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送信履歴♭1(もしくは♯4’) 落ちてこない

ソレは4つ目の月に、飛来した星屑のかけらがピン留めで留めるように打ちつけられていた。
「途中で引っかかっておるようじゃの」
小さな人のひとりが箱に開けられた穴から中の無限宙を見上げながら、ほかの小さな人たちに向けて叫んだ。声の大半は無限宙に吸い込まれていったけれども、かろうじて残った意味合いが、濃淡の入り混じる空気を縫うように伝い、ほかの小さな人たちの耳に届く。

傍から見れば巨大な箱でしかないのに、なぜ内部が無限に広がっているのか、小さな人たちには理解できなかった。わかろうともしなかった。理由がわかったところで、自分たちにどのような影響があるのか、なにをもたらしてくれるのか知れない。知って畏怖するくらいなら、知らずに平穏でいるほうがいい。それが彼らの共有した結論だった。

赤い服を着た小さな人は、巨大な入り口のヘリに手をかけたまま振り向き、青い服をまとった巨漢の小さな人に目を据えて言った。
「どうにかならんかの?」
巨漢は気だるそうに膝を立てると「オレに訊いているのか?」と威圧で返す。
「そうじゃ」、怯まず淡々と赤が答えた。
ちっ。
青い巨漢が舌を鳴らすと「しかたねえなあ、オレにしかできねえだろう」と、言い終わるか否かのうちに立ち上がり、尻の埃を払い落としていた。

「どれ」
赤い小さな人の横から無限宙を見上げると、確かに4つ目の月にソレがピン留めで留めたように貼りつけられている。
「あれかあ」

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一度光らせた目を気だるそうに変えると、青の巨漢は身長ほどもあるハサミを出現させて、ソレと4つ目の月との間に滑り込ませた。それから、ちょきん、と。
ソレは頼るべき手綱を切られたみたいにふわと揺れ、それから次第にはがれ始めてひらひらとふたりの小さな人たちに向かって舞い降り始めた。
「これでやっと仕事にかかれる」
巨漢が踵を返し、定位置に戻っていく。
赤の人は地面に到着したソレをガシと掴んで、箱からぐいと引き出した。

ソレは送信履歴に残すべきeメール。こんなところで滞らせるわけにはいかない。
赤い小さな人がそいつを青い巨漢の小さな人に手渡すと、青の巨漢はハサミでちょきんと封を切った。

時にはこんなアクシデントが起きる。じゃがそれとて想定内のこと。
赤い小さな人は、見事に乗り切った難題を自画自賛し、よしと拳を握りしめた。

(続く)

この道に“才”があるかどうかのバロメーターだと意を決し。ご判断いただければ幸いです。さて…。