あらら

ちゃー。ぼちぼちです。

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  • 連載小説『濁点』

    太宰治賞の二次で落ちた作品です。

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    朗読あつめました。

最近の記事

濁点(9)

 私はどうしてこんなに陰気なのか。母のように旅行に行ったりせず、外の世界を見ず、花の形も知らず、色も知らず、香りも知らない。外とはいったいなんだろう。なぜ人は外を選ぶんだろう。世界なら、私もずっと見てきた。洗濯物も、陳列された商品類も、捨てられる生ゴミも。すべて私の世界だ。口元を緩めるのは母ばかり。空も、雲の形も、風の音も、たとえ様々な詩歌が私の心を色づけようとしたとしても、私の世界はなに色にも染まらない。喜びなんてずっとなかった。この生活の一切に幸福を見出せずにいる。きっと

    • 濁点(8)

       仕事を休んだ時にやっている家事は、もはや私の領分となりつつあるものだから、そう簡単に譲るつもりもない。でも娯楽は違う。母からは奪えない。例えばテレビやスマホになんらかの不具合が生じたところで、新しいものを買えば済むだけの話なのだから、私が作為したところで無意味となるだけ。  家事は一日の流れの中にあるもので、それぞれの回数だってほぼ決まっている。人は四六時中食事しているわけでもないし、きれいな衣類をわざわざ意味なく洗ったりもしない。必要に応じて行うのが家事だ。  数字を

      • 濁点(7)

        「ううん、なんでもいいわよ。まだお腹すいてないし」  娘は引き下がらなかった。だからパズルゲームから連想された豆と魚をリクエストしておいた。  いったい娘はどれほど万引きを繰り返しているのだろう。何百、何千とやってきているに違いなかった。なぜ店から、警察から、一度も連絡がこないのか。不思議だったが、それ以上考えないようにしている。娘を突き詰めるのは恐ろしかったし、店に聞くわけにもいかないからだ。  浮き浮きして買い物へ向かう姿を、感情を殺しながら見送ったあと、私はこの時

        • 濁点(5)

           リビングでテレビを見ていると、あいつがあちこちで掃除機をかけ始めた。ロボットが私の足元をうろちょろしている。私は黙ってテレビの音量を上げてゆく。私の耳が多少悪くなろうとも、あいつが少しでも申し訳なく思ったり、ストレスを感じたりすることのほうが重要だった。ずっと爆音でもいいくらいだが、そうするとあまりに露骨すぎるし、耳の不調を疑われ、行く必要もない病院へ行かされるかもしれないという心配もあった。もちろん、掃除に合わせて音量を上げる行為も、それなりに意地の悪さを孕んでもいること

        濁点(9)

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        • 連載小説『濁点』
          9本
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          2本
        • 朗読
          1本

        記事

          濁点(6)

           余計なものは入れられていないようだ。かつて、私が娘の食事に洗剤やつぶした虫の死骸を混ぜ入れていたこともあったせいか、同じことをされるのではないかとつい警戒してしまう。けれども料理の味は、いつだって上出来だった。  食事を終えてテレビをつけると、芸能人の不倫騒動を話題にしているらしかった。私はパズルゲームを続けることにした。 「熱いよ」  大しておいしくもない甘々のインスタントコーヒー。こぼして火傷させるタイミングを狙っているのだろうが、そうはいかない。私はちゃんとお前

          濁点(6)

          髪をショートにぃー。

          髪をショートにぃー。

          濁点(4)

           さあ私の出番だ。今日もうまく盗れたらいいな。端役の騒動が大きければ大きいほど、他の客への注意は無くなってゆく。この、店側の無防備の時間に慣れすぎたせいか、あまり緊張しなくなっていたけれど、警戒を緩めたわけじゃない。動きは最小に、慎重さを欠くことなく、「買い物」という動作の自然な流れの中に「盗る」という不自然を混ぜる。私はマイバッグへひとつ突っ込んだ。誰も、見てはいない。店内の陳腐なBGMが、私へのファンファーレの代わりとなった。  盗ったもの以外の精算を終えて退店する間際

          濁点(4)

          濁点(3)

           父が亡くなって三年、母はよほど愛していたのだと知った。父を独り占めしようとする母は、父の心が私に向けられるたび、嫉妬からか、陰湿な行為に及んできた。それも、父にバレないよう慎重に、あまりに用心深く。  学校への忘れ物やちょっとした無くし物に始まり、お出かけした時に迷子にされること、ぎりぎりの深爪、居留守をされて家に入れなかったり、財布にあるはずの小遣いが減っていたり、育てている花を枯らされたり――。何度も繰り返されれば嫌でも気がつく。母はなにくわぬ顔でとぼけるのも上手で、

          濁点(3)

          濁点(2)

           私がコインランドリーを利用するのは労力と時間の削減のため。それに、ランドリーのガス式乾燥機は家庭用のものより断然仕上がりがいい。時間が経ってもふわふわ温かなままのバスタオルで体を拭くと、水気をよく吸収してくれる気もするから、ドライヤーの時間だって短縮できているはずだ。  乾燥機を回しているあいだにスーパーまで買い物へ行く。そうめんは暑い夏に涼しさを与えてくれるから週に二度ほど食べている。しいたけ、錦糸卵、ネギ、ハム、トマトなどの具材をその時々で変え、飽きの来ないように工夫

          濁点(2)

          濁点(1)

                1  二十歳になるまでには死ぬんだろうなと思っていた。小学五年生の頃だ。別にビョーキしていたわけでも、自殺願望があったわけでもない。単純に自分があと数年も生きられるという実感がなかっただけ。生きていることが不思議でならなかった。でも、結局、死ななかった。なぜだろう。成人する前に死んでしまう人より、生きてる人の方が多いから、ということならまあそうなのかもね。だって生きてるんだもの。仕方がないよ。  これは二十歳の女の子の、悩める物語? 全然違う。地球は尚もくるく

          濁点(1)

           ずっと待ち焦がれ、ようやく降った晩冬の雪を窓外に眺めながら、僕は小さく体を震わせた。唯一ある暖房器具は小さな炬燵(こたつ)のみだ。彼女と二人、炬燵の中で足を重ねて微笑んだ。  僕の住んでいる狭いアパートの部屋に彼女は時々顔を出す。付き合い始めてすぐ、スペアの鍵を渡したときに、いつでも自由に入っていいからねと伝えていたけれど、僕がいないときはコンビニで買った食料品と短い言葉をメモに書き残すだけで決して居座ることもない。彼女はいつも忙しいから、そんなすれ違いを寂しいと思うより

          秋風

           誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。  そんな言葉をこれから先もずっと言い続けてゆけるのだろうか。あなたの誕生日が来るたびに。  あなたがいてくれたから、わたしは生きてこられた。あなたと出会えたから、わたしは幸せだった。ありがとう。  共に過ごした三十年。死んでしまったあなたへの感謝の言葉を、あと何年、わたしは言い続けられるのだろう。  夏が終わりに近づくたびに、わたしはいつも物悲しくなる。秋風が枝葉とともにこの心を枯らしてゆく。  一つ一つの思い出も

          ご挨拶

          このマイクは使ってません…。

          おひさ。近いうちに短編載せてその朗読もしてみよかな。

          おひさ。近いうちに短編載せてその朗読もしてみよかな。

          いやいや、笑わない。笑わないから。

          いやいや、笑わない。笑わないから。

          これはTwitter的なものかな?

          これはTwitter的なものかな?