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郷土紙という超ローカル新聞(連載22)顔の大きさと同じ芋といっしょにパチリ




秋の定番ネタ


地域密着、道で見かけたような、夕ごはんの話題レベルのできごとをニュースにしてしまうのが発行部数1万部の零細新聞、本郷日報(仮称)です。

スポーツの秋や芸術の秋、読書の秋…
なんといっても食欲の秋こそが日本の秋です。
もう、これだけで優勝!
食べ物に関することは、記事としても広く注目されます。秋になると本郷日報の紙面に必ず掲載されるのが地元の幼稚園児たちの芋掘り。季節の恒例記事です。

記事より写真


幼稚園、保育園で芋掘りは、人気のイベントのひとつです。
田舎には、たくさんの畑があちこちにあります。遊ばせている農地もあるわけで、農家の皆さんも「雑草生え放題にしておくくらいなら」と快く幼稚園や保育園の芋掘り用に提供してくれるようです。
土と触れ合う機会が減ったとかいわれる今の子供たち。それは、田舎でも同じです。
そのような時代だからこそ、自分でスコップを握り、土を掘り返したところにさつまいもが現れると、目を輝かせて歓声を上げます。

芋掘り取材は、基本的に社会面担当の若手、新人の仕事です。私も入社した年の秋と翌年に行ってきました。
記事そのものより、いかに園児たちが喜んでいるかを撮ってくることが重要な任務です。
できれば顔と同じくらい大きいさつまいもを子供たちの顔と並べられると最高です。
あとは、記事中に簡単な感想を2、3人分挟みこむだけ。語彙の少ない園児ですから「楽しかった」「またやりたい」など捏造しても同じ結果になるのですが、ここはキチンと話を聞きます。
まとめに畑所有者の「こどもたちの喜ぶ顔を見るとホッとします」系の定番コメントをつければ完成です。
毎年掲載されているので、前年の記事を参考にしてもかまいません。4年くらい前の記事ならコピペして日にちと園の名称だけ修正してもOKです。※ダメです
コピペはともかくとして、この手の取材は、記事より写真が重要だとご理解いただければ幸いです。
もちろん、こういう取材で少しでも個性を発揮し、デスクに「おっ」と思わせるのもいいでしょう。

インナーサークルつながり


郷土紙ならではのことですが、芋掘りも幼稚園や畑の所有者から取材依頼が来ます。自分でネタを探しに行く必要もありません。仕事嫌いな人でもなんとか務まります。
取材依頼のFAX(当時、今ならメールかお問い合わせフォーム)に新聞社が知りたがる定番データである参加人数、畑の所有者、いつからやっているかなどの記事を構成する材料も書かれていることが多いです。
便利すぎてジャーナリズムのカケラくらいしかないですね。

取材する幼稚園、畑はおおむね決まっています。
芋掘り取材に協力してくれる…  どちらかというと取材依頼してくださる幼稚園や保育園も本郷日報社の経営的視点が反映されています。

畑の所有者といってもふつうの農家のおじさん、おばさんではありません。
あ、最近は農業者とか農業従事者と表記されるようですね。でも農家は特に差別表現ではありません。本連載では、わかりやすく基本的には農家でいきます。

話を戻すと畑所有者が農協の役員だったり、所有者の息子が本郷日報の有力スポンサー企業の幹部というところが選ばれることが少なくありません。
幼稚園、保育園についてもそうです。理事長や園長が地元のロータリークラブやライオンズクラブ、青年会議所(JC)の幹部役員、地元の市町会議員を務めている園が選ばれている傾向です。
日頃の広告出稿に対するお礼という意味合いもあります。
※あくまでこれは本郷日報の例です。n=1ということをおことわりしておきます。

社内の見えざる力


このほかに取材先の畑を選定する理由にお土産の量も反映されているようです。現場レベルではどっちでもいいんですが。
芋掘り取材は、量の多少はありますが基本的にお土産つきです。
デパートの紙袋に一杯、途中で穴が開いて落ちてしまうんじゃないかというくらいくれるところもあれば、コンビニの小さめレジ袋に5本くらい(1家庭分)のところもあります。

若手の記者は、独身か夫婦2人が多いので、家に持ち帰ってもそんなに食べきれません。たくさんもらえば、戻ってから社内でお土産を配ることになります。
郷土紙の薄給で2人の子供を東京の大学に進ませるという家庭もあります。そうなるとさつまいものお土産も貴重な食費補填です。
取材依頼が重なった場合、編集局長もインナーサークルつながりや資本の論理だけでなく「社内の見えざる力(笑)」を考慮せざるを得なくなります。

取材を重ね、愛を重ね


地域のインナーサークル向け新聞という性格を持つ郷土紙。カネとコネは大事にしないといけません。
本音が透けてしまいました。
身内優遇に見えてしまいますが、取材の性格上、そうならざるを得ない部分もあります。
公立の保育園に正規なルートで取材を申し込むよりも、理事長と新聞社のトップまたは編集局長同士のつながりがあるほうが話を通しやすいということもあります。今の時代、小さな子供をメディアに載せるにはそれなりに手続きが必要です。2000年代半ばもそうでした。

現場の記者と先生たちは、地域のインナーサークル事情とはほとんど関係ありません。
しかし、行事ごとに顔を合わせていると互いに勝手知ったる間柄になっていくのでしょう。
わずかではありますが、取材を重ねるうちに個人的にも親しくなって… 愛を重ね…
と、少子化対策に貢献することもあるようです。

郷土紙の敵はケーブルテレビ


芋掘りひとつ取り上げてもいろいろあるのが郷土紙ですが、カメラを向けると無邪気な笑顔を見せてくれる園児たちには癒されます。

ただ、ケーブルテレビがやって来ると、今まで私のカメラの前にいた園児たちが急にテレビカメラを歓迎してそちらに向かってしまうのは、なんなんでしょうか。
ちょっと悲しい気持ちになります。


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