小説詩集「星屑とスタンプ」
星屑がね、落ちてくるっていう予報をきいて、昨日さがしにいったの。
「なによそれ、」
星屑だよ、彗星が降らす宇宙の希望みたいなかけら。
私は息を切らしながら彼女に伝える。
だって彼女は自転車通学なわけだから、もちろん自転車をこぐ。私は並走してはしるから声が上下する。
「砂浜にね、夕暮れ時に行って待ってたの」
ママの帰りが遅いのはわかってたし、お兄ちゃんは塾だったから、たった1人で浜にでた。
「怖くない?夕暮れどきなんて」
「こわかった、」
だってあたりはすぐに真っ暗闇になったし、波の音が呪いの声にもきこえたから。
「でもさ、しばらく我慢してまってたら彗星が細かい光の砂をまき散らし始めたの」
「それで?」
「それで、ひろい始めたよ」
「楽勝だったでしょ、発光してるんだから」
「発光なんかしてなかった、」
地上におちた途端、熱を奪われて光を失うんだと思う。
「なので、」
「なので?」
携帯の明かりを頼りに私はしゃしゃがみ込んで一つひとつ拾ってったの。
「不思議なのよ、」
携帯の光がね、あまりにスポットに照らし出すものだから見えるものが少なくって、私飽きずにひろい続けることができた。
「宇宙の希望をたっぷり手にした?」
私は首をふった。
「星屑をね、」
カゴに入れてたはずが、ちっとも増えてなくって、どうやら次々消滅していたらしいの。
「徒労か、」
また私は首をふった。
「それがね、どんどん星屑をひろい続けていたら、」
「いたら?」
何かにぶつかって、よく見るとそれは浜の漁師小屋だった。
こんなところに小屋なんてあったかしらん、とか言ってぐるりと回ったら窓があったから覗いてみたの。
「こわいなあ」
「こわくないよ、」
だって、中ではニコニコした人が机に向かっててスタンプ押しの作業をせっせとしてたんだよ。それを私はじっとみてた。どうやらスタンプにはいくつかの種類があって、「努力した」とか「怠けた」とか「ズルした」とか判別しているらしかった。
「私、ハッとしたの」
めくったそのページに私の名前が大きく書いてあるのが見えたから。息をのんだ。
「やっぱりスタンプ、押したの?」
「うん」
身を乗り出して、よく見たの。
「そしたら、」
「そしたら?」
そしたらさ、そのページに「正しく生きた」って押されてたの。それは当たってなくもなかったの。だって私、いつも怠けてるし、努力も半端で、でも誠心誠意だけはあったなと思うの。てかそれしかなかったとも思う。
「で分かったの。だから補欠で入学できたんだって」
「あんた補欠だったの?」
「うん、」
だからみんなが自転車に乗ってるみたいに走ってる隣を息を切らして走ってるんだよ。
「あんたいつも私ら自転車通学で、自分は徒歩だって言ってるけど」
「うん、今バスに乗ってる」
でも、いつもそんな気持ちでいるんだよ。自転車通のみんなの隣を駆けているって。
「これからも星屑ひろい続けるの?」
「うん、ひろい続ける」
泣きながら走るみたいにね。
おわり
❄️自転車と風邪と私の追いかけっこは、息を切らしたら負けるから笑って、あくまで笑って走るんです、的群像です。どこが?
正しく、がルールのかけっこのレースをしていたなんて知らなかったみたいな回り道を今日も行く、的スポ根です。何が?また書きます。ろば
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