるユニークな仕組みであり、鳥の多様な飛翔能力の進化を理解する手がかりになります。」

A self-healing multispectral transparent adhesive peptide glass
自己修復性を持つ多波長透明接着ペプチドガラス
「アミノ酸の一種であるチロシンからなる短いペプチド(YYY)が、水分子と結合することで自発的に集合体を形成し、透明で非常に硬いガラス状の物質を作り出すことが分かりました。このペプチドガラスは、傷がついても水分によって自己修復する特性を持ち、可視光から中赤外線までの広い波長範囲で透明で、さらに強力な接着性も備えています。天然のアミノ酸だけで作られたシンプルな構造でありながら、多機能性を持つ革新的な材料といえます。」

Fabrication of red-emitting perovskite LEDs by stabilizing their octahedral structure
純赤色ペロブスカイトLEDの実現に向けたオクタヘドラル構造の安定化
「この研究は、有機分子をヨウ素ベースのペロブスカイトに組み込むことで、オクタヘドラル構造を安定化し、高効率で色安定な純赤色LEDの実現に成功しました。有機分子は、ペロブスカイトの鉛イオンと相互作用し、水素結合を強化することで、発光色の調整や電荷移動の促進にも寄与しています。」

Genetic drivers and cellular selection of female mosaic X chromosome loss
女性のモザイクX染色体欠失の遺伝的要因と細胞選択
「女性は2本のX染色体を持ちますが、加齢とともに一方のX染色体が一部の細胞で欠失することがあります。この研究では、88万人以上の女性を調べ、X染色体欠失に関連する56個の遺伝子領域を発見しました。また、欠失細胞では特定のX染色体の方が選択的に残りやすいことを突き止めました。X染色体欠失のメカニズムの理解が大きく進展し、将来の疾患予防に役立つ可能性があります。」

Endoplasmic reticulum–plasma membrane contact gradients direct cell migration
小胞体-細胞膜接触の勾配が細胞移動の方向を制御する
「細胞が一方向に移動するとき、細胞の後部では小胞体(ER)と細胞膜(PM)の接触が多く、前部では少ないという勾配ができる。この勾配により、後部ではERに局在するPTP1Bというタンパク質がPMのシグナルを抑制し、前部だけでシグナルが活性化される。これにより細胞の前後の極性が作られ、一方向への移動が起こるのだ。」


要約

鳥類の呼吸器系が滑空飛行のメカニズムに影響を与えていることを発見

鳥類68種の呼吸器系を調べたところ、ほぼ全ての滑空する種に翼を動かす主要な筋肉の間に呼吸器系の袋状の拡張部(SPD)があったが、滑空しない種にはなかった。SPDは滑空飛行とともに少なくとも7回独立に進化したことから、滑空飛行と機能的・適応的な関係があると考えられる。滑空するタカ2種をモデルに、SPDは換気に不可欠ではないが、拡張すると胸筋の前部のモーメントアームを増大させ、滑空するタカの胸筋線維は滑空しない鳥より有意に短いことがわかった。SPDによる胸筋のテコ作用の増大と、力に特化した筋構造の組み合わせにより、滑空飛行に適した等尺性収縮条件に適応した空気力学的システムが生まれる。呼吸器系が鳥の運動に力学的役割を果たすことを発見したことで、この器官系の機能的な複雑性と多様性が明らかになり、肺の憩室が他の未発見の二次的機能を持つ可能性が示唆された。

事前情報

  • 鳥類の呼吸器系は複雑で多様な構造を持つ

  • 肺から伸びた袋状の憩室が体の各所に分布している

  • これらの憩室の多くは呼吸以外の機能を持つと考えられるが、詳細は不明だった

行ったこと

  • 68種の鳥類の呼吸器系をCTスキャンで調べ、SPDの有無を調査

  • 系統解析により、SPDと滑空飛行の進化的関係を解析

  • 滑空するタカ2種をモデルに、SPDの機能を解剖学的・生体力学的に解析

検証方法

  • CTスキャンによる呼吸器系の比較解剖学的調査

  • 最尤法と閾値モデルによる形質の進化的相関の統計解析

  • 筋骨格モデリングと筋構造解析による機能形態学的解析

分かったこと

  • ほぼ全ての滑空する鳥にSPDがあり、滑空しない鳥にはない

  • SPDは滑空飛行とともに少なくとも7回独立に進化した

  • SPDは換気に不可欠ではないが、胸筋のテコ作用を高める

  • 滑空するタカの胸筋線維は滑空しない鳥より有意に短い

  • SPDによる胸筋のテコ作用増大と、力に特化した筋構造の組み合わせにより、滑空飛行に適応した空気力学的システムが進化した

研究の面白く独創的なところ

  • 呼吸器系が鳥の運動に力学的役割を果たすことを世界で初めて発見

  • 呼吸器系の複雑性と多様性、肺憩室の潜在的な多機能性を示唆

  • 形態と機能の綿密な解析により、飛翔性の進化における呼吸器の適応的役割を解明

この研究のアプリケーション

  • 鳥類の飛翔能力の多様性と進化の理解に貢献

  • 呼吸器系の比較解剖学・進化生物学への洞察

  • 鳥型ドローンなどのバイオミメティクス設計への応用の可能性

著者と所属
Emma R. Schachner (フロリダ大学) Andrew J. Moore (ストーニーブルック大学) Aracely Martinez (ルイジアナ州立大学ヘルスサイエンスセンター)

詳しい解説
この研究では、鳥類の呼吸器系に着目し、その構造と機能が飛翔能力の進化に果たした役割を探りました。 まず、68種の鳥類のCTスキャンデータを解析したところ、ほぼ全ての滑空する種(ワシやタカ、ツルなど)の胸筋の間に、肺から伸びた袋状の構造「subpectoral diverticulum (SPD)」が存在することを発見しました。一方、滑空しない種(スズメやニワトリなど)にはSPDがありませんでした。 次に、形質の進化的相関を統計学的に解析したところ、SPDは滑空飛行とともに少なくとも7回独立に進化したことが示唆されました。このことから、SPDは滑空飛行に何らかの機能的・適応的な意義を持つと考えられます。 そこで、モデル生物として滑空するタカ2種を選び、SPDの機能を詳しく調べました。その結果、SPDは呼吸そのものには不可欠ではありませんでしたが、拡張することで胸筋前部のモーメントアーム(筋収縮の力学的効率を決めるテコの長さ)を増大させることがわかりました。さらに、滑空するタカの胸筋線維は、滑空しない鳥に比べて有意に短いという特徴がありました。 つまり、SPDによって胸筋のテコ作用が高まることと、力の発生に特化した筋構造が組み合わさることで、滑空飛行時に予想される等尺性収縮(長さを変えずに力を発生)に適した空気力学的なシステムが成立すると考えられます。 この発見は、呼吸器系が鳥の運動に直接的な力学的役割を果たすことを示した点で画期的です。また、呼吸器の構造の複雑性と多様性、肺憩室の多機能性を示唆するものでもあります。 今後、この研究で得られた知見は、鳥類の飛翔能力の多様性と進化のメカニズムの理解を深めるとともに、バイオミメティクス(生物を模倣した工学的設計)などの応用にもつながる可能性があります。鳥の飛行の仕組みに学ぶことで、より効率的なドローンの開発などに役立つかもしれません。


アミノ酸ペプチドが自己組織化して、透明で強靭な自己修復性のガラスを形成した。

ペプチドYYYが水分子と非共有結合的に架橋することで自発的に自己組織化し、非晶質のガラス状物質を形成した。このペプチドガラスは、室温で完全に自己修復できる高い剛性を持ちながら、可視光から中赤外線までの広い波長範囲で透明であり、さらに非常に強力な接着性も示した。天然アミノ酸のみで構成されたシンプルな生体有機ペプチドガラスが、科学・工学分野の様々な用途に役立つ多機能性材料となる可能性を示した。

事前情報

  • ガラスは固体のような機械的性質を示すが、無秩序な液体のような構造を持つ。

  • ガラス形成はガラス化によって起こり、結晶化を防ぎ非晶質構造を促進する。

  • 工学的にガラスの性質を制御することは難しい。

行ったこと

  • 3つのチロシンからなる短いペプチドYYYを合成した。

  • YYYが水分子と非共有結合的に相互作用し自己組織化することを見出した。

  • ペプチドガラスの機械的性質、透明性、接着性、自己修復性などを評価した。

  • ペプチドガラスの構造と形成メカニズムを、分光学的・顕微鏡的手法で解析した。

検証方法

  • 引張・圧縮試験、ナノインデンテーション試験による機械的性質の評価

  • 紫外可視〜赤外分光法による透明性の評価

  • 接着強度試験による接着性の評価

  • 高分解能顕微鏡観察による亀裂の自己修復過程の可視化

  • 固体NMR、ラマン分光法、赤外分光法による分子構造解析

分かったこと

  • YYYペプチドは水分子と水素結合により架橋し、超分子ポリマー状のネットワーク構造を形成する。

  • その結果、剛性が高いガラス状物質が形成される。

  • 水和量を制御することで、ペプチドガラスの硬度や靭性を動的に調整できる。

  • ペプチドガラスに亀裂が入っても、水分によって自己修復する。

  • 可視〜中赤外の広い波長範囲で高い透明性を示す。

  • 親水性表面に対して非常に強力な接着性を持つ。

研究の面白く独創的なところ

  • シンプルな構造の短いペプチドだけで、ガラス状の高機能材料が形成されること。

  • 水分子がペプチドの自己組織化を駆動し、材料の性質を制御する役割を果たすこと。

  • これまでにない組み合わせの特性(剛性、自己修復性、透明性、接着性)を単一材料で実現したこと。

この研究のアプリケーション

  • 光学素子、ディスプレイ、太陽電池などの透明材料

  • 自己修復性を生かした耐久性の高いコーティング剤

  • 医療用の生体適合性接着剤

  • 化粧品などの生体由来原料を用いた機能性材料

著者と所属
Gal Finkelstein-Zuta1,2, Zohar A. Arnon2, Thangavel Vijayakanth2, Ehud Gazit1,2 1Department of Materials Science and Engineering, Tel Aviv University, Israel 2The Shmunis School of Biomedicine and Cancer Research, Tel Aviv University, Israel

詳しい解説
本研究では、チロシンのみからなる3残基のペプチドYYYが、水分子との相互作用を介して自発的に自己組織化し、非晶質のガラス状物質を形成することを発見した。このペプチドガラスは、いくつかの特徴的な性質を併せ持っている。まず、非常に硬くて丈夫である一方で、室温でも完全に自己修復することができる。さらに、可視光から中赤外線に至る広い波長領域で透明性が高く、親水性表面に対して極めて強力な接着性を示す。
YYYペプチドは水分子と水素結合により非共有結合的に架橋し、柔軟な超分子ポリマーネットワークを形成する。その結果、剛直なガラス状の物質ができあがる。水和量を変化させることで、この超分子構造の充填密度が変化し、ペプチドガラスの硬度と靱性をダイナミックに制御できる。
また興味深いことに、ペプチドガラスに力学的ストレスによって亀裂が生じても、湿潤環境下に置くことで、亀裂を自発的に修復できる。これは、水分子がペプチドの動的再配列を促進し、亀裂部分のペプチド鎖の絡み合いを回復させるためと考えられる。
YYYのようなシンプルな構造の生体由来ペプチドが、高い剛性、自己修復性、透明性、接着性といった、しばしば相反する特性を併せ持つガラス状物質を形成することは、非常に興味深い発見である。水分子がペプチドの自己集合を駆動し、材料の特性を左右する重要な役割を担っている点も注目に値する。
このペプチドガラスは、光学部品、ディスプレイ、ソーラーパネルといった透明材料や、自己修復性を活用した耐久性の高い保護コーティング、生体適合性の接着剤、機能性化粧品原料など、幅広い分野での応用が期待される。生体分子の自己組織化の仕組みに学び、環境調和性の高い多機能материアルを開発する上で、本研究成果は重要な知見を提供するものである。


純赤色ペロブスカイトLEDの実現に向けたオクタヘドラル構造の安定化

金属ハライドペロブスカイト(PeLED)を用いた高い色品質と容易な溶液プロセスを有する発光ダイオード(LED)は、フルカラーおよび高精細ディスプレイの有望な候補です。臭化鉛ペロブスカイトを用いた緑色PeLEDは大きな成功を収めていますが、低い固有バンドギャップに制約されるため、ヨウ素ベースの純赤色(620–650 nm)LEDの実現は依然として困難です。ここでは、二重端アンカー型のリガンド分子を純ヨウ素ペロブスカイトに組み込むことで、純赤色領域全体にわたって効率的で色安定なPeLEDを実現しました。ピーク外部量子効率は638 nmで28.7%に達しています。有機インターカレーションカチオンの重要な機能は、露出した鉛イオンとの配位およびヨウ素との水素結合の強化により、鉛ヨウ素八面体を安定化することであることを示しました。この分子は、スペクトル変調を促進し、ペロブスカイト量子井戸間の電荷移動を促進し、電気バイアス下でのヨウ素移動を低減するように相乗的に作用します。バンドギャップの増加に伴いイオン性ペロブスカイトの鉛ヨウ素結合エネルギーが減少するため、エネルギー損失が抑制されたヨウ素ベースのペロブスカイト薄膜の連続的に調整可能な発光波長を実現しました。重要なことに、得られたデバイスは優れたスペクトル安定性を示し、初期輝度100 cd m-2で7,600分以上の半減期を示しました。

事前情報

  • 金属ハライドペロブスカイトを用いたLED(PeLED)は、高い色品質と容易な溶液プロセスを有し、フルカラーおよび高精細ディスプレイの有望な候補である。

  • 臭化鉛ペロブスカイトを用いた緑色PeLEDは大きな成功を収めているが、低い固有バンドギャップに制約されるため、ヨウ素ベースの純赤色LEDの実現は依然として困難である。

行ったこと

  • 二重端アンカー型のリガンド分子を純ヨウ素ペロブスカイトに組み込み、純赤色領域全体にわたって効率的で色安定なPeLEDを実現した。

  • 有機インターカレーションカチオンの重要な機能を明らかにした。それは、露出した鉛イオンとの配位およびヨウ素との水素結合の強化により、鉛ヨウ素八面体を安定化することである。

  • スペクトル変調の促進、ペロブスカイト量子井戸間の電荷移動の促進、電気バイアス下でのヨウ素移動の低減など、有機分子の相乗効果を示した。

  • バンドギャップの増加に伴うイオン性ペロブスカイトの鉛ヨウ素結合エネルギーの減少を利用し、エネルギー損失が抑制されたヨウ素ベースのペロブスカイト薄膜の連続的に調整可能な発光波長を実現した。

検証方法

  • ペロブスカイト薄膜の光学特性評価(PL、時間分解PL)

  • X線光電子分光法(XPS)、フーリエ変換赤外分光法(FTIR)、固体NMR による有機分子とペロブスカイトの相互作用解析

  • その場GIWAXS によるペロブスカイト薄膜の構造解析

  • 温度依存PLによる非輻射再結合の評価

  • PeLEDの電流密度-電圧-輝度特性、外部量子効率の評価

  • ハイパースペクトルELイメージングによるPeLEDのナノスケールEL不均一性の評価

分かったこと

  • 二重端アンカー型リガンド分子の組み込みにより、純赤色領域全体にわたって効率的で色安定なPeLEDが実現できる。

  • 有機インターカレーションカチオンは、鉛イオンとの配位およびヨウ素との水素結合により、鉛ヨウ素八面体を安定化する重要な役割を果たす。

  • 有機分子は、スペクトル変調、電荷移動の促進、ヨウ素移動の低減に相乗的に作用する。

  • バンドギャップの増加に伴うイオン性ペロブスカイトの鉛ヨウ素結合エネルギーの減少を利用し、エネルギー損失が抑制された連続的に調整可能な発光波長が実現できる。

  • 得られたデバイスは優れたスペクトル安定性と長寿命を示す。

研究の面白く独創的なところ

  • 有機分子の巧みな設計により、ペロブスカイト構造の安定化と発光特性の向上を同時に達成した点が独創的である。

  • 有機分子とペロブスカイトの相互作用を多角的に解析し、その機能を明らかにした点が興味深い。

  • バンドギャップと鉛ヨウ素結合エネルギーの相関を利用した発光波長の連続的な制御は、ペロブスカイトの基礎科学と応用の両面で重要な知見である。

この研究のアプリケーション

  • 高効率・高色安定な純赤色PeLEDは、フルカラーディスプレイや照明への応用が期待される。

  • ペロブスカイト構造の安定化と発光特性の向上に有効な有機分子設計指針は、他の色のPeLED開発にも活用できる。

  • バンドギャップと鉛ハロゲン結合エネルギーの相関を利用した発光波長制御は、ペロブスカイト発光材料の設計に広く応用可能である。

著者と所属
Lingmei Kong (上海大学), Yuqi Sun (ケンブリッジ大学), Bin Zhao (吉林大学)

詳しい解説
この研究は、高効率で色安定な純赤色ペロブスカイト発光ダイオード(PeLED)の実現に向けて、有機分子を用いてペロブスカイトのオクタヘドラル構造を安定化する手法を提案しています。
金属ハライドペロブスカイトを用いたLED(PeLED)は、高い色品質と容易な溶液プロセスを有することから、フルカラーおよび高精細ディスプレイの有望な候補と考えられています。臭化鉛ペロブスカイトを用いた緑色PeLEDは大きな成功を収めていますが、低い固有バンドギャップに制約されるため、ヨウ素ベースの純赤色(620–650 nm)LEDの実現は依然として困難でした。
この研究では、二重端アンカー型のリガンド分子を純ヨウ素ペロブスカイトに組み込むことで、純赤色領域全体にわたって効率的で色安定なPeLEDを実現しています。ピーク外部量子効率は638 nmで28.7%に達しており、非常に高い値を示しています。
有機インターカレーションカチオンの重要な機能は、露出した鉛イオンとの配位およびヨウ素との水素結合の強化により、鉛ヨウ素八面体を安定化することであると示されました。この有機分子は、スペクトル変調を促進し、ペロブスカイト量子井戸間の電荷移動を促進し、電気バイアス下でのヨウ素移動を低減するように相乗的に作用します。
また、バンドギャップの増加に伴いイオン性ペロブスカイトの鉛ヨウ素結合エネルギーが減少することを利用し、エネルギー損失が抑制されたヨウ素ベースのペロブスカイト薄膜の連続的に調整可能な発光波長を実現しています。
得られたデバイスは優れたスペクトル安定性を示し、初期輝度100 cd m-2で7,600分以上の半減期を示しました。この長寿命は、実用化に向けて重要な特性です。
本研究は、有機分子の巧みな設計により、ペロブスカイト構造の安定化と発光特性の向上を同時に達成した点が独創的であり、有機分子とペロブスカイトの相互作用を多角的に解析し、その機能を明らかにした点が興味深いと言えます。また、バンドギャップと鉛ヨウ素結合エネルギーの相関を利用した発光波長の連続的な制御は、ペロブスカイトの基礎科学と応用の両面で重要な知見を提供しています。
高効率・高色安定な純赤色PeLEDは、フルカラーディスプレイや照明への応用が期待されます。また、ペロブスカイト構造の安定化と発光特性の向上に有効な有機分子設計指針は、他の色のPeLED開発にも活用できると考えられます。さらに、バンドギャップと鉛ハロゲン結合エネルギーの相関を利用した発光波長制御は、ペロブスカイト発光材料の設計に広く応用可能な知見です。
本研究は、純赤色PeLEDの実現に向けた重要な進展であり、ペロブスカイト発光材料の設計と応用に新たな指針を与えるものと言えます。


女性のX染色体の加齢に伴うモザイク欠失の遺伝的原因と細胞選択を解明

女性の白血球でのX染色体のモザイク欠失(mLOX)は最も一般的なクローン性体細胞変異だが、その遺伝的決定因子や表現型への影響についてはほとんど分かっていない。本研究では8つのバイオバンクから88万人以上の女性の データを用いて、mLOXを有する女性は骨髄性・リンパ性白血病のリスクが高いことを示した。ゲノムワイド関連解析(GWAS)により、染色体の不分離、がん素因、自己免疫疾患に関連する56個の一般的な変異を同定した。エクソームシーケンス解析では、FBXO10の稀な変異がmLOXリスクを2倍高めることを発見した。アレルシフト解析により、mLOX細胞で選択的に保持されるX染色体アレルを特定し、多くの遺伝子座で細胞選択が働くことを実証した。44個のアレルシフト遺伝子座を含むポリジェニックスコアにより、mLOX症例の80.7%で残存X染色体を正しく推定できた。以上より、生殖細胞系列の変異が女性のmLOX獲得に関与し、X染色体のアレル構成がクローン拡大の程度に影響する可能性が示唆された。

事前情報

  • mLOXは女性の白血球で最も一般的なクローン性体細胞変異だが、その遺伝的決定因子や表現型への影響は不明だった

行ったこと

  • 8つのバイオバンクから88万人以上の女性のデータを使用

  • GWASとエクソームシーケンス解析でmLOXの遺伝的要因を探索

  • アレルシフト解析でmLOX細胞で選択的に保持されるX染色体アレルを同定

検証方法

  • GWASでmLOXに関連する一般的な遺伝子変異を同定

  • エクソームシーケンス解析でmLOXリスクを高める稀な変異を発見

  • アレルシフト解析でmLOX細胞の残存X染色体アレルを調べた

分かったこと

  • mLOXを有する女性は骨髄性・リンパ性白血病のリスクが高い

  • 染色体の不分離、がん素因、自己免疫疾患に関連する56個の変異を同定

  • FBXO10の稀な変異がmLOXリスクを2倍高める

  • 多くのX染色体遺伝子座でmLOX細胞選択が働く

  • 44個のアレルシフト遺伝子座を含むスコアでmLOXの残存X染色体を80%以上正しく推定できた

研究の面白く独創的なところ

  • mLOXの遺伝的要因と表現型への影響を大規模に解明した初の研究

  • X染色体の特定アレルがmLOX細胞で選択的に保持されることを発見

  • 新たなポリジェニックスコアでmLOXの残存X染色体を高確率で推定する手法を開発

この研究のアプリケーション

  • mLOXのメカニズム解明と疾患リスク予測への応用

  • X染色体の特定アレルを標的とした新たな治療法の開発

  • ポリジェニックスコアを用いたmLOXの診断・モニタリング

著者と所属
Aoxing Liu (Institute for Molecular Medicine Finland (FIMM), HiLIFE, University of Helsinki) Giulio Genovese (Program in Medical and Population Genetics, Broad Institute of MIT and Harvard) Yajie Zhao (MRC Epidemiology Unit, Institute of Metabolic Science, University of Cambridge)

詳しい解説
女性は通常2本のX染色体を持っていますが、加齢に伴って一方のX染色体が一部の細胞で欠失する「モザイクX染色体欠失(mLOX)」が起こることがあります。mLOXは女性の白血球で最も一般的なクローン性の体細胞変異ですが、なぜ起こるのか、どのような影響があるのかはよく分かっていませんでした。
今回、研究チームは8つのバイオバンクから88万人以上の女性のゲノムデータを分析し、mLOXのメカニズムに迫りました。まず、mLOXを持つ女性では骨髄性白血病とリンパ性白血病のリスクが高いことが分かりました。
次に、ゲノム全体の関連解析により、染色体の不分離、がんの素因、自己免疫疾患に関わる56個の一般的な遺伝子変異がmLOXと関連することを突き止めました。さらに、エクソーム解析では、FBXO10遺伝子のまれな変異によってmLOXのリスクが2倍になることも発見しました。
興味深いことに、mLOXが起こった細胞では、X染色体の特定の遺伝子型(アレル)が選択的に残る傾向があり、多くの遺伝子座でこの「アレル選択」が働くことが分かりました。44個のアレル選択に関わる遺伝子座の情報を使ったポリジェニックスコアを作ると、mLOXサンプルの80%以上で、どちらのX染色体が残ったかを正しく予測できました。
以上の結果から、生まれつきの遺伝子変異がmLOXの発症リスクを高め、X染色体のどの遺伝子型が残るかによって、欠失細胞の拡大の程度が影響を受ける可能性が示唆されました。mLOXのメカニズム解明が大きく進んだと言えそうです。将来的には、mLOXのリスク診断や予防、アレル選択を標的とした新たな治療法の開発などに役立つかもしれません。体細胞変異の謎に一歩近づく興味深い成果と言えるでしょう。


ER-PM接触の勾配が細胞の極性と移動方向を制御する

細胞移動時には、細胞の後部でERとPMの接触が多く、前部で少ないという勾配が形成される。この接触勾配により、後部ではERに局在するPTP1BがPMの受容体のリン酸化を抑制し、シグナルが前部に限局化される。接触勾配はERの形態の偏りによって生み出され、細胞骨格によって制御されている。この機構により、細胞の前後の極性が形成・維持され、持続的な一方向性の細胞移動が起こる。

事前情報

  • 細胞移動は細胞内シグナルの前後の極性化によって駆動される。

  • 受容体チロシンキナーゼなどの入力は、前部で局所的なシグナルを活性化し、膜の突出を引き起こす。

  • 後部でのシグナルを抑制し、複数の前部形成を防ぐ長距離の抑制機構の存在が予測されていたが、その正体は不明だった。

行ったこと

  • 1細胞レベルと集団レベルの移動細胞で、ER-PM接触部位の分布を調べた。

  • ER-PM接触の密度勾配がPTP1Bを介して受容体シグナルを制御し、細胞移動の方向を決めているかを検証した。

  • ER-PM接触の極性がどのように形成されるかを、ERの形態と微小管の関与に着目して調べた。

検証方法

  • ER-PMコンタクトマーカーMAPPERを用いたライブイメージング

  • 電子顕微鏡によるER-PM接触の超微細構造解析

  • 光遺伝学によるER-PM接触の人工的な操作

  • siRNAノックダウンによる分子の機能解析

  • 細胞移動アッセイ(1次元、2次元、3次元)

分かったこと

  • 移動細胞の後部ではER-PM接触の密度とサイズが高く、前部では低い勾配が見られた。

  • この勾配はPTP1Bを介して受容体シグナルを後部で抑制し、前部に限局化していた。

  • 勾配の急峻さは移動速度と正の相関を示した。人工的に前部の接触を増やすと移動方向が変化した。

  • 勾配はERの形態の偏り(前部は曲率の高い管状、後部は平坦なシート状)によって生み出されていた。

  • 微小管上のモータータンパクや+TIP結合タンパクがERの極性形成に関与していた。

研究の面白く独創的なところ

  • 細胞内超微細構造の極性が細胞レベルの極性と機能を制御するという新しい概念を提示した。

  • 様々な細胞種や環境で共通して見られる現象を見出し、普遍性の高い機構であることを示した。

  • 複数の最先端イメージング技術を駆使して、多角的にメカニズムに迫った。

この研究のアプリケーション

  • がん細胞の浸潤・転移のメカニズム理解と治療ターゲットの提案

  • 創薬スクリーニングのための新規細胞移動アッセイ系の開発

  • 人工的な細胞運動制御技術の開発(再生医療等への応用)

著者と所属
Bo Gong (Weill Cornell Medicine) Jake D. Johnston (Columbia University) Alexander Thiemicke (Weill Cornell Medicine) Alex de Marco (Simons Electron Microscopy Center / Columbia University)
Tobias Meyer (Weill Cornell Medicine)

詳しい解説
細胞は環境からの刺激に応答して、細胞内のシグナル伝達や細胞骨格を前部から後部にかけて偏らせることで「前後の極性」を確立し、一方向に移動する。前部では受容体チロシンキナーゼ(RTK)などの活性化により局所的なシグナルが生じ、アクチンの重合や膜の突出が引き起こされる。一方で、後部のシグナルを抑制し複数の前部形成を防ぐ長距離の抑制機構の存在は示唆されていたが、その実体は不明だった。
本研究は、細胞内小器官である小胞体(ER)と細胞膜(PM)の接触部位に着目し、1細胞レベルと集団レベルの移動細胞で接触部位の分布を調べた。するとERとPMの接触密度とサイズに勾配があり、前部で低く後部で高いことを発見した。さらにこの勾配は、後部に局在するERの脱リン酸化酵素PTP1BがPMの受容体のリン酸化を抑制することで、シグナルを前部に限局化していた。人工的に前部のER-PM接触を増やすと移動方向が変化したことから、接触の勾配が移動方向を制御することを示した。
ではER-PMの接触勾配はどのように形成されるのか。超解像イメージングと電子顕微鏡解析から、接触勾配はERの形態の偏りに由来することが分かった。前部のERは高曲率の管状構造が多いのに対し、後部では平坦なシート状のERが優勢だった。曲率の高い管状ERは接触を不安定化し、平坦なERは安定な接触を形成しやすい。この前後差が接触勾配を生み出すと考えられる。さらにERの極性化には微小管上のモータータンパクや微小管先端結合タンパクが関与していた。
本研究は、細胞内超微細構造の空間配置が細胞レベルの極性形成と機能発現を制御するという新しい概念を提示した。ER-PM接触の勾配は種々の細胞で共通して見られ、普遍性の高い現象であることも明らかにした。この知見は、細胞の運動制御の分子基盤の理解に大きく貢献するものであり、がん細胞の浸潤・転移のメカニズム解明や、人工的な細胞運動操作技術の開発など、基礎から応用に至る広い波及効果が期待される。


最後に
本まとめは、フリーで公開されている範囲の情報のみで作成しております。また、理解が不十分な為、内容に不備がある場合もあります。その際は、リンクより本文をご確認することをお勧めいたします。