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#ネタバレ 映画「ストレイト・ストーリー」

「ストレイト・ストーリー」
1999年作品
兄の視点
2020/2/10 9:06 by さくらんぼ (修正あり)

( 引用している他の作品も含め、私のレビューはすべて「ネタバレ」のつもりでお読みください。)

物心ついた時から仲の悪い兄弟がいるのかどうか知らないけれど、もしも、いたとしたら、この期に及んで、あのようにして会いに行こうなどとは思わないはずだ。だから、きっと元々は仲の良い兄弟だったのだろう。

幼き日、一緒に野山をかけて、木の上に秘密基地を作ってみたり、川で泳いだり、池で魚釣りをしたり・・・そして夜眠る前には、昼間の楽しい思い出話を、どちらかが眠りにつくまでしていたに違いない。

そんな風にして、やがて大人になり、結婚し、それぞれの家庭を持ったのだろう。

結婚すると、仲の良い兄弟でも、それぞれの家庭の利益を守る者としての立場が発生する。また妻という名の別人格の発言も出てくる。誤解をしないで欲しい。これは妻の悪口ではない。兄弟二人の意見だけで物事が回転していた子供時代は終わったと言いたいのだ。

きっと映画の兄弟にトラブルが起こったのもその頃なのだろう。そして、生活の忙しさにかまけて、仲直りをしない内に、気がつくと時間だけが過ぎ去っていたのかもしれない。

そして・・今は妻もいなくなり、子供も独立し、また昔のように、兄弟が二人きりになったのだ。もちろん弟には世話をしてくれる人はいるようだけれども、心の絆までは、思いを共有している人でないと作る事は難しいのである。

そんなある日、弟は兄に会いに行こうと思うのだ。それには兄の健康の問題や、自分達に残された時間が多くない事も理由として当然有るだろう。

しかし、それだけではない。「歳をとっても自分が若かった時の事は覚えている」。すべてが美しく輝いていたあの青春の日の事を、甘酸っぱい思い出を、しっかりと記憶しているのだ。だから、その思い出を共有している兄に会いにいく事は、懐かしい青春の、至福の日々へのタイムスリップでもあるはずだ。

もう体は、あの日のように野山をかけるわけにはいかない。でも二人で椅子に座り、ひと言、ふた言話すだけで、それだけで、心はいつでも青春の日々に戻れるのだろう。

(  映画「ストレイト・ストーリー」2003/5/18 18:12 by さくらんぼ より抜粋再掲  )

追記 ( 兄の視点 ) 
2020/2/10 9:08 by さくらんぼ

兄弟がいれば、普通は兄が権力者です。弟は不本意でもそれに従うしかありません。

やがて、大人になり、兄弟は独立します。

親がいつまでも子の親なら、兄はいつまでも兄という名の権力者のつもりです。

でも弟は、「もう独立したのだから上下関係はない」と考えるかもしれません。「自分は虐げられていた」などと密かに思っていた弟ほど、それは顕著でしょう。

だから、私が本文で書いたような懐かしい昔には、もう、戻れないかもしれません。

ですから、映画「ストレイト・ストーリー」は、今思えば、兄視点の作品のような気がします。

追記Ⅱ ( 兄の視点② ) 
2020/2/11 10:06 by さくらんぼ

>親がいつまでも子の親なら、兄はいつまでも兄という名の権力者のつもりです。

>でも弟は、「もう独立したのだから上下関係はない」と考えるかもしれません。「自分は虐げられていた」などと密かに思っていた弟ほど、それは顕著でしょう。(追記より)

「親は子供を平等に可愛がる」というのは、ある意味、建前論だと思います。世の中にはDVが存在し、DVではなくとも、さまざまな理由で、愛の欠落は存在するのです。

なにかの理由で、愛を与えらずに育ち、愛を知らない兄がいたとします。大人になれば映画や文学で「愛の何たるか」を学び、「どうやら自分には欠落しているものがあるらしい」と気づく場合もありますが、野生児のような子供時代には、そんな自覚はありません。

だから、そんな兄は、弟に愛を与えられないのです。

弟は本能的に反発するし、親は兄を「お兄ちゃんでしょ」、あるいは「親不孝」と叱りますが、愛を教えられていない兄は、自分がなぜ叱られるのかが理解できないのです。

そのときは、親と兄だけでなく、兄と弟にも溝が生まれます。

やがて、大人になって映画や文学で愛を学んだ兄は、(もし加害者・被害者という言葉を使うなら)親が加害者で、自分は被害者なのに、いつのまにか親と弟から、自分が加害者扱いされていることに気づくのです。

大人になってから、そんな説明を(容易には話せないが、もし話しても)弟の理解の範疇を超えているでしょう。弟にとっては愛してくれた優しい親だからです。

だから、冷たい兄の見苦しい弁解、自分の非を親に擦りつけていると思われ、ますます嫌われるだけです。

かくして、逃げる弟、とり残される兄、の構図ができあがります。

追記Ⅲ ( 「瀬戸の花嫁」 )
2021/10/27 9:52 by さくらんぼ

小柳ルミ子さんに「瀬戸の花嫁」という歌があります。

これは、お姉さんが御嫁に行く歌なのですが、「幼い弟 行くなと泣いた」という下りが泣かせます。やさしいお姉さんだったのでしょう。

長年一緒に暮らしていた家族が、御嫁にしろ、御婿にしろ、家を出ていくのは、出ていく本人は新生活のことで頭がいっぱいでしょうが、残された者は「マイナス1人」の哀しみを色濃く味わうのです。縁起でもない話ですが、まるで亡くなったかのように。だから、間違っても捨てるように出て行ってはいけない。

だから、結婚式以前の、(心の)別れの儀式が滞りなく行われないと、その哀しみは一生心の奥底に疼きつづける事があるのです。

追記Ⅳ 2022.8.16 ( お借りした画像は )

キーワード「道」でご縁がありました。心地よさそうな散歩道ですね。無加工です。ありがとうございました。




( 最後までお読みいただき、ありがとうございました。 

更新されたときは「今週までのパレット」でお知らせします。)


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