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論文まとめ281回目 SCIENCE ポリエチレンの長鎖分岐を制御する商業的に実現可能な溶液重合プロセスの開発!? など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなSCIENCEです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Fork coupling directs DNA replication elongation and termination フォークカップリングがDNA複製の伸長と終結を制御する
「DNAの複製は、私たちの体の細胞分裂に不可欠な過程です。DNAは、複製の開始地点から両方向に伸長する2つの複製フォークによって複製されます。これまで、DNA複製の各因子については詳細に研究されてきましたが、複雑なクロマチン環境の中でどのようにDNAが複製されるのかについては謎が多く残されていました。
この研究では、新生DNAを含むクロマチン相互作用を捕らえるために、複製関連のin situ HiC法を開発しました。その結果、ヒトとマウスのゲノムにおいて2000以上の噴水のような構造のクロマチン接触が同定され、DNA複製フォークのカップリングを示唆する証拠が得られました。興味深いことに、複製フォークの相互作用は、姉妹フォーク間だけでなく、2つの異なる起源からのフォークも関与し、複製の終結を事前に決定していることがわかりました。
また、終結に関連するクロマチンの噴水構造は、複製ストレスに敏感であり、がん細胞ではカップリングしたフォークに関連するゲノム欠失につながることがわかりました。これらの発見は、クロマチンの文脈の中でのDNA複製フォークの空間的な組織化を明らかにしています。
この研究は、DNA複製の階層的構造を支持する実証的証拠を提供し、複製の終結がDNAポリメラーゼの衝突によって引き起こされるのではなく、複製の開始段階で確立されることを示唆しています。これらの知見は、DNA複製の基本的なメカニズムの理解を深めるとともに、がんなどの疾患の発症メカニズムの解明にもつながる可能性があります。」

A commercially viable solution process to control long-chain branching in polyethylene
ポリエチレンの長鎖分岐を制御する商業的に実現可能な溶液プロセス
「低密度ポリエチレン(LDPE)は、プラスチックフィルムなどの柔軟な製品に広く使用されています。LDPEは直鎖状ではなく分岐した分子構造を持つことで、その特性を得ています。しかし、この分岐構造を作るには、エネルギー集約型の高圧合成技術が必要でした。
今回の研究では、より穏やかな溶液相条件下で長鎖分岐を達成する新しい方法が報告されました。この触媒は、エチレンに少量のジエンを混合して使用することで、一度に2本の鎖をリンクし、はしご状の構造を作ることができます。その結果、LDPEと同等の特性を持つプラスチックが得られます。
つまり、この研究は、LDPEのような高度に分岐したポリエチレンを、より低エネルギーで環境に優しい方法で製造できる可能性を示したのです。」

Fracturing and tectonic stress drive ultrarapid magma flow into dikes
断層形成と構造応力が岩脈への超高速マグマ流入を引き起こす
「火山の下にあるマグマだまりから、地表に向かってマグマが移動する際、その速度は非常に速いことがあります。この研究では、2023年11月にアイスランドで発生した巨大な岩脈の形成を詳細に分析しました。その結果、マグマの流入速度は最大で毎秒7400立方メートルにも達することがわかりました。これは、オリンピックサイズのプールが約3秒で満たされる計算になります。こんなに速いマグマの移動を可能にしているのは、マグマだまりの圧力だけではなく、地殻に蓄積された応力と断層の形成が大きな役割を果たしているのです。つまり、火山の下で静かに進行する地殻変動が、ある臨界点に達した時、一気にマグマの移動を加速させるのです。この研究は、火山活動の予測や防災対策に重要な知見を与えてくれます。」

Reinforcing self-assembly of hole transport molecules for stable inverted perovskite solar cells
安定な逆型ペロブスカイト太陽電池のためのホール輸送分子の自己組織化の強化
「ペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽電池として注目されていますが、長期安定性に課題がありました。今回の研究では、原子層堆積法を用いて自己組織化単分子膜(SAM)を安定化することで、この課題を解決しました。SAMは、ペロブスカイト層の下で密にパッキングされた状態を保つ必要がありますが、ペロブスカイト前駆体中の強い極性溶媒によって脱離してしまう問題がありました。
研究チームは、原子層堆積法を用いて、SAMを強く固定化できる全共有結合性のヒドロキシル基で覆われた基板を作製しました。また、基板に強く結合するトリメトキシシラン基を持つSAMを開発しました。その結果、0.08平方センチメートルと1.01平方センチメートルの開口面積を持つペロブスカイト太陽電池で、それぞれ24.8%(公認24.6%)と23.2%の変換効率を達成しました。さらに、85℃での最大出力点追従動作下で1200時間経過後も、初期変換効率の98.2%を維持することができました。
この研究は、ペロブスカイト太陽電池の長期安定性を大幅に向上させる画期的な成果であり、実用化に向けて大きく前進したと言えます。」

Dispersal stabilizes coupled ecological and evolutionary dynamics in a host-parasitoid system
分散が宿主-寄生者システムにおける生態学的・進化的ダイナミクスを安定化する
「エンドウヒゲナガアブラムシとその寄生バチの関係は、まるで鬼ごっこのようです。アブラムシは寄生バチから逃げるために抵抗力を進化させますが、その代償として繁殖力が低下します。一方、寄生バチは分散することでアブラムシへの寄生圧を変化させ、アブラムシの抵抗力に影響を与えます。この鬼ごっこは、アブラムシの分散が適度な場合に安定し、両者が共存できるようになるのです。まさに、生態系における微妙なバランスの上に成り立つ、進化のダイナミクスを目の当たりにする研究といえるでしょう。」

Structural basis of U12-type intron engagement by the fully assembled human minor spliceosome
ヒトのマイナースプライセオソームによるU12型イントロンの認識機構の構造基盤
「私たちの体の中では、遺伝情報を担うDNAからタンパク質を作る過程で、RNAと呼ばれる分子が重要な役割を果たしています。しかし、DNAからRNAができる段階では、必要な部分(エクソン)だけでなく不要な部分(イントロン)も含まれています。そこで登場するのが、不要な部分を取り除く「スプライシング」という過程です。
99%以上のイントロンは「U2型」と呼ばれ、メジャースプライセオソームという巨大な分子複合体によって取り除かれます。一方、1%未満の「U12型」と呼ばれるイントロンは、マイナースプライセオソームによって取り除かれますが、その仕組みについてはよくわかっていませんでした。
今回、研究グループは、ヒトのマイナースプライセオソームがU12型イントロンを認識する直前の状態を再現し、その立体構造を原子レベルで解明しました。U11というRNA分子が、U12型イントロンの特定の配列を正確に認識し、結合することがわかりました。また、マイナースプライセオソームを構成する分子の詳細な配置も明らかになりました。
この研究は、これまで謎に包まれていたマイナースプライセオソームの働きを理解する上で大きな一歩となります。将来的には、スプライシングの異常が関わる遺伝性疾患の解明や治療法の開発にもつながる可能性があります。」

Generalized fear after acute stress is caused by change in neuronal cotransmitter identity
急性ストレス後の一般化された不安は神経伝達物質アイデンティティの変化が原因
「ストレスを受けた後、無害な状況でも恐怖を感じるようになる現象は、不安障害の大きな特徴です。この研究では、マウスを使った行動実験、分子生物学的アプローチ、電気生理学的手法により、このような「一般化された恐怖」のメカニズムを解明しました。」



要約

DNAの複製フォークのカップリングが複製の伸長と終結を制御している

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj7606

この研究では、複製関連のin situ HiC法を開発し、ヒトとマウスのゲノムにおけるDNA複製フォークのカップリングを示唆する2000以上の噴水のような構造のクロマチン接触を同定しました。複製フォークの相互作用は、姉妹フォーク間だけでなく、2つの異なる起源からのフォークも関与し、複製の終結を事前に決定していることがわかりました。また、終結に関連するクロマチンの噴水構造は、複製ストレスに敏感であり、がん細胞ではカップリングしたフォークに関連するゲノム欠失につながることが明らかになりました。これらの発見は、クロマチンの文脈の中でのDNA複製フォークの空間的な組織化を明らかにしています。

事前情報
真核生物のゲノムを適時に複製するために、DNAの複製は複数の領域で開始されます。姉妹複製フォークは両方向に進行し、2つの収束するフォークが出会ったときに複製が終了します。しかし、複製フォークの協調についてはほとんど知られていませんでした。

行ったこと

  1. 新生DNAを含むクロマチン相互作用を捕らえるために、複製関連のin situ HiC法を開発しました。

  2. ヒトとマウスのゲノムにおけるDNA複製フォークのカップリングを示唆する、2000以上の噴水のような構造のクロマチン接触を同定しました。

  3. 複製フォークの相互作用が、姉妹フォーク間だけでなく、2つの異なる起源からのフォークも関与し、複製の終結を事前に決定していることを明らかにしました。

  4. 終結に関連するクロマチンの噴水構造が、複製ストレスに敏感であり、がん細胞ではカップリングしたフォークに関連するゲノム欠失につながることを発見しました。

検証方法
複製関連のin situ HiC法を用いて、ヒトとマウスのゲノムにおけるクロマチン相互作用を解析しました。また、がん細胞におけるゲノム欠失との関連性を調べました。

分かったこと

  1. ヒトとマウスのゲノムには、DNA複製フォークのカップリングを示唆する2000以上の噴水のような構造のクロマチン接触が存在します。

  2. 複製フォークの相互作用は、姉妹フォーク間だけでなく、2つの異なる起源からのフォークも関与し、複製の終結を事前に決定しています。

  3. 終結に関連するクロマチンの噴水構造は、複製ストレスに敏感であり、がん細胞ではカップリングしたフォークに関連するゲノム欠失につながります。

  4. これらの発見は、クロマチンの文脈の中でのDNA複製フォークの空間的な組織化を明らかにしています。

この研究の面白く独創的なところ
複製関連のin situ HiC法を開発し、DNA複製フォークのカップリングを示唆するクロマチン接触を同定した点が独創的です。また、複製フォークの相互作用が複製の終結を事前に決定していることや、がん細胞におけるゲノム欠失との関連性を明らかにした点が面白いです。

この研究のアプリケーション
この研究は、DNA複製の基本的なメカニズムの理解を深めるとともに、がんなどの疾患の発症メカニズムの解明につながる可能性があります。また、複製ストレスに対する細胞の応答の理解にも役立つと考えられます。

著者と所属
Yang Liu, Zhengrong Zhangding, Xuhao Liu, Tingting Gan, Chen Ai, Jinchun Wu, Haoxin Liang, Mohan Chen, Yuefeng Guo, Rusen Lu, Yongpeng Jiang, Xiong Ji, Ning Gao, Daochun Kong, Qing Li, Jiazhi Hu (所属略)

詳しい解説
DNA複製は、細胞分裂に不可欠な過程であり、複製の開始地点から両方向に伸長する2つの複製フォークによって行われます。これまで、DNA複製の各因子については詳細に研究されてきましたが、複雑なクロマチン環境の中でどのようにDNAが複製されるのかについては不明な点が多く残されていました。
この研究では、新生DNAを含むクロマチン相互作用を捕らえるために、複製関連のin situ HiC法を開発しました。この手法を用いて、ヒトとマウスのゲノムを解析した結果、2000以上の噴水のような構造のクロマチン接触が同定されました。これらの接触は、DNA複製フォークのカップリングを示唆するものでした。
興味深いことに、複製フォークの相互作用は、単に姉妹フォーク間だけでなく、2つの異なる起源からのフォークも関与していることがわかりました。このことは、複製の終結が複製の開始段階で事前に決定されていることを示唆しています。従来は、複製の終結はDNAポリメラーゼの衝突によって引き起こされると考えられていましたが、この研究結果はそれとは異なる可能性を示しています。
さらに、終結に関連するクロマチンの噴水構造は、複製ストレスに敏感であることがわかりました。がん細胞では、カップリングしたフォークに関連するゲノム欠失が観察されました。これは、DNA複製の異常ががんの発症に関与している可能性を示唆しています。
これらの発見は、クロマチンの文脈の中でのDNA複製フォークの空間的な組織化を明らかにしただけでなく、DNA複製の階層的構造を支持する実証的証拠を提供しました。また、DNA複製の異常ががんなどの疾患の発症につながる可能性を示唆しています。
今後、この研究で開発された手法を用いて、さまざまな条件下でのDNA複製の動態が解明されることが期待されます。また、がんなどの疾患におけるDNA複製の異常の役割についても、さらなる研究が進むことが予想されます。この研究は、DNA複製の基本的なメカニズムの理解を深めるとともに、疾患の発症メカニズムの解明にも大きく貢献すると考えられます。


ポリエチレンの長鎖分岐を制御する商業的に実現可能な溶液重合プロセスの開発

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn3067

低密度ポリエチレン(LDPE)の製造に使用される高エネルギー・高圧プロセスに代わる、より穏やかな条件下で長鎖分岐を達成できる新しい溶液重合法が開発された。この方法では、二元触媒を用いてエチレンとα,ω-ジエンを重合させ、はしご状の分岐構造を持つポリエチレンを合成できる。得られたポリマーは、LDPEや、LDPEと直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)のブレンド物と同等のレオロジー特性を示した。

事前情報

  • 低密度ポリエチレン(LDPE)は、分岐した分子構造により柔軟性を持つ

  • LDPEの製造には、高エネルギー・高圧のラジカル重合プロセスが使用されている

行ったこと

  • エチレンと1mol%未満のα,ω-ジエンを、二元触媒を用いて溶液重合

  • はしご状の分岐構造を持つポリエチレンを合成

検証方法

  • 分子量分布、Mark-Houwink特性、NMR解析

  • せん断・伸長レオロジー測定

分かったこと

  • 合成したポリエチレンは、高度に分岐した構造を持つ

  • レオロジー特性は、LDPEやLDPE/LLDPEブレンド物と同等

この研究の面白く独創的なところ
従来のLDPE製造に必要な高エネルギー・高圧プロセスを使わずに、より穏やかな条件下で長鎖分岐を導入できる点。二元触媒を用いることで、ペンダントビニル基の定常濃度を必要とせずにジエンを連鎖に取り込むことができる。

この研究のアプリケーション
この方法により、制御された長鎖分岐を持つポリエチレンを、より低エネルギーで環境に優しい溶液重合プロセスで製造できる可能性がある。得られたポリマーは、LDPEと同等の特性を持つため、プラスチックフィルムなどの柔軟性を要求される用途に適用できる。

著者と所属
Robert D. Froese, Daniel J. Arriola, Jaap den Doelder, Jianbo Hou, Teresita Kashyap, Keran Lu, Luca Martinetti, Bryan D. Stubbert 

詳しい解説
低密度ポリエチレン(LDPE)は、その分岐した分子構造により、柔軟性や透明性、耐衝撃性などの優れた特性を持つプラスチック材料です。しかし、LDPEの製造には、高温・高圧条件下でのラジカル重合プロセスが必要とされ、多大なエネルギーを消費します。
この研究では、より穏やかな溶液重合条件下で、長鎖分岐を持つポリエチレンを合成する新しい方法が提案されました。この方法の鍵となるのは、二元触媒の使用です。この触媒は、同一の金属中心上に2つの成長中のポリマー鎖を持つことができます。そこに、エチレンモノマーに少量のα,ω-ジエンを混合して重合を行うことで、ペンダントビニル基の定常濃度を必要とせずに、ジエンを連鎖に取り込むことができます。その結果、はしご状の分岐構造を持つポリエチレンが得られます。
合成したポリエチレンは、分子量分布、Mark-Houwink特性、NMR解析の結果から、高度に分岐した構造を持つことが確認されました。また、せん断・伸長レオロジー測定の結果は、LDPEやLDPE/LLDPEブレンド物と同等の特性を示しました。
この研究は、従来のLDPE製造で必要とされる高エネルギー・高圧プロセスを使わずに、制御された長鎖分岐を持つポリエチレンを合成できる可能性を示しています。この新しい方法は、より低エネルギーで環境に優しい溶液重合プロセスであり、LDPEと同等の特性を持つポリマーを製造できる点で、工業的に有望な技術と言えます。今後、この技術の更なる発展と実用化が期待されます。


地殻のひずみと断層が超高速のマグマ流入を引き起こす

https://www.science.org/toc/science/383/6688

この研究は、2023年11月にアイスランドで発生した巨大な岩脈の形成と、その後に続いたSundhnúkur噴火について、地球物理学的観測とモデリングを行った結果をまとめたものです。研究の結果、地下のマグマ流入速度は最大で毎秒7400立方メートルにも達することが明らかになりました。こうした高速のマグマ移動を引き起こす要因として、マグマだまりの圧力だけでなく、構造応力と断層形成が重要な役割を果たしていることが示唆されました。著者らは、この地域の火山システムが高い災害ポテンシャルを持っていることを示し、同様の特徴を持つ他の岩脈貫入にも当てはまる可能性が高いと結論づけています。

事前情報
・アイスランドでは2020年から2023年にかけて火山活動が活発化していた。
・Svartsengi火山システムでは、2023年11月の岩脈形成前に5回の膨張エピソードが観測されていた。
・マグマは密度の違いにより、地下約2kmの深さで横方向に広がる傾向がある。

行ったこと
・GNSSとInSARを用いた地表変動の観測とモデリング
・地震活動の分析
・マグマだまりの形状と体積変化の推定
・マグマ流入速度の時間変化の推定

検証方法 ・GNSSとInSARデータを用いた地表変動のモデリング ・地震波トモグラフィによるマグマだまりの位置と形状の推定 ・物理モデルを用いたマグマ流入プロセスの再現と検証

分かったこと
・岩脈形成時のマグマ流入速度は最大で毎秒7400立方メートルに達した。
・マグマだまりの圧力だけでなく、構造応力と断層形成がマグマ移動を加速させた。
・Svartsengi火山システムは高い災害ポテンシャルを持っている。
・同様の特徴を持つ他の岩脈貫入でも高速のマグマ流入が起こる可能性がある。

この研究の面白く独創的なところ
・GNSSとInSARを組み合わせた高時空間分解能の地表変動観測により、マグマ流入速度の時間変化を詳細に推定した点。
・構造応力と断層形成がマグマ移動に与える影響を定量的に評価した点。
・物理モデルを用いて、観測されたマグマ流入プロセスを再現し、そのメカニズムを解明した点。

この研究のアプリケーション
・火山活動の予測と防災対策への応用
・他の火山地域におけるマグマ移動プロセスの理解
・地熱資源開発におけるリスク評価

著者と所属
Freysteinn Sigmundsson (アイスランド大学)、Michelle Parks (アイスランド大学)、Halldór Geirsson (アイスランド大学)、Andrew Hooper (リーズ大学)、Vincent Drouin (アイスランド大学)、Kristín S. Vogfjörd (アイスランド気象局)、Benedikt G. Ófeigsson (アイスランド大学)、Sonja H. M. Greiner (アイスランド大学)、Yilin Yang (アイスランド大学)、Chiara Lanzi (アイスランド大学)、Gregory P. De Pascale (アイスランド大学)、Kristín Jónsdóttir (アイスランド気象局)、Sigrún Hreinsdóttir (GNS Science)、Valentyn Tolpekin (トゥエンテ大学)、Hildur María Friðriksdóttir (アイスランド大学)、Páll Einarsson (アイスランド大学)、Sara Barsotti (アイスランド気象局)

詳しい解説
この研究は、2023年11月にアイスランドのグリンダヴィーク地域で発生した巨大な岩脈の形成過程を、地球物理学的観測とモデリングによって詳細に分析したものです。岩脈とは、マグマが地下の割れ目に沿って貫入した板状の火成岩体のことを指します。
研究チームは、GNSS(全地球航法衛星システム)とInSAR(合成開口レーダー干渉法)を用いて、岩脈形成に伴う地表変動を高い時空間分解能で観測しました。また、地震活動の分析から、マグマの移動経路や岩脈の成長過程を推定しました。
観測データのモデリングの結果、岩脈へのマグマ流入速度は最大で毎秒7400立方メートルに達することが明らかになりました。これは、従来の研究で報告されている値よりも2桁以上大きく、非常に高速なマグマ移動が発生したことを示しています。
さらに、研究チームは物理モデルを用いて、観測されたマグマ流入プロセスを再現し、そのメカニズムを考察しました。その結果、マグマだまりの圧力だけでなく、地殻に蓄積された構造応力と断層の形成が、高速のマグマ移動を引き起こす重要な要因であることが示唆されました。
つまり、長期的な地殻変動によって蓄積された応力が臨界点に達し、断層が形成されると、マグマだまりから岩脈へのマグマ流入が加速され、超高速のマグマ移動が発生すると考えられます。
この研究は、火山活動の予測と防災対策に重要な知見を与えるものです。グリンダヴィーク地域のSvartsengi火山システムは高い災害ポテンシャルを持っており、同様の特徴を持つ他の火山地域でも、高速のマグマ移動と岩脈貫入が発生する可能性があります。
今後は、この研究で得られた知見を活かし、火山活動のモニタリングや防災計画の改善、地熱資源開発におけるリスク評価などに応用していくことが期待されます。


自己組織化単分子膜の安定化によるペロブスカイト太陽電池の長寿命化

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj9602

原子層堆積法を用いてペロブスカイト太陽電池の自己組織化単分子膜を安定化し、高い変換効率と長期安定性を実現した。

事前情報

  • ペロブスカイト太陽電池の効率は自己組織化単分子膜(SAM)ホール輸送層の使用により向上したが、長期安定性にはSAMがペロブスカイト層の下で密にパッキングされた状態を維持する必要がある。

  • ペロブスカイト前駆体中の強い極性溶媒がSAMを脱離させる可能性がある。

行ったこと

  • 原子層堆積法を用いて、全共有結合性のヒドロキシル基で覆われたインジウムスズ酸化物基板を作製し、SAMの固定化を強化。

  • トリメトキシシラン基を持つSAMを開発し、基板への強力な三座配位結合を実現。

検証方法

  • 0.08平方センチメートルと1.01平方センチメートルの開口面積を持つペロブスカイト太陽電池を作製し、変換効率を測定。

  • 1000時間の高温多湿試験と85℃での最大出力点追従動作下で1200時間の連続動作試験を実施。

分かったこと

  • 開発したペロブスカイト太陽電池は、0.08平方センチメートルと1.01平方センチメートルの開口面積でそれぞれ24.8%(公認24.6%)と23.2%の変換効率を達成。

  • 1000時間の高温多湿試験後に初期変換効率の98.9%を、85℃での最大出力点追従動作下で1200時間経過後に98.2%を維持。

この研究の面白く独創的なところ

  • 原子層堆積法を用いてSAMの固定化を強化するアプローチを採用した点。

  • トリメトキシシラン基を持つSAMを開発し、基板への強力な結合を実現した点。

この研究のアプリケーション

  • 長期安定性と高効率を兼ね備えたペロブスカイト太陽電池の実用化への貢献。

  • SAMの安定化技術は、他の電子デバイスへの応用も期待できる。

著者と所属
Hongcai Tang, Zhichao Shen, Yangzi Shen, Ge Yan, Yanbo Wang, Qifeng Han, Liyuan Han 上海交通大学、上海科技大学、中国科学アカデミー上海有機化学研究所

詳しい解説
ペロブスカイト太陽電池は、高い変換効率と低コストで注目されている次世代の太陽電池技術です。しかし、長期安定性の問題が実用化への障壁となっていました。特に、ペロブスカイト層と電極の間に位置する自己組織化単分子膜(SAM)のホール輸送層が、ペロブスカイト前駆体溶液中の強い極性溶媒によって脱離してしまう問題がありました。
この研究では、原子層堆積法を用いて、SAMを強固に固定化できる全共有結合性のヒドロキシル基で覆われた基板を作製しました。これにより、SAMがペロブスカイト層の下で密にパッキングされた状態を維持できるようになりました。さらに、基板に強く結合するトリメトキシシラン基を持つSAMを開発し、三座配位結合によって安定性を向上させました。
開発したペロブスカイト太陽電池は、0.08平方センチメートルと1.01平方センチメートルの開口面積でそれぞれ24.8%(公認24.6%)と23.2%の高い変換効率を達成しました。また、1000時間の高温多湿試験後に初期変換効率の98.9%を、85℃での最大出力点追従動作下で1200時間経過後に98.2%を維持し、優れた長期安定性を示しました。
この研究は、ペロブスカイト太陽電池の長期安定性と高効率を両立させる画期的な成果であり、実用化に向けて大きく前進したと言えます。また、SAMの安定化技術は、他の電子デバイスへの応用も期待できます。


分散が宿主-寄生者間の生態学的・進化的ダイナミクスを安定化する

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adg4602

この研究は、エンドウヒゲナガアブラムシとその寄生バチであるAphidius erviの関係を通して、生態学的・進化的ダイナミクスの安定性に及ぼす分散の影響を調べたものです。野外データと数理モデルから、寄生バチの分散の不均一性が時空間でアブラムシへの選択圧を変化させることが示されました。また、実験により、進化的トレードオフと適度なアブラムシの分散が、この選択圧のモザイク状の環境下で、宿主-寄生者の共存と宿主の抵抗性に関する遺伝的変異の維持を引き起こすことが明らかになりました。これらの結果は、分散が生態学的・進化的ダイナミクスの両方の安定性に寄与することを示しています。

事前情報

  • 生態学的・進化的ダイナミクスが同程度の時間スケールで起こる場合、その持続にはエネルギーと進化の両方の安定性が必要

  • これは生態学と進化学の重要な問題を結びつける:種はどのように共存し、集団内の遺伝的変異は何によって維持されるのか?

行ったこと

  • エンドウヒゲナガアブラムシが寄生バチA. erviに対して急速に抵抗性を進化させる宿主-寄生者システムを調査

  • 野外データと数理シミュレーションにより、寄生バチの分散の不均一性が宿主に対する寄生を介した選択圧の時空間的変異を生成できることを示した

  • 実験により、進化的トレードオフと宿主の適度な分散が、この選択圧のモザイク状の環境下で、宿主-寄生者の共存と宿主の抵抗性に関する遺伝的変異の維持を引き起こすことを明らかにした

検証方法

  • 野外データの収集と分析

  • 数理モデルによるシミュレーション

  • 実験による検証

分かったこと

  • 寄生バチの分散の不均一性が、時空間でアブラムシへの寄生を介した選択圧を変化させる

  • 進化的トレードオフと適度なアブラムシの分散が、選択圧のモザイク状の環境下で、宿主-寄生者の共存と宿主の抵抗性に関する遺伝的変異の維持を引き起こす

  • 分散が生態学的・進化的ダイナミクスの両方の安定性に寄与する

この研究の面白く独創的なところ
この研究は、生態学と進化学の重要な問題を結びつけ、分散が生態学的・進化的ダイナミクスの安定性に及ぼす影響を明らかにした点で独創的です。宿主-寄生者システムにおける分散の役割を、野外データ、数理モデル、実験を組み合わせて多角的に解明したアプローチは、生態学と進化学の統合的理解に貢献する優れた研究といえます。

この研究のアプリケーション
この研究の成果は、生物多様性の維持メカニズムの理解や、農業害虫の制御戦略の開発などに応用できる可能性があります。例えば、寄生バチの分散を manipulate することで、アブラムシの抵抗性進化を制御し、農作物への被害を抑えることができるかもしれません。また、生態系の安定性に及ぼす生物の分散の影響を評価する上でも、この研究の知見は重要な示唆を与えるでしょう。

著者と所属
Lucas A. Nell, Miriam Kishinevsky, Michael J. Bosch, Calvin Sinclair, Karuna Bhat, Nathan Ernst, Hamze Boulaleh, Kerry M. Oliver, Anthony R. Ives

詳しい解説
この研究は、エンドウヒゲナガアブラムシとその寄生バチであるAphidius erviの関係を通して、生態学的・進化的ダイナミクスの安定性に及ぼす分散の影響を調べたものです。
生態学と進化学の重要な問題として、種はどのように共存し、集団内の遺伝的変異は何によって維持されるのかということがあります。この研究では、まず野外データと数理モデルから、寄生バチの分散の不均一性が時空間でアブラムシへの選択圧を変化させることが示されました。つまり、寄生バチの分散パターンによって、アブラムシに対する寄生圧が場所や時間によって異なるということです。
次に、実験により、進化的トレードオフと適度なアブラムシの分散が、この選択圧のモザイク状の環境下で、宿主-寄生者の共存と宿主の抵抗性に関する遺伝的変異の維持を引き起こすことが明らかになりました。ここでの進化的トレードオフとは、アブラムシが寄生バチに対する抵抗性を獲得する代わりに繁殖力が低下することを指します。また、適度な分散とは、アブラムシが高寄生圧の場所と低寄生圧の場所の間を行き来することを意味します。
これらの結果から、分散が生態学的・進化的ダイナミクスの両方の安定性に寄与することが示唆されました。寄生バチの分散の不均一性がアブラムシへの選択圧を時空間的に変化させ、アブラムシの適度な分散と進化的トレードオフがその選択圧のモザイク状の環境下で宿主-寄生者の共存と遺伝的変異の維持を可能にするのです。
このように、この研究は生態学と進化学の重要な問題に対して、野外データ、数理モデル、実験を組み合わせた多角的なアプローチで迫り、分散の役割を明らかにした点で独創的な研究といえます。また、その成果は生物多様性の維持メカニズムの理解や農業害虫の制御戦略の開発などに応用できる可能性を持っています。


ヒトのマイナースプライセオソームによるU12型イントロンの認識機構を原子レベルで解明

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adn7272

ヒトのマイナースプライセオソームによるU12型イントロンの認識機構を、クライオ電子顕微鏡を用いて3.3オングストロームの分解能で解明した。U11というRNA分子がU12型イントロンの特定の配列を認識し、結合することを明らかにした。また、マイナースプライセオソームの詳細な分子構成も解明した。

事前情報

  • 真核生物では、遺伝情報を担うDNAからタンパク質を作る過程で、RNAからイントロンを取り除くスプライシングが必要

  • 99%以上のイントロン(U2型)はメジャースプライセオソームによって取り除かれる

  • 1%未満のイントロン(U12型)はマイナースプライセオソームによって取り除かれるが、その仕組みは不明な点が多かった

行ったこと

  • ヒトのマイナースプライセオソームがU12型イントロンを認識する直前の状態(pre-B複合体)を試験管内で再現

  • クライオ電子顕微鏡を用いて、pre-B複合体の立体構造を3.3オングストロームの分解能で解析

  • 得られた構造に基づき、マイナースプライセオソームの詳細な分子モデルを構築

検証方法

  • マイナースプライセオソームの構成成分を発現・精製し、試験管内でpre-B複合体を再構成

  • クライオ電子顕微鏡を用いて、pre-B複合体の単粒子解析を行い、立体構造を決定

  • 構造に基づき、マイナースプライセオソームの分子モデルを構築し、U12型イントロンの認識機構を解析

分かったこと

  • U11というRNA分子が、U12型イントロンの5'スプライス部位の特定の配列を認識し、結合する

  • U11の結合には、U11特異的なタンパク質(20K, 25K, 35K, 48K, 59K)とSmリングが関与する

  • マイナースプライセオソームには、メジャースプライセオソームにはない特異的なタンパク質(CENATAC, DIM2/TXNL4B)が存在する

  • マイナースプライセオソームとメジャースプライセオソームは、構造的に類似しているが、イントロン認識の仕組みが異なる

この研究の面白く独創的なところ

  • これまで原子レベルでの全容が明らかになっていなかったマイナースプライセオソームの構造を解明した点

  • U11によるU12型イントロンの特異的な認識機構を明らかにした点

  • マイナースプライセオソームとメジャースプライセオソームの構造的な類似性と相違点を明らかにした点

この研究のアプリケーション

  • マイナースプライシングの異常が関わる遺伝性疾患の原因解明や治療法の開発に貢献する可能性

  • スプライシングの分子機構の理解を深め、RNA生物学の発展に寄与する

  • 構造生物学的アプローチによる生体分子複合体の機能解明の新たな手法を提示

著者と所属
Rui Bai, Meng Yuan, Pu Zhang, Ting Luo, Yigong Shi, Ruixue Wan ぺキン大学生命科学学院、北京大学清華大学生命科学連合研究所(中国)

詳しい解説
私たちの体の中では、遺伝情報を担うDNAからタンパク質を作る過程で、RNAと呼ばれる分子が重要な役割を果たしています。DNAの情報はまずRNAに写し取られますが、このとき、タンパク質の設計図となる部分(エクソン)だけでなく、不要な部分(イントロン)も含まれています。そこで、イントロンを取り除き、エクソンをつなぎ合わせる「スプライシング」という過程が必要になります。
99%以上のイントロンは「U2型」と呼ばれ、メジャースプライセオソームという巨大な分子複合体によって取り除かれます。メジャースプライセオソームは、5種類の小さなRNA分子(snRNA)と多数のタンパク質から構成され、精巧な仕組みでU2型イントロンを認識し、切り出します。
一方、1%未満の「U12型」と呼ばれるイントロンは、マイナースプライセオソームによって取り除かれます。マイナースプライセオソームも5種類のsnRNAを含みますが、そのうち4種類はメジャースプライセオソームとは異なります。また、マイナースプライセオソームがU12型イントロンを認識する仕組みについては、これまでよくわかっていませんでした。
今回、中国の研究グループは、ヒトのマイナースプライセオソームがU12型イントロンを認識する直前の状態(pre-B複合体)を試験管内で再現することに成功しました。さらに、クライオ電子顕微鏡を用いて、pre-B複合体の立体構造を3.3オングストロームという高い分解能で解明しました。
その結果、U11というsnRNAが、U12型イントロンの5'スプライス部位の特定の配列を直接認識し、結合することがわかりました。この認識には、U11に特異的なタンパク質(20K, 25K, 35K, 48K, 59K)とSmリングと呼ばれるタンパク質複合体が重要な役割を果たしていました。また、マイナースプライセオソームには、メジャースプライセオソームにはない特異的なタンパク質(CENATAC, DIM2/TXNL4B)が存在することも明らかになりました。
興味深いことに、マイナースプライセオソームとメジャースプライセオソームは、全体的な構造が非常によく似ていました。しかし、イントロンの認識機構には明確な違いがあり、マイナースプライセオソームはU12型イントロンを、メジャースプライセオソームはU2型イントロンを特異的に認識していました。
この研究は、これまで謎に包まれていたマイナースプライセオソームの働きを原子レベルで解明した点で画期的です。また、スプライシングの分子機構の理解を深め、RNA生物学の発展に大きく寄与すると期待されます。さらに、マイナースプライシングの異常が関わる遺伝性疾患の原因解明や治療法の開発にもつながる可能性があります。
構造生物学的アプローチによって、生体内の巨大分子複合体の機能を原子レベルで解明した本研究は、今後の構造生物学研究の新たな指針となるでしょう。



急性ストレス後の一般化された不安は神経伝達物質アイデンティティの変化が原因

https://www.science.org/doi/10.1126/science.adj5996

恐怖反応の一般化は、セロトニン作動性神経細胞の神経伝達物質の種類の変化が原因

素人でもわかる面白い解説:
ストレスを受けた後、無害な状況でも恐怖を感じるようになる現象は、不安障害の大きな特徴です。この研究では、マウスを使った行動実験、分子生物学的アプローチ、電気生理学的手法により、このような「一般化された恐怖」のメカニズムを解明しました。

簡単なサマリー:
急性ストレスによる恐怖の一般化は、側翼状背側縫線核のセロトニン作動性神経細胞のサブセットにおいて、グルタミン酸からGABA(γ-アミノ酪酸)への神経伝達物質の切り替えが起こることが原因であることがわかりました。

事前情報:
不安障害患者では、無害な状況でも恐怖を感じる「一般化された恐怖」が特徴的ですが、その発症メカニズムは不明でした。

行ったこと:
マウスを使った行動実験、分子生物学的手法、電気生理学的アプローチを用いて、一般化された恐怖の神経基盤を解明しました。

検証方法:
マウスに急性ストレスを与え、その後の無害な状況での行動を観察しました。さらに、脳内の側翼状背側縫線核のセロトニン作動性神経細胞における神経伝達物質の変化を、分子生物学的手法と電気生理学的手法で解析しました。

分かったこと:
急性ストレス後、側翼状背側縫線核のセロトニン作動性神経細胞の一部で、グルタミン酸からGABAへの神経伝達物質の切り替えが起こりました。この変化により、一般化された恐怖が引き起こされることがわかりました。さらに、PTSD(心的外傷後ストレス障害)患者の剖検脳でも同様の変化が見られました。

この研究の面白く独創的なところ:
従来、不安障害の研究はモノアミン系の変化に焦点が当てられていましたが、この研究ではセロトニン作動性神経細胞自体の神経伝達物質の変化に着目した点が独創的です。

この研究のアプリケーション:
この発見は、不安障害の新しい治療標的の開発につながる可能性があります。神経伝達物質の切り替えを阻害することで、一般化された恐怖を防ぐことができるかもしれません。

著者と所属:
Hui-Quan Li, Wuji Jiang, Li Ling, Marta Pratelli, Cong Chen, Vaidehi Gupta, Swetha K. Godavarthi, Nicholas C. Spitzer
詳細な解説

不安障害患者では、実際に危険のない無害な状況でも過剰な恐怖を感じてしまう「一般化された恐怖」が特徴的です。しかし、この一般化された恐怖が引き起こされるメカニズムは長らく不明でした。
本研究では、マウスを用いた行動実験から、急性ストレスを受けた後に無害な状況でも恐怖行動を示す「一般化された恐怖」モデルを作製しました。そして、この一般化された恐怖の神経基盤を解明するため、分子生物学的手法と電気生理学的手法を用いて側翼状背側縫線核のセロトニン作動性神経細胞を詳細に解析しました。
その結果、急性ストレス後にこれらの神経細胞の一部で、主要な興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸から抑制性神経伝達物質のGABA(γ-アミノ酪酸)への神経伝達物質の切り替えが起こっていることがわかりました。さらに、この神経伝達物質の切り替えを阻害すると、一般化された恐怖が防げることも明らかになりました。
興味深いことに、PTSD患者の剖検脳でも同様の神経伝達物質の切り替えが見られたことから、この機構が人間の不安障害にも関与している可能性が示唆されました。
従来の不安障害研究ではモノアミン系の変化に着目されていましたが、本研究ではセロトニン作動性神経細胞自体の性質の変化に着目した点が独創的です。この発見は、神経伝達物質の切り替えを標的とした新しい不安障害治療薬の開発につながる可能性があります。




最後に
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