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掌編小説|怪物|シロクマ文芸部

風鈴と我が子を交互に見比べた。まん丸い様子が似ている。
風鈴をぽんとほうれば割れてしまうのと同じように、今胸に抱く我が子をぽんと放ってみたらどうなるのだろうかとしばし考えてしまう。

真夜中。
ベランダから近隣の家々のあかりを眺める。まだ起きている人間が私以外にいることに安堵する。
二階建ての家が多い地域で、ボロ屋でも三階まである集合住宅の最上部に住む私は、こうして時々ベランダに立ち、赤の他人の暮らしを眺めている。

時折なまぬるい風が吹いて、娘の頼りなく細い髪を揺らした。風鈴が揺れている。

私は風鈴が好きだった。だけどこの風鈴は音が鳴らない。鳴らないようにぜつと短冊を離してある。

鳴ってはいけないの。
風鈴が鳴ると娘が目を覚ますから。
風鈴が鳴ると、うるさいとご近所からお叱りを受けるから。

泣いてはいけないよ。
あなたが泣くと、私の中の怪物が目を覚ますから。
あなたが泣くと、世の中は私を『だめな母親』だと責めるから。

風鈴はゆらゆらと揺れる。
私も娘を抱いて揺れている。

目の下を人差し指でそっと押した。
今にも閉じてしまいそうなまぶたを撫でた。

ゆらゆら。
揺れるたび世間が遠のいていく。
娘と二人だけになったこの夜に、風鈴は静かに揺れている。

あなたが羨ましい。
外見そとみだけになり、吊り下がる音無き風鈴。
彼女は、なんとも身軽だった。




[完]


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