置いてけぼりの夜のこと

ASDの元彼のことを記すのは
これで最後にしようと思う。
ひょんなことから、
彼がもう、随分と遠くに
行ってしまったことを知ったから。
奇跡でも起きない限り会えないくらい
遠いところへ、彼は行った。


私は寝るのが好きだ。
寝つきも早い方だし、
予定さえなければ永遠に寝られる。
いや、予定があってもギリギリまで寝る。
どこまでギリギリを攻められるか
日々チャレンジしている。笑

小学5年生で林間学校へ行った日の夜、
何故だかどうしてもどうしても眠れなかった。
みんな寝てるのに、自分だけ起きてて、
どうしようどうしようって焦っていた。
眠れなさすぎて、
行きたくもないのにトイレに行ったら、
ほとんど関わったことのない女の先生がいた。
たしか、「どうしたの?」って聞かれて、
私は涙がポロポロたくさん溢れてきて、
眠れないことを、なんとか伝えた。
先生は私のグループの部屋まで
付いてきてくれて、
「家で待ってるお母さんは
貴女がこんな風に泣いてるなんて
きっと思っていないよ。
だから、泣き止んで、寝ようね。」と
そんな感じのことを言いながら、
私の身体を優しくポンポンし続けてくれた。
すると私はあっという間に眠りにつき、
気がついたら朝になっていた。

普段寝つきがいいから知らなかったけれど、
眠れないことがとても怖いことだと、
私はこの夜に初めて知った。
真っ暗な世界で、
自分だけが置いてけぼりで、
自分だけが明日へ辿り着けないような
そんな感覚は、11歳の私にとっては
とても耐えられるものではなかったし、
大人になった今でも、
できれば味わいたくない。


ASDの元彼は、
「眠れない。」とよく言っていた。
付き合う前に初めてそれを聞いて、
11歳のときに知ったあの怖さを
思い出した私は、
彼がいつも穏やかに眠れることを祈った。
いつもそばで祈りたくて彼女になった。

付き合ってしばらく経ち、
彼と一緒に寝床に入り
一緒に目が覚めたとある朝、
彼は「ほんとよく眠れたわ。」と言った。
ASD特有のセリフのような言葉ではなくて、
すっきりした顔でしっかりとそう言っていた。
私は本当に嬉しかった。
彼が、いつもと違って
ぐっすりと眠れたのが
たまたまなのか
私と眠ったからなのか
それはわからないけれど、
あんな怖い思いをすることなく、穏やかに
同じ朝を迎えられたことが嬉しかった。

彼の彼女ではなくなってから
発達障害のことを調べていくうちに
発達障害と睡眠障害は併発しやすいと知り、
彼が言った「眠れない。」という言葉は
私が思うよりも深刻だったのだと知った。
私の祈りごときでは、
どうにもならないくらいのことだったんだ。

別れてからも、
彼の眠りのことが、ずっと心配だった。
"ちゃんと眠れていますか"
そう聞きたくても、もう聞けなかった。
カサンドラから回復するために
彼の全てを自分の携帯から消したから。
発達障害のことを何も知らないが故に
酷い言葉で彼を責め立てて
関係を終わらせてしまったから。

もう、私の祈りが届かないくらい
遠い遠いところへ行ってしまったけれど、
どうか、毎日穏やかに眠ってほしい。
一緒にいたら、安心してぐっすり眠れるような
そんな素敵な女性とともに
健やかに生きていってほしい。

_____貴方のことを
すべて許したわけじゃない
でも、貴方の特性を知らなくて
あんな酷い言葉で
終わりにしてしまってごめん
"貴方だけが夜に置いてけぼりにされることは
絶対にないよ、必ず明日に辿り着けるよ"
もしも眠れない夜が
また訪れてしまったら
そのことをいちばんに思い出して


今日はいつもより随分余裕を持って起きた。
お弁当を作る時間も、
お皿を洗う時間も、あった。
_____神さま
これからはちゃんと
今日みたいに余裕を持って起きるから、
その分だけでも、
彼に穏やかな眠りを与えてあげてください。
私は、本当に彼のことが大好きだったから、
11歳の私が過ごしたあんな怖い夜を
これ以上彼に過ごしてほしくないんです。
もう会えないからせめて、
このお願いだけは叶えてほしいです。
どうか、おねがいします。



ASDの元彼のことを記すのは、これで最後。
ASDやカサンドラについては、
これからも色んな方の記事を読んで
もっと深く学んでいけたらと思っている。
そして、私も記事にできたらと思う。
私の記事も、
そんな風に誰かの学びや力になれたら
とても、うれしいです。

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