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名誉ある僕の死について

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初めて完結させた小説です。
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#オリジナル

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』②

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』②

ぜろ、ゼロ、零、Zero...

本当に不思議なことに、僕たちの関係性はまっさらだった。
昨日までは彼女の家のエレベーターが点検される日も、近所のパン屋の新しい営業時間も、外でキスが出来るちょっとした秘密の場所も、全て逐一発見されては共有されていたのに、手癖で点燈させたベッド上のスマホ画面には、今日はなんの通知も見当たらない。

僕たちは、それらがまるで見えていないかのように扱うようになるのかな。

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』③

外に出ると、息が少し白かった。

もうこんな季節か。思ってはっとする。
あと何回こんなふうに思うんだろう。同じことを繰り返す愚痴はマリみたいで、少し嫌気が差しながら。
でも、本当に、あと何度こんな日を迎えるんだろう。年老いても一人だったら流石に嫌だな。

「って俺、センチか。」

近くのコーヒー屋の少し重めのガラス扉を開ける。
店内には2組しか見当たらない。最近来なくなっていたのでわからないが、開

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑤

"女々しい"なんて言葉、誰が作ったんだろう。

大正時代の男ならまだしも、令和に生きる僕には、男なのに"女々しい"感情がとにかく渦巻いていた。

最初のうちはよかった。晃たちと居酒屋でマリや彼女への不満を言い合ったり、しばらくぶりに各地に散った仲間たちと予定を合わせて旅行をしたり、楽しく過ごした。
正月を実家で過ごしたこともあって、大体1か月くらいは経っただろうか。
久しぶりにひとりの家に帰りつい

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駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑥

駄文作文:  『名誉ある僕の死について』⑥

翌朝、あの日のように外に出た。
今度は11時くらいだったので、カフェの店内もまばらに人がいる。ベビーカーを連れた女性はあの日と同じ人だ。
今度は胃にやさしいカフェオレが飲みたくなって、いつかのテラス席から店員を呼ぶ。
バイトは、女子学生からパートらしき中年女性に変わっていた。

「しばらくお待ちください。」メニューを下げてもらい、改めて店内を見渡す。と、今日はベビーカーの中が見えた。
ベビーカーに

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