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おじさん、甥に「人生」を教える、の巻

2021年11月14日(日)、これは昨日の話。

毎週土曜日の夜は、妻が「モダンバレー」教室に行って不在なので、隣家に住む義母が夕食を作ってくれる。俺と子どもたちの分。俺はありがたいし、義父母も孫と食卓を囲めるので、この毎週土曜の夕餉を楽しみにしている。

妻のモダンバレー教室も筋金入りで、彼女が5歳、彼女の姉(俺の義姉)が8歳の頃から通っている。今、妻は48歳、義姉は51歳。彼女たちが習っていた大先生は数年前に亡くなられ、今は義姉がこの教室を引き継いで主宰している。妻はアシスタント。妻と義姉の子どもたち(つまり、俺の子どもたちも)は軒並み全員、この教室に通って卒業した。

で、この義姉の長男が昨年、就職して茨城県のお菓子工場で働き始めたのだが、毎週末のお休みは、東京の実家に帰ってくる。
で、昨日は、久しぶりに、おじいちゃん・おばあちゃん(俺の義父母)とともに夕食を食べるべく、隣家に来ることになっていた。

俺が昼間、隣家に借りていた食器を返しに行くと、明らかにワクワクしてる様子の義父母に、「青ちゃん(俺のこと)、夕食、なにがいい? 」と聞かれた。

俺は「一郎(義姉の長男:仮名)も来るっていうから、何か大皿で食べるものがいいと思いますよ。(義母の得意な)青椒肉絲とかエビチリとか…」と答えると、「中華ね。やっぱり、大人数だったら中華ね、そうね」と義母が応じた。

そんな会話をしたあと、家に戻り、ボンヤリ過ごしていると、すぐ夕方になり、玄関が開く音がして、甥っ子(義姉の長男)が入ってきた。

たまたま、うちの子どもたちは皆、自室にいたので、リビングには俺一人。
俺が「おー、一郎、久しぶり。どうだよ、仕事は?」と言うと、甥は「うん、まぁ、さすがに慣れたよ。朝が早いシフトも夜遅いシフトもカラダが覚えた。それより、工場の周りに何も無さすぎてヤバい。外に出なさすぎてヤバい」と答えた。

「たしかに、やたら白いもんな、お前。日に当たらなすぎだろ。もっと光合成した方がいいぞ」とアドバイスしておいた。

甥は「そんなことより、青ちゃん、俺、ヤバいことしちゃった」と話を変えてきた。

「なに、ヤバいことって? 脱法系?」と聞く俺を無視して甥は「さっき、家の近所で『家系ラーメン』食べちゃった…」と答えた。

「お前、それ、シャレにならねーだろ!ヤバすぎだよ。どんだけマミィちゃん(義母のこと)が、お前が来るの楽しみにして料理作ってると思ってんの? 俺、昼間行ったら『なに作ろうかな?  メニューどうしようかな?』って、スゲー聞かれたからね。マミィちゃんとジイジ(義父)の期待感ハンパないよ。お前は腹が裂けても食べ切らないとダメ!」と、俺が言うと、

甥は「わかってる。それは絶対に食べ切る。それより、それ、分かってるのに、家系ラーメン食べたとか、ママ(義姉)に知れたらブチ切れられるから、青ちゃん、黙っておいてよ」と。

義姉は、俺の妻と同様、怒らせると怖いことで有名だった。恐るべきモダンバレー姉妹。

俺は「分かった。二千円でいいよ」と答えた。

甥「え? カネとるの?」
俺「そりゃ、そうでしょ。俺も『同じ秘密』というリスクを背負うんだから、コスト払ってもらわないと。タダってわけにはいかないでしょ」

甥「甥っ子の秘密守るのにカネとる叔父さんいる?!」
俺「お前ももう社会人だろ? 社会人同士の約束にはお金はかかるよ」

と、俺が真面目な顔して冗談を言うと、半ば本気で呆れていた甥もようやく、俺が冗談を言っているのだとわかり「スゲー社会人だな。しかも、母親に怒られないようにするのに、いちいち二千円なんて払ってられないっての(笑)」と言って笑った。

で、夕食の席。
義母は、最初、エビチリと言っていたのだが、「息子は甲殻アレルギーだ!」という、義姉の事前のアドバイスにより、急きょ、メインはエビチリから旬のサンマに変更されていた。

さっきまで自室にいた、高1の俺の長男(A男)、中2の次男(B男)も同席し、賑々しく夕食が始まった。

始まったとたん、甥っ子(23歳)が、「おい!A男、B男! サンマを誰が1番キレイに食べられるか、競争しようぜ!
そんで、1番キレイに食べた人に青ちゃんが二千円くれるって!」と言って、俺の顔を見てニヤリと笑った。

俺は「いいぞ!そのかわり、俺も参戦する。俺が1番だったら、一郎が二千円払えよ!」と言って、ニヤリと笑った。

結局、かつて、実の母親に「サンマをキレイに食べさせたら世界一」と褒められたことのある俺が圧勝した。
圧勝はしたが、食べてる間に、義姉も妻も帰ってきてしまい、「カネの話」は出せなくなった。

二千円をめぐる甥と叔父の仁義なき戦いも、そうして幕を下ろしたのだった。

おい!一郎! 人生、とるか、とられるか、だ!(二千円を…ね)


おわり

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