翻訳者と心理学者が読むシェイクスピア
『決定版 快読シェイクスピア』 河合 隼雄 (著), 松岡 和子 (著)(新潮文庫)
シェイクスピア翻訳者の松岡和子と心理学者の河合隼雄の対談集。シェイクスピアは人間観察も鋭く心理学者並の知見を持っていたとか。また言葉遊びはフロイト以前のフロイディアンと本国では言われているそうで、言い間違いもセックスに関連付けたものが多いとか、興味深い話が聞ける。
ジュリエットが14歳でハムレットが30歳、リアが80歳を超えていてその年代の人物を見事に描き分けている。シェイクスピアの面白さにキャラ(登場人物)の面白さがあるが、悪役として描いたリチャード3世も人気があるのは善人では退屈するドラマであり、彼の欠点も描いている。
また太陽である王にたいして影なる男として、薔薇戦争で対立したランカスター家、ヨーク家(リチャード三世はヨーク家出身だが、王妃である母から拒絶された)から恨まれている。彼に対する恨みは言葉にしか過ぎないから痛手にはならずに目的を達成する。彼は王になることだけが目的だったのでわずか二年で退くことになる。それも最後は恨みの人々の亡霊によって力をそがれるのだ。そのストーリーテーリングが上手いという。オープニンで悪の限りを出自とする演説で観客を圧倒したか(一人舞台で演説を始めるのはリチャード3世だけだという)と思うと殺されるときは言葉を喪い「馬」としか言わない。リチャード3世を推し進めてきた馬力が見事に崩れ落ちていくのだ(馬を見失う)。日本では信長・秀吉タイプの人殺しだが、日本ではヒーローと扱われている。リチャード三世もダーク・ヒーロなのだろが。
私が好きなのが『リチャード三世』だから性格的に似ているのかもしれない。また『マクベス』との差異でマクベスは魔女から予言されたり夫人の力によって運命づけれたりするのだが、リチャード三世は自力で勝ち取っていくところに人間らしさがあり、また人間の弱さもあるという。マクベスは運命が決められたしまったので虚無的にならざる得ないとか。
『夏の世の夢』では夢に対する分析とか面白い。人は良い夢も悪い夢も等しく見るのだが、悪い夢の方が印象に残るのでシェイクスピアも悪夢が需要なポイントになる話が多い。また深層心理では森は無意識であり、秩序だった町の時間とは違いホリデイの時間とされるという。ヨーロッパの森は平地でどこまでも続いていくので日本の山の森とは違うという。そこで迷子になったり、妖精が出てきたりするのだという。
シェイクスピアを読んでいた方が面白いと思うが読書のガイド本としても読んでもいろいろ勉強になることが書かれている。翻訳上の言葉の選び方なども話されているので、シェイクスピア好きな人には興味深いだろう。また松岡和子は蜷川シェイクスピアという新しさを模索した人なので、それまでのシェイクスピアの知識を段違いに持っている人なのでシェイクスピアを深ボリしたい人には勧められと思う
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