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レモンの花が咲いたら

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生まれつき目も見えず、自力で歩くことが出来ない少女、小野美月。両親も友達すらも居ない彼女の元に現れたのは、自閉症とうつ病を併発した男性、屋敷玄だった。
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2021年6月の記事一覧

レモンの花が咲いたら 14

レモンの花が咲いたら 14

14 玄

 美月さんの最後の願い。

 それは、美月さん自身の目で、俺の顔を見ること。

 おそらくというか、もう確実に美月さんは自分の死期を悟っている。それ故に最後にその願いを叶えて欲しいんだろう。

 でも、おそらく目が見えるようにするには手術とかしなきゃいけないはずだ。今の彼女にそんな体力は残っているのだろうか・・・。

 面会時間が終わり、俺は一度家に帰ることになった。ホントは帰りたくな

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レモンの花が咲いたら 13

レモンの花が咲いたら 13

13 美月

 目を開けると、そこはやはり真っ暗な世界だった。どうやら私1人。玄さんは?玄さんはどこに行ってしまったの?

 玄さん。私の大好きな、素敵な人。この世界でいちばんと言っていいくらい、心の清らかな人だ。そんな玄さんがさっきまで隣いたのに。どこに行ってしまったの。

 あたりを彷徨っていると、背後に気配を感じた。真っ白な光が、そこにあった。

「な、何・・・・・・玄さんは?」

 私の

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レモンの花が咲いたら 12

レモンの花が咲いたら 12

12 玄

 病院に搬送された美月さんは、そのまま緊急治療室に運ばれた。苦しそうに目を閉じる彼女の腕に、沢山の点滴が打たれた。

 水原先生を初めとする大勢の医師や看護師が懸命に措置を行う中、俺は待合室で呆然としていた。

 考えていることはただ1つ。なぜ今なんだ。せっかく俺達は結ばれたんだと思ったのに。やっと俺達は想いが通じ合ったんだと思ったのに。とてつもなく幸せだったのに。

 まだまだ美月さ

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レモンの花が咲いたら 11

レモンの花が咲いたら 11

11 玄

 男なら、女に告白をさせるなんていうことはさせない。常に、潔く散ってやるくらいの格好で挑まなければいけない。まして、もうすぐ終わりが近づいてくる少女に告白させるなんて真似は、許されない。

 そんなこと、わかっている。でも、前に踏み出せない。

 日記を見てから数日が経つ。俺は未だに自分の気持ちを伝えられずにいた。

 この頃美月さんは体調を崩してしまった。体の節々が痛むほか、すごくだ

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レモンの花が咲いたら 10

レモンの花が咲いたら 10

10 美月

 それまでは、私の世界は真っ暗だった。感じることが出来るのは、無機質な音と、無機質な匂いと、無機質な感触だけ。

 ただ、唯一無機質でなかったものは、病院内にある庭園に咲く花やそこに吹く風だった。それだけが私に生きていることを実感させてくれた。

 友達は、出来たことが一度もなかった。小さいころはあまり話すことが得意ではなくて、仲良くなりにくいようなオーラでも放っていたのだろう。院内

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レモンの花が咲いたら 9

レモンの花が咲いたら 9

9 玄

 小野さんと出会ってから、俺は点字を勉強していた。最初こそはやはり難しくて、美月さんにノートの内容なども全部読んでもらっていたが、だんだん助けがなくても読めるようになってきた。

 ずっと俺は小野さんと呼んでいたが、洋平さんと会った後に、洋平さんにも名前で呼んでもらっているから、あなたも下の名前で呼んで欲しい、と言うことで俺は美月さん、と呼ぶことになった。恥ずかしかったが、彼女はとても嬉

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レモンの花が咲いたら 8

レモンの花が咲いたら 8

8 玄

 水原先生に、小野さんを退院させて良いか許可を取るときのことだ。

「先生。小野さんを退院させてもいいですか?あの子に外の世界を見せてあげたいんです」

 すると、先生は真剣な眼差しで俺を見た。

「決めてくれたのかしら」

 俺も真剣に答える。

「はい。最期まで俺がそばにいるようにします」

 分かったわ、と先生は言うと、

「あの子はもう長くはないから、あの子の好きなことをやらせて

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レモンの花が咲いたら 7

レモンの花が咲いたら 7

7 美月

 なんと、私は退院が決まりました!しかも今日!

 玄さんが先生に退院して良いかって訊いたら「いいよー」って言ってたんだって!

「やったー!本当に嬉しい!」

 私は洋服を着せてもらいながら言った。玄さんは不思議そうな声で、

「ところで、本当に荷物はそれだけなの?」

 私の荷物は、大きな紙袋一つで収まってしまった。着替え以外は本1冊と、ぬいぐるみが1つだけ。物欲という物があまりな

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レモンの花が咲いたら 6

レモンの花が咲いたら 6

6 玄

 次の日。俺はいつものように小野さんの病室へ向かった。いつものように、俺は病室の戸を開けて、

「おはよう」

 すると、点字の本を読んでいた美月さんはこちらを向き、

「あ、玄さんだ!おはよう!」

 と、笑顔を浮かべた。こんなに素敵な子なぜ・・・・・・と涙が溢れそうになる。そして、また昨日みたいな感情があふれ出そうになる。

 でも、俺はもう迷わない。

「小野さん」

「なあに?」

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レモンの花が咲いたら 5

レモンの花が咲いたら 5

5 玄

 天涯孤独。

小野さんのことを思い出す度にその言葉が頭をよぎる。

 家族もいない。友達もいない。小野さんは周りに何もない形で病気と闘っていたのか。どれだけ心細かったのだろう。どれだけ寂しかったのだろう。何より、何を想って生きてきたのだろう。心を支えてくれる人がいないというのは、本当に辛いことだから。

 小野さんのことを考えると、可哀想で可哀想で仕方がない。今すぐにでも俺が代

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レモンの花が咲いたら 4

レモンの花が咲いたら 4

4 玄

「友達って、本当に素敵な響きですね」

「そうだね」

 俺がそう言うと、小野さんはうふふと小さく笑う。本当に眩しいな。何だかこちらが凄く照れてしまう。

 俺は、それを隠すように、

「君は・・・・・・・・・いつからここにいるんですか?」

「ずっとです。何度か退院もしたけれど・・・。でもほとんどはこの病院にいます。最後に退院したのは・・・3年前だったかな。でもすぐに倒れちゃって。それ

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レモンの花が咲いたら 3

レモンの花が咲いたら 3

3 玄



 中学の時にギターと出会い、高校でバンドを組んで、VOCALOIDを使いはじめて。専門学校を中退して本格的に「ロク」という名前で活動し始めた。

 俺は音楽と絵だけが取り柄の人間だ。話すのも得意じゃない。そもそも人付き合いも得意じゃない。面白い話の一つも出来ない。それ故に、周りは俺を白い目で見ていた。

 ただ、音楽をしているときだけは違った。才能がある、かっこいい。何度言われてき

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