中2理科の化学反応式を【理解】する(5) 元素と単体の区別
中2理科の教科書を読み進めているところです。元素と単体のところまで読んで,キーボードを打つ手が完全に止まってしまいました。そして,元素と単体の区別がかなり難しいな,と悩んでしまいました。今回は私なりの理解を記してみたいと思います。
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元素と単体:中学校の定義
中学校理科の教科書にはこうあります。
1種類の元素からできている物質を単体という。
1種類以上の元素からできている物質を化合物という。
この説明では,まず元素が定義され,その後に物質を単体と化合物の2つに分類しています。教科書の定義では,元素とは原子の種類です。だから,原子の概念が一番最初に来ます。
これをイメージで表現すると,こういうことでしょう。まず球状のボールをイメージして,それをできるだけ小さく縮小する。これを原子と呼ぶことにします。原子には様々な大きさと重さがあるのですが,視覚的イメージの世界では重さを感じることが難しい。そこで,重さを色分けして視覚化します。つまり,イメージ的には球状の原子には色がついている。この色を元素と認識します。
原子のボールにはいろいろな色をつけることができますが,ただ1種類の色がついた原子からできた分子や結晶を単体と呼び,2種類以上の色からなる原子からできた分子や結晶を化合物と呼ぶ。こうしてみると,元素の定義がかなりイメージ操作と関連付けされているなと思いました。
元素と単体:高校の定義
しかし,高校化学の元素と単体の定義はもう少し抽象的です。
元素とは物質を構成する基本的な成分であり,1種類の元素だけからできている物質を単体という
この定義は,中学校の定義よりも理解が難しいです。これを理解するためには「成分」の意味をしっかり理解しなければいけない。
以前もお話ししましたが,まず,酸化銀の熱分解の実験で,銀と酸素が出てきたという経験をしたとします。この経験によって,「酸化銀の中には銀と酸素が含まれているはずである」と推定され,それ以降,その人の中ではそのような考え方ができるようになります。
酸化銀の黒色の粉末を見るたびに,銀や酸素が含まれているのだ,という判断をするのですが,このときの「銀」や「酸素」という言葉は目の前の現実世界の中に存在するものを指しているのではなく,頭の中に思い描かれたものに相当します。このようなとき,「銀や酸素は酸化銀の成分である」と表現されます。
元素とは物質を構成する成分なのですが,その中でも基本的なものである。ということは,酸化銀の成分である銀や酸素は,様々な実験によって,もうこれ以上分解することができないと悟った時,元素であると認識されるということなのでしょうね。
これまで人類は様々な物質を分解する実験をして,どうしても分解できない物質があることに気がつきました。このことを子供達自ら一人で実験を繰り返して,自分で確かめることはできません。ですから,元素が118種類ある,という知識は「へー,そうなんだ」と受け入れるしかありません。
単体とは,1種類の元素からなる物質なのですから,これは現実世界に存在する,光沢を持った銀や線香の火を大きくする気体の酸素を指します。こうしてみると元素とは,やはり抽象概念であると思われます。一方,単体は五感で確認でき,現実世界に存在する具体的な物質を指していると思われます。
言葉の定義は変化する
さて,以上の話の中に原子の話は出てきません。本来,元素は現実世界を抽象化した物質観(マクロな見方)であって,粒子の見方・考え方(ミクロな見方)とは断絶があります。たぶん教科書の執筆者たちは,このような抽象的な物質観を教えるのは困難であると感じて,まずは原子のイメージをボールから借りてくることから出発することにしたのでしょう。その結果,元素とは原子の種類であることにせざるを得なかったのでしょうね。
化学の物質観はマクロとミクロの2本柱から成り立っています。化学者は,この断絶された2つの世界を,あまり意識することなく頭の中で都合よく切り替えながら物質を捉えています。この2つの世界を自由に行ったり来たりできるようになるために,言葉の定義は教育段階によって少しつ変化していくのです。
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