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読書履歴 4

私の人生に色濃く存在している作品、印象に残った作品を3作ずつ挙げていく。
小説、画集、教科書、雑誌など、本の形になっていれば対象とし、ジャンルを限定しない。




10. AMPHIGOREYシリーズ/Edward Gorey

名前も作風もイギリスの雰囲気を漂わせているのにシカゴ生まれで生粋のアメリカ人という意外性を持つ絵本作家、エドワード・ゴーリーの作品集である。

シリーズは以下の4作。
Amphigorey
Amphigorey Too
Amphigorey Also
Amphigorey Again

大きさはA4サイズくらいで、厚みは「こどものバイエル」くらいか。

ゴーリーとの出会いは忘れもしない。
当時親に連れられてよく行っていた蔦屋書店に洋書の翻訳本だけ集めたと思しき特設の大きなテーブルがあり、その中に発売されたばかりの「ギャシュリークラムのちびっこたち」も平積みにされていた。

「絵本」というものを読まなくなって久しかったが、私はまるで吸い寄せられるようにこの本に向かい、手に取り、絶対に読まなければと思った。

同時期に発売されていた「ハリー・ポッターと秘密の部屋」と一緒に親のところに持っていった。今思えばハリーポッターの影響であの特設コーナーが作られていたのかもしれない。

検閲するタイプの親だったので却下される可能性も十分にあったが、「絵本」ということに安心したのか、あるいは「ハリーポッターのような分厚い小説を読む我が子」という親としての満足感の方が上回ったのか、中身を確かめたりせずに買ってくれた。

26人の子供たちがA to Zの順に一人ずついろんな死に方をしていく絵本で、死にゆく子供たちと当時の私の年頃はそんなに変わらなかったが、別にトラウマになったり悪夢を見たりすることもなく普通に好きになった。

(今現在に至っても好みが全然変わっていないことに驚く)

数年経ち、多少英語が分かるようになってきた頃合いで原作の「韻」の概念に思い至った。日本語にしてしまったら分からなくなる部分があるんだ!
そう気づいて原語版の絵本をいくつか購入したが、わざわざ輸入しなければならない作品も多く、それに伴ってコストも高くなる。

1冊1冊、acceptableの基準が違いすぎるというリスクを承知で海外から集めるか?都内にゴーリー専門店とかないんか?などと思いながら調べていった結果、この作品集があると判明し、ほなこれでええやん、となったのだった。

本シリーズにはギャシュリークラムのちびっ子たちを含む絵本作品を中心に、イラスト等が多数収録されている。

絵本版での1ページ分が2アップや4アップで掲載されているので絵本で見る時のような趣は失われているが、気に入ったものだけ絵本版を探せば済む話なので全く問題ない。

ちなみにゴーリーはアメリカのMystery!という教育番組のOPアニメーションを担当していたらしく、画質は劣化してしまっているがYouTubeに動画が残っている。


そういえばNeverending Nightmaresというゲームがあった。

明らかにエドワード・ゴーリーの影響を受けた(あるいは参考にした)ビジュアルなので、併せて紹介しておきたい。
Switch、Steam、PlayStation、スマホなどでプレイできる。

買わない理由がないので自分でプレイしたこともあるのだが、能力が追いつかなくてクリアできず、名越康文先生のゲーム実況で楽しく拝見した次第だ。



11. 無意識の発見/Henri Frédéric Ellenberger

名越先生つながりでもう1作。

これも何かの動画で言及されていて知った本で、無意識というものが我々の思考や判断にどれほどの影響を及ぼすのかなどといった「無意識」についての極めて興味深い内容が綴られている。

極めて興味深いのだが発行年代が古く、現代の読みやすいぬるま湯フォントにどっぷり浸かっていた私は本書のフォントとフォントサイズにどうにも読む気を削がれてしまう。大体、元が洋書ならわざわざ縦書きに直さず横書きのままにしてくれないか?

──などという不満を自分が生まれる前に発行された本に抱くという愚行をし、当時の私はいちいちWordに打ち直しながら読み進めていて、そのデータが今も残っていた。

コピペするだけなので冒頭の一部を長めに引用しておく。

精神科医は長い間、未開民族の呪医(medicine man)やシャーマン(shaman)の行う治療の報告にはほとんど目もくれていなかった。そういう報告はいわば奇談の類で、歴史学や人類学者だけが興味をもつものとされていた。呪医とは迷信の虜になっている無知蒙昧極まる連中で、放置しても治癒すること請け合いの患者だけを治せる輩か、さもなくば同族人のお人好しにつけ込む詐欺師とみられていた。

我々が今日下す評価はこれと違ってもっと積極的な面を認めた評価である。近代精神療法の発展とともに心理的治療の機転の謎が注目を浴びるようになり、心理的治癒の具体的詳細は今日の我々にもまだ首をかしげるばかりのものが多いことがわかってきた。ある患者には有効な型の治療が別の患者には無効である理由はなぜか、と尋ねられても、我々は答えられない。したがって、この問題の手がかりとなりそうなものならば藁でも掴みたいのが現状である。

無意識の発見 上:p.1

はじめに語られるのはとある民族の「病を治療するシャーマン」の話。
学者がシャーマンからの施術を実際に受け、真正面から向き合って調査し真面目に記録しているのがなんともシュールな雰囲気を醸している。

そのシャーマンの施術は私からすれば正直オカルトというか子供騙しのいい加減な茶番にも見えてしまうのだが、西洋医学の通用しなかった疾患に対して功を奏した事例を挙げるなどして精神医学の観点から分析・考察してあるのがとても面白い。

シャーマンの例にとどまらずあらゆる文化や時代における無意識についての詳細な調査がなされていて、それがあと10年もすれば読めなくなるんじゃないかというくらい小さいフォントの二段組でびっしり敷き詰められ、上巻484ページ、下巻637ページの大ボリュームで記述されている。



12. Watching the English: The Hidden Rules of English Behavior/Kate Fox

表紙を一見すると「English」が目立つので「英語」についての本にも見えるのだが、これは社会人類学者のケイト・フォックスが「イギリス人」の国民性について調査し解説した本だ。

イギリス人の間にある暗黙の了解、イギリスにおいての「ティータイム」の解説、イギリス人のコミュニケーションや言葉遣いの特徴、イギリス人の行動様式、他国との比較、他国から見たイギリスなど、内容は多岐にわたる。

本当は日本語訳を読みたかったのだが、日本語訳版の「イングリッシュネス」には「全編を訳したものではなく3割程度の内容しかない」というレビューがついていたので、100%の原書を買って得意でもない英語で読むか30%しか訳されていない日本語版を買うか迷い、泣く泣く英語版を購入した次第だ。

その後2020年に「さらに不思議なイングリッシュネス」として続編が発売されたので、もしかしたらそれと併せて読めば全編の日本語版を読めるのかもしれない。

とある調査の過程で日本人にもわずかに言及されていて、個人的に「なるほど、だから渋谷のスクランブル交差点みたいなものが安全に成り立って、かつ海外の人にとって観光名所になるんだな」なんて思ったりした。

カルチャーの差を感じる一方で日本人からしても共感できる部分が意外とあり、語り口も面白いので読み応えがある。が、それをしっかり理解するためにも私は日本語版を読むべきなのかもしれない。

もう少し……お手頃になれば……




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