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メランコリー

眠れぬ夜だった。私はハンドルを握り、
灯りのない峠道を車でさまよっていた。
深い霧の中、ヒッチハイカーが見えた。
車を止めると、哀れなメランコリーだった。
この種のメランコリーはいやしくて、
施しがあるまでドアから離れようとしない。

私の不調は三年も続いていた。
身も心も疲れ果て、何の目標も持てず、
その上今夜は、助手席にメランコリーーー
邪悪で、惨めな放浪者が座っている。
この種のメランコリーはずる賢く、
心の隙をついて、人に嘘をつかせる。

車内では、二人とも一言も話さず、
ラジオだけがマービン・ゲイを流していた。
今、この奇妙な道連れに行き先を尋ねれば、
「シカゴまで」と冗談を言うのかもーー
「あの女を見つけるために、
ヒッチハイクで世界中を回るんだ」と。
この種のメランコリーは厄介で、
私のコンバーチブルでくつろぐ気なのだ。

道を進むほどに濃くなってゆく霧。
靄の壁にヘッドライトの反射が揺らめき、
虚栄心から吐かれたネットの書き込みを、
薄れてゆく家族という神話を照らす。
政府も企業も「死」を巧みに隠し、
孤独を抱えた人間を誘い込むーー
特に何もすることのない生活に。
ジョン・ベリマンがあなたに囁きかける、
「退屈を認めるのは才覚がないということ」
そう書いた彼も、もちろん、自殺した。
この種のメランコリーを見たことなくても、
あなたは私の言う意味がわかるよね?

醜いメランコリーは頭痛に苦しみ、
痛み止めを欲しがり、尻尾で叩いてくる。
彼の毛の抜けた皮膚には火山が巣食い、
時々カジノで大当たり、血が噴き出す。
彼の牙の神経には爆弾が仕掛けられ、
刺激せねよう、吠えるときも息を止める。
闇の中で光る目は居もしない獲物を見つめ、
ピンと立つ耳は見えない敵の恫喝に悩まされ、
その上、この種のメランコリーは残忍で、
私の家に火をつけ、私の井戸に毒を盛る。

闇の奥から一台の車が近づいて来るーー
死に取り憑かれたかのような猛スピードで。
車からは若い男女の叫び声、
興奮よりも、恐怖に近い叫び声だ。
車線を越え、彼らのライトがパッと光り、
私の車に激突しかけた。
彼らの車は猛スピードのまま、
空っぽの光の中に吸い込まれていったーー

「ここが我々の目的地だ」とメランコリー。
私は車を降り、光の奥に目を凝らす。
辺りの空気は混沌に支配されていた。
私はトランクを開け、「秩序」を取り出し、
調和を取り戻すために、足を踏み入れたーー
すると、マクベスが光の中から現れた。
次いで、イアーゴーが。
さらにはラスコーリニコフが、
ロゴージンがこちらに気づいた。
オイディプス王やイカロス、
イスカリオテのユダらの隣りに私は腰かけた。
彼ら、「悲劇における冷酷な啓示」が、
あらゆる自然を狂わせていた。
私は、勝利のない戦闘の空しさに背後から撃たれ、
死すべき運命を受け入れるーー

生は虚構の海を渡る舟の虚像に似ている。
皮肉にも、定められた運命こそが自由の正体。
人生は、生活に退屈でなく、熱中するための、
実在しないオーブを探す無益な旅なのだ。
哀れなメランコリー、そいつを忌み嫌うべきか、
死が生と同じく、それ自体、無意味なのだとしたら?

答えだか信念だかをさまよい求めた放浪も、
なぞっていたのは、結局、自分の顔だった。
晴れていく霧の先にあるもの、
それは新しい自分との対話に違いない。
私は私の夜明けにいた。
メランコリーはどこかに消えていた。
いや、この種のメランコリーは私の中で、
弱音を吐き、私をあるがままにするだろう。

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