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#ネタバレ 映画「素晴らしき日曜日」

「素晴らしき日曜日」
1947年作品
これは「あげまん」の物語
2015/12/24 14:56 by さくらんぼ

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

私が小学校の頃、朝礼の直前、朝日でキラキラ輝くセロハンテープで、靴の破れをふさごうとしていた子がいました。

その子のズック靴はビリビリだったのです。

恥ずかしそうでした。そんな傷んだ(痛んだ)靴を履いている人は全校でも数人でしょう。あまりに可哀そうだったから、昨日の事のように覚えています。それに…テープはすぐ、はがれてしまうし、はがれなければ、テープが輝くので、余計に目立ってしまう。

この映画に出てくるカップルの女性も、デートだと言うのに、靴の前がパックリと口が開いたように割れているのです。

でも、文字通り開き直り、そのままデートするしかありませんでした。

終戦直後の庶民は本当に貧しかったのですね。大人なのに二人の所持金は現在の価値に直して3,500円しかなかったのです。

ところで、1990年に伊丹十三監督で映画「あげまん」がありましたが、この映画「素晴らしき日曜日」も“あげまん”の映画ではなかったでしょうか。

“あげまん”と言うのは、パートナーの男性に幸運をもたらす女性のことです。私には経験がありませんが、どうも世の中にはそんな女神もいるらしい。

この映画「素晴らしき日曜日」に出てくるカップルの昌子は、彼・雄造が道に落ちていたタバコを拾って吸おうとしたのを手払いしてやめさせます。バツが悪そうに、大人しくやめる雄造(デート中なのに・・・現代ではありえません)。

さらに、その直後には、ポストに手紙を入れようとした小さな子供を抱きあげ、ポストの入れ口に手が届くようにもしてあげましたから。

貧しさに負けてしまわず、夢を追いかけ、誇り高く、気高く生きようとした昌子。

しかし最後には、自分ひとりではどうにもならなくて、思わず映画を観ている観客に向かって泣き叫ぶのです。

「皆さん、お願いです! どうか拍手をしてやって下さい!」と。ここで言う拍手とは応援と同義語だと解釈しました。

なんでも実験的な試みの映像らしいですが、観ているこちらは、びっくりぽん。

彼一人ではダメだめなとき、彼女が支えました。

でも、二人でもダメな時は、周りの人に助けを求めました。

これ、いわゆる自助・共助の世界ですね。

車いすの人が段差を乗り越えられなくて、周りの人に介助を頼むのと、ある意味同じでしょう。

みんな、そうやって夢を追いかけていけば良いのですね。

この昌子ちゃん。(失礼ながら正直言って)現代の感覚では美人とは言い難いです。でも、その内面の魅力に惚れました。彼女となら幸せになれそう。そんなパワフルな映画です。

★★★★☆

追記 ( デートも、新年も、新しい靴が欲しい ) 
2015/12/24 15:00 by さくらんぼ

小学校の頃の、ズック靴が破れていた子の話ですが、あの朝は、三学期の始業式だったような気がします。

それは年始の式典の日でもあります。

だから、みんなは、いつもより少し良い服装をして登校してきます。

そんな朝だったから、その子も、あせってセロハンテープで貼ったのだろうと思います。

そんな朝だったから、私もよく覚えていたのでしょう。

追記Ⅱ ( 平成最後の12月に ) 
2018/12/3 8:59 by さくらんぼ

先ほどラジオで、この映画「素晴らしき日曜日」の話をしていたので、私も思いだしてしまいました。

TVドラマ「健康で文化的な最低限度の生活」(ケンカツ)のヒロインが、生活保護受給者にとっての女神なら、この映画「素晴らしき日曜日」のヒロインも、間違いなく降臨した女神。

しかし…この時代と比べたら、現在は、別の惑星みたいに豊かになりましたね。

追記Ⅲ( 恋愛というエネルギー ) 
2020/8/16 6:40 by さくらんぼ

「 あばら骨と皮だけの日本兵、焼け野原で談笑する広島のカップル――敗戦を実感する“10枚の写真”とは? 」

( 2020/8/15(土) 17:01 「配信文春オンライン」 )


追記Ⅳ 2023.4.12 ( 映画「生きる」が生まれた時代背景を想う )

追記Ⅲの「配信文春オンライン」には、焼け野原になった街を見ているカップルの写真があります。

まるで映画「素晴らしき日曜日」のワンシーンのようですが、そうではありません。

このような場所でもカップルはデートを楽しんでいたことに驚きます。恋愛のエネルギーは、未来へのエネルギーになるのですね。私たちが明日を作っていくという。

そんな時代背景の中では、(役所には役所の事情が有ったにせよ)役所の先例踏襲主義は、未来志向ではなく、足踏み状態に見えたのでしょう。現在よりも何倍も強く。

焼け跡の復興は、物づくりへと繋がります。

もしかしたら、そのバイアスが、映画「生きる」の、役所批判の一部にもなっていたのかと、そんな事を感じさせてくれた作品でした。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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