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商品が売れない時にどうすればよいか


商品を買っていただくことは、とてもむずかしいことです。

私はお店の売り場で、行き交う買い物客の動向を観察することが日課です。

お客様が商品を吟味する様子を見ていると、彼らが非常に多彩な視点で商品を検討していることがわかります。

裏面の成分表を熱心に見る人。中身をじっくり観察し、おかしな物が入っていないか確認する人。ブランドや商品名を検索し、レビューをチェックする人。商品をこれでもかとこねくり回し、実に綿密に検討します。

そして商品をじっくり見定めた後、商品カゴに入れる人もいれば、そのまま元に戻す人もいます。

たった一つの商品であっても、それを買っていただくことは、簡単ではありません。とても大変なことなのです。

売ることは難しい

しかし会社員として仕事をしていると、それが分からなくなります。なぜなら、すでに商品も売り場も、会社もブランドもすでに先人が築き上げているからです。

環境が整っている中で、商品を製造したり、販売するだけで給与が出る世界。なんと恵まれた世界かと思いますが、それが当たり前でいると、まるで商品は置いておけば勝手に売れていくもの、なんて思い違いをしかねません。

しかし独立したり、事業を立ち上げたり、まったくゼロの状態から営業するとき、状況は一気にハードモードになります。

”置いておけば商品が勝手に売れる”なんていうものは幻想だったと、すぐに理解します。商品の良さを繰り返しお客様に説明しても、やっぱりいらないと何度も断られます。

お客様はどうすれば買ってくださるのか。そんなことを日夜悩みながら試行錯誤する。あの手この手を尽くして、ようやく少しの売上に繋がる。苦心惨憺の中、とにかく前に進み続けるしかない。

そういったタフな状況を繰り返していくと、サラリーマン時代は偉そうに語っていたマーケティングや戦略の話が、心底馬鹿らしくなってしまいます。

創業に必要なのは、優れた理論を語ることではなく、断られても何度も立ち上がり、前進し続けるプロファイターのマインドです。どれだけ理不尽な扱いをされても、笑っていられるメンタルの強さが必要です。

商品を買っていただくことは、本来とても大変なことなのです。

信頼を築くためには

よくお仕事を一緒する名クリエイターがいます。
彼は案件を担当する際、まずクライアントが持つ工場や売り場へヒアリングに行きます。商品やサービスが生み出される製造元であり、販売される現場です。

そこで気になること、分からないことを徹底して質問します。
「なぜ商品はこの形なのか」「なぜこの売り方なのか」「いつからそうなっているのか」そんな根本的なことから専門的なことまで、わかるまで聞く。しつこいぐらいに聞く。

そうすると当然、現場からは嫌がられます。避ける人もいます。それでも質問し続けます。すると、だんだん事業の本質が見えてくるそうです。スタッフの方にも熱量が伝わり、次第に受け入れてもらえるそうです。

その商品やサービスがお客様にどんな価値を提供しているのか。その商品があることで、世の中にどんな変化が起きているか。誰が幸せになっているのか。

度重なる質問も、一定のラインを超すと、嫌な顔をしていた現場スタッフの顔も変わってきます。繰り返す質問の末に、長年忘れていた熱い気持ちや初心がよみがえってくるのだそうです。

だれも仕事に情熱をもったことのない人はいません。しかし、みんな日常の業務の中でそれを忘れてしまいます。熱い思いが消えていってしまいます。

そのクリエイターさんは、そんな熱い気持ちを現場に取り戻します。そうなれば、あとはそれを世の中へ見える形にして伝えればよい。彼はそうして、多くの素晴らしいクリエイティブを生み出しました。

しかし、よく考えてみると彼がやっているのは「質問を続けること」だけです。決して難しいことではありません。そこには、嫌がられても、疎んじられても、ひたすらに同じことを続ける彼の”すごい胆力”があるだけです。

天才はシンプルなことを繰り返す

野球界のレジェンドである、王も松井も長嶋も、畳がすりきれるほど素振りを続けた逸話があります。エジソンは1000以上の発明をおこない、発明王と呼ばれました。名門コンペの常連さんに「受賞のコツは?」と聞いたことがありますが、答えは「大量に送ること」でした。

それは決して再現不可の技ではなく、ただ「当たり前のこと」を徹底したまでです。

一般的なイメージでは、天才とは奇想天外な発想を持つ人のことを指します。しかし、現実の天才とは「シンプルなこと」をただ異常な数を積み重ねた人のことです。その試行回数が異常値なのです。

こんなのとても真似できないと思うかもしれません。
しかしよく考えてみれば、彼らは教科書に載るレベルの偉人です。私たちが真似できないのも当然です。

先日、Xにて面白いポストを目にしました。

これは非常に本質的だと思います。業績の上がらない組織は、そもそも営業
をしていないというのです。

これを裏を返せば、業績をあげるためには、天才の行動量も発想も必要ない。ただ営業できるコンテンツをつくり、説明ができるようにし、実際に行動すればいいだけの話なのです。

「当たり前」のことを誠実に積み重ねていくことさえできれば、そこには勝てるチャンスがあるのです。

当たり前を実践するアウトドア店

今アウトドアの市場は縮小傾向にあります。ひとりキャンプがブームが下火になったためです。

日経新聞には「アウトドアブーム萎む。防災市場に望みか」と書かれていました。これを書いている現在、南海トラフの危険性が指摘されています。貯蓄用の水や食料の買い溜めが起こり、市民の中にも防災意識が高まっています。

アウトドア用品は防災用具にもなります。そんな危険意識の高まりに対して、アウトドアツールをうまく提案し、新たな市場を開拓できるのではないか、という記事です。

数日後、ショッピングセンターへ行きました。そこにはアウトドアショップが3店舗あります。その中で、「防災フェア」を大きく売り出しているのは1店舗のみでした。

そして実際に何名ものお客さんが、熱心に店員さんに防災用部の使い方を習っていました。

そして防災フェアを行わない他2店舗には、人気がまったくありませんでした。

もしかしたら防災フェアを打ち出した担当者の方は、日経新聞を読んだのかもしれませんし、読んでいないかもしれません。どちらにしても、市民のニーズにアンテナを張り、実際にフェアを打ち出した。そして売上の創出に成功しました。できる担当者さんですね。

そこには決してクリエイティブなアイデアも、レアな情報を掴んだわけでもありません。ただ日経新聞に書いてあるような「当たり前の事実」を素直に受け止めて、素直に実行しただけのことなのです。

売上の有無は、そんな些細なことで大きく違ってきたりもします。

骨のある提案とは

私は立場上、よく業者さんから提案を受けます。その中でダメな提案と良い提案があります。

大抵はダメな提案ばかりです。「この広告の注目率は◯%です」とか「利用者は◯名です」とか調べればわかる情報ばかりです。それは提案ではなく、事実を並べているだけです。

しかしたまに「おっ」と思う提案があります。それは以下のような提案です。

その提案は空港内の広告枠に関するものでした。専属代理店の方が「ここの広告枠が空いているのでクライアント様にご紹介ください」とご提案にいらっしゃいました。

その担当さんはこのように語ってくれました。
「ターゲットは、海外から帰国された日本の方です。彼らは度重なるフライトと移動で大変お疲れです。私もよく海外へ行きますが、海外から帰ってくるといつもヘトヘトなんです。慣れ親しんだ日本へ帰ってくると言いようもない安心感に包まれます。空港とは、そんなホッとする場所なんです。あー早く帰ってシャワーを浴びたい!そして一杯やりたい!そんなことを思うのです。そこで帰りのコンコースに掲出できる広告枠があります。ターゲットの消費マインドを刺激できる非常に効果的な広告枠だと思います。」

詳しくは述べませんが、現在そこの空港には「大手ナショナルブランドのビール」や「高機能シャワーヘッド」の大型広告が掲示されています。

この提案が目を引くのは、その担当者の方が”実際に現場で感じたこと”や”体験したこと”が盛り込まれているからです。そこには純粋な消費者の視点のみがあるのです。

データは調べるか人に聞けば、だれでも理解できます。しかし、消費者の声は現場へ行かなければわかりません。だからこそ価値があります。

現場へ行くという”当たり前”のこと。しかし、これもアウトドアショップと同じように驚くほど誰もやりません。非常に簡単なことなのですが。

商品が売れない時にやるべきこと

冒頭で「お客様は色々な角度で商品を検討する」と書きました。商品をこねくり回し、じっくり検討する。色々な角度から怪しさはないか。不審な点はないかを見回します。

ということであれば、私たちも実際にお客様と同じように商品をこねくり回してみると良いのです。実際に店頭でお客様のように、スタッフの接客を受けてみれば良いのです。とにかくお客様の気持ちになって、実際にお客様の行動をなぞることです。

すると以前には気が付かなかったことに沢山気がつくはずです。

お客様が普段座る椅子にあえて座ってみる。すると今まで気が付かなかった角度に虫の死骸があるかもしれません。見えない角度のクーラーに埃がびっしり溜まっているかもしれません。トイレの芳香剤の匂いが漂ってくるかもしれません。それを見たお客様が人知れず、がっかりして「もうここには来ない」と考えているかもしれません。

商品を競合商品と比較してみると、分かることがあるかもしれません。比べてみることで、何だか自社商品が品質面で心許なく思えるかもしれません。販促POPが専門用語だらけで、初見の人にはまったく意味が分からないのかもしれません。

事業者の「当たり前」と消費者の「当たり前」は違います。だからなるべく消費者の「当たり前」を分からなくてはいけません。

お客様だってお財布が無限なわけではありません。だからこそ、使うモノは長持ちするものが良いのです。素材の良し悪しや、信頼できる製造元を見極めたい。だから商品を叩いてみたり、振ってみたりします。すぐに壊れてがっかりするのは嫌ですから。

食品なら、家族には安全なものを食べてもらいたいはずです。だから裏面もしっかり目を配ります。分からない言葉があれば、調べて突き止めます。怪しいものを食べて、大切な家族が体調を崩したり、病気になっては嫌ですから。

我が子には栄養のあるものを、なるべく沢山食べさせてあげたい。だから産地やブランドにもしっかり拘ります。親としてやれることは何でもやってあげたいから。周囲からどう見られようともかまいません。

お客様は商品をこねくり回すのも、必要以上に吟味するのも、全部理由があります。お客様にはお客様の暮らしがあります。お客様の人生があります。

そのためには信頼できるブランドの、信頼できるモノを買いたい。そんなことを思うのは当然ですよね。

私たち事業者は、常にその信頼に応えられるものを作っているか。販売しているか。それを自問自答しなければいけません。

お客様がどんな思いで商品を選んだり、買ったりしているかを忘れてはいけないと思います。お互い命懸けです。買い物は人生です。

本当に、本当に、一つの商品を買っていただくことは、大変なことなんです。

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