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中2理科の化学反応式を【理解】する(6) 炭素の燃焼反応

 中2理科の教科書を読み進めています。さあ,これからいよいよ「化学反応式」に入っていきましょう。

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理科教科書の内容

化学反応式

  • 化学反応の様子を化学式を使って表した式を化学反応式という。

  • 原子は不生不滅で分割不可能だから,変化の前後で原子の種類と数は変わらない。

炭が燃えるときの化学変化

  • 炭を燃やすと固体はほとんどなくなる。このとき発生した気体は石灰水を濁らせたので二酸化炭素だとわかる。

化学反応式を作る手順

(1) 物質名反応式を作る

炭素 + 酸素 → 二酸化炭素

(2) 物質をモデルと化学式で表す。

炭素,酸素,二酸化炭素のモデルと化学反応式

(3) 式の左右で原子の個数が等しいかどうか調べる。

原子の簿記

炭素の燃焼実験

 まず,炭素の燃焼実験をします。教科書にはサラッと淡白な文章が書かれているだけで実験は行わないのですが,この実験はぜひ実際にやってみるべきだと思う。本当に驚くべき現象が起きます。以下に,その具体的な方法を記した論文を紹介しておきます。

 比較的小さな閉鎖系丸底フラスコ内で木炭のひとかけらを酸素と一緒に加熱すると,光を放ちながら炭の燃焼が始まります。そして・・・炭のかけらはほとんど跡形もなく消え去ってしまうのです。

 これを酸化銀の実験と比較しても面白いです。酸化銀のときは,黒色の粉末がみるみるうちに白色に変化して酸素が発生しましたが,炭の場合は固体そのものがなくなってしまいます。

 フラスコにはポリ袋をとりつけてあります。炭が燃焼すると二酸化炭素が発生すると習っているような子に,ポリ袋が膨らむかどうか予想させてみるのも面白いでしょう。たぶん二酸化炭素が発生してポリ袋が膨らむと答えるかもしれません。しかし実際,実験を行なってみると,このポリ袋はあまり膨らまないのです。

 炭は,いったいどこに消えたんだ!?何が起きているんだろうと,思わざるを得ません。私は実験をやってみた結果,まるで財布を落とした人のように慌ててしまいました。この実験に驚くことができる人は,物質の不生不滅を信じている人です。財布は勝手に蒸発したり消滅したりしないとわかっているからこそ,必死に探し回るのと同じです。

 化学において,実験を体験することは非常に大事です。このときの五感を通した様々な体験が,記憶に刻まれるからです。炎が出た時の驚き,少しだけ残った白い灰が気になったり,酸素と完全に反応させるために炭をグルグル動かす面白さとか,少し焦げ臭いとか・・・いろいろな非日常体験をすることでしょう。

物質名反応式

 ところが,このいろいろな経験・体験のうち,個人的な想いや感想を削り落とし,どこでも誰にでも当てはまる客観的なものだけを抜き出してシンプルに表現したのが以下の物質名反応式です。

炭素 + 酸素 → 二酸化炭素

 同じ反応式を見ても,実験を体験している人としていない人とでは,想起される記憶が全然異なってきます。実験していない人にとっては何の感情も呼び起こさないでしょうが,実験をやったことがある人は,この反応式を見ただけで,様々な言葉にならない体験が思い起こされるのです。しかし,この反応式は経験を写し取っただけなので,それ以上の情報は含まれていません。

 実験では炭と酸素が反応して,二酸化炭素に変わったはずだ。確かに石灰水が濁ったので,これは間違いない。反応式を逆に見ると,二酸化炭素の成分は炭素と酸素であると読める。ああ,そういうことか。消えた炭は,全て二酸化炭素の成分として目に見えない状態になったのだ。

 炭は元素である。だから,消えたように見えても消えることはないはずである。そう思っても,それは信念であって説明にはならないのです。もし自分の中に,分子・原子に関する豊かなイメージの世界が形成されていなければ,探求はここでストップしてしまうでしょう。

ミクロな概念世界へ

 この現実世界で起きた不思議な現象を説明するために,原子・分子という世界観を知っている人は,ミクロの世界という名の概念の世界に入っていくことができます。

 その世界では,炭素はミクロな原子が多数集まってできた結晶です。炭素原子の並び方はまだ習っていないが,それはどうでもいい。とにかく無限に近い数の炭素原子の集合体が目に浮かびます。この固体のイメージを十分持てなかった場合は,教科書にあるような炭素原子1個をイメージしてもいいでしょう。

 一方,現実世界の酸素は目に見えないが,概念世界では2個の原子がくっついたピーナッツのような形をした分子として思い浮かべることができます。

 炭素は見ることができるのに,なぜ酸素は見えないのだろう?これに答えるためには,気体の分子は猛烈なスピードで飛び回っており,分子と分子の間には大きな隙間があるという,中1「状態変化」で習ったイメージを思い起こさなければなりません。

 この気体分子運動のイメージは,日常生活ではなかなか見る機会はないので,ここで気体分子の運動イメージを思い起こせなかった場合は,教科書にあるような静止した酸素分子1個を思い浮かべることになると思います。

 二酸化炭素は炭素原子1個,酸素原子2個からなる気体分子です。これが猛スピードで飛び回っており,密度が小さいので目に見えません。二酸化炭素の分子モデルをよく見ると,酸素分子の2つの酸素原子の間に1個の炭素原子が挟まったような形をしている。

 そこで,こう想像してみます:動き回る酸素分子1つあたり炭素原子を1つづつ取り込んで,二酸化炭素分子1個に変わるのだろう。そうだ,きっとそうに違いない。

そして現実世界に戻ってくる

 現実世界では,固体の炭素が気体の二酸化炭素に変わることは感覚的には受け入れ難いです。なぜなら炭素と二酸化炭素は根本的に性質が違う,全く別の物質だと認識されるからです。

 しかしミクロな世界では,化学変化とは単なる粒子の入れ替わりに過ぎなくなる。もしこの「想像」が本当なら,現実に起きたことをうまく説明できるじゃないか。

 そうすると,次の問題が出てきます。このイメージを,どうやって他の人に伝えよう?いちいち絵を描くのも面倒だ。そこで,このイメージの中から,分子運動のイメージを排除して粒子の組み替えの部分だけを抜き出して記号に置き換えます。

 まず物質を分子式で表します。この分子式を物質名と対応させて反応式を書き換えたのが,化学反応式になります。

$$
C + O_2 → CO_2
$$

 最後に,原子は不生不滅・分割不可能であるという信念が式にも反映されているかどうか,チェックしておきましょう。

  • 炭素原子:左右で1個ずつ,同じ数。オッケー。

  • 酸素原子:左右で2個ずつ,同じ数。オッケー。

 これで,実験という非日常体験の自分なりの解釈を他の人に伝えることができるようになりました。

 炭が消えてなくっなった,という認識は間違っていました。実は酸素が炭素を取り込むことによって二酸化炭素に変化していたのです。つまり,酸素がその場所を占めていた体積に,二酸化炭素がそのまま置き換わっただけです。これが,ポリ袋が膨らまない理由だったのです。化学反応式,バンザイ!

 そう結論して,私たちの認識が,世界観が,またもう一段広がってゆくのでした。

 化学反応式を学ぶときは,できるだけ並行して実験を行なってほしいです。なぜなら,化学反応式とは実験によって得られる豊かな体験を,原子論的世界観によって解釈し直したものだからです。反応式だけを覚えても,その内容を知らなければ意味がありません。

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