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いつき、友人を呼ぶ(1)

「今度友だち呼んでええ?」


「友だち?」
「そ、この前の授賞式でなんか仲良くなって、新人の子なんじゃけどめちゃ面白いけえ」
「いいけど、うちで??遠くない?」
「えらい懐かれてな。どうしても1回遊びに来たいんじゃて」

本当はちょっと面倒だと思ったけれど、彼女から「友だち」なんて単語が出てきたのは久しぶりだったし、他の作家を見たことがないので若干のミーハー心でOKした。

「じゃあ片付けないとね」
「うし、まずは・・・どこで??」
「客間とかないしな、一時的に俺の部屋を客間にしよう、エアコンもあるし。ドア開けてキッチンと繋げれば気持ち広く感じるだろ」
「おけ、じゃうち水回りやっとく」
「俺は模様替えと軽く掃除しとく」

「ちなみにどんなの書く人?」
「これ」と差し出された本は超見覚えがあった。最近出てきた新進気鋭のミステリー作家だ。帯にはベテラン作家が絶賛の限りを尽くしている。

「”いつきさんへ”ってサインもろた」と嬉しそうな先輩。

「どんな人?ミステリー作家ってなんかイメージ湧かない」
「ふつーの女の子。作風と作者のイメージ不一致はよくあることじゃけ」

あとはこんな感じらしい。

年は僕と同じで今年25。女性。会社員をしながら賞に出し続けてついに才能開花。そこから賞を総なめにして一気に有名になった。今年から専業になって色々不安なのでいつきにアドバイスをもらいたいとかなんとか。

こいつ居候だけどな。とは言わなかった。

「好きな食べ物とかある?」
「チョコミントのアイス」
「いや、君のじゃなくてね」
「あー、せんべいが好きらしい」
「じゃあ、お茶も一緒に用意するよ。いつき、あとで湯呑み買いに行こ」
「ラジャ」


「うん、まあ、とりあえず、お客さんを入れられる状態にはなったな」
「疲れたー、あおー、アイス買うてきてー」
「湯呑み買いに行くついで食べてこよう」
「サンセー」


「ところでさ、授賞式ってこんな時期なの?なんか冬のイメージ」
「あー、なんか、色々あったらしいよ。大人とかコロナとかで」
「へー」
「あ、そういや名前とか顔とか知らないんだけど」
「プライバシー・・・」
「いや、そこは大丈夫じゃね?」
「まあええか」

ほい、とスマホでURLを送ってきた。その先にはペンネーム(多分)と表彰オブジェを持って微笑んでいる女性があった。髪が長くて、端正な顔立ち、縁の薄い丸めがねをかけていて、背筋がシャンと伸びている、大人びた女性だった。

「大人っぽいな、いつきより」
「一言余計じゃ」
「俺と同い年とも思えない。なんか雰囲気あるね」
「プロじゃけえ、オーラーはある」

「・・・」
「こっちみんなボケ」
「オーラねえ」
「うちだってよそではみんな”ははーー”ってなるんじゃ」
「まじかよ」
「半分嘘。でもとーきょーいくとちょっと声かけられたりはする」
「ふーん」

「暑いな」
「暑い」
「じゃんけんで買った方が奢りな」
「えー、うち湯呑み代出したじゃろ」
「それは君のお客さんだからでしょ」
「うー、まあええけど」

勝ってしまったので、僕がアイスを出した。

「あおって勝負弱いよな」
「昔からな」
「……そういやあおの昔話あんま聞かないな、今度聞かせて」
「別になんも面白くないよ」
「ええよ、それでも、知りたい」


ふーん。

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