(詩)潮干狩り

わたしたちを見たら
恋人同士だと
人は思うだろうか

互いに
お目あての相手と
相手とがくっついて
どこか夜のちまたに
消えてしまい、取り残されて

仕方なく帰りの山手線を
新宿駅のプラットホームで
待っている

その男性とわたしと
ふたり並んで
そんなわたしたちを

ここはまるで
週末の新宿の人込みは
まるで遠い海のようね

たえまなくつづく人の足音が
なんだか
しおざいのように響いてきて

ふと、こんな五月前の
ふるさとの海の
家族で行った潮干狩りのこと
思い出した

浮気癖の絶えない父を
いつも黙って
遠くから見ていた母が

その日もやっぱり
ひとりぼっち
海に入ったわたしたちを
遠くから黙って見ていた

そんなさびしげな
あの人の顔、思い出した


この都会も
もう潮はとっくに満ちて

夢はさっさと
海に消えてしまった、
というのに
相変わらず
まぶしいネオンの街を
眠ることも忘れ
さまよい歩く人波たち

なんだか、わたし
昔から
うまく幸せになれなくて

どうもうまく
幸せには慣れてなくてね
つい、いつも

波打ち際で
足を止めてしまう

そんな
似たもの同士のわたしたちも
今はそんなわたしたちを

幸せそうな恋人同士だと
誰か、かん違いして
思う人もいるだろうか

週末の
新宿駅のプラットホームで
山手線を
アルコールで
まっかな顔して待っている
ぶざまなわたしたち

今度
潮干狩りにでも行こうか、と
果たしもしない約束している
わたしたちを


週末の新宿駅の
プラットホームで
家族で行った潮干狩り、
ふいに思い出した

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