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(詩)もう夢は飛べなくても

たんぽぽの種が
蜘蛛の巣に引っ掛かって
飛べずにいる

翼を傷めたカモメは
地面から悲しげに
空を見上げるばかり

少女の頃
きみが見ていた夢

午後の陽射しがキラキラと
海の水に反射して
港はきらめきの中
埠頭に立って踊るきみ

むかしバレリーナに
なりたかったんだ

もう、なりたくないの?

もう無理だよ

なんで

だってわたしもう
おばあちゃんだし

まさか……。

まぶしい春の陽に
バレエシューズをかざして
きらめく海の光の中で
きみが夢を諦めた午後

ねえ、一緒に踊ろうよ

いいよお

いいから、ほら
わたしが教えたげるから

わかった、わかった

大丈夫だよ、ほんと大丈夫

何が?

もう夢は飛べなくても
もう夢は飛べないけど
大丈夫

わたしには
きみがいるから
きみが……。

春の陽を浴びて
きみが笑った

蜘蛛の巣に引っ掛かった
たんぽぽの種を解き放ち
傷ついた
カモメの翼を癒すように

午後の陽射しの中で
きみが笑った

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