「みせる」と「かくす」を1つにする。(KaKuKoデザインのひみつ)
2023年末に発表された
KaKuKo(カクコ)。
今回は、メーカーであるダイシン工業さんと一緒に、この製品ができるまでの紆余曲折についてお話したいと思います。
1.自分たちでできることを
TENTハルタ
ダイシン工業さんは、どんな会社さんなんですか?
ダイシン工業 鶴見さん
1956年の創業当時からファイリングキャビネットを作っている会社です。A4など規格サイズの紙ファイルを綺麗に並べて収納できる、オフィス用の家具製造会社ですね。
ダイシン 久保さん
創業者が鶴見のおじいちゃんにあたる方なんですけど、起業する前に金庫屋さんの営業をされてたみたいで。その時のお客さんにキャビネットの需要があるってことで、自分たちで作り始めたようです。
鶴見さん
サラリーマン時代に貯めたお金を株で増やし元手にしたという噂があります。祖父は開発技術者ではなかったんですけど、そういう方が周りにいたので作ることができたみたいですね。
ハルタ
創業時に作った製品が、70年近く経った今でも続いてるってすごいことですね。それから現在に至るまで、販売先も同じ感じなんでしょうか。
久保さん
得意先さん、販売店さんは、現在までずっと続いてますね。
TENT アオキ
すごいですね。関係性もずっと続いているなんて。ちなみにダイシン工業さんが一般のお客さんへ販売されることはないんですか?
鶴見さん
あまりなかったですね。それで私が入社してからネット販売を始めました。それまでは販売店さんとすり合わせしながら製品開発することが大半だったんです。
販売数がある程度読めたりとか良い面がある一方で、作りたいものを製品化出来ず終わったり、自分たちの考えと異なる方向に製品開発が進んでいくこともありました。
鶴見さん
その頃に販売店さんでは売れていなかった昇降デスクという製品があったんで、それを「天板のメラミン柄がセミオーダーできる」という形でAmazonで直販してみたら、時代のタイミングもあって多くの方に買っていただけたんです。
鶴見さん
ユーザーさんからのフィードバックも感じられて良い経験だったんですが、天板が木製なので自社内で製造を完結できないことや、たくさんの大手さんが低価格で参入してきたり原材料価格の急騰により、その昇降デスクは事業を続けられなくなって販売をやめてしまったんです。
そして「次は自社内製造が可能な製品を作って、自分たちで販売したいね」という話になり、外部のデザイナーさんを探してたどり着いたのがTENTさんでした。
2.現代の暮らしの中から生まれた
ハルタ
ちなみに、どんなふうにTENTを見つけたんですか?
鶴見さん
たしか…noteでDRAW A LINE さんの開発秘話を読ませていただいて。平安伸銅さんが大阪の会社さんだったんで、もしかしたら一緒にやってもらえるかなと思って、ご連絡させていただきました。
あの開発秘話はすごい記憶に残ってますね。こういうふうにしてできあがっていくんだなっていう。
ハルタ
ありがとうございます。たしかメールを頂いてお会いすることになりましたね。
鶴見さん
当初どういう形で依頼させてもらうかってのはすごく考えたんですけど、やはり弊社のメイン商品で一歩前に出たいなと思い、キャビネットのデザインを依頼させていただきました。
ハルタ
お話を預かって、キャビネットを起点にTENTでさまざまなアイデアを広げていきました。
こちら初回提案の一部なんですけど。
鶴見さん
たくさんご提案いただいて。どれにしようかっていうのは社内でもいろいろ話がありました。
これまでのようにオフィスで使うことを前提にした提案がある一方で、一般の家庭で使える個人向けの提案もいくつかいただいており。やはり今回は、これまで取り組むことのなかった家庭向けの製品を作りたいなと。
その中でも、発送サイズなどの点で融通が利くこのプランが良いと思いました。
アオキ
これを思いついたきっかけってありますか?
ハルタ
僕は家に自分の部屋があるわけではないので、仕事をするときはリビングを使っています。仕事用の小道具なんかを置くために半透明の樹脂の引き出しを使いながらも本音では人目につく場所に置きたくないと思ってたんですよね。
なので海外製のしっかりしたキャビネットなんかにも憧れていたんですけど、そこまでゴツいものはリビングに置きたくない。だから最小サイズの「引き出し一個だけ」っていうものが身近に欲しいってずっと思っていて。それを具体的な提案にした感じですね。
鶴見さん
なるほど。僕は賃貸マンションに住んでて家で仕事することはほとんどないんですけど、それでもやっぱり使うシーンがイメージしやすかったです。
玄関に置いたりダイニングテーブルに置いてるんですけども、細々したものをインテリアに馴染む形でしまえるのが良いと思いました
3.シンプルを支えるノウハウ
アオキ
ちなみに、初期スケッチとは形状が変わっていて、天板が側面の板よりも一段凹んでいるような構造になっていますけど、このあたりの変化はどういう経緯で。
ハルタ
早めにサイズ感も検証したかったので、紙で試作して家に置いてみたり、木でも試作して使ってみたんです。
ハルタ
そうしたら、天面に植物とか小物とかお気に入りのものを飾りたくなったんですよね。
隠したいものは引き出しに、飾りたいものは天面にっていう使い方がしっくりくるので、ちゃんと置きたくなる場所ってことが伝わるようにフチを設けるようにしました。
ハルタ
もう一つ、リビングに置くにあたって、できるだけ「ただの箱」にしたいと思っていて、取っ手の存在感をできる限りなくしたかったんです。
試作を使う中でフチを持ち手として使えることに気づいて、その方向で形をまとめることにしました。
ハルタ
そのあたりで、重ねて使うことができるとさらに用途が広がる気がしたので、重ねた時に指を入れられるよう、脚の高さを調整していきました。
アオキ
ダイシンさんのほうでは「設計的に勘弁して欲しい」みたいな箇所などはあったんですか?
久保さん
設計上難しいという点は、あまりなかったような気がします。
鶴見さん
そうですね。この形状自体を実現するのに難しさはなかったと思います。
ハルタ
実は提案時点では「難しい要求ばかりですみません!」って思ってたんですよ。
ハルタ
金属の板材を使う製品はできるだけ端面(板のフチ)を見せないのが通常ですし、引き出しの指かかりの板と、コの字の囲みがピタっと四角形に収まるなんて、よっぽど精度良く組み付けないと実現できない。
ハルタ
それなのに、1個目の試作で恐るべき精度で出てきたので、さすがキャビネトを長年作ってきただけあるなあと驚きました。
鶴見さん
たしかにそうですね。ちょっとでも溶接がズレれば歪んで見えちゃいますし、塗料をのせる分どこまで小さく設計しておくか、曲げ角度は90度ではなくもう少し大きくするなど、微調整をたくさんしています。
鶴見さん
そのあたりは長年の経験から積み重ねられた設計のノウハウを久保さんに相談しながら進めました。
久保さん
0.1ミリで金属加工を行える機械を使ってますし、溶接は人為的なものなんですけど、それを見越して設計上の角度は甘くするなど、弊社の過去の経験が生かされた製品ではありますね。
鶴見さん
ノウハウでは乗り越えられなかった点としては、引き出しの開閉時に重要になるレール部品の検討ですね。
鶴見さん
さまざまな種類のレールを試して、引き出しの滑りの良さや、開けた時に本体が動かないようにする重量バランス、しめたときのカッチリ感などを追い込むために本当に時間がかかりました。
アオキ
天板の強度についても何度も検討してましたよね。
鶴見さん
そうですね。とくにワイドのほうは距離が長いので天板がたわんでしまいがちなので綺麗な平面が出るようにしっかりした補強構造を入れました。
その結果、モニターや家電を上に置いても全く問題のない頑丈な天板ができました。
ハルタ
取っ手もない「ただの箱」に見えるのに、頑丈さやスムーズな開閉などのキャビネットとしての基本が妥協なく盛り込まれている。さすがだなあと思いました。
4.歴史上初めての色
アオキ
色についてお話したいんですけど、初期スケッチの時点で、わりと最終から遠くない3色を提案していたんですね。
ハルタ
そうですね。ブラックとグレーだけだと既存のオフィス家具だけを想起してしまうので、そこから離れた個人向けのものだってことが伝わる色にしたかったんだと思います。
鶴見さん
最初の提案時点では、わりと赤みもあるマットな黄色でしたよね。たしか、塗装色のカラーチャートをお送りしたあたりから蛍光色に。
ハルタ
もともとの黄色も良かったんですけどね。塗料の色見本を見る中で「蛍光色もできるの??」ってTENT内で盛り上がって「まずは試作で見てみるだけで良いので」と蛍光色をお願いしました。
鶴見さん
それで蛍光色を手配したところ、カラーチャートにはあったんですけど現在は取り扱っていない色だということがわかって。そこから探すのが大変でした。
最終的にはアメリカから船便で取り寄せる形になりまして、そういう意味ではブラックとグレーに比べるとかなり困難を乗り越えた色になりますね。
ハルタ
塗る時の違いはあるんでしょうか。
鶴見さん
塗るのも大変でして。ネオンイエローは他の色に比べて塗膜厚の管理が難しく塗装工程が多いですね。
久保さん
ネオンイエローに関しては、効率は度外視して品質重視でやっています。蛍光色なんて弊社の歴史上初めてのことなんで、勉強になりました。
ハルタ
工程にご苦労をかけてしまい申し訳ないと思いつつですが、実際に商品写真を撮影したときに、そこに黄色があることで明らかに良いイメージを作ることができたので、この色が実現して本当に良かったと思いました。
アオキ
一見すごく派手な色に見えつつ、実際に置いてみると「インテリアの差し色」って感じで、すごく良いんですよね。
こう見えて、アンティークな家具にも合うし、植物を古道具を乗せても相性良いですし、家で使っていてとても気に入っています。
5.各自のための小さな倉庫
ハルタ
そういえば、名称についてはかなり悩みましたね。
アオキ
最初は一段の引き出しなので「one」って呼んでいたんですけど、この製品の特徴をより端的に示す言葉はないかなあって、たくさん案を出しました。
それで生まれかのが「各庫(カクコ)」という言葉です。
これまで大きなキャビネットを作ってきたダイシンさんが、各個人に向けて、各々が好きな場所で使えるような小さな倉庫。そんなイメージを込めた名前です。
今回はグラフィックデザイナーの大西晋平さんに参加いただいて、KaKuKoという文字列でロゴにしてもらいました。
ハルタ
ロゴの縦横比がプロダクト正面の比率と一致していたり、積み上げられるという機能性を表現できていて。
今後のシリーズの広がりも予感させるような良いロゴになったと思います。
鶴見さん
これまでの製品開発では、正直に言うと名称やロゴはサクッと決めてしまってました。どうやって決めれば良いか分からなかったからです。
でも今回TENTさんや大西さんに入っていただき、音・文字列・ビジュアルなど、ロゴ・名称が持つ意味合いについて理解が深まりました。
こうやって世の中に浸透しているフレーズは出来上がっているんだと感動しましたし、KaKuKo(各庫)もそうなっていってくれればと思います。
6.「みせる」と「かくす」
アオキ
実際に製品を使ってみて、いかがですか。
鶴見さん
うちはダイニングテーブルを壁付にしてて、そこに置いてるんですけど、すごく妻の役に立ってます。すぐに使いたいけど出しっぱなしにしたくないものってあるじゃないですか。
鶴見さん
小さい子どもがいるので、細かいものが置いてあると「触らせろ触らせろ」ってなっちゃってストレスだったんですけど、今は細かいものはすぐにKaKuKoに入れられるので、子どもも集中して食事できてます。
ハルタ
僕はもともと想定していた使い方ではあるんですけど、食卓の脇の、小さな僕のスペースに置いてます。リュックやiMacも置いてある場所で、そこに時計とかメガネとか携帯電話や文具類を入れてます。
ハルタ
猫を飼っているんですけど、毛繕いグッズなどサッと取り出したいけど隠しておきたいものもあって、そういうゴチャゴチャしがちなものを綺麗に収められるのがすごく良いなあと思っています。
アオキ
お二人の使い方を聞いて、なんか安心しました。KaKuKoってすごく精度の高い製品なので「ちゃんとしたものを整然と入れなきゃ」って思ってたんです。
でも僕も実際にはボックスティッシュやウェットティッシュなんかを入れてます。
アオキ
人間誰しも「サッと出したいけど見せたくないもの」ってありますもんね。そういうものを手早くしまえて「完全な箱」になる。
ハルタ
たしかに。一段にしたのも取手をなくしたのも、できるだけノイズのない「ただの箱」にしたくてやったのかもしれません。
アオキ
暮らしにノイズはあって当然で。でもそのノイズを簡単にON/OFFできるっていう。
アオキ
植物とかアロマディフューザーなどの飾りたいものは上に、隠したいものは引き出しに、一つの場所にまとめられるから省スペースにもなりますね。
鶴見さん
なるほど。ちなみに製品写真では積み重ねて使う提案もしてますけど、TENTさんでは積み重ねた使用感はいかがですか?
アオキ
積み重ねた時の一段一段の隙間に軽やかさが出ているので、お店でも収納量のわりに圧迫感がなくて良いです、
ハルタ
積み重ねたときに引き出しの向きを変えられるのも面白いですね。
アオキ
木の什器でできたコーヒースタンドや美容室なんかにもすごく合うと思うので、店舗什器みたいにも使ってもらえると嬉しいですね。
今日はありがとうございました!
鶴見さん 久保さん
ありがとうございました。
見せたいものは天面に
隠したいものは引き出しに
「みせる」と「かくす」を1つにできる
暮らしのノイズを ON/OFF できる
キャビネットの老舗ダイシン工業とTENTが作った『 KaKuKo(カクコ)』
あなたの暮らしの中でも、役に立てると嬉しいです。
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