見出し画像

独り言 (ショートストーリー)

一人になった朝に、食欲もないのに珈琲だけは無性に飲みたくて、近くのガストに行った。なんでガストなんかにって思う自分と、それってガストに失礼じゃんって思う自分がいて、なんだか一人でいる気がしなかった。

朝八時からガストに行く人なんているのかよって思いながら外から覗いたら、逆光で人の影が窓に映ってて安心した。

中に入って、変な猫のロボットと目が合って立ち止まった。隣に「お好きなお席へどうぞ」って書いてある紙が見えた。それぐらい話せるようになれよって、猫を睨んだ。

パンケーキもトーストも、ましてやゆで卵なんて食べたら喉に詰まりそうな心境なのに、ドリンクバーだけを頼むにはなんだか癪で、どうせならって、ぐちゃぐちゃなスクランブルエッグのセットを頼んだ。

普段は見向きもしないスープバーは、「洋風トマトスープ」って書いてある。
珈琲を飲みに来たけど興味が勝って、鍋からスープをカップによそった。
見た目はコンソメスープだ。具は粒コーンと刻んだバジルらしきもの。
スープを片手に席に戻る途中、待機している猫の顔を覗くと、いびきをかいて寝てやがる。舌打ちをした。

熱々のスープかと思いきやそうでも無い。トマトスープかと思えばコンソメスープだ。
すっかり飲む気が失せた。

遠くの窓際の席に腰掛けている男に見覚えがあった。近所のおやじだ。
いつかの元旦、あの子と行った初詣でも会ったっけ。俺とおっさんの行動が似てるなんて、まるで将来の自分を見ているようだ。
奥さんはどうしたんだ。いつも一緒にいた、あの明るい奥さんは。
どうしたんだよ。

おっさんはいつから一人だ。
俺は昨日の夜からだよ。
振られたよ。
嫌いだって。


嘘だよ。

なにも言ってくれなかった。
急にいなくなったんだよ。
もう少し生きるって
約束したのに。

ぐちゃぐちゃのスクランブルエッグなんて頼むんじゃなかった。トマトスープのふりしたコンソメスープなんて選ぶんじゃなかった。
だけど広いフロアにおっさんと猫のロボットしかいないガストを選んで正解だった。

まだ朝の9時だ。





[完]


#ショートストーリー

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?