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「仕事に関する9つの嘘」の紹介 その2


戦略コンサルタントのアップルです。

1ヶ月ほど前に「仕事に関する9つの嘘」という本を紹介しました。

この本、書いてあることが含蓄が深いので、具体的にどんなことが書いてあるのか、また戦略コンサルの仕事に照らしたときにどういう学びや示唆があるのかということを、不定期でご紹介していきたいと思います。

本書は、タイトルのとおり、仕事で一般的に定石やセオリーとされている9つのことが実は嘘であるということを論じています。中には意外性ある内容も含まれており、アップルとしても気づきがありました。

今回の記事では、9つの嘘のうちの1つをピックアップして内容を紹介するとともに、

今回ご紹介する嘘

今回ご紹介するのは、

「人は他人を正しく評価できる」(ウソ#6)

という嘘です。

コンサルティングファームもそうですが、多くの企業では、評価者が被評価者を正しく評価できるという前提のもと評価制度が作られていると思います。本書は、そうした常識に対して、「それは間違っている」とアンチテーゼを投げかけるのです。

何が嘘か?

人は他人を正しく評価できることが嘘であるということを、これをいくつかの観点に分解して論じています。ポイントをまとめると以下のとおりです。

1.評価者の主観
人事評価の際は評価者の主観が半分以上入る。基本的には半分以上歪んだ眼鏡で評価されることになる(評価者がもつ思想や考え方が評価に色濃く反映される)。

2.情報の非対称性
いくら共に仕事をしていても、評価者は被評価者のことを限定的にしか知ることができない。つまり被評価者の「データ不足」が評価をゆがめる。

3.多面的評価が逆にノイズを拡大
360度評価のようなものは機能しないことを指摘。被評価者のことをよく知らない人の声が、ノイズになり、そういう声が増えれば増えるほど評価は実態からかけ離れていくリスクがある。

4.定量評価は上振れする
5段階評価をするとき、評価者は4と5を付けるバイアスがかかる。1や2は心理的につけたくないので、たとえ1や2が付いてもおかしくないパフォーマンスの人に対しても付けないことが往々にしてあります。


これらをまとめると、、、
そもそも被評価者の情報が限定的な中で、ゆがんだ眼鏡で評価をする。さらに、その歪みが、多面的な目を入れることでさらにゆがむ。こうしたメカニズムが働くため「人は他人を正しく評価できない」というわけです。

言われてみれば確かにそんな気がします。

何が正しいのか?

この本では、嘘を一通り述べた上で、じゃあ何が正しいのか?ということに言及します。

この嘘に対しては、「人は自分の経験なら正しく評価できる」というのが真実であるとしています。

まず、あたりまえですが、自分のことは他人ではなく自分が最も知っているということです。でも評価者は他人である必要があります。ではどうすれば良いのか?最も精度の高い評価方法は、次の質問に集約されると説いています。

「あるメンバーを昇進させたとき、そのメンバーを使うか?」

つまり、昇進させるかどうかという評価の妥当性は、昇進後のその人を自らがメンバーとして使いたいと思えるかどうかによるということです。

一人の評価者が、上記の問いかけを自らにして出た答えが、被評価者の実力を最も的確に捉えている可能性が高い。こうした極めて主観的に見える評価方法が実は一番妥当であるということを主張しています。

コンサルティングファームにおける評価方法

コンサルティングファームでは、プロジェクトごとに、アナリストやコンサルタントの評価をマネージャーがします。どのファームも、細分化された評価項目ごとに点数をつけ、それらの点数の総和として総合評点を付けるというやり方をしています。

つまり「要素還元論」的なアプローチでやっています。個々のコンサルタントの能力やスキルを要素分解し、要素レベルで採点することで、極力客観性を持たせようとしているわけです。

また、年に数回、各コンサルタントの年間評価を決めるミーティングがあるケースが一般的です。当該コンサルタントの1年間の個々のプロジェクトの評価に基づき、そのコンサルタントを査定します。ここで昇進させるかどうかも決まります。1年間の時間軸になると、当該コンサルタントと一緒に仕事をしたシニアも複数人に上るため、それらのシニアがああだこうだと議論を交わした上で査定を固めます。意見が分かれるケースもしばしばあります。

このように、コンサルティングファームの評価方法は、
・要素還元した上で、できる限り客観性を担保して評価する
・複数のシニアで多面的に評価をする

ということになっており、本書が「間違っている」としているやり方に近いやり方で評価をしているわけです。

コンサルティングファームの評価体系に対する示唆

本書が主張しているとおり、評価に客観性を持たせることは基本的に困難で、かつ多面的評価が歪みを生むというのも一理あると感じます。

アップル自身、これまで多くのコンサルタントを評価してきましたが、要素分解した評価はある種「後付け」です。一緒に仕事をしていれば肌感覚としてどれくらいの力量があるかはわかるので、全体感に基づく肌感覚をもとに総合評点を決めています。

また、昇進させるときも、
・同じ階層の他のメンバーと比較して遜色がないか
・昇進させた場合もそのメンバーを自分のプロジェクトで使いたいか
という観点で昇進の提案をしています。

このように、実態としては、本書が「正しい」としているやり方にかなり近いやり方でやっています。

ただ、このやり方が健全に機能するためには、
①すべての評価者に目利き力があること
②すべての評価者が正しく評価すること

の2つの条件が満たされていることが必要になると思います。

しかし、実態は、どんな組織でも①、②ともにほころびがあります。

①目利き力のほころび
一般に人の目利き力というのはかなりばらつきがあります。それはコンサルティングファームのシニアも同様です。シニアだからといっておしなべて人を見る目があるとは限りません。

②正しく評価するほころび
評価者が正しく評価することというのは、「政治的な意図などによって歪んだ評価をしない」ということです。例えば、子飼いのメンバーが可愛いからゲタを履かせて昇進させる、といった評価は、正しくない歪んだ評価です。コンサルティングファームではこういうことは原則ないと信じたいですが、実態としては一部ありそうです。

このように①や②のほころびが多少なりともある以上、本書が主張する「正しいやり方」をストレートに実行するのは難しいです。①や②にほころびがあるという前提で、客観性や多面性を担保する仕組みがセットで必要だと思います。

いずれにせよ、本書を読んで、コンサルティングファームの昔からの評価体系が、時代遅れの仕組みになりつつある可能性はあると感じました。評価制度に疑問や課題感をお持ちの方には何かしらヒントがあると思いますので、ぜひ読んでみてください!


今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!



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