返事の代わりのハグが、くすぐったくて、くすぐったくて。
7月4日。
ひまわり色のロングスカート、真っ白なオーバーサイズのTシャツ。
肩まで伸びた髪を後ろでチュンと結んで。
結んでスッキリした耳周り。フープイヤリングの存在感が増す。夏の陽に反射してどこまでも輝く。
誰にも見せたくないほど綺麗ないつきを駅からさりげなく遠ざけて人が少ない海沿いを散歩する。
「暑いな」と言うと「夏じゃけ」と、何言ってんだこいつ、みたいな目で僕を見た。堤防にヒョイっと乗って歩く。僕は歩道からいつきに見下ろされ「禿げてね?」とかからかわれる。
しばらく歩くと自販機とベンチがあったので休憩した。
じゃんけんで負けた方が支払って、ベンチで一服。
「弱すぎじゃろ」とあはははと楽しそうな君がとても可愛い。
砂浜があるところまで歩く。歩いている途中にどんな会話をしたかは全然覚えてないし、覚えてなくてもいいと思った。大したことのない、たわいない会話。いつきがバランスを崩したのをきっかけに僕らは手を繋いで、僕はドジに感謝した。
砂浜で、残りのジュースを飲んで、またしゃべって、潮風に吹かれて、海に足を入れて、パシャパシャとちょっとだけ青春。高校の時やりたかったな、と思ったりもしたけれど、これはこれでいいな。と思った。
帰り道「疲れたおぶれ」とご機嫌斜めな君をおぶる。
軽い君。コクリコクリと。でも腕は強く僕の鎖骨を。
「いつきー」と意味もなく呼ぶと返事の代わりに、ぐっと腕に力を入れてきた。それがなんだかくすぐったくて、くすぐったくて。
夏の夕暮れ、海沿いの潮風、吹かれる僕ら二人。
きっと記憶に残るのは話した内容よりも、波の打ち寄せる音とか、揺れて反射するイヤリングとか、彼女の髪の匂いとか、そういうのなんだろうと思う。
それはとても幸せな記憶で、僕は忘れないうちに、大事に大事にこうして文字に残すのだった。
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