土曜日の午後の陽だまりの中で

ぼくは
公園のベンチに座るときも
びくびくしながらすわる
しわくちゃになった紙袋を
大事そうに持っている

隣のベンチで少年が
鳩にパンをやっている

ぼくは
鳥たちが奪い合うように
パンをつつくのを
うれしそうに笑って見ている
土曜日の午後の陽だまりの中で

ぼくはあまり
心休まることがないので
久しぶりに笑ったような気がする

少年は
ぼくが嬉しそうなので
つられて笑った
そのやさしいほほえみ

けれどひとりまたひとり
みんなが
変な目でこっちを見る

子供を連れた主婦たちや
通りすがりのサラリーマンや
ゲートボールの老人たちが

それに気づいた少年は
急に
鳩にパンをあげるのを止め
去ってゆく
ぼくはまた、ひとりぼっちになる

少年は
自分がとがめられたと
思ったのだろう
パン屑で公園が汚れたり
鳥が異常に増えて
ちいさな子供を
襲ったりするんじゃないか、と
そんなことを
みんなが心配していると

きっと勘違い、したんだね
みんな本当は
ぼくを、とがめていたんだよ

ぼくが、きたない
かっこうをしているから

ぼくだって
好きで仕事が
ないわけでもなく
好きで住む家が
ないわけでもなく
好きで洗濯しない
わけでも、ないのに

太陽も雨も風も鳥も夕暮れも
地球もこの宇宙も
ぼくが
公園のベンチに座ることくらい
気にもしないのに

この世界で僕と同じ
生き物であるはずの人間たちの

大仕掛けの偽りのお芝居の中で

少年は
鳩にパンをあげるのを止め
鳥たちは飢え
ぼくはビクビクおびえながら
公園のベンチに座っている

土曜日の午後の、陽だまりの中で

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