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日本列島妖怪短編集 もののけの国

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#挿絵

薄命美粧

薄命美粧

 会社帰り、あまり使わない駅裏のドラッグストアに寄ったとき、たまたま女性店員と線の細い女性が揉めていた。客の女性は、夏なのに長袖のパーカーをすっぽり着て、顔や肌を完全に隠している。日焼けを避けているのだろうか。声が細くて聞き取れないが、商品のクレームか、あるいは万引きの疑いのようだ。周りの客たちも気に留めているが、レジが混んできたので早く収まってくれと迷惑そうにしている。私も今日は外出で汗をかいた

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後輩書記とセンパイ会計、異界の旧家に挑む

後輩書記とセンパイ会計、異界の旧家に挑む



 ぴちょん。

 ぴちょん。

 ぴちょん。

 炊事場の蛇口から水滴が垂れている。みずみずしい夏野菜が桶の中で静かに艶めいている。なす、きゅうり、いんげん、立派なとうもろこし。
 誰もいない家。大きくて広い家。
 庭には赤白の花がきれいに咲き乱れ、どっしり構えた茅葺の母屋と、土間を挟んでつながった馬屋があり、馬や牛が柵から大きな頭を見せていた。鶏や鴨も庭を歩いている。

 ここに、いつまで、

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後輩書記とセンパイ会計、北方の小人に挑む

後輩書記とセンパイ会計、北方の小人に挑む

 開架中学一年、生徒会所属、有能なる書記のふみちゃんは、時代が違えばアイヌ語の研究に生涯を捧げた民俗学者、金田一京助(きんだいち・きょうすけ)とともにアイヌ文化の調査に励んでいただろう。ふみちゃんは小学生時代、お父さんが集めていた日本各地の民族楽器を六年間でだいたい演奏できたほどの上級者だったらしく、特にアイヌの楽器ムックリ(口琴)がお気に入りだったそうだ。しかし、昨晩ふみちゃんの見た北海道の夢の

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