論文まとめ450回目 SCIENCE 生体内で強力な吸収分子を用いることで、生きた動物の体を光学的に透明化する新手法の開発!?など
科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。
さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。
一口コメント
The use of ectopic volar fibroblasts to modify skin identity
異所性掌底線維芽細胞を用いた皮膚の同一性の改変
「手のひらや足の裏の皮膚は、他の部位と比べて厚くて丈夫です。これは、その部位特有の線維芽細胞の働きによるものです。この研究では、手のひらの線維芽細胞を培養して、他の部位の皮膚に注射しました。すると驚くべきことに、注射した部位の皮膚が手のひらのような特徴を示すようになったのです。これは、義肢を使う切断患者さんの皮膚トラブルを減らせる可能性があります。自分の細胞を使うので安全性も高く、再生医療の新しい道を開く画期的な発見だと言えるでしょう。」
The economic impacts of ecosystem disruptions: Costs from substituting biological pest control
生態系撹乱の経済的影響:生物学的害虫防除の代替コストについて
「コウモリの大量死が農業に思わぬ影響を与えていることがわかりました。コウモリは農作物を食べる害虫を捕食する天敵として重要な役割を果たしています。しかし、コウモリの個体数が激減すると、農家は殺虫剤の使用を増やさざるを得なくなります。これにより農作物の収入は減少し、殺虫剤による健康被害も増加。自然の害虫駆除システムが崩れると、人間社会にも大きな経済的・健康的影響が及ぶのです。生態系を守ることが、実は私たちの健康と経済を守ることにつながっているのです。」
Single-cell chromatin accessibility reveals malignant regulatory programs in primary human cancers
単一細胞クロマチンアクセシビリティ解析により原発性ヒトがんの悪性制御プログラムを解明
「この研究では、8種類のがん74サンプルから22万以上の細胞を分析し、がん細胞の遺伝子制御の詳細な地図を作成しました。これにより、がん細胞と正常細胞の違いや、がんの種類ごとの特徴が明らかになりました。さらに、人工知能を使ってがん特有の遺伝子制御パターンを学習させ、がんの発生や進行に関わる遺伝子変異を予測することに成功しました。この成果は、がんの新しい診断法や治療法の開発につながる可能性があります。」
Achieving optical transparency in live animals with absorbing molecules
生体吸収分子を用いた生きた動物の光学的透明化
「この研究では、一見矛盾するように思える方法で生体組織を透明化することに成功しました。強い光吸収を持つ色素分子を水に溶かすと、クラマース・クローニッヒの関係により水の屈折率が脂質と同程度まで上昇します。これにより組織中の光散乱が大幅に抑制され、深部まで光が到達するようになります。食用色素のタルトラジンを用いることで、生きたマウスの皮膚や筋肉を一時的に透明化し、腸や脳、筋肉の深部構造や活動をリアルタイムで観察することができました。」
Spatial cognitive ability is associated with longevity in food-caching chickadees
空間認知能力は食糧貯蔵カラの寿命と関連している
「山地カラの研究で、空間記憶力の良い個体ほど長生きすることが分かりました。エサを隠して後で見つける能力が高い鳥ほど生存率が高く、より多くの子孫を残せる可能性があります。これは、認知能力と寿命の関係を野生動物で直接示した初めての研究です。頭が良いほど長生きするという仮説が、実際の自然環境で証明されたのです。この発見は、動物の知能と寿命の進化について新たな洞察を与えてくれます。」
要約
掌底線維芽細胞の移植により非掌底皮膚を掌底様に改変できる
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adi1650
皮膚の同一性は表皮と真皮の内因性の特徴とそれらの相互作用によって制御されています。皮膚の同一性を改変することには臨床的可能性があります。例えば、切断患者の残存肢や断端(非掌底)皮膚を圧力に反応する掌底皮膚に変換することで、義肢の使用を促進し皮膚の破壊を最小限に抑えることができます。ケラチン9(KRT9)の発現増加、より厚い表皮、ケラチノサイトの細胞質サイズ、コラーゲン長、エラスチンは掌底皮膚のマーカーであり、掌底皮膚の回復力に寄与していると考えられています。線維芽細胞がケラチノサイトの分化を修飾する能力を考えると、掌底線維芽細胞がこれらの特徴に影響を与えると仮説を立てました。バイオプリントした皮膚構造物により、掌底線維芽細胞が掌底ケラチノサイトの特徴を誘導する能力が確認されました。健康なボランティアを対象とした臨床試験では、掌底線維芽細胞を非掌底皮膚に注射すると、最大5ヶ月間持続する掌底の特徴が増加することが示され、潜在的な細胞療法が強調されました。
事前情報
掌底皮膚は非掌底皮膚と比較して厚く丈夫である
線維芽細胞は皮膚の特性に影響を与える
切断患者の断端部では皮膚トラブルが頻繁に起こる
行ったこと
健康なボランティアから掌底および非掌底線維芽細胞を採取し培養
2次元培養系で掌底・非掌底線維芽細胞の特性を比較
バイオプリントした皮膚で掌底線維芽細胞の影響を検証
臨床試験で自家掌底線維芽細胞を非掌底皮膚に注射
検証方法
線維芽細胞の増殖率・遊走能の比較
静的・動的圧力に対する遺伝子発現変化の解析
バイオプリント皮膚の形態学的・分子生物学的解析
臨床試験での注射部位の経時的観察と生検
分かったこと
掌底線維芽細胞は非掌底線維芽細胞より高い増殖率・遊走能を示す
掌底線維芽細胞は圧力に対して特徴的な遺伝子発現変化を示す
バイオプリント皮膚で掌底線維芽細胞が非掌底表皮に掌底様特徴を誘導
臨床試験で掌底線維芽細胞注射部位が掌底様の特徴を獲得し、最大5ヶ月持続
研究の面白く独創的なところ
掌底線維芽細胞の特性を詳細に解明した点
バイオプリント皮膚を用いて in vitro で掌底線維芽細胞の効果を実証した点
自家細胞移植による安全な細胞療法の可能性を示した点
皮膚の同一性を改変する新しいアプローチを提示した点
この研究のアプリケーション
切断患者の断端部皮膚トラブル予防・治療
圧力に強い皮膚が必要な部位への応用(褥瘡予防など)
皮膚の機能改善を目的とした再生医療への応用
皮膚の同一性制御メカニズムの解明と新規治療法開発
著者と所属
Sam S. Lee - Johns Hopkins University School of Medicine, Department of Dermatology
Evan Sweren - Johns Hopkins University School of Medicine, Department of Dermatology
Luis A. Garza - Johns Hopkins University School of Medicine, Department of Dermatology, Cell Biology, and Oncology
詳しい解説
本研究は、掌底線維芽細胞の特性と、それを用いた皮膚の同一性改変の可能性を探究したものです。まず、掌底線維芽細胞が非掌底線維芽細胞と比較して高い増殖率と遊走能を持つことを示しました。また、圧力に対する応答も異なり、特徴的な遺伝子発現パターンを示すことが分かりました。
バイオプリントした皮膚モデルを用いた実験では、掌底線維芽細胞が非掌底の表皮に掌底様の特徴を誘導することが確認されました。これは、表皮の厚さの増加、ケラチノサイトのサイズ拡大、KRT9やFGF7タンパク質の増加などの形態学的・分子生物学的変化として観察されました。
さらに重要なのは、健康なボランティアを対象とした臨床試験の結果です。自家掌底線維芽細胞を非掌底皮膚に注射したところ、注射部位が掌底様の特徴を獲得し、その効果が最大5ヶ月間持続することが示されました。具体的には、皮膚の硬さの増加、表皮の肥厚、ケラチノサイトの拡大、真皮コラーゲン線維の伸長、エラスチンの増加などが観察されました。
この研究の革新的な点は、単に掌底線維芽細胞の特性を解明しただけでなく、それを用いて実際に皮膚の同一性を改変できることを示した点です。これは、切断患者の断端部皮膚トラブルの予防や治療、褥瘡予防、その他の皮膚機能改善を目的とした再生医療など、幅広い臨床応用の可能性を示唆しています。
また、自家細胞を用いているため安全性が高く、倫理的な問題も少ない点も大きな利点です。今後は、より長期的な効果の検証や、他の皮膚疾患への応用、さらには皮膚の同一性制御メカニズムの詳細な解明など、多くの研究課題が残されています。
この研究は、皮膚科学と再生医療の分野に新たな展望を開くものであり、今後の発展が大いに期待されます。
生態系の乱れがもたらす経済的影響:生物学的害虫防除の代替コスト
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg0344
生態系の撹乱、特にコウモリの個体数減少が農業や人間の健康に及ぼす経済的影響を分析した研究です。コウモリの減少により農家の殺虫剤使用が増加し、それに伴い乳児死亡率の上昇や農作物収入の減少が観察されました。この研究は、生物多様性の損失が人間社会に与える具体的な影響を定量的に示した重要な成果です。
事前情報
コウモリは農業害虫の天敵として重要な役割を果たしている
北米でホワイトノーズ症候群(WNS)によりコウモリの個体数が激減している
生態系サービスの経済的価値を定量化することは困難だった
行ったこと
WNSの発生を自然実験として利用し、コウモリ個体数減少の影響を分析
郡レベルのデータを用いて、WNS発生前後の以下の変化を調査:
殺虫剤使用量
乳児死亡率
農作物収入と化学物質支出
検証方法
WNS発生郡と非発生郡を比較する差分の差分析を実施
時間固定効果と地域固定効果を考慮したイベントスタディ分析
様々な感度分析や頑健性チェックを実施
分かったこと
WNS発生後、殺虫剤使用量が平均31.1%増加
内因性乳児死亡率が7.9%上昇
農作物収入が28.9%減少
化学物質支出は23.4%減少(収入減少の影響と推測)
この研究の面白く独創的なところ
生態系撹乱の経済的影響を自然実験により因果関係を示しつつ定量化
コウモリ減少→殺虫剤増加→健康被害という連鎖を実証
生態系サービスの代替コストを具体的に示した点
この研究のアプリケーション
生物多様性保全の経済的価値の評価に応用可能
農薬規制政策の立案に活用できる
コウモリ保護活動の重要性を裏付けるエビデンスとなる
著者と所属
Eyal G. Frank
Harris School of Public Policy, University of Chicago, Chicago, IL, USA
Center for Economic Policy Research, Paris, France
National Bureau of Economic Research, Cambridge, MA, USA
詳しい解説
この研究は、生態系の撹乱が人間社会に及ぼす経済的影響を、具体的なデータを用いて定量的に示した画期的な成果です。
まず、北米で発生したホワイトノーズ症候群(WNS)によるコウモリの大量死を自然実験として利用しました。WNSの発生は予測不可能で、ランダムな実験に近い状況を作り出しています。これにより、コウモリの個体数減少と人間社会への影響の因果関係を推測することが可能になりました。
分析の結果、WNSが発生した郡では、コウモリの減少後に殺虫剤の使用量が平均31.1%増加したことが明らかになりました。これは、コウモリによる生物学的害虫防除が失われたことを農家が殺虫剤で補おうとした結果と解釈できます。
さらに、殺虫剤使用量の増加に伴い、内因性乳児死亡率(事故や他殺を除く乳児死亡率)が7.9%上昇したことも示されました。これは環境汚染と健康被害の関連を示す重要な発見です。
経済面では、WNS発生郡で農作物収入が28.9%減少しました。これは害虫被害の増加や農産物の質の低下が原因と考えられます。一方で、化学物質への支出は23.4%減少しましたが、これは収入減少に伴う投入削減の結果と推測されます。
この研究の独創的な点は、生態系サービスの経済的価値を、その喪失後の代替コストという形で具体的に示したことです。コウモリによる害虫駆除の価値が、殺虫剤の追加コストや健康被害、収入減少という形で定量化されたのです。
また、生態系の撹乱が人間社会に与える影響の連鎖(コウモリ減少→殺虫剤増加→健康被害・収入減少)を実証的に示した点も重要です。これは生態系と人間社会の密接な関係を明確に示すエビデンスとなります。
この研究結果は、生物多様性保全の経済的重要性を示す根拠として活用できます。また、農薬規制政策の立案や、コウモリなどの生態系に重要な役割を果たす生物の保護活動にも貢献するでしょう。
一方で、研究の限界点としては、短期的な影響のみを観察している点や、北米の特定地域のデータに基づいている点が挙げられます。長期的な影響や他の地域への適用可能性については、さらなる研究が必要です。
総じて、この研究は生態系サービスの経済的価値を具体的に示した画期的な成果であり、今後の環境政策や生態系保全の取り組みに大きな影響を与える可能性があります。
単一細胞クロマチンアクセシビリティ解析により、がんの悪性化に関わる遺伝子制御プログラムを解明
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adk9217
がん細胞の遺伝子制御プログラムを単一細胞レベルで解析し、がんの悪性化メカニズムや治療標的の同定につながる重要な知見を得た研究です。
事前情報
がんは遺伝子変異が原因で、遺伝子発現の制御に大きな変化が生じる
The Cancer Genome Atlas (TCGA)プロジェクトでがんの分子特性が研究されてきた
クロマチンアクセシビリティ解析により、遺伝子制御領域を同定できる
単一細胞解析技術の発展により、がん組織内の細胞多様性の解明が可能になった
行ったこと
8種類のがん、74サンプルから227,063個の細胞核のクロマチンアクセシビリティを単一細胞レベルで解析
がん細胞、間質細胞、免疫細胞を識別し、がんサブクローンを同定
がん特異的な遺伝子制御プログラムを学習する深層学習モデルを構築
モデルを用いて、がん関連遺伝子近傍の非コード領域変異の機能を予測
検証方法
単一細胞ATAC-seq法によるクロマチンアクセシビリティ解析
機械学習によるがん細胞と正常細胞の識別
コピー数変異解析によるがんサブクローンの同定
ニューラルネットワークモデルによる遺伝子制御文法の学習
変異導入シミュレーションによる非コード変異の機能予測
分かったこと
がん種特異的なクロマチンアクセシビリティパターンの存在
がんサブクローン間での遺伝子制御プログラムの違い
基底様乳がんのクロマチン特性が分泌型管腔上皮細胞に類似
がん関連遺伝子近傍の非コード変異がクロマチンアクセシビリティに影響
研究の面白く独創的なところ
単一細胞レベルでのがん組織内多様性の解明
深層学習によるがん特異的遺伝子制御文法の解読
非コード変異の機能予測による新たながん関連変異の同定
この研究のアプリケーション
がんの新しい分子分類法の開発
がん進行メカニズムの理解と新規治療標的の同定
非コード領域変異の臨床的意義の解明と個別化医療への応用
がんリスク予測や早期診断法の開発
著者と所属
Laksshman Sundaram - スタンフォード大学医学部遺伝学科
Arvind Kumar - イルミナAI研究所
Matthew Zatzman - メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター
Howard Y. Chang - スタンフォード大学医学部遺伝学科、ハワードヒューズ医学研究所
William J. Greenleaf - スタンフォード大学医学部遺伝学科
詳しい解説
この研究は、単一細胞クロマチンアクセシビリティ解析技術を用いて、8種類のがん74サンプルから22万個以上の細胞核を分析し、がんの遺伝子制御プログラムを詳細に解明しました。
まず、遺伝子マーカーの発現パターンを基に、がん細胞、間質細胞、免疫細胞を識別しました。さらに、メガベースレベルのクロマチンアクセシビリティパターンの違いから、がん組織内のサブクローンを同定することに成功しました。これにより、がん組織内の細胞多様性と遺伝的不均一性を明らかにしました。
次に、深層学習モデルを用いて、がん特異的な遺伝子制御プログラムを学習させました。このモデルにより、がん細胞と正常細胞のクロマチンアクセシビリティの違いを特徴づける転写因子結合モチーフを同定しました。特に興味深い発見として、基底様乳がんのクロマチン特性が、これまで考えられていた基底細胞ではなく、分泌型管腔上皮細胞に類似していることが分かりました。
さらに、学習したモデルを用いて、がん関連遺伝子近傍の非コード領域変異がクロマチンアクセシビリティに与える影響を予測しました。その結果、これらの変異ががんの発生や進行に関与している可能性が示唆されました。
この研究成果は、がんの分子メカニズムの理解を深め、新たな診断法や治療法の開発につながる重要な基盤となります。特に、非コード領域変異の機能予測は、これまで見過ごされてきたがん関連変異の同定や、個別化医療の実現に貢献する可能性があります。
生体内で強力な吸収分子を用いることで、生きた動物の体を光学的に透明化する新手法の開発
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adm6869
生きた動物の体内で強い光吸収を持つ分子を用いることで、生体組織を光学的に透明化する新しい手法を開発しました。この方法により、これまで観察が困難だった深部組織の構造や機能をリアルタイムで可視化することが可能になりました。
事前情報
生体組織の光散乱は光学イメージングの深さを制限する主要因である
既存の組織透明化技術は主に固定組織に適用され、生きた動物への適用は限定的である
クラマース・クローニッヒの関係は物質の光学特性を記述する基本原理である
行ったこと
ローレンツ振動子モデルを用いて、強い光吸収を持つ分子が水の屈折率を上昇させる効果を理論的に予測した
食用色素タルトラジンを用いて、生きたマウスの皮膚、筋肉、結合組織を可逆的に透明化した
透明化したマウスの腹部、頭部、後肢で深部組織のイメージングを行った
検証方法
組織模倣散乱ファントムと摘出組織を用いて透明化メカニズムを検証した
生きたマウスの腹部を透明化し、蛍光タンパク質でラベルした腸神経の動きを可視化した
マウスの頭皮に色素溶液を局所適用し、脳血管を可視化した
マウスの後肢で筋肉サルコメアの高解像度イメージングを行った
分かったこと
強い光吸収を持つ分子は水の屈折率を上昇させ、脂質との屈折率差を減少させることで組織を透明化できる
この方法は生きた動物に適用可能で、深部組織の構造や機能をリアルタイムで観察できる
透明化効果は可逆的で、色素の拡散に依存する
研究の面白く独創的なところ
強い光吸収を持つ分子が組織を透明化するという、一見矛盾する現象を利用している点
食用色素など安全性の高い物質を用いて生きた動物の体内を透明化できる点
深部組織の構造や機能をリアルタイムで観察できる新しい手法を提供している点
この研究のアプリケーション
生きた動物での深部組織イメージング
神経活動や血流のリアルタイムモニタリング
薬物動態や疾患進行の非侵襲的観察
光遺伝学や光療法の効率向上
著者と所属
Zihao Ou - スタンフォード大学材料科学工学科、ウーツァイ神経科学研究所
Yi-Shiou Duh - スタンフォード大学物理学科
Nicholas J. Rommelfanger - スタンフォード大学応用物理学科
詳しい解説
この研究は、生きた動物の体内で強い光吸収を持つ分子を用いることで、生体組織を光学的に透明化する新しい手法を開発しました。従来、生体組織の光散乱は光学イメージングの深さを制限する主要因でしたが、この手法はその問題を解決する可能性を秘めています。
研究チームは、ローレンツ振動子モデルを用いて、強い光吸収を持つ分子が水の屈折率を上昇させる効果を理論的に予測しました。この効果は、クラマース・クローニッヒの関係に基づいています。具体的には、近紫外から青色領域に鋭い吸収ピークを持つ分子が、より長波長の領域で水の屈折率を上昇させることができると予測しました。
この理論に基づき、研究チームは食用色素のタルトラジンを用いて実験を行いました。タルトラジン水溶液を生きたマウスに適用すると、皮膚、筋肉、結合組織が可逆的に透明化されることを発見しました。この方法により、これまで観察が困難だった深部組織の構造や機能をリアルタイムで可視化することが可能になりました。
例えば、透明化したマウスの腹部で、蛍光タンパク質でラベルした腸神経の動きを可視化することに成功しました。これにより、腸の蠕動運動に伴う神経活動をリアルタイムで観察することができました。また、マウスの頭皮に色素溶液を局所適用することで脳血管を可視化し、後肢では筋肉サルコメアの高解像度イメージングを行うことができました。
この手法の特筆すべき点は、強い光吸収を持つ分子が組織を透明化するという、一見矛盾する現象を利用している点です。また、食用色素など安全性の高い物質を用いることで、生きた動物に適用可能な点も重要です。さらに、透明化効果が可逆的であることから、長期的な観察にも適していると考えられます。
この研究は、生体深部のイメージング技術に新たな可能性を開きました。神経活動や血流のリアルタイムモニタリング、薬物動態や疾患進行の非侵襲的観察、光遺伝学や光療法の効率向上など、幅広い応用が期待されます。今後、この技術のさらなる最適化や他の生物種への適用が進めば、生命科学や医学研究に大きな進展をもたらす可能性があります。
空間認知能力が高い食糧貯蔵鳥は長寿である
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn5633
野生の食糧貯蔵鳥である山地カラを対象に、個体の空間認知能力と寿命の関係を調査した研究です。空間学習と記憶能力が高い個体ほど長寿であることが明らかになりました。これは、認知能力と寿命の関連を野生動物で直接示した初めての証拠となります。
事前情報
認知能力と寿命の関連は以前から仮説として提唱されていたが、野生動物での直接的な証拠は乏しかった
山地カラは食糧貯蔵行動を行う鳥類で、空間記憶能力が重要
先行研究で山地カラの空間認知能力に個体差があることが示されていた
行ったこと
野生の山地カラ227個体を対象に、空間認知能力のテストと寿命追跡を実施
RFIDタグを用いた自動給餌装置で個体識別と認知テストを行った
空間学習と記憶、認知的柔軟性を測定
個体の生存を長期的に追跡し、認知能力と寿命の関係を分析
検証方法
自動給餌装置を使用し、各個体が自分専用の餌箱を学習する能力を測定
エラー回数が少ないほど空間認知能力が高いと評価
認知的柔軟性は、餌箱の配置を変更した際の再学習速度で評価
一般化線形混合モデルを用いて、認知能力と生存率の関係を分析
分かったこと
空間学習と記憶能力が高い個体ほど長寿であった
認知的柔軟性は寿命との関連が見られなかった
空間認知能力の個体差は遺伝的要因に基づく可能性が示唆された
空間認知能力の高さは、食糧貯蔵の効率向上を通じて生存に有利に働くと考えられる
この研究の面白く独創的なところ
野生動物の認知能力と寿命の関係を直接示した初めての研究
長期的な野外調査と自動化された認知テストを組み合わせた革新的な手法
種内での認知能力の個体差が自然選択の対象となり得ることを示唆
この研究のアプリケーション
動物の認知能力と寿命の共進化に関する理解の深化
野生動物の保全における認知能力の重要性の認識
ヒトを含む他の種での認知能力と寿命の関係研究への応用
認知能力向上が寿命延長につながる可能性の示唆
著者と所属
Joseph F. Welklin - ネバダ大学リノ校
Benjamin R. Sonnenberg - ネバダ大学リノ校
Carrie L. Branch - ウェスタンオンタリオ大学
詳しい解説
この研究は、野生動物の認知能力と寿命の関係を直接的に示した画期的な成果です。研究チームは、食糧貯蔵行動を行う山地カラを対象に、個体の空間認知能力と寿命の関連を調査しました。
実験では、RFIDタグを用いた自動給餌装置を使用し、各個体が自分専用の餌箱を学習する能力を測定しました。エラー回数が少ないほど空間認知能力が高いと評価され、また餌箱の配置変更時の再学習速度で認知的柔軟性を評価しました。
分析の結果、空間学習と記憶能力が高い個体ほど長寿であることが明らかになりました。これは、優れた空間認知能力が食糧貯蔵の効率を高め、生存に有利に働くためと考えられます。一方で、認知的柔軟性は寿命との関連が見られませんでした。
この発見は、種内での認知能力の個体差が自然選択の対象となり得ることを示唆しています。つまり、より高い認知能力を持つ個体が長生きし、より多くの子孫を残す可能性があるということです。
本研究の独創性は、長期的な野外調査と自動化された認知テストを組み合わせた手法にあります。これにより、実験室での研究では捉えられない、自然環境下での認知能力と寿命の関係を明らかにすることができました。
この研究結果は、動物の認知能力と寿命の共進化に関する理解を深めるとともに、野生動物の保全における認知能力の重要性を示唆しています。さらに、ヒトを含む他の種での認知能力と寿命の関係研究にも応用できる可能性があります。
認知能力が高いほど長寿であるという発見は、認知能力の向上が寿命延長につながる可能性を示唆しており、今後の老化研究や健康科学への影響も期待されます。
最後に
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