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カード小説「Shuffles」冒頭「Card.1」(3枚)

Card.1

《Shuffles》に収められたCardsはとある不慮によって頭にその断片しか浮かばなくなってしまったある不幸なおとこの厖大な記憶データその一部の集積群の記録だ。これら厖大な記録の集積データ群を集めては記録と分析をくりかえしてきたわたしがいうのもなんだがこの不幸なおとこはじつはこのわたしであるのかそうでないのかわたしもわからない。これまでこれらCardsをわたしなりに整理したつもりだったがそもそもひとの脳を道筋たて整理することそれ自体が無謀なはなしだ。それ自体が意思も感情ももたぬ物質や電気シグナルの移動からなるひとの記憶というものは宇宙の歴史を矮小化させた人間の脳のどこかに無数に遍在する奇跡的に蒼いかがやきをはなつ地球とおなじだ。まった。誤解しないでいただきたい。このようなわかりやすい喩えでわたしは宗教家や小説家がことば巧みに幻想や物語を弄してよくやるように矛盾するモノがあたかも辻褄があっているようにみせかける詐欺まがいな行為はしない。わたしは嘘つき宗教家や小説家ではない科学者だ。科学者のわたしから後進へ訓示を。じぶんに都合よくみえるわかりやすさにはじぶんには見えない大きな穴がある。Cardsの解明をもくろむ後進へ示唆を。あらゆる先進を疑え。わたしをふくむじぶんさえも。次にCardsを解明する手段はひとつではない。Cardsは便宜上おとこが不慮に見舞われたと予想される点からいまここに横たわる生身のおとこの脳が混乱をきたし精神や感情がみだれ発狂せぬようにわたしの手によって漠然とならべられてあるだけだ。きみたちがこれらCardsを解析よしんば再構成なりをくわだてるときはわたしの並びなどあてにすべきではない。百も千もわたしはCardsを一枚一枚なんどもじっくりと時間をかけてよみかえした。がよみかえせばよみかえすほどおとこの実体があやふやになる。そこでわたしはCardNo.も序列もタイトルも一旦とり除いたNo.のないCardsの状態でよんだ。まるでトランプのカードをシャッフルし都度その一枚をめくってよむといったように。すると偶然にも。まったくおなじあるCardを連続でひいてよんだそのときだった。じつはそのシャッフルされた順不同で可変性ある状態のよみかたこそがこのおとこの本来のあるべき脳の姿ではあるまいか。とわたしは気がついた。いや。正確にはあのシャッフルされた偶然の一回かぎりのあの流れのあのときこそがわたしがおとこの実体の真相にもっとも肉薄した最初で最後だったのかもしれない。後進たちよ。人間の脳にひそむ記憶が状況(解明しようするわれわれにさえ)によって無限に歪(ゆが)んでしまう宇宙のありようにも酷似するこの不幸なおとこの記憶の集積《Shuffles》におさめられたCardsをぜひ順不同にばらばらによんでいただきたい。




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