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中国と対峙する台湾人左派から学ぶ

 ペロシ米下院議長による台湾訪問をきっかけにした中国の軍事演習は、終了するとされた8月7日を超えて継続し、台湾に対する中国の軍事的な脅威が常態化しようとしています。これに対して台湾の蔡英文政権は、主権と自由、民主主義を守るために与野党を超えたすべての人びとが団結して闘うことを訴えています。
 ここで紹介するのは、今回の軍事演習が計画される以前、5月24日付でアメリカの左派系サイト「スペクター」に寄稿された台湾在住の台湾人による論考を DeepL によって機械翻訳したうえで手を入れたものです。今回の軍事演習を台湾人の左派がどのように捉えているかを知ることができます。作業者はほとんど英語がよめないため、間違い、場合によれば大きな誤訳のある可能性があることをご了解ください。

抜粋

  • 「今日はウクライナ、明日は台湾」という切迫した危機感

  • ウクライナと台湾の歴史、文化、主体性を認めず、支配を正当化するプーチンと中国政府。同様に、ウクライナと台湾の主体性を認めず、帝国主義大国の駒としか理解しない西側左派への批判。そこでは「地政学や政治理論における植民地主義」が問われている。

  • ウクライナ戦争で、北京は、欧米が大規模な経済制裁を行い、軍事支援を行うことを知った。一方、台湾は、欧米の制裁も武器もロシアの侵略を抑止できないという事実を知った。

  • 台湾は、軍事費を増やし侵略に対抗する準備をすることで、北京に「両岸戦争は考えるだけ無駄だ」と思わせねばならない。また、旧ソ連圏の東欧諸国などと多国間同盟を構築するべきである。

  • 自由化と相互接続が進む世界経済は戦争の勃発を防げず、中国の権威主義国家を変貌させることもできなかった。これは帝国主義の侵略と植民地主義の問題が、冷戦の終結によっても解決されていないことを示している。

  • アジアでは権威主義に対抗する民衆運動の波が押し寄せ、香港からミャンマー、タイに至るまで、連帯の枠組みがある。国境を越えた連帯は急務である。ウクライナ戦争は、ロシアのプロパガンダや弁解者の言説に対抗するために、とりわけインターネット上の仮想空間における連帯が重要であることを示している。

  • 権威主義国家との深刻な対立は、民主主義、主権、脱植民地主義を追求し続けるアジアの活動家の連帯を生み出した。草の根運動と国境を越えた相互依存を促進することによってのみ、エスカレートする帝国間対立を拒否するオルタナティブを展望することができる。

作業者の感想

 1990年代に民主化を達成した台湾の人びとが、中国の脅威にいだく正当な危機感を台湾人の左派も全面的に共有していることがわかります。
 しかし、アメリカの核の傘のもと、戦後民主主義の中で活動してきた私たち(少なくとも私)古い日本の左翼にとっては、中国による脅威に対して、「軍事費を増やし侵略に対抗し、北京に『両岸戦争は考えるだけ無駄だ』と思わせねばならない」という主張などは、信じてきた世界観、理論と容易に接続できないのも事実です。……しかし、ウクライナ戦争のあとで、台湾人が置かれている現実を冷静に想像すれば、これ以外の立場がないことも容易にわかると思います。
 香港からミャンマー、タイに至るまで、アジアでは権威主義に対抗する民衆運動の波が押し寄せていると書かれています。私はさらに、ウイグルやチベットで闘う人々も含めてアジア規模の民衆の連帯を作りあげねばならないと思います。1990年代以降、アジアでは解放を求める民衆の運動が西側の民主主義を指向しています。西側を向いて蜂起するアジアの人びとの中には「西側への幻想」があると思いますが、私たちはそれを言葉だけで批評するのではなく、何よりも解放を求める民衆の闘いを支持し、その現場におもむき、民衆とともに闘うなかで、真の解放への展望を彼らとともに作りあげねばならない。そのためには、何よりも危機の現場で苦闘する当事国の左派から学ぶ必要があると思います。この論文がその助けになれば幸いです。



台湾からウクライナへ=戦時下における地政学的再編と反植民地的連帯=

2022/05/24
Wen Liu (リウ・ウェン)
Brian Hioe(ヒオエ・ブライアン)

ウクライナ戦争。植民地時代の物語

 ロシアのウクライナ侵攻以前には、台湾人はウクライナや東欧の地政学を意識していなかったが、ウクライナ戦争は、アメリカ・ロシア・中国の帝国主義間対立や台湾の軍備に関する活発な議論を呼び起こすことになった。
 2022年2月24日の侵攻直後には、中国と米国がウクライナをめぐる地政学的対立にどう対応するかが注目され、Twitterで「台湾」がトレンドになった。中国は欧米の批判を押し切ってロシアに同調するのか、欧州での紛争が進展する中で、アメリカがアジア太平洋地域での軍事・外交戦略をどう調整するのかが注目された。
 台湾とウクライナの歴史は違い、両者を取り巻く地政学的な力学も異なるにもかかわらず、ウクライナ戦争は台湾の運命と密接に関係しているように思われる。戦争の危機を表現するために、(中国との)統一派と(台湾)独立派の双方が「今日はウクライナ、明日は台湾」というスローガンを掲げた。これは以前のスローガン、「今日は香港、明日は台湾」を言い直したものである。
 プーチンがウクライナでの戦争を正当化するしかたは、台湾人にとって不気味なほど身近なものだ。プーチンは、ウクライナの主権とウクライナ人の主体性を根本から否定して、ウクライナをロシアのアイデンティティに劣るものと見なす排外主義的なイデオロギーによって「特別軍事作戦」を正当化したのである。ロシアにとって軍事的にも経済的にもほとんど意味がないウクライナ侵略は、プーチンの帝国主義的でノスタルジックな物語と植民地主義的な傲慢によってのみ正当化されている。同じように、北京は台湾併合計画を、両国の人々が言語的・文化的ルーツを共有していると主張することで正当化している。漢民族の民族的・文化的優位という、北京の排外主義的主張は、プーチンのエスノナショナリズムに酷似している。ウクライナと同様に、中国の「領土の完全性」を完成するためには、台湾を占領して祖国である中国に併合しなければならないと言うのである。
 ウクライナに関する国際的な言説では、ウクライナは国家の歴史、文化、国家としての主体を持っていない。ウクライナは2つの世界的超大国の間の駒として扱われている。これは台湾に関する言説でも同様である。ウクライナと台湾の特殊性、主体性は、主流の国際関係分析の中では無視されている。もちろん、帝国間の競争はウクライナ、台湾両国が直面する課題を理解する上で重要だが、主流の地政学的リアリズムでは、ウクライナと台湾の国益と主体性は無視される。このような還元的な分析は、政治的な帰結をもたらす。それは、しばしば、周辺に追いやられている力の弱い国家が、帝国主義者に譲歩したり、帝国間で交渉された何らかの解決に合意することを無理強いするような形で超大国の政策を押し付けるのである。この意味で、ウクライナが台湾に与えた教訓は、軍備や安全保障の戦略だけではなく、地政学や政治理論における植民地主義の問題でもあることを理解する必要がある。

中国的な特徴をもつロシアのプロパガンダ

 驚いたことに、西側左派の一部は、このような植民地主義を再生産している。それらの人びとの、ロシアの侵攻に対する最初の反応は、問題の焦点を、ロシアの侵攻とウクライナの抵抗から、西側の問題に移すことであった。彼らは、プーチンのウクライナ侵攻を正当化する形で、「NATOの拡大」を安全保障上の懸念として持ち出し、この戦争に関するプーチン政権の公式見解を奇妙なほど模倣した。東欧の活動家たちは、こうした西側左派の一方的な解釈を批判して、西側左派に、非西側帝国主義、特にロシア帝国主義に対する分析を深めることを迫っている。
 中国は当初、ロシアのウクライナ侵攻によって厄介な立場に立たされた。中国は地政学的安定と欧米市場へのアクセスを望む一方で、ロシアとの同盟関係を維持したいと考えていた。それは、世界の地政学的パワーバランスを変えようとするロシアと同様、自らの帝国の一部と見なす国々に支配を及ぼしたいという共通の目的を持っているからである。ロシアはウクライナを合法的な独立国家ではなく、本来はロシアの一部であると主張しているが、これは中国が台湾を国ではなく、太古の昔から中国という国民国家の一部であると主張していることと類似している。
 当初は躊躇していたものの、中国は結局、ロシアの主張を追認する姿勢を強め、特に中国国内ではプーチンの主張がそっくりそのまま繰り返されてきた。中国はロシアによるウクライナ侵攻を、欧米の侵略に対する正当な反応であるとして、ウクライナにおける「アゾフ大隊」のような極右集団の存在を誇張している。中国とロシアの間の最初の緊張はすぐに解消した。このような親ロシア的な言説は、英語圏では、左派メディアの限界的でセクト的なサークルでしか流通していないが、中国語のメディア、特に中国の国営メディアでは大きなスペースを占有している。
 興味深いことに、中国の言説における中華帝国の擁護者たちは、時に西側左翼からヒントを得て、非難の矛先をもっぱら西側に向けようとし、しばしば西側左翼のロシアに対する擁護者から引き出された議論を引用してきた。これらの擁護者とその西側左翼の共犯者は、西側を批判すべき唯一の行為者とし、ロシアの行動はNATOの侵略に対する正当な反応であるかのように装っている。彼らが無知からそうしているのか、それとも西洋帝国主義に対する罪悪感からそうしているのかは別として、結果として、非西洋帝国主義、この場合はロシアがウクライナで引き起こした惨劇に対する責任を免除することになるのである。

戦時下の地政学的再編成

 ロシアによるウクライナ戦争は、中国と台湾の双方に大きな衝撃を与えている。北京は、欧米が大規模な経済制裁を行い、ドイツのような反戦主義的な国からも軍事支援が行われることを知った。台湾は、欧米の制裁も武器もロシアの侵略を抑止できなかったという事実を理解しなければならなかった。中国と台湾はともに、ウクライナ戦争が両国の対立関係、国防政策、経済関係に甚大な影響を及ぼすことを認識している。特に台湾の防衛戦略は、軍事費を増やし、侵略に対抗する準備をすることで、北京に「両岸戦争は考えるだけ無駄だ」と思わせねばならない。
 中国はこれまで、ロシアとの同盟関係を維持する一方で、国際関係には慎重な姿勢をとってきた。ロシアに全面的に味方して、戦争をめぐる欧米との経済・外交摩擦に巻き込まれ、国際市場から孤立するリスクを負うわけにはいかないと判断したからだろう。中国はウクライナに対して、157万ドルという比較的少額の人道的支援を表明しているに過ぎない。また、米国がウクライナに武器を援助したことを非難し、武器は戦争をエスカレートさせるだけだと主張しているが、米国やNATOに対抗する試みはほとんどしていない。
 中国は、市場としてだけでなく、技術やイノベーションの源泉としてもヨーロッパを必要としているため、これまで積極的にヨーロッパ諸国と接触し、ヨーロッパと協調してきた。中国は戦争によって、こうした経済的な結びつきが崩れることは許されないと考えている。北京は、ヨーロッパと中国の、貿易と経済を中心としたご都合主義的な関係を維持したいのだ。
 しかし、2022年4月1日のEU・中国首脳会談は、両者の関係に変化をもたらすきっかけになったかもしれない。中国の人権侵害に対して、ヨーロッパは多国間で協調して声明を出して、引き下がろうとしなかった。中国が会談の焦点を貿易・経済問題に絞ろうとしたにもかかわらず、EU代表は新疆、チベット、香港、台湾における中国の政策に異論を唱えることに固執した。
 中国とヨーロッパが経済的に相互に依存していることに変わりはないが、こうした対立の中で状況は変わり始めている。コロナ禍以降、台湾はリトアニアを中心とする東欧諸国と緊密な外交関係を構築してきたが、これに対して中国は、リトアニアに対する貿易ボイコットを発動した。台湾との関係を構築した国々を罰するという中国の決意は、EUの他の国やEU全体との関係を危うくし始めるかもしれない。
 中国、EU、アメリカ、ロシアの複雑な多国間関係は、経済的にも政治的にも「新冷戦」という二元論的な地政学的見地では説明できない。ウクライナ戦争は、我々の住む世界が米中の超大国間競争を媒介とするだけでなく、他の多くのアクターが関与していることを示したのである。ウクライナは、経済的・政治的な力がないために、西側諸国からほとんど無視されてきたにもかかわらず、ロシアの侵略に対する揺るぎない抵抗によって、地政学的な配置を塗り替え、冷戦後の世界史のダイナミクスを変化させる可能性があることを示したのである。
 新自由主義経済学者や地政学的現実主義者の予測とは異なり、市場の自由化と相互接続がますます進む世界経済は、ヨーロッパで再び戦争が勃発することを防げず、中国の権威主義国家を変貌させることもできなかった。地政学的な争いの中で、西側と非西側のグローバルな超大国が何度も衝突していることは、帝国主義の侵略と植民地主義の問題が、冷戦の終結によっても解決されたていないことを示している。
 さらに、ウクライナ戦争は、バルト諸国をはじめとする旧ソ連諸国が、ロシアと中国の双方に対してより強く抵抗していることを浮き彫りにした。ロシアの天然ガス輸入に大きく依存しているドイツやイタリアなどの西欧諸国と比べて、これらポストソ連・ポストコロニアル諸国は、帝国主義の侵略に対してより強く抵抗しているように見える。

抑止戦略としての民衆の連帯

 進歩的な立場からすれば、台湾はアジア太平洋地域においてよりバランスのとれた地政学的関係を持つべきであり、米国の支援だけに依存しない方がよい。しかし、ウクライナの実例は、台湾を帝国の下部とみなす北京の権威主義的な政権と交渉するリスクを明らかにした。台湾の外交戦略としては、国際的な孤立から脱却するために、米国以外の中東欧諸国などのパートナーとの間で公式・非公式に多国間同盟を構築することが望ましいと考えられる。
 国際的な交流が限られている小国である台湾は、超大国と同じゲームに参加することはできない。中国の軍事予算と安全保障機構に対抗することもできない。しかし、ロシアによる侵略に対して、ウクライナ政府だけでなく、市民社会からの広範な草の根の抵抗運動が拡大したことは、国際的な連帯が戦争を抑止する戦略として有効だということを示した。なにより台湾の目的は中国との戦争を抑止だが、そのさい、宥和的なアプローチは北京の政治的、経済的支配を強め、台湾市民の自由を奪うだけだと知らねばならない。
 国内的には地政学的な利害関係への意識を高め、国際的には同盟国を増やしていくことが重要である。ロシアのウクライナ侵攻を受けて、台湾の国防部は草の根団体の圧力によって、数十年ぶりに台湾の国民に民間防衛の小冊子を発行した。現在の冊子には欠陥があり不完全である。台湾における戦争についての言説で最も気になるのは、それをどう話すかではなく、過去の白色テロとの歴史的・感情的関連があるために、誰もそれについて語らないという事実である。権威主義的な過去から脱却するために戦ってきた若い民主主義国家であるウクライナが台湾に与えた教訓は、戦争への備えや動員だけでなく、自国のアイデンティティと反植民地主義的な主権を実現するという重要な課題が存在しているという事実である。
 台湾は、中国の帝国主義的侵略に対抗する地域内の草の根運動を促進する重要な場としての役割も担ってきた。2010年代半ば以降、アジアでは権威主義に対抗する民衆運動の波が押し寄せている。香港からミャンマー、タイに至る連帯した闘いの枠組みとして「ミルクティー同盟」がよく知られている。
 これらの闘争は、主に各国の国内権威主義的権力に対抗するものであった。香港は例外であり、香港を支配する中国政府によって引き起こされた政治的自由の悪化と直接的に争った。特に、自国以外の国家の行動を抑止できない可能性がある場合、地域紛争を防ぐために国境を越えてこれらの運動を結集させることが不可欠であるが、それには困難がある。
 とはいえ、地域紛争の可能性が高まり、地域、ひいては世界がさらなる戦争に引きずり込まれる可能性がある現在、国境を越えた連帯の問題は急務であると思われる。このような連帯を築くことは、コロナ禍の中では非常に困難であり、国境を越えた活動家同士の人的交流は大きく制限されている。しかし、ウクライナ戦争は、ロシアのプロパガンダや弁解者の言説に対抗するために、インターネット上の仮想空間における連帯が重要であることを示している。
 私たちは、国境を越えてそのような共通の組織化を構築するために、できる限りのことをしなければならない。反戦活動家のシヤム・ガリョンが現在の戦争を踏まえて論じているように、「戦争を好まないことと反戦であることは同じではない」のである。彼は、「戦争が支配、従属、武装に根ざした紛争関与のスタイルであるのに対し、反戦は協力、協調、軍縮に根ざした紛争関与のスタイルである」と述べている。
 ポストコロニアル社会であるアジアの活動家にとって、戦争は遠い記憶だったが、権威主義国家との深刻な対立が、民主主義、主権、脱植民地主義を追求する私たちの連帯を生み出した。草の根運動と国境を越えた相互依存を促進することによってのみ、エスカレートする帝国間対立を拒否するオルタナティブを展望することができるのである。

Wen Liu(リウ・ウェン): 台湾の台北を拠点とする作家・研究者。台湾中央研究院民族学研究所助教授、『New Bloom Magazine』編集長。
Brian Hioe(ブライアン・ヒオエ): 台北在住のフリーランス・ジャーナリスト、翻訳家。『New Bloom Magazine』の編集者。

【原文】
https://spectrejournal.com/from-taiwan-to-ukraine/


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