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真っ白を塗り重ねていく難しさ

『男女の友情は成り立つか』
この問いに対しての答えは、誰もが一度は考えたことがあるのではないだろうか。

私にも異性の友人がいないわけではないし、異性との間に友情を感じることもあるけれど、それでも私が『成り立たない』派を支持するのには、やっぱりそれなりに理由がある。

この人が好き。

男性でも女性でも、素敵だなと思う人には「好き」だという気持ちを抱くことがある。人として尊敬できる人、理想とするものを持っている憧れの人、信頼できる人、居心地の良い人、楽しい人。

それらが恋愛感情かどうかなんて、そうでない場合と実は紙一重のような気がしていて、そういった相手と深く付き合っていけばいくほど、やっぱりその「好き」だという気持ちは特別なものになっていく。

同性の場合ならば、その関係をすんなり「親友」なんて言葉で言い表したりもするのだろうけれど、どちらかが「女」で、どちらかが「男」である場合、その好きだという気持ちが「恋心」へと変化していってもなんら不思議はない。

だから私は、『男女の友情は成り立たない』派を支持している。ただし、その恋愛感情を乗り越えた先には、男女の友情も存在するとは思っているけれど。

私にも、『この人とは、ずっと仲良くしていきたいな』と思える異性の友人がいた。でも結局、その友情はふとしたきっかけで「恋心」に変わってしまって、なんで私は「女」で、彼は「男」なんだろう。だなんてモヤモヤと眠れぬ夜を過ごしたこともあった。

そんなことを何度か経験するうちに、「ああ、これはもしかすると、いつか好きになっちゃうパターンかも」だなんて無意識に思ってしまう瞬間があったりもして、そんな風に自分の中の「好き」に向き合うのがだんだんと恐くなってしまった。

これからも一緒にいたい。また会いたい。

たったそれだけのことのはずなのに、相手が「女」であるか「男」であるかだけで、どうしてこうも複雑な感情が生まれてきてしまうのだろうか。

若い頃は、相手が同性であっても異性であっても、関係なく仲良く出来ていたはずなのに。年齢を重ねれば重ねるほど、異性との間で友情を築くのは難しくなっていく気がしている。

友人が「地獄」に介入したのは、それぞれの理由がある、と言った。でも、それはきっと、後から、はじめて分かるものなのだ。
軽い気持ちだった、知らなかった、奪えると思った。
そんな理由は、後々分かることで、でも、始めは、きっと純粋に、「会いたい」、そう思っただけなのだ。そのときの、わたしのように。
白いしるし

社会的な立場や家庭。年齢を重ねれば重ねるほど、そういったものの存在によって、自分の気持ちに素直に生きることが難しくなっていく。ただ相手を好きだという純粋な気持ちだけでは、どうにもならないことが増えていく。

この人が好き。

もちろん、恋愛感情ではなく、人としてその人に好意を抱いたとしても、相手に彼女がいたり、ましてや家庭を持っていたりすれば、それだけでそこには無意識に、踏み込んではいけない『壁』が作られる。

たとえそれが恋愛関係ではなくたって、相手と2人きりで食事をするだけでそれは「悪」とされ、同性同士ならば気軽に出来る相談だって、相手の彼女や妻の存在を認識した途端、電話を掛けることすら戸惑ってしまうこともある。

西加奈子さんの『白いしるし』は、まさにそういった「男」と「女」、そして「友情」と「恋心」の関係性や世界観を上手く表現した物語だと感じた。

もともとこの本は、とあるエッセイストの方がSNSで紹介していた本だった。文章表現が素晴らしいとのことで手に取った本ではあったが、あのなんとも言えないどろっとした感情が自分の心の中に蘇ってくるような気がして、私は少し複雑な気持ちでページを捲った。

主人公を含め、登場人物たちの気持ち全てに共感できたというわけではない。物語とはいえ、絵描きという独特な視点で描かれるアーティスティックな感性の世界を全て理解するのは難しい。ただ、「男女の友情問題」のように複雑で、色んなものが入り混じった感情たちを表すには、そのアーティスティックな世界観はピッタリのようにも思えた。

難しいことは考えず、心のままに相手と向き合えたらいいのにな。まっさらな気持ちで、綺麗な色をただただ塗り重ねていけたらいいのに。

人間の感情はいつも複雑で、どれだけ願っても白い絵の具だけを塗り重ねていくことは出来ない。

そんな物語。そんなことを思った、日曜の午後。

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