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論文まとめ285回目 Nature 300時間以上の長時間連続アンモニア電解合成を実現!?など

科学・社会論文を雑多/大量に調査する為、定期的に、さっくり表面がわかる形で網羅的に配信します。今回もマニアックなNatureです。

さらっと眺めると、事業・研究のヒントにつながるかも。
世界の先端はこんな研究してるのかと認識するだけでも、
ついつい狭くなる視野を広げてくれます。


一口コメント

Compensatory evolution in NusG improves fitness of drug-resistant M. tuberculosis
NusGにおける補償的な進化は、薬剤耐性結核菌の適応度を改善する
「結核菌がリファンピシンという抗生物質に耐性を獲得すると、通常は増殖速度が遅くなるなどの適応度の低下が見られます。しかし、耐性結核菌では、NusGという因子に変異が入ることで、RNA合成の一時停止が減少し、適応度が回復することが明らかになりました。これは、薬剤耐性菌が生存するための巧妙な適応メカニズムの一つと言えます。」

Global prediction of extreme floods in ungauged watersheds
観測データの乏しい流域における極端な洪水の全球予測
「洪水は世界中で頻発する自然災害の一つですが、特に発展途上国では水文データが不足しているため、正確な洪水予測が困難でした。本研究では、人工知能を用いることで、水文データが乏しい地域でも、最大5日先までの極端な洪水を、現在の最先端モデルと同等以上の精度で予測できることを示しました。これにより、これまで以上に早期の洪水警報と、より大規模で影響の大きな洪水への対策が可能になります。」

Benchmarking highly entangled states on a 60-atom analogue quantum simulator
60原子アナログ量子シミュレーターにおける高度にエンタングルした状態のベンチマーク
「量子コンピューターが発展するにつれ、古典コンピューターでは高度にエンタングルした量子状態を正確に表現することが難しくなっています。本研究では、60個の原子を使ったアナログ量子シミュレーターを用いて、古典コンピューターでは実用的に不可能な高いエンタングルメント領域での忠実度評価と混合状態エンタングルメント推定を行いました。その結果、このシミュレーターが最先端のデジタル量子デバイスと競合することが明らかになりました。また、実験の忠実度が古典アルゴリズムを上回ることを示し、量子と古典の性能差が広がりつつあることを浮き彫りにしました。」

Pattern formation by turbulent cascades
乱流カスケードによるパターン形成
「一見無秩序に見える乱流の中にも、実は規則性を生み出す力が隠れていました。本研究では、乱流のエネルギーが大きなスケールから小さなスケールへと流れる「乱流カスケード」を巧みに操ることで、特定の波長を持つパターンを形成できることを発見しました。奇妙な粘性を持つ流体など、様々な系でこの現象が起こりうることが示唆されています。乱流の無秩序さの中から秩序を生み出す、自然の驚くべき力を垣間見ることができる研究です。」

Role of IL-27 in Epstein–Barr virus infection revealed by IL-27RA deficiency
IL-27RA欠損症によって明らかになったEBウイルス感染におけるIL-27の役割
「EBウイルスは、伝染性単核球症などの自己限定的なリンパ増殖性疾患を引き起こすウイルスです。今回の研究で、IL-27受容体αをコードする遺伝子(IL27RA)の機能喪失変異が、重篤な初感染を引き起こすことがわかりました。興味深いことに、IL-27はEBウイルス感染B細胞によって産生され、EBウイルス transformed B細胞の維持に必要であることから、IL-27RA欠損症の患者では最終的に良好な転帰をたどることが説明できます。つまり、IL-27は生体防御に重要な役割を果たす一方で、ウイルスによって悪用されていたのです。」

Long-term continuous ammonia electrosynthesis
長時間連続アンモニア電解合成
「アンモニアは肥料や化学工業に不可欠な物質であり、カーボンフリーな燃料としても注目されています。従来のハーバー・ボッシュ法に代わる新しい方法として、常温常圧下で窒素からアンモニアを電解合成する手法が期待されています。特に、リチウムを媒介とした窒素還元(Li-NRR)は、窒素還元と水素酸化を組み合わせた連続的なアンモニア電解合成に有望です。しかし、一般的に使用されるテトラヒドロフラン(THF)溶媒は、重合と揮発性の問題により長時間のアンモニア生産を妨げていました。今回の研究では、チェーンエーテル系溶媒を用いることで、この問題を解決し、300時間以上の長時間連続アンモニア合成を実現しました。この溶媒は重合しにくく、沸点が162°Cと高く、ガス拡散電極(GDE)上に緻密な固体電解質界面(SEI)層を形成するため、気相でのアンモニア放出を促進し、電解質の安定性を確保します。常圧・室温下で25 cm2の電極を用いたフロー電解槽で300時間の連続運転を実証し、64 ± 1%の電流-アンモニア効率と、これまでにない約98%の気相アンモニア含有量を達成しました。この研究は、長時間連続アンモニア合成における溶媒の重要性を強調しています。」

Structural insights into vesicular monoamine storage and drug interactions
小胞モノアミン貯蔵と薬物相互作用の構造的洞察
「神経伝達物質であるモノアミンは、小胞モノアミントランスポーター(VMAT)によって分泌小胞に濃縮され、必要に応じて放出されます。VMANは、モノアミンを1万倍に濃縮し、神経毒性物質から神経を保護する役割も果たします。今回、ヒトVMAT1の8つの立体構造が明らかになり、モノアミンや薬物との結合の仕組みが解明されました。VMAT1は、細胞質に開いた状態と小胞内腔に開いた状態を取ることができ、小胞内腔に開いた状態がモノアミンの蓄積に有利であることがわかりました。また、プロトン化によって細胞質に開いた状態への移行が促進され、同時にモノアミンの結合が阻害されることで、意図しないモノアミンの枯渇を防いでいることが明らかになりました。これらの知見は、神経変性疾患や薬物乱用の治療に役立つ新薬の開発に貢献すると期待されます。」


要約

リファンピシン耐性結核菌の適応度を回復させるNusGの補償進化

リファンピシン耐性結核菌では、RNA合成の一時停止と終結が過剰に起こり、適応度が低下する。しかし、耐性株ではNusGやRNAポリメラーゼのβサブユニットに変異が生じ、一時停止と終結が減少することで適応度が回復する。この補償的な進化メカニズムの解明は、薬剤耐性菌の進化を遅らせる新たな治療戦略の開発に役立つ可能性がある。

事前情報
・リファンピシンは結核治療の中心的な抗生物質である。
・リファンピシン耐性結核菌は世界的に問題となっており、治療が困難である。
・薬剤耐性株は薬剤感受性株と比較して適応度が低下していることが多い。

行ったこと
・リファンピシン感受性株と耐性株でCRISPRi感受性の違いを網羅的に解析した。
・NusGやRNAポリメラーゼのβサブユニットの変異が耐性株で正の選択を受けていることを見出した。
・NusG変異株を作製し、RNAポリメラーゼの一時停止と終結への影響を解析した。

検証方法
・CRISPRiスクリーニングにより、薬剤感受性株と耐性株で遺伝子の感受性を比較 ・臨床分離株のゲノム解析により、薬剤耐性に関連する変異を同定
・変異型NusGを用いたin vitro転写アッセイにより、一時停止と終結への影響を評価
・NusG変異株の競合アッセイにより、変異の適応度への影響を解析

分かったこと
・リファンピシン耐性株では、NusGやRNAポリメラーゼのβサブユニットに変異が蓄積する。
・これらの変異により、RNAポリメラーゼの一時停止と終結が減少し、耐性株の適応度が回復する。
・NusGは本来、RNAポリメラーゼの一時停止を促進する機能を持つが、変異によりその機能が抑制される。
・リファンピシン耐性に関連するRNAポリメラーゼの変異は、一時停止と終結を過剰に引き起こす。

この研究の面白く独創的なところ
・従来、薬剤耐性株の適応度低下のメカニズムは不明な点が多かったが、本研究はRNAポリメラーゼの一時停止と終結の過剰が原因の一つであることを明らかにした。
・薬剤耐性株における補償的な進化のメカニズムを、NusGとRNAポリメラーゼの変異という分子レベルで解明した点が画期的である。
・CRISPRiスクリーニングと臨床分離株のゲノム解析を組み合わせることで、薬剤耐性に関連する新たな変異を同定した。

この研究のアプリケーション
・薬剤耐性結核菌の進化を遅らせる新たな治療戦略の開発に活用できる可能性がある。
・RNAポリメラーゼの一時停止を促進する薬剤との併用により、耐性菌の出現を抑制できるかもしれない。
・NusGやRNAポリメラーゼの変異を検出することで、耐性菌の伝播リスクを評価できる可能性がある。

著者と所属
Kathryn A. Eckartt, Madeleine Delbeau, Vanisha Munsamy-Govender, Michael A. DeJesus, Zachary A. Azadian, Abhijna K. Reddy, Joshua Chandanani, Nicholas C. Poulton, Stefany Quiñones-Garcia, Barbara Bosch, Robert Landick, Elizabeth A. Campbell & Jeremy M. Rock

詳しく解説
リファンピシンは結核治療に欠かせない抗生物質ですが、リファンピシン耐性結核菌の出現が世界的な問題となっています。一般的に、薬剤耐性菌は薬剤感受性菌と比較して増殖速度が遅いなど、適応度が低下しています。本研究では、この適応度の低下が、リファンピシン耐性に関連するRNAポリメラーゼの変異により、RNA合成の一時停止と終結が過剰に起こることが原因の一つであることを明らかにしました。
興味深いことに、リファンピシン耐性結核菌では、NusGというRNA合成の調節因子やRNAポリメラーゼのβサブユニットに変異が蓄積していました。これらの変異は、RNAポリメラーゼの一時停止と終結を減少させることで、耐性菌の適応度を回復させていたのです。特にNusGは本来、RNAポリメラーゼの一時停止を促進する機能を持っていますが、変異によりその機能が抑制されていました。
本研究では、CRISPRiスクリーニングと臨床分離株のゲノム解析を組み合わせることで、これらの変異を同定しました。また、変異型NusGを用いたin vitro転写アッセイや、NusG変異株の競合アッセイにより、変異がRNAポリメラーゼの機能と適応度に与える影響を明らかにしました。
これらの結果は、薬剤耐性菌の適応度低下のメカニズムと、その補償的な進化のプロセスを分子レベルで解明した点で非常に重要な発見です。今後、この知見を活用することで、薬剤耐性結核菌の進化を遅らせる新たな治療戦略の開発や、耐性菌の伝播リスクの評価などに役立つことが期待されます。


AIを用いて水文データの乏しい流域での極端な洪水を高精度に予測

人工知能を用いることで、水文データが不足している地域でも、最大5日先までの極端な洪水を高精度に予測できることを示した。また、5年に1度の規模の洪水について、現在の1年に1度の規模の洪水と同等以上の精度で予測可能であった。この研究成果を活用し、80カ国以上で無料の洪水予測システムが運用されている。今後、さらに信頼性の高い洪水予測のためには、水文データの公開と共有が重要である。

事前情報
・洪水は世界で最も一般的な自然災害の一つであり、特に発展途上国で大きな被害をもたらしている。
・早期警報システムは洪水リスクの軽減に効果的だが、水文予測モデルには長期の観測データによるキャリブレーションが必要とされてきた。
・世界の流域の数パーセントしか水文観測所がなく、その分布は世界的に不均一である。

行ったこと
・人工知能(LSTM)を用いた7日先までの河川流量予測モデルを開発した。
・5,680地点の水文データを用いて、時間的・空間的に未知のデータでのモデル性能を評価した。
・開発したモデルと現在の最先端モデル(GloFAS)の性能を比較した。

検証方法
・k-fold交差検証により、時間的・空間的に未知のデータでのモデル性能を評価。 ・大陸別、気候区分別、流域別の交差検証も実施。 ・1年、2年、5年、10年の再現期間の洪水に対する適合率、再現率、F1スコアを算出。 ・洪水予測の信頼性を流域の地理的・地球物理学的属性から予測可能かを検証。

分かったこと
・人工知能モデルは、現在の最先端モデルと比べ、最大5日先までの極端な洪水の予測精度が同等以上。
・人工知能モデルは、5年に1度の規模の洪水を、現在の1年に1度の規模の洪水と同等以上の精度で予測可能。
・両モデルとも、地域による予測精度の差が大きく、水文データの公開・共有により改善の余地がある。
・流域の属性から個々のモデルの予測精度を予測することは可能だが、どちらのモデルが優れているかの予測は困難。

この研究の面白く独創的なところ
・人工知能を用いることで、水文データが乏しい地域でも高精度な洪水予測が可能になった点。
・5年に1度の規模の洪水まで、現在の1年に1度の規模の洪水と同等以上の精度で予測できた点。
・開発したモデルを活用し、80カ国以上で無料の洪水予測システムが運用されている点。
・流域属性からモデルの予測精度を予測する手法を示した点。

この研究のアプリケーション
・水文データが不足している地域での洪水対策の改善。
・早期警報システムによる洪水被害の軽減。
・気候変動に伴う極端な洪水のリスク評価。
・流域管理や土地利用計画への活用。

著者と所属
Grey Nearing, Deborah Cohen, Vusumuzi Dube, Martin Gauch, Oren Gilon, Shaun Harrigan, Avinatan Hassidim, Daniel Klotz, Frederik Kratzert, Asher Metzger, Sella Nevo, Florian Pappenberger, Christel Prudhomme, Guy Shalev, Shlomo Shenzis, Tadele Yednkachw Tekalign, Dana Weitzner & Yossi Matias

詳しく解説
洪水は世界中で発生する最も一般的な自然災害の一つであり、特に発展途上国において深刻な被害をもたらしています。洪水による被害を軽減するためには、正確かつタイムリーな洪水予測が不可欠ですが、従来の水文予測モデルでは、各流域の長期にわたる水文観測データを用いたキャリブレーションが必要とされてきました。
しかし、世界の流域のごく一部にしか水文観測所が設置されておらず、その分布も均一ではありません。特に、洪水による被害が大きい発展途上国では、水文データが非常に乏しいのが現状です。
本研究では、人工知能(LSTM)を用いて、水文データが不足している地域でも高精度な洪水予測を可能にするモデルを開発しました。このモデルは、最大5日先までの河川流量を予測することができ、5,680地点の水文データを用いた交差検証により、時間的・空間的に未知のデータに対しても高い性能を発揮することが示されました。
特に注目すべきは、開発したモデルが、現在の最先端モデル(GloFAS)と比較して、最大5日先までの極端な洪水(5年に1度の規模の洪水)の予測精度が同等以上だったことです。これは、人工知能を用いることで、これまで以上に早期の洪水警報と、より大規模で影響の大きな洪水への対策が可能になることを意味しています。
また、本研究では、流域の地理的・地球物理学的属性から、個々のモデルの洪水予測の信頼性を予測する手法も示されました。ただし、どちらのモデルが優れているかを予測することは困難であり、両モデルとも地域による予測精度の差が大きいことが明らかになりました。
この研究成果を活用し、現在、80カ国以上で無料の洪水予測システムが運用されています。今後、さらに信頼性の高い洪水予測を実現するためには、水文データの公開と共有が重要だと著者らは指摘しています。
本研究は、人工知能を用いることで、水文データが乏しい地域でも高精度な洪水予測が可能になることを示した画期的な成果であり、世界中の洪水対策の改善に大きく貢献すると期待されます。


60原子アナログ量子シミュレーターにおける高度にエンタングルした状態のベンチマーク

古典コンピューターでは実用的に表現が困難な高度にエンタングルした状態について、60原子のアナログ量子シミュレーターを用いて忠実度評価と混合状態エンタングルメント推定を行った。その結果、このシミュレーターは最先端のデジタル量子デバイスと競合する性能を示した。また、実験の忠実度が古典アルゴリズムを上回ることを明らかにし、量子と古典の性能差が広がりつつあることを示唆した。この研究は、アナログ・デジタル両方の量子デバイスの評価に新たなモデルを提供するものである。

事前情報
・量子システムは、古典コンピューターが高度にエンタングルした量子状態を正確に表現するのが困難な領域に入っている。
・これまで、古典的に正確なシミュレーションができない領域での忠実度比較は、デジタル量子デバイスに限られていた。
・実験で生成される混合状態のエンタングルメント量を推定することは、これまで未解決の問題であった。

行ったこと
・60原子のアナログリドベルグ量子シミュレーターを用いて、忠実度のベンチマークと混合状態エンタングルメント推定を行った。
・エンタングルメント制限付きの近似古典アルゴリズムとの比較から外挿する忠実度評価プロトコルを導入した。
・実験で得られる混合状態のエンタングルメントを推定する指標を開発・実証した。

検証方法
・システムサイズ、進化時間、シミュレーションのエンタングルメント制限を変化させながら、近似古典アルゴリズムとの比較を行った。
・忠実度と理想的な目標純粋状態のエンタングルメントから、実験の混合状態エンタングルメントを推定する指標を導出した。
・実験の忠実度を様々な近似古典アルゴリズムと比較し、新たに導入したLightcone-MPSアルゴリズムのみが実験に追従できることを示した。

分かったこと
・60原子のアナログ量子シミュレーターが、最先端のデジタル量子デバイスと競合する性能を持つことが明らかになった。
・実験の混合状態エンタングルメントを推定する指標を開発し、この指標が実験の性能評価に有効であることを示した。
・実験の忠実度が古典アルゴリズムを上回り、量子と古典の性能差が広がりつつあることが示唆された。
・古典コストは実験の単原子忠実度に敏感であり、量子の忠実度が少し向上するだけで、実験が古典の手の届かない領域に入ることが予測された。

この研究の面白く独創的なところ
・アナログ量子シミュレーターを用いて、古典的に正確なシミュレーションが不可能な領域での忠実度評価を行った点。
・近似古典シミュレーションからの外挿により、アナログ量子シミュレーターのグローバルな忠実度推定の範囲を広げた点。
・実験で得られる混合状態のエンタングルメントを推定する普遍的な指標を開発した点。
・量子デバイスと古典アルゴリズムの性能を直接比較し、量子の優位性が広がりつつあることを示した点。

この研究のアプリケーション
・アナログ・デジタル両方の量子デバイスの性能評価に新たなモデルを提供。
・量子デバイスの改善に向けた指針となる普遍的な性能指標の提案。
・量子と古典の性能差を定量化し、量子デバイスの潜在的な計算能力を示唆。
・高次元システムを用いることで、古典アルゴリズムにとってさらに困難な課題を提供。

著者と所属
Adam L. Shaw, Zhuo Chen, Joonhee Choi, Daniel K. Mark, Pascal Scholl, Ran Finkelstein, Andreas Elben, Soonwon Choi & Manuel Endres

詳しく解説
量子コンピューターの発展に伴い、古典コンピューターでは高度にエンタングルした量子状態を正確に表現することが困難になりつつあります。この古典的に正確なシミュレーションができない領域での量子デバイスの性能評価は、これまでデジタル量子デバイスに限られており、アナログ量子シミュレーターでの実証はありませんでした。また、実験で生成される混合状態のエンタングルメント量を推定することも未解決の問題でした。
本研究では、60個の原子を用いたアナログリドベルグ量子シミュレーターを使って、古典コンピューターでは実用的に表現が困難な高度にエンタングルした状態について、忠実度のベンチマークと混合状態エンタングルメント推定を行いました。
忠実度評価では、エンタングルメント制限付きの近似古典アルゴリズムとの比較を、システムサイズ、進化時間、シミュレーションのエンタングルメント制限を変化させながら行い、そこから忠実度を外挿するプロトコルを導入しました。これにより、アナログ量子シミュレーターのグローバルな忠実度推定の範囲を、古典的に正確なシミュレーションができない領域にまで広げることに成功しました。
また、実験で得られる混合状態のエンタングルメントを推定する指標を開発し、実証しました。この指標は、実験の忠実度と理想的な目標純粋状態のエンタングルメントから計算され、実験の性能評価に有効であることが示されました。
さらに、実験の忠実度を様々な近似古典アルゴリズムと比較した結果、新たに導入したLightcone-MPSアルゴリズムのみが実験に追従できることが明らかになりました。これは、量子デバイスの性能が古典アルゴリズムを上回り始めていることを示唆しています。
興味深いことに、古典シミュレーションのコストは実験の単原子忠実度に非常に敏感であり、量子デバイスの忠実度が少し向上するだけで、実験が古典の手の届かない領域に入ることが予測されました。
本研究は、アナログ・デジタル両方の量子デバイスの性能評価に新たなモデルを提供し、量子デバイスの改善に向けた指針となる普遍的な性能指標を提案しました。また、量子と古典の性能差を直接比較し、量子の優位性が広がりつつあることを明らかにしました。
今後、高次元システムを用いることで、古典アルゴリズムにとってさらに困難な課題を提供し、量子デバイスの潜在的な計算能力を探求していくことが期待されます。


乱流カスケードを利用したパターン形成

乱流カスケードを非散逸的に停止させることで、システムサイズでも最小スケールでもない中間スケールにエネルギーが蓄積し、パターンが形成されることを発見した。奇粘性流体などの様々な系でこの現象が起こりうることを示唆した。乱流の無秩序さの中から秩序を生み出す新しいメカニズムを提示した研究である。

事前情報
・乱流は大きなスケールから小さなスケールへとエネルギーが流れる「乱流カスケード」を示す。
・乱流カスケードは、エネルギー注入スケールと散逸スケールを除いて、普遍的でスケール不変である。
・パターン形成は通常、均一状態の線形不安定性に由来する。

行ったこと
・理論と大規模シミュレーションを組み合わせて、乱流カスケードの非散逸的停止によるパターン形成メカニズムを提案した。
・奇粘性流体において、このメカニズムが機能することを示した。
・大気流、恒星プラズマ、物体の粉砕・凝集など、他の系への応用可能性を議論した。

検証方法
・ナビエ・ストークス方程式に奇粘性項を加えた方程式の直接数値シミュレーションを行った。
・エネルギースペクトル、エネルギーフラックス、渦度場の可視化などにより、波長選択とパターン形成を確認した。
・スケーリング理論を用いて、パターンの特徴的スケールを予測し、シミュレーションと比較した。

分かったこと
・順カスケードと逆カスケードを適切に組み合わせると、中間スケールでエネルギーが蓄積し、パターンが形成される。
・奇粘性は、コリオリ力のようにスケール依存的に働き、小スケールで2次元化を引き起こす。
・奇粘性の効果により、順カスケードと逆カスケードが特定のスケールで停止し、エネルギーが蓄積する。
・パターンの特徴的波長は、奇粘性と通常粘性の比に依存する。

この研究の面白く独創的なところ
・一見無秩序な乱流カスケードを利用してパターンを形成する新しいメカニズムを提示した。
・線形不安定性に頼らない、完全に非線形なパターン形成メカニズムを明らかにした。
・奇粘性という非散逸的な輸送係数の役割を明らかにした。
・乱流の普遍性を利用して、様々な系にこのメカニズムを適用できる可能性を示した。

この研究のアプリケーション
・奇粘性流体(生物活性流体、量子流体など)におけるパターン形成の理解。
・大気流、恒星プラズマなどの自然界の流れにおけるパターン形成の説明。
・物体の粉砕や液滴の凝集など、質量カスケードを伴う系へのメカニズムの適用。
・乱流制御や混合制御への応用の可能性。

著者と所属
Xander M. de Wit, Michel Fruchart, Tali Khain, Federico Toschi & Vincenzo Vitelli

詳しく解説
乱流は、エネルギーが大きなスケールから小さなスケールへと流れる「乱流カスケード」を示します。この乱流カスケードは、エネルギー注入スケールと散逸スケールを除いて、普遍的でスケール不変であると考えられてきました。一方、パターン形成は通常、均一状態の線形不安定性に由来するものとして理解されてきました。
本研究では、これらの常識を覆す新しいパターン形成メカニズムを提示しました。それは、乱流カスケードを非散逸的に停止させることで、システムサイズでも最小スケールでもない中間スケールにエネルギーが蓄積し、パターンが形成されるというものです。
具体的には、奇粘性流体において、このメカニズムが機能することを示しました。奇粘性は、コリオリ力のようにスケール依存的に働き、小スケールで流れの2次元化を引き起こします。この奇粘性の効果により、順カスケードと逆カスケードが特定のスケールで停止し、エネルギーが蓄積するのです。
著者らは、ナビエ・ストークス方程式に奇粘性項を加えた方程式の直接数値シミュレーションを行い、エネルギースペクトル、エネルギーフラックス、渦度場の可視化などにより、波長選択とパターン形成を確認しました。さらに、スケーリング理論を用いて、パターンの特徴的スケールを予測し、シミュレーションと比較することで、理論の妥当性を検証しました。
本研究の面白く独創的なところは、一見無秩序な乱流カスケードを利用してパターンを形成する新しいメカニズムを提示した点です。これは、線形不安定性に頼らない、完全に非線形なパターン形成メカニズムであり、奇粘性という非散逸的な輸送係数の役割を明らかにしました。さらに、乱流の普遍性を利用して、大気流、恒星プラズマ、物体の粉砕・凝集など、様々な系にこのメカニズムを適用できる可能性を示しました。
この研究は、乱流の無秩序さの中から秩序を生み出す自然の驚くべき力を明らかにしたと言えます。今後、奇粘性流体におけるパターン形成の理解、自然界の流れやカスケード現象の説明、さらには乱流制御や混合制御への応用など、様々な発展が期待されます。


IL-27受容体α欠損症により、EBウイルス感染におけるIL-27の役割が明らかになった

IL27RA遺伝子の機能喪失変異により、重篤な初感染が起こるが、最終的に良好な転帰をたどることが明らかになった。IL-27はEBウイルス感染B細胞から産生され、EBウイルス transformed B細胞の維持に必要である。IL-27は生体防御に重要な役割を果たす一方、ウイルスによって悪用されていることが示された。

事前情報
・EBウイルス感染は、重篤なB細胞リンパ増殖性疾患を引き起こす可能性がある。 ・初感染は無症候性か伝染性単核球症を引き起こす。 ・T細胞の抗EBウイルス免疫を損なう遺伝子変異が、EBウイルスへの選択的脆弱性と関連している。

行ったこと
・IL27RA遺伝子の両アレル性機能喪失変異が、最小限の治療を必要とする重篤な初感染の原因であることを報告した。
・IL-27RAが欠損するとT細胞でのIL-27によるSTAT1およびSTAT3のリン酸化が消失することを示した。
・IL-27RAを欠損した患者の細胞では、IL-27によるT細胞受容体依存性T細胞増殖の相乗効果が損なわれ、強力な抗EBウイルスエフェクターCD8+ T細胞の拡大が障害されることを明らかにした。

検証方法
・IL27RA遺伝子変異を持つ患者の臨床的特徴を解析した。
・IL27RA欠損患者由来のT細胞を用いて、IL-27シグナル伝達および機能を in vitro で解析した。
・散発性伝染性単核球症および慢性EBウイルス感染患者における中和抗IL-27自己抗体の存在を調べた。

分かったこと
・IL27RA遺伝子の機能喪失変異により、重篤なEBウイルス初感染が起こるが、最終的に良好な転帰をたどる。
・IL-27はT細胞受容体依存性T細胞増殖に相乗効果を及ぼし、IL-27RA欠損症ではその効果が損なわれる。
・IL-27はEBウイルス感染B細胞によって産生され、IL-27RA-IL-27のオートクライン・ループはEBウイルス transformed B細胞の維持に必要である。
・散発性伝染性単核球症および慢性EBウイルス感染患者の多くで、中和抗IL-27自己抗体が同定された。

この研究の面白く独創的なところ
・IL-27RA欠損症が重篤なEBウイルス初感染を引き起こすが、最終的に良好な転帰をたどるというパラドックスを明らかにした。
・IL-27がEBウイルス感染B細胞によって産生され、ウイルスによって悪用されていることを示した。
・中和抗IL-27自己抗体が散発性伝染性単核球症や慢性EBウイルス感染と関連していることを見出した。

この研究のアプリケーション
・IL-27RA-IL-27シグナル伝達経路を標的とした、EBウイルス感染症の新たな治療法の開発。
・IL-27RA欠損症の遺伝子診断による、重篤なEBウイルス感染リスクの予測。
・中和抗IL-27自己抗体の検出による、EBウイルス関連疾患の診断および病態解明。

著者と所属
Emmanuel Martin, Sarah Winter, Cécile Garcin, Kay Tanita, Akihiro Hoshino, Christelle Lenoir, Benjamin Fournier, Mélanie Migaud, David Boutboul, Mathieu Simonin, Alicia Fernandes, Paul Bastard, Tom Le Voyer, Anne-Laure Roupie, Yassine Ben Ahmed, Marianne Leruez-Ville, Marianne Burgard, Geetha Rao, Cindy S. Ma, Cécile Masson, Claire Soudais, Capucine Picard, Jacinta Bustamante, Stuart G. Tangye, … Sylvain Latour

詳しく解説
EBウイルス感染は、伝染性単核球症などの自己限定的なリンパ増殖性疾患から、重篤なB細胞リンパ増殖性疾患まで、様々な病態を引き起こします。今回の研究では、IL-27受容体αをコードする遺伝子(IL27RA)の両アレル性機能喪失変異が、最小限の治療を必要とする重篤な初感染の原因であることが明らかになりました。
IL-27RAが欠損すると、T細胞でのIL-27によるSTAT1およびSTAT3のリン酸化が消失します。In vitro の解析から、IL-27RAを欠損した患者の細胞では、IL-27によるT細胞受容体依存性T細胞増殖の相乗効果が損なわれ、強力な抗EBウイルスエフェクターCD8+ T細胞の拡大が障害されることが示されました。
興味深いことに、IL-27はEBウイルス感染B細胞によって産生され、IL-27RA-IL-27のオートクライン・ループはEBウイルス transformed B細胞の維持に必要であることが明らかになりました。このことは、IL-27RA欠損症の患者で最終的に良好な転帰をたどることを説明していると考えられます。
さらに、散発性伝染性単核球症や慢性EBウイルス感染患者の多くで、中和抗IL-27自己抗体が同定されました。
これらの結果は、IL-27RA-IL-27がEBウイルスに対する免疫において重要な役割を果たしていることを示しています。一方で、EBウイルスはこの防御機構を悪用して、感染・transformed B細胞の拡大を促進していることが明らかになりました。
本研究は、IL-27RA欠損症が重篤なEBウイルス初感染を引き起こすが、最終的に良好な転帰をたどるというパラドックスを明らかにしただけでなく、IL-27がEBウイルスによって悪用されていることを示した点で非常に興味深いと言えます。
今後、IL-27RA-IL-27シグナル伝達経路を標的とした新たなEBウイルス感染症の治療法の開発や、IL-27RA欠損症の遺伝子診断による重篤なEBウイルス感染リスクの予測、中和抗IL-27自己抗体の検出によるEBウイルス関連疾患の診断および病態解明などへの応用が期待されます。



チェーンエーテル系電解液を用いた長時間連続アンモニア電解合成の実現

チェーンエーテル系溶媒を用いることで、300時間以上の長時間連続アンモニア電解合成を実現した。この溶媒は重合しにくく、沸点が高く、ガス拡散電極上に緻密なSEI層を形成するため、気相でのアンモニア放出を促進し、電解質の安定性を確保する。25 cm2の電極を用いたフロー電解槽で64 ± 1%の電流-アンモニア効率と約98%の気相アンモニア含有量を達成した。

事前情報
・アンモニアは肥料や化学工業に不可欠であり、カーボンフリーな燃料としても注目されている。
・常温常圧下での窒素からのアンモニア電解合成は、ハーバー・ボッシュ法の代替として期待されている。
・リチウムを媒介とした窒素還元(Li-NRR)は、連続的なアンモニア電解合成に有望だが、THF溶媒の重合と揮発性の問題により長時間の生産が妨げられていた。

行ったこと
・チェーンエーテル系溶媒を用いた長時間連続アンモニア電解合成を行った。
・25 cm2の電極を用いたフロー電解槽で300時間の連続運転を実証した。
・電流-アンモニア効率と気相アンモニア含有量を評価した。

検証方法
・チェーンエーテル系溶媒の非重合特性、沸点、SEI層形成能力を調べた。
・フロー電解槽を用いて長時間連続アンモニア電解合成を行い、電流-アンモニア効率と気相アンモニア含有量を測定した。

分かったこと
・チェーンエーテル系溶媒は重合しにくく、沸点が162°Cと高い。 ・この溶媒はガス拡散電極上に緻密なSEI層を形成し、気相でのアンモニア放出を促進し、電解質の安定性を確保する。
・常圧・室温下で25 cm2の電極を用いたフロー電解槽で300時間の連続運転が可能であり、64 ± 1%の電流-アンモニア効率と約98%の気相アンモニア含有量を達成した。

この研究の面白く独創的なところ
・チェーンエーテル系溶媒を用いることで、長時間連続アンモニア電解合成の課題を解決した点。
・常圧・室温下での高効率かつ高濃度のアンモニア生成を実現した点。
・溶媒の重要性に着目し、新しい電解液系を開発した点。

この研究のアプリケーション
・持続可能なアンモニア生産プロセスの開発。
・カーボンフリーな燃料や化学原料としてのアンモニアの利用拡大。
・電解合成技術の他の化学品製造への応用。

著者と所属
Shaofeng Li, Yuanyuan Zhou, Xianbiao Fu, Jakob B. Pedersen, Mattia Saccoccio, Suzanne Z. Andersen, Kasper Enemark-Rasmussen, Paul J. Kempen, Christian Danvad Damsgaard, Aoni Xu, Rokas Sažinas, Jon Bjarke Valbæk Mygind, Niklas H. Deissler, Jakob Kibsgaard, Peter C. K. Vesborg, Jens K. Nørskov & Ib Chorkendorff

詳しく解説
アンモニアは、肥料や化学工業において不可欠な物質であり、カーボンフリーな燃料としても注目を集めています。従来のアンモニア生産方法であるハーバー・ボッシュ法に代わる新しい手法として、常温常圧下で窒素からアンモニアを電解合成する方法が期待されています。特に、リチウムを媒介とした窒素還元(Li-NRR)は、窒素還元と水素酸化を組み合わせることで、連続的なアンモニア電解合成を可能にする有望なアプローチです。
しかし、Li-NRRにおいて一般的に使用されるテトラヒドロフラン(THF)溶媒は、重合と揮発性の問題により長時間のアンモニア生産を妨げていました。THFは長時間の使用により重合が進行し、電解質の性能が低下してしまいます。また、THFの揮発性が高いため、アンモニアとともに気化してしまい、効率的な回収が困難でした。
今回の研究では、チェーンエーテル系溶媒を用いることで、これらの問題を解決し、300時間以上の長時間連続アンモニア合成を実現しました。使用したチェーンエーテル系溶媒は、重合しにくい性質を示し、沸点が162°Cと高いため、長時間の使用に適しています。さらに、この溶媒はガス拡散電極(GDE)上に緻密な固体電解質界面(SEI)層を形成します。SEI層は、電解質とGDEの界面において安定な保護膜として機能し、電解質の分解を抑制します。また、SEI層はアンモニアの気相への放出を促進するため、効率的な回収が可能になります。
研究チームは、25 cm2の電極を用いたフロー電解槽を使用し、常圧・室温下で300時間の連続運転を実証しました。その結果、64 ± 1%という高い電流-アンモニア効率を達成し、生成したアンモニアの約98%が気相中に含まれていることを確認しました。これは、これまでのアンモニア電解合成では達成されなかった高い効率と濃度です。
本研究は、長時間連続アンモニア合成における溶媒の重要性を明らかにし、チェーンエーテル系溶媒が優れた性能を示すことを実証しました。この新しい電解液系の開発は、持続可能なアンモニア生産プロセスの実現に向けた大きな一歩であると言えます。今後、このアプローチをさらに発展させることで、カーボンフリーな燃料や化学原料としてのアンモニアの利用拡大が期待されます。また、この電解合成技術は、アンモニア以外の化学品製造にも応用可能であり、幅広い産業分野での貢献が期待されます。



小胞モノアミントランスポーターの構造解明により、モノアミン貯蔵と薬物相互作用の仕組みが明らかに

小胞モノアミントランスポーター(VMAT)の8つの立体構造が明らかになり、モノアミンや薬物との結合の仕組みが解明された。VMAT1は、細胞質に開いた状態と小胞内腔に開いた状態を取ることができ、小胞内腔に開いた状態がモノアミンの蓄積に有利であることがわかった。プロトン化によって細胞質に開いた状態への移行が促進され、同時にモノアミンの結合が阻害されることで、意図しないモノアミンの枯渇を防いでいる。これらの知見は、神経変性疾患や薬物乱用の治療に役立つ新薬の開発に貢献すると期待される。

事前情報
・生体アミンモノアミンは、神経学的、内分泌学的、免疫学的機能を調整する重要な伝達物質である。
・小胞モノアミントランスポーター(VMAT)は、制御された量子放出のためにモノアミンを分泌小胞に貯蔵する。
・VMATは、プロトン対向輸送を利用して、モノアミンを約10,000倍濃縮し、神経毒性物質を隔離して神経を保護する。
・VMATは、神経変性疾患、高血圧、薬物中毒の治療や監視のための治療薬やイメージング剤の標的となっている。

行ったこと
・ヒトVMAT1の8つのクライオ電子顕微鏡構造を解明した。
・VMAT1の非結合型、4種類のモノアミン複合体、パーキンソン病誘発物質MPP+、精神刺激薬アンフェタミン、降圧薬レセルピンとの複合体の構造を明らかにした。
・構造と機能研究により、小胞モノアミン輸送のメカニズムを解明した。

検証方法
・クライオ電子顕微鏡を用いて、ヒトVMAT1の立体構造を解析した。
・VMAT1とモノアミン、神経毒性物質、薬物との複合体の構造を解析した。
・構造解析と機能研究を組み合わせて、小胞モノアミン輸送のメカニズムを検証した。

分かったこと
・レセルピン結合は、細胞質に開いたコンフォメーションを捉えた。
・他の構造は、広範なゲーティング相互作用によって安定化された小胞内腔に開いたコンフォメーションを示した。
・小胞内腔に開いた状態への好ましい移行は、モノアミンの蓄積に寄与する。
・プロトン化は、細胞質に開いた状態への移行を促進し、同時にモノアミンの結合を阻害して、意図しないモノアミンの枯渇を防ぐ。
・モノアミンと神経毒性物質は、特異性のための極性部位と多様性のための手首と拳の形を持つ結合ポケットを共有する。
・このポケットのバリエーションが、SLC18ファミリー全体の基質選好性を説明する。

この研究の面白く独創的なところ
・VMAT1の立体構造を複数の状態で解明し、モノアミン輸送のメカニズムを構造的に説明した点。
・モノアミンや薬物との結合様式を明らかにし、基質特異性と多様性の構造的基盤を示した点。
・プロトン化によるモノアミン結合の制御という、巧妙な調節機構を明らかにした点。

この研究のアプリケーション
・神経変性疾患や薬物乱用の治療に役立つ新薬の開発。
・モノアミン関連疾患の分子メカニズムの解明。
・SLC18ファミリーの他のトランスポーターの機能予測と創薬への応用。

著者と所属
Jin Ye, Huaping Chen, Kaituo Wang, Yi Wang, Aaron Ammerman, Samjhana Awasthi, Jinbin Xu, Bin Liu & Weikai Li

詳しく解説
神経伝達物質であるモノアミンは、小胞モノアミントランスポーター(VMAT)によって分泌小胞に濃縮され、必要に応じて放出されます。VMATは、プロトン対向輸送を利用して、モノアミンを約10,000倍の濃度に濃縮し、神経毒性物質から神経を保護する役割も果たしています。VMATは、神経変性疾患、高血圧、薬物中毒の治療や監視のための治療薬やイメージング剤の標的となっていますが、その作用機序の構造的基盤は明らかになっていませんでした。
今回、ヒトVMAT1の8つのクライオ電子顕微鏡構造が解明されました。非結合型の構造に加えて、4種類のモノアミン、パーキンソン病誘発物質MPP+、精神刺激薬アンフェタミン、降圧薬レセルピンとの複合体の構造が明らかになりました。レセルピン結合では、VMAT1が細胞質に開いたコンフォメーションを取っていることが確認されました。一方、他の構造では、広範なゲーティング相互作用によって安定化された小胞内腔に開いたコンフォメーションが観察されました。
この小胞内腔に開いた状態への好ましい移行が、モノアミンの蓄積に寄与していると考えられます。また、プロトン化によって細胞質に開いた状態への移行が促進され、同時にモノアミンの結合が阻害されることで、意図しないモノアミンの枯渇を防いでいることが明らかになりました。
モノアミンと神経毒性物質は、特異性のための極性部位と多様性のための手首と拳の形を持つ結合ポケットを共有していました。このポケットのバリエーションが、SLC18ファミリー全体の基質選好性を説明すると考えられます。
これらの構造的洞察と支持する機能研究により、小胞モノアミン輸送のメカニズムが解明され、神経変性疾患や薬物乱用の治療に役立つ新薬の開発に貢献すると期待されます。本研究は、VMAT1の立体構造を複数の状態で解明し、モノアミン輸送のメカニズムを構造的に説明した点、モノアミンや薬物との結合様式を明らかにし、基質特異性と多様性の構造的基盤を示した点、プロトン化によるモノアミン結合の制御という巧妙な調節機構を明らかにした点で、非常に興味深い研究であると言えます。
今後、この研究成果を基に、神経変性疾患や薬物乱用の治療に役立つ新薬の開発、モノアミン関連疾患の分子メカニズムの解明、SLC18ファミリーの他のトランスポーターの機能予測と創薬への応用などが期待されます。




最後に
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