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#ネタバレ 映画「永い言い訳」

「永い言い訳」
2016年作品
床屋さん
2016/11/12 7:49 by さくらんぼ (修正あり)

( 引用している他の作品も含め、私の映画レビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。 )

コーエン兄弟の「バーバー」という映画がありました。床屋、髪の毛が伸びるのは「新しい事」・「パッション」の記号だと思います。だから、あの映画「バーバー」(床屋)というタイトルは意外にも素直すぎるものでした。

そして、この映画「永い言い訳」もそうです。

映画の冒頭、主人公の衣笠幸夫(本木雅弘さん)は自宅で妻にカットしてもらっています。衣笠は妻に寄りかかっていたとの記号でしょう。あるいは妻は子どもを欲しがらなかったそうですから、その気持ちを刈り取っていたのかもしれません。いずれにせよ「人」の字がお互いに寄りかかるがごとく(バスの中に寄りかかるシーンがありました)の世界観です。「毛づくろい」にも似た。

この延長線上に、遺族会で知り合った家族との交流があります。あれはお互いに髪をカットしあっていたのでしょう。

映画の中盤には保育園に通う灯(白鳥玉季さん)が自分の前髪を自分自身でカットするシーンがありました。唐突なシーンは重要です。あれは、「うまく他人に人生相談などできない子どもは、自分で気持ちの整理をつけようとする」との記号でしょう。

だから、戦争でも、事故でも、離婚でも、弱者である子どもの気持ちは忘れられやすく、犠牲になりやすいのです。灯がアレルギーで倒れるエピソードも犠牲のダメ押しでしょう。映画「禁じられた遊び」を思いだしますね。

タイトルはすぐにい思いだせませんが、クリントさんの映画だったでしょうか。少年を床屋に連れていき、「ここは店主と気楽に雑談をするところだ」みたいな事を教えるシーンがありました。私は沈黙派ですが、古今東西、「床屋さんと会話は価値あるセット」になっているのかもしれません。

追記

主人公の衣笠は妻が死んでも涙を流さなかったそうですが、書くことや、話すことも、ときには泣くことと同等の行為なのです。だから映画の中でジタバタする衣笠は、実は心で「泣きっぱなし」だった可能性があります。「永い言い訳」とは涙の事だったのかもしれません。ただ「不倫中」の事故だったので素直に口に出せなかったのです。この「不倫中の事故」という点では、映画「淵に立つ」の八坂の苦しみとも似ていますね。

★★★★

追記 ( 神父さん ) 
2016/11/12 14:43 by さくらんぼ

映画「永い言い訳」のチラシに、主人公・本木雅弘さんが神父さんの衣装を思わせるような黒い服を着て、手には聖書を思わせるようなノートを抱え、少し困ったような顔をしてこちらを見ているシーンがありました。

実は、彼は神父さんではなく作家なのです。作家という職業上、ファンは彼(彼女)のことを人格者だと思ってしまうのですね。たいていの男は美女を見ると素直に人格者だと思ってしまうので、作家先生を人格者だとあがめるぐらい、ごく当たり前のことだと思います。

でも、言うは易し行うはなんとかで、作家先生の実生活にもいろご事情があるようです。そんなシーンもありましたね。同様に神父さんなど聖職者の世界にも、いろいろと不都合なこともあるらしいことが、ときどき漏れ聞こえてきて困惑させられます。

そう言えば、床屋さんも神父さんも、話を聴きながら煩悩を刈り取ってくれる存在ですね。

この映画「永い言い訳」の深層に描かれていたのは、そんなタブーな話だったのかもしれません。

追記Ⅱ ( 山田真歩さん ) 
2016/11/14 14:29 by さくらんぼ

映画「レンタネコ」に出てきた、ヒマすぎるレンタカー屋の、たった一人の従業員・兼店長(山田真歩さん)の、ツンツンと感情を押し殺した得体の知れない面白さは忘れられません。

でも、この映画「永い言い訳」の後半に出てきた、小学校・理科の先生の、少し吃音気味でも、めげずにデレデレと精一杯のシナを作って迫ってくるいじらしさも、なかなかの好演です。喜劇にも、シリアスにも、一本に一回、ぜひ山田真歩さんを。

それは鉄腕アトムにおける「ヒョウタンツギ」かもしれないし、天才バカボンにおける「ウナギイヌ」かもしれないのだから。

追記Ⅲ ( 化学反応 ) 
2016/11/14 21:41 by さくらんぼ

その小学校・理科の先生(山田真歩さん)は、「石灰水にストローで二酸化炭素を吹き込むと白く濁る」実験をしました。

あれは「主人公の妻がバスの転落事故で湖に沈み溺れる」ことと符合してましたね。

そして、それは「白く霞んだような、上下二段の寒々とした映画のチラシ」にもつながります。

それは「事故で見えなかったもの(浮気など)が見えてくる」事へと集束して行くように感じます。

追記Ⅳ ( 映画「バーバー」へのオマージュ ) 
2016/11/14 22:10 by さくらんぼ

コーエン兄弟の「バーバー」という映画がありました。

そう書きましたが、さらに一歩進めて、この映画「永い言い訳」は映画「バーバー」へのオマージュの可能性があります。

主人公・衣笠幸夫の妻は、夫の欲望を刈り取り、子どもは欲しがりませんでした。妻はバイセクシャルの可能性があります。

衣笠幸夫は妻を亡くし自らの不倫を悔やみましたが、実は妻の方にも学生時代からの恋人がいたのです。それが親友で同じ事故で亡くなったゆき(堀内敬子さん)です。ゆきは子どもを作りましたが。バスのシートで人の字になって眠るシーンのさり気なさには危険な香りがします。あのバス旅行の実体は不倫旅行か。知らぬは亭主ばかりなり。

だから二人には天罰が下るシナリオなのでしょう。そうなると夫の不倫はある意味やもうえないかもしれませんが、それでも不倫は不倫、衣笠は苦しみます。

それに対してゆきの夫には罪がありませんので、可愛い理科の先生という新恋人が出来るのでしょう。山田真歩さんは良い役をもらいました。

このような秘めたる関係性と床屋が出てくる事で、これはオマージュの可能性があるのです。映画「バーバー」もLGBTQの映画だと思います。

追記Ⅴ ( ふたたび不倫の悲劇が ) 
2016/11/15 7:15 by さくらんぼ

小学校・理科の先生(山田真歩さん)は、めでたく亡くなったゆきの夫の新恋人になりましたが、同時に主人公・衣笠幸夫(作家)の大ファンだったのです。でも、単なるファンだけなのでしょうか。

彼女は衣笠幸夫の前でもシナを作ってデレデレに崩れてしまいます。私だけかもしれませんが、見ていると彼女の心がどっちの男性にあるのか不安になるぐらいでした。

「本命とキープ」、「理想と現実」、あるいは「接近する手段」という言葉があります。理科の先生は、確かにゆきの夫を好きなのでしょうが、衣笠幸夫を無意識の領域では“まだ諦めていない”可能性があります。

つまり、今後ふたたび不倫の悲劇が起こる可能性も。彼女は魔性の女。だからあんなに「危険すぎるシナ」がある。

この映画のラストはホラーなのかもしれません。

追記Ⅶ ( 黒木華さん ) 
2016/11/15 14:15 by さくらんぼ

衣笠幸夫の浮気相手を、大和撫子てきな黒木華さんが演じているのです。もちろん大人のドラマですから濡れ場もあります。

衣笠の妻が事故死した後、それが浮気中の事故だったことで良心の呵責に耐えられず、女は救いを求めて衣笠の元へ戻ってきます。他人様に簡単に話せることではありませんからね。彼女は根本的な救済をして欲しかったのでしょう。神父さんに懺悔するがごとく。

しかし、衣笠は再び強引にHをしたのです。「だって、こうでもしなきゃ、やってられないだろう!」とか言って。でも、これでは一時ヤケ酒でごまかすのと同じですね。ほとんど「レイプ」の体です。

そのドタン、バタンのHの最中、下になった女の、歓喜ではなく「反感・屈辱・不快感をにじませた無表情」。やがて衣笠を突き飛ばします。気まずそうな衣笠。それが、あの純情そうな黒木華さんの熱演だから、ドキッとするほど「花丸」なのでした。

追記Ⅷ ( 夫の顔色をうかがう妻 ) 
2016/11/15 22:09 by さくらんぼ

映画の冒頭、衣笠幸夫の髪をカットし終えた妻は、そそくさと旅行へ出かけます。ドアを閉めるときには振り返り、夫を見つめて「後のことは…よろしくね……」と言いました。

あの時の、含みを持った妻の態度。

① あれは「自分の抱えている秘密が夫にバレていないか」、注意深く夫の顔色をうかがっている表情でしょう。そして「抱えている秘密」とは、もちろん女同士の不倫旅行だと思います。

② では「後のことは…よろしくね……」とは、なんの事でしょう。

「後のことは…よろしくね……」は、

「髪カットの後かたずけはよろしくね」

「パッション刈り取りの後始末はよろしくね」

「もし私の留守中、この部屋を浮気に使っても、髪の毛一本の痕跡も残したらいやよ!」という意味かもしれません。

女の勘で、すでに妻は夫の浮気に気づいている。しかし、妻も浮気をしているので「お互いさま」と言うところでしょう。

つまり、①自分の浮気がバレていないか目で様子を伺いながら、②夫の浮気に「部屋を汚さないで」と言葉で注意喚起をしたのだと思います。

追記Ⅸ ( 色眼鏡 ) 
2016/12/4 14:17 by さくらんぼ

>映画の中盤には保育園に通う灯(白鳥玉季)が自分の前髪を自分自身でカットするシーンがありました。唐突なシーンは重要です。あれは、うまく他人に人生相談などできない子どもは、自分で気持ちの整理をつけようとする、との記号でしょう。… (レビュー本文より)

ところで理科の女先生と同様に、亡くなったゆきの夫も衣笠幸夫(本木雅弘さん)に以前から逢いたがっていました。ゆきの夫は読書を趣味とするような人間ではないし、有名人好きのミーハーでもなさそうなのに。それなのに衣笠の妻と自分の妻が親友だと知ってから、自分も衣笠とさかんに逢いたがっていたのです。

その願いがこの事故をきっかけに叶うことになり大変喜んでいました。そして、逢ったときの「衣笠を見る目が妙に熱っぽかった」のです。対峙するときも映画「君の名は。」の逢瀬のシーンのように、いつも「長めの不思議な間」がありました。もしかしたら密かにゆきの夫も衣笠に惚れている可能性があります。彼もLGBTQなのかもしれません。

そうなると登場する二人の子供の内、「妙におとなしい」兄の真平もLGBTQに見えてきますし、「自分の手で前髪をカットしていた」妹の灯もそうかもしれません。そもそもカットのシーンは映画の冒頭では「性」に絡めて描かれていたのです。それを思いだすと、灯がカットしていた煩悩も母を亡くした悲しみではなく、芽生えつつある「性」への違和感だった可能性があります。現実的にあの年齢でも違和感があるのかは知りませんが。

するとこの映画の主な登場人物はLGBTQであり、そうでなさそうなのは衣笠と理科の先生だけ。そして、その二人にも「浮気」の文字が見え隠れします。

カミングアウトしたLGBTQの方が少数派なら、LGBTQの方が色眼鏡で見られることもあるかもしれませんが、もし、ストレートの方が少数派だったら、ストレートの方が色眼鏡で見られるのかもしれませんね。

追記Ⅹ ( 子どもの秘密 ) 
2016/12/5 8:13 by さくらんぼ

バスの中で衣笠幸夫の妻に寄りかかって眠るゆき。それが記号だとすると、(いわゆる)妻は「タチ」で、ゆきは「ネコ」かもしれません。

もしかしたら、彼女らの場合、「タチ」は、「ネコ」がその夫との間に産んだ子を、「タチとネコ」間に生まれた子どもとしても認知しているのではないでしょうか。

だから「タチ」は、もう衣笠幸夫との子供は望んでいない。戸籍上は夫婦でも、衣笠幸夫という他人の子など、もうけたくない気分なのかもしれません。

追記11 ( 映画「チョコレートドーナツ」 )
2016/12/5 13:53 by さくらんぼ

>もしかしたら彼女らの場合、「タチ」は、「ネコ」がその夫との間に産んだ子を、「タチとネコ」間に生まれた子ども、としても認知しているのではないでしょうか。(追記Ⅹより)

ゆきの夫はあまり育児に熱心だった様子はありませんので、二人の子供は事実上、「女性カップル!?」によって育児されていたのかもしれません。

それが二人の女性が亡くなったので、こんどは「男性カップル!?」が育てることになったのです。

つまり、この映画は「同性カップル!?」による育児という、「新しい世界観」の提示にもなっているのかもしれません。映画「チョコレートドーナツ」みたいな。

追記12 2022.11.18 ( お借りした画像は )

キーワード「心」でご縁がありました。私は印象派の絵画のような画が好きで、青色も好きです。だから、このような写真にはいつも心惹かれます。少し上下しました。ありがとうございました。



( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

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