【書評】”デジタル戦略の全貌”を掴める良書 ~集中講義 デジタル戦略(根来龍之著)~
戦略コンサルタントのアップルです。
これまでもいくつかの記事でお勧めの本は紹介してきましたが、今回は書評だけで記事を書いてみます。紹介する本は「集中講義 デジタル戦略 テクノロジーバトルのフレームワーク」(根来龍之著)です。
アップルなりのこの本の見どころも書きますので、ぜひご覧ください!
今回ご紹介する本
今回ご紹介する本はこちらです。
早稲田大学ビジネススクールで教鞭をとる根来先生が2019年に出版された本です。そのタイトルのとおり、デジタル戦略を考える上での様々なフレームワーク、理論、具体事例が網羅的かつ凝縮されてまとめられています。
アップルは根来先生のひそかなファンで、これまでに著書を何冊か読んできました。とても洞察力が深く、かつ実践的なことが書かれているので、戦略コンサルタントがコンサルティングの指針や理論的バックボーンとする上で非常に役立ちます。この本も期待を裏切らない内容でした。
ちなみに余談ですが、根来先生は京都大学の哲学科をご卒業されているようです。経済学部や経営学部ではなく文学部哲学科を卒業されてビジネススクールで教鞭をとっていらっしゃる方はかなりレアだと思います。このようにちょっと変わり種の先生ですが、哲学というのは非常に深く考えることが求められる学問なので、そんな先生のバックグラウンドが産業、経営、戦略に対する深い洞察につながっているのだと勝手に解釈しています。
では、この本の見どころをご紹介していきましょう!
本書の構成と3つの見どころ
本書は4章構成になっています。
1章 産業のデジタル化
2章 ディスラプションの脅威
3章 バリューイノベーション
4章 プラットフォームの構築
内容は非常に多岐にわたります。前提知識がある程度ないと骨が折れる部分もあるでしょう。
ブルーオーシャン戦略、イノベーションのジレンマ、両利きの経営など、デジタル化前からある経営理論との接合をうまくしているのも本書の特徴です。ですのでほかの理論の復習にもかなり使えます。
(アップルも、ブルーオーシャン戦略の内容はうろ覚えになっていた部分もありましたが、本書でしっかり復習できました)
内容が多岐にわたる中でも、本書の中でアップルが特に勉強になると思ったポイントを3つご紹介します。
①産業はデジタル化により”レイヤー構造”になる
まず、第一章の産業のデジタル化の整理が秀逸です。
そもそもデジタル化とは、モジュール化、ソフトウェア化、ネットワーク化の3つが震源となって起きていると整理しています。わかりやすい整理です。
では、デジタル化によって産業構造はどう変わるのか?著者は「バリューチェーン構造からレイヤー構造へ」という非常に本質的な形で産業構造の変化をまとめています。図解すると次の通りです(本の中の説明をアレンジ)。
これがデジタル化、すなわちモジュール化やソフトウェア化が進んだことによって、価値のレイヤーができてきました。著者が例として示しているのは電子書籍です。
電子書籍サービスは、次の5つのレイヤーで構成されています。
【コンテンツ】
【コンテンツストア】
【閲覧アプリ】
【ハード・OS】
【通信ネットワーク】
で、消費者は、電子書籍を使うときには5つのレイヤーのそれぞれから最適なサービスをピックアップし、それらを組み合わせながら使っています。
電子書籍に限らず、産業のデジタル化が進むにつれてこういうレイヤー構造が広がっていきます。この整理はとても示唆に富んでいるとアップルは感じました。
②デジタル戦略には4パターンある
第2章で論じられますが、デジタル戦略には、退却戦略、収穫戦略、創造戦略、破壊戦略の4パターンがあるという整理がされています。それぞれの象徴的な例として、
退却戦略:デジカメメーカーの撤退
収穫戦略:日経新聞の電子版
創造戦略:コマツのデジタルサービス
破壊戦略:リクルートの紙からデジタルへのシフト
が紹介されています。
退却戦略と収穫戦略はどちらかというと「守り」の戦略です。デジタル化の波には抗いきれないという前提で、少しでも既存ビジネスの寿命を長くしようとしたり、残存利益を追求したりする戦略です。退却戦略よりは収穫戦略の方が”引き際が悪い”戦略です。日経新聞は、紙と電子版が共存しています。長い目でみれば電子版が主流になっていくでしょうが、とはいえしばらくは紙を好む中高年もいるので、しばらくはアナログとデジタルのいいとこどりをしていこうという戦略です。
一方、創造戦略と破壊戦略は「攻め」の戦略です。デジタルを思い切って取り入れることで、業態転換を図ったりイノベーションを生み出そうとするものです。デジタルに思いっきり軸足を移すことは、既存事業を破壊したり、既存事業を支えていた経営資源(人材、ノウハウ、アセット)を捨てることになるため、この意思決定をするのは並大抵のことではないです。ですが、実際にリクルートやコマツのように、その意思決定を断行して再成長している会社は存在します。
デジタル戦略の基本戦略と言わればこの4つ。ポーターの基本戦略(コストリーダーシップ戦略、差別化戦略、集中戦略)と同じように、頭に入れておくと有益だと思います!
③プラットフォームビジネスの要諦
プラットフォームビジネスは近年無視できないビジネスモデルです。
デジタル化によって産業がレイヤー構造になってきたことと、PFビジネスが台頭していることとは、表裏一体といってもよいでしょう。
本書の後半では、P/Fビジネスとは何か、P/Fを成長させるために何が要諦になるかを丁寧に論じています。
まず、P/Fビジネスには「基盤型P/Fビジネス」と「媒介型P/Fビジネス」の2種類があると説いています。前者の最もわかりやすい例はゲーム機です。例えば、プレイステーション(ゲーム機)は、その上にいろんなゲームソフトがのっかっているという意味でまさに”基盤”です。後者は色々あります。例えばFacebookのようなSNS。ユーザーと広告主とを媒介することで成り立っているビジネスなので、媒介型P/Fビジネスに該当します。
P/Fビジネスはなぜ強いのかという要因にも踏み込んでいます。P/Fビジネスには、規模が拡大すればするほど限界コストが安くなるという「収穫逓増」の原理が働きますし、利用者が増えれば増えるほどサービスの価値が高まるという「ネットワーク効果」も働きます。
だからこそ、P/Fビジネスは一人勝ちになりやすいですし、一人勝ちしたプレーヤーは際限なく太り続けるということです。
ラクスル(印刷サービスプラットフォーマー)のようなアナログな業界にデジタルを持ち込んでうまくプラットフォーム化したビジネスの事例も紹介されており、P/Fビジネスというのはデジタルとアナログの境界線でも色々出てくるものであるということをリアルに感じ取れます。
最後に:デジタル戦略はすべての企業に必要な時代
以上、本書の魅力を3つのポイントに沿ってご紹介してきました。
もはや、大企業だろうが、中小企業だろうが、ベンチャーだろうが、デジタル化の波は無視できません。デジタル化を無視した戦略は戦略としての妥当性が疑われるでしょう。
つまり、どんな企業にとってもデジタル戦略を考えることは至上命題です。そのとき、本書は、自社がどういう方向性でデジタル戦略をとっていけばよいのかの指針になるはずです。
ご興味ある方はぜひ手にとってみてください!
今回はここまでです。
最後までご覧いただきありがとうございました!
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