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◇配信前夜のエッセイ4――何度でも説明と言い訳

エッセイの企画
 WEB公開の直前になって、いまこの場でこうしてエッセイを執筆しているのも、もとはといえば「書けそうな日常ネタ」がいくつかあり、それらを順次投入しつつ「note」デビューをしてみたいと考えたからだった。ところが若干の誤算があって、【連投】することを余儀なくされたのだ。
 ここに、当初私が目論んでいたエッセイのサブタイトルを並べてみよう。

「配信前夜のエッセイ――新明解国語辞典【野球】の巻」
「配信前夜のエッセイ――その日のテレビ欄」
「配信前夜のエッセイ――王さん、記録を抜きそうです!」

 これらのエッセイは、限定無料公開を開始する中篇「プロ野Qさつじん事件」(240~50枚?)の内容とは、直接的に関係がない。小説を連載形式で公開していくうえで、合間合間にコーヒーブレークとなるようなコラムを差し挟んだらどうかというほどの感覚だった。しかしながら、小説を連載で読むユーザーの混乱を招きかねないとのアドバイスをいただき、エッセイ全5回分を先に掲載することにしたわけだ。

 そこで当初の、【初球】はまず意気込みを表明するような【直球】を投げておき、あとはゆるい球をその都度放っていけばいいかとの態勢にも、(自ら【軟投】派ではないかと思いつつも)変更すべき事情が生じたように思う。ここはきっと【力投】しなければならないところではあるまいか……? 本編の公開に先立って、それが特殊な「プロ野球ゲーム小説」(いわばキワモノ的ゲームを発想源にもつキワモノ小説)である手前、まだ野球についてもゲームについても小説の内容が公開前の段階では、やはり公開前エッセイの在り方も変わってこようというものではないか、と【マウンド】上で一人反省しつつ考えている。野球用語を比喩として使いがち(エッセイ中に頻出する【 】内の用語は、すべて某国語辞典の収録語)なのも早計なら、野球に絡めた日常の派生的話題をエッセイに書くのもまだ早い、と。

三省堂の国語辞典?
 小説の成立過程や内容面などについて説明しだすと、ついあれもこれもと気になってしまい、エッセイは4回にまで及んでしまった。どうも内容を詰め込みすぎるきらいがあって、そんなときにコーヒーブレークが必要となる――著者にも息抜きが必要だ――という心情も、どうか理解してほしい。
……いま机上で愛用している三省堂の『新明解国語辞典 第五版』のことなのだが、表紙がおもて裏とも取れるほど酷使されたうえに中身は付箋だらけ、今シーズンにも引退が噂されつつ満身創痍の状態でそこに控えている。【ベンチ】では「生き字引」と呼ばれているのだとか。生え抜きのベテランである。

 ところでこの辞書では、野球とゲームと小説の各分野で使用される用語の数を比べると、見出し語の収録数でいったら野球が他を圧倒する。これはもう本当に、奇異の念を抱いて思わず付箋を貼ってしまうほどなのだ。ためしにいま見出し語【圧倒】を調べ、語義に〔野球で〕という補足がついておらず、また用例としても「―的に〔=比べ物にならないほど〕多い」と出ているだけなのを確認して胸をなで下ろした矢先、すぐ左隣に【アットバット】「〔野球で〕打席に立つこと。」との項目を見つけてつくづく感嘆してしまった。
 当然のように【安打】もあれば、【アンチ】(接頭)もあり、「…に反対する。反。「―巨人」……」などとあって、思わずにやりとする。また反サッカーという立場にある私としても、インサイドキックのことがどこにも出ていないのを奇妙に思う一方で、【インコース】「……㊁〔野球で〕本塁上の、打者に近い側を通る球の道筋。」と出ていたり、【インザホール】「〔野球で〕ボールカウントが悪くなった状態。「バッター―」……」と出ていたりするのを、何か申し訳なく思うのである。

 歴とした見出し語として【アウトコース】や【アウトコーナー】があれば、【アウトカーブ】も【アウトシュート】も【アウトドロップ】もあり、もちろん【アンパイア】が宣告する【アウト】は【アウト】「……㊁〔野球で〕その回の打者・走者としての資格を失うこと。〔俗に、アウツとも言い、広義では失格・失敗・だめの意にも用いられる〕……」と、野球用語は多彩かつ説明がやけにくわしい。
 「あ」に収録の見出し語からしてこんな具合では、語義中の〔野球で〕の補足は数知れず、用例として載る野球絡みの話題にも事欠かない。このことは、かつて正岡子規がベースボールにその二字の翻訳語を宛がって以来の、日本語への浸透ぶりを物語っていると解釈すべきか、国語界のスター級の学者が名を連ねる当辞書の編集委員に野球狂がいる可能性さえ疑ってしまうのだ。
 「エッセイネタに」とだいぶ前に付箋を貼る癖がついてしまって以来、ネタが蓄積され続け、辞書の買い換えがずっと先延ばしになっていたりする。ただもしや、全文検索ができる電子版を購入したら、新たなパースペクティブを獲得できるのかもしれない……。

テレビ番組と王さんの記録
 ここまではまだ野球絡みの話題ということで、どうにか言い訳もできよう。前掲のエッセイ案サブタイトルにある「テレビ欄」となると、話題はもっとずっと派生的だ。
 小説の主人公たる元プロ野球選手は、引退1年目の当時は野球解説者兼実業家という「設定」だった。昭和がそろそろ幕を閉じようとしている1988年9月上旬(あと4か月で改元)のこと。彼は、作中では少しばかりミーハーというか、とにかくよくテレビを見ていて、事件発生前の夏休み中もテレビの前を離れたがらない。9月始まりの手帳には1日から「テレビの観察日記(研究)」をつけていたのだ。
 本編中での扱いは、自宅に残された奥さんが夫のセカンドバッグの内容物のひとつとして想像を巡らせる、まだそこに日記が書かれているかどうかも定かでない手帳の中身というにすぎないが、前回紹介した「すぴんおふ1――(非公開)日記」他でくわしく取りあげることになる「証拠物品」のことである。
 実際の9月5日は作品内でも5日(月)で、モデルとする日の「当日の新聞」も当然ながらこの世に存在する。執筆当時、私は図書館の参考資料室で新聞の縮刷版を参照している。そうして曲がりなりにも、テレビ欄を中心に、社会的事実などは「そっくり」であることを目指したのである。

 それと並行して、私はある現実の事件に興味を抱き、事件経過を追った書籍を読んだりもしていた。その影響で、本編中にも本筋には関係のない「世相を語る事件」の当事者として、やたらと「リクルーレット社」の名前が登場する。昭和最大といわれるかの疑獄事件は、地方発(某新聞社の横浜支局)のスクープ記事に端を発し、「疑惑」が一度は中央政界にまで波及しかけたが、政界再編となるかならないか、9月頃には夏バテしたように続報がなくなっていたところだった。
 点と線がいきなり結びついたのは、5日(月)のテレビ欄。作品内の主人公が注目する夜7時放送「爆笑!プロ野Q珍プレー好プレー特報 笑っていただきます!」の番組ではなく、そのすぐ前、夜6時から放送の報道番組(こちらは以下に実在の番組名)を見つけたときだった。

「00 徳光のNプラス1
 『衝撃!リクルート疑
  惑に新事実・これが政
  界工作の実態!』  」

 今宵ここでの大スクープ! とある議員が仕込んだその「賄賂持ちかけ現場」の秘密録音だか撮影だか(うろ覚え)に、スクープ報道をした番組もテレビ局も一枚噛んでいたのかどうか……あまり滅多なことは言えないが、野球関係者といえる名アナウンサーの番組でもあるし、私は「よくやった!」と喝采を送りたい。

 先に挙げた書籍によれば、疑惑が疑獄事件に、そして政権崩壊につながったターニングポイントになったのが、当番組で報道されたスクープだったとされている。もしかしたら、プロ野球の「珍プレー好プレー」を見ようとしていた多くの視聴者の家庭でも、1時間前に同じ局にチャンネルを合わせていた可能性もなきにしもあらず。だってあんな人気アナウンサーの番組だもの……。

 次回は「配信前夜のエッセイ」完結の第5回、作品の紹介をするのが目的なので、もう辞書だのテレビ欄だのとは言っていられなくなる。

 ところで王選手の通算「868本」の本塁打世界記録を取りあげたかったのは、この夏から禁煙を開始した著者が、禁煙補助剤たる「ニコチンガム」を多用し続けていることに関係している。もはやガム中毒に陥っており……いつも購入するのは一番大きな96個入りの商品で、本当に自分で気持ちが悪くなるほど馬鹿みたいにガムを噛んでいて、数え切れないほどの数の多さを漠然と体感、9箱目を購入したときに電卓で計算したところ、その総ガム数が「864個」だったことによります。